霊王宮。大内裏(だいだいり)の最深部——。
ユーハバッハの『全知全能(アルマイティ)』による未来改変の糸は、人知れず世界の枢軸たる「霊王」の波動へ介入していた。
見えざる帝国の被った「8割消滅」という破滅的な壊滅。滅却師の戦力を回復させる時間を稼ぐため、ユーハバッハは霊王の「意思の残滓」を偽造し、ソウル・ソサエティの絶対規範たる零番隊へと偽りの神託を送り込んだのだ。
ユーハバッハとしても成功するとは思ってないが万が一七瀬天理を排除出来れば、残り2割の戦力を回復させ士気が天井知らずにあがるという甘い希望に現状すがるしかないのが本音であった
『——七瀬天理。世界(ソウル・ソサエティ・現世・虚圏)の平衝を根底から揺るがす過剰なる異物。これを即時排除せよ——』
霊王宮の浮殿が下り、四番隊特別療養室の前へと降り立つ五人の零番隊。
背負った大鞘を鳴らし、眼光を鋭く光らせる兵主部一兵衛(ひょうすべいちべえ)を先頭に、麒麟児天示郎、修多羅千手丸、曳舟桐生、二枚屋王悦が静かに佇む天理のベッドへと歩み寄る。
「……どきな、若い死神ども。霊王様の御意(ぎょい)や。その男……七瀬天理は世界の理を乱す禁忌。ここで叩き潰し、霊圧ごと無に還す」
兵主部が巨大な筆を構え、圧迫感のある霊圧で廊下を満たした、その時——。
1. 「総隊長」と「次期総隊長」の拒絶
重厚な響きと共に、一本の木杖が石畳を叩く。
「……立ち止まられよ、零番隊の諸兄」
四番隊の薄暗い廊下の奥から歩み出たのは、護廷十三隊総隊長・山本元柳斎重國であった。その背後には、菅笠を深めにかぶり直し、双刀『花天狂骨』の柄に手をかける京楽春水が続く。
「山爺……? 邪魔立てする気か。霊王様の『意思』に背くというのかね」
麒麟児天示郎が眉をひそめ、湯かき棒を構える。
「霊王様の意思、か」
京楽が低く、しかし恐ろしいほど冷ややかな声で笑った。
「都合が良すぎやしませんかねぇ、兵主部様。天理君があの過酷な卍解で滅却師を退けた直後、奴らが身を潜めたこのタイミングで『排除』のお達しとは。……僕らの目には、まるで滅却師の残党が時間稼ぎのために仕組んだ『偽りの糸』に見えますよ」
「黙れ、下界の死神が……!」
兵主部が一歩踏み出そうとした瞬間、山本元柳斎の全身から漆黒の焦熱が立ち昇った。
「去れ」
元柳斎の片目が、ギラリと猛禽のごとく光る。
「わしが護廷十三隊総隊長である限り、命を賭してソウル・ソサエティを守り抜き、今も深く眠る我が部下を……たとえ零番隊であろうと、一枚の『疑わしき神託』で奪わせはせん!!!!」
2. 四大貴族と十三隊の「絶対防壁」
元柳斎の圧倒的な威圧に呼応するように、廊下の両脇から死神たちが続々と姿を現し、天理の部屋を背にして刃を抜いた。
「……興醒めだな、零番隊」
千本桜の柄を静かに握りしめる、朽木家当主・朽木白哉。その隣には、氷輪の静寂を纏った朽木ルキアが並ぶ。
「朽木家は四大貴族の誉れにかけて、このソウル・ソサエティの恩人を渡さぬ。……天理殿が守ったのは、この世界の未来そのものだ」
「うちの天理に手ぇ出すんなら、零番隊相手でも容赦せえへんよ」
平子真子が逆撫の刀身を指で弾き、怪しい笑みを浮かべる。「あんたらが上から目線で世界を統括してる間、泥すすって命削ったのはこの男や。霊王様の名前騙った偽物に騙されてるなら、目を覚まさせてやるわ」
さらに、技術開発局のモニターを腕組みしながら操作する涅マユリが、甲高い嘲笑を響かせた。
「ヒヒッ……霊王宮の霊子データと、ユーハバッハの『全知全能』による因果改変の波形……見事に一致したヨ。零番隊ともあろう者たちが、敵の『未来書き換え』によるフェイクニュースに踊らされるとはねぇ……笑止千万! 脳の組織でも腐っているのかネ?」
「発言に気をつけろ、涅」
短刀を抜き、影から滑り出す隠密機動総司令・砕蜂
「だが……意見は同じだ。隊長命令および総隊長命令に基づき、ここから先、一歩たりとも行かせん」
3. 初代「剣八」の眼光
零番隊の面々が息をのむ。護廷十三隊の主力が、文字通り全員で「一枚の盾」となって立ちはだかっているのだ。
そして、最後に静かに前へ出たのは——四番隊隊長・卯ノ花烈であった。
いつもの柔和な笑みは消え去り、前髪の編み込みの奥から覗く瞳は、かつて世界を震撼させた「初代剣八・卯ノ花八千流」の冷酷な殺意そのものであった。
「……麒麟児殿」
卯ノ花の声は、氷のように低く、廊下の空気を凍りつかせた。
「ここは私の救護所です。……そして七瀬天理は、私の責任のもとで治療中の患者。……いかなる理由があろうと、病室の扉を力ずくで開けようとするならば……この場で私(剣八)の斬魄刀の露となっていただきます」
「……っ!」
かつて卯ノ花に回復鬼道(回道)を教えた麒麟児天示郎すら、その圧倒的な「狂気の殺意」に一歩身を引いた。
4. 対立の果てに
「ハッ……大層な団結力じゃねえの」
二枚屋王悦がサングラスをずらし、冷や汗を拭う。
護廷十三隊の全精鋭。山本元柳斎の灼熱、京楽の老獪な殺気、白哉・ルキアの威厳、平子とマユリの異能、砕蜂の神速、そして卯ノ花の純粋な暴力。
これら全てが、「眠れる平死神・七瀬天理」ただ一人を守るために完全に結集していた。
兵主部一兵衛は、元柳斎と卯ノ花の瞳の奥にある「本気の意志」を読み取り、長髪の顎を撫でながら静かに筆を引いた。
「……なるほどな。マユリの言うデータ……そしてお主らのその眼。どうやらワシらも、ユーハバッハの化かし絵に一枚噛まされていたようじゃ」
「……気づいたのなら、疾く去られよ」
元柳斎が厳かに告げる。
「七瀬天理が目覚め、己の意志で歩み出すその日まで……下界の理は、我が護廷十三隊が死力をもって死守する。霊王宮へ戻り、ユーハバッハの真の狙いに備えられよ」
零番隊の五人は互いに視線を交わすと、静かに引き下がり、霊王宮への昇天陣へと消えていった。
扉の向こう、静かなベッドの上。
護廷十三隊の全ての隊長格がその身を賭して守り抜いた暗闇の中で、七瀬天理は依然として深く、静かな眠りを続けていた。だがその顔には、彼らを信じるかのような、かすかな穏やかさが宿っていた。