【霊王宮決戦前夜:零番隊の土下座と絶対誓約】
1. 氷ついた霊王宮の広場
霊王宮の大殿前。
現世と瀞霊廷から集結した護廷十三隊の隊長格、そして黒崎一護たちが勢揃いしていた。
だが、その空気は決戦前夜の緊張感とは異なる、刺すような敵意と重苦しい沈黙に包まれていた。
「……で? どの面下げて僕らを呼んだんだい、零番隊の皆さん」
京楽春水が笠の陰から冷ややかな視線を投げる。その声には、いつもの飄々とした柔らかさは微塵もない。
傍らには、怒りで全身の霊圧を爆発させんばかりの日番谷冬獅郎、腕を組み殺気を隠そうともしない朽木白哉、そして静かに太刀の柄に手をかける山本元柳斎重國が立っている。
護廷の全隊長格が抱くのは、滅却師への怒りだけではない。
これまで幾度となく世界を先制して救ってきた天理を「霊王宮の都合」で利用し、兵器として扱い、果ては「霊王の肉片」にすらしようと暗躍していた零番隊に対する、決定的な不信感だった。
「七瀬天理を……天理さんをまた都合よく利用する気なら、俺はあんたらも叩きのめす」
一護が天鎖斬月を握り直し、兵主部一兵衛(まなこ和尚)を睨み据える。
2. 零番隊の「真の謝罪」
護廷十三隊の殺気立った視線を受けながら、いつもなら豪快に笑い飛ばすはずの兵主部一兵衛が、静かに目を閉じた。
「……言い訳は、一切せぬ」
和尚が重い口を開いた。その背後に立つ麒麟寺天示郎、修多羅千手丸、曳舟桐生、二枚屋王悦の四人も、普段の不遜な笑みを完全に消している。
「ワシらは霊王様を護る『世界の柱』としての理に縛られ、七瀬天理という男の存在の尊さを見誤っておった。あの男がどれほどの覚悟で己を削り、瀞霊廷を……三界を裏から支えてきたか。それを『効率的な楔』として扱おうとしたこと、万死に値する過ちであった」
言葉とともに、兵主部一兵衛が、あの「死神の始まり」たる男が——護廷十三隊の隊長たちの前で、ゆっくりと膝をついた。
「なっ……!?」
一護や日番谷が目を見張る。
続いて、麒麟寺、千手丸、曳舟、王悦の四人もまた、一言も発することなく深く深く地に頭を擦り付けた。
霊王宮の歴史上、天頂に君臨する零番隊が下に位置する死神たちに頭を下げるなど、ただの一度たりともなかった事態だった。
3. 今後永遠の『手出し無用』の誓約
「我ら零番隊五名、霊王宮の名において、そして我らが魂と理にかけて、ここに誓う」
土下座の姿勢のまま、兵主部一兵衛の声が霊王宮全体に響き渡る。
「たとえこの先、霊王様の意志(宣旨)が下ろうとも。たとえ三界の存亡がかかる局面であろうとも。我らは今後一切、七瀬天理に手出しをせぬ。 あやつの力を利用することも、その生き様に干渉することも、永遠に禁絶とする」
和尚は頭を上げた。その眼光には、虚飾も欺瞞もない、心からの後悔と「一人の死神」としての誠意が宿っていた。
「七瀬天理の力は、あやつ自身のものだ。あやつが誰を護り、どう生き、いつ刃を収めるか……すべては七瀬天理自身が決めること。もしワシらの誰かがこの誓いに背き、再びあやつを『道具』として扱おうとしたならば……」
和尚は懐から一冊の古びた誓約文書を取り出し、己の指を噛み切って鮮血でサインを叩きつけた。
「その時は、護廷十三隊の手によって我ら零番隊を全員斬首して構わん。これを、全霊王宮の『絶対誓約』とする!」
その言葉とともに、血の誓約書が眩い光を放ち、霊王宮の空間そのものに刻み込まれた。世界の理そのものに組み込まれた、決して破ることの許されない呪約。
4. 護廷十三隊の決断と、影の英雄の覚悟
「…………」
静まり返る場内で、山本元柳斎重國がゆっくりと歩み出た。
「……聞き届けたぞ、兵主部。お主らのその言葉……そしてその誓い、護廷十三隊総隊長として引き受けよう」
元柳斎の目が、零番隊を厳しく射抜く。
「七瀬は今、四番隊の病床で静かに息を整えておる。あやつが自らの意志でこの戦場に立つまで……我ら護廷十三隊と黒崎一護だけで、ユーハバッハの侵攻を食い止める!」
「おうよ!」
「言われなくても、あいつにこれ以上格好悪いところは見せられねぇからな!」
海燕が、日番谷が、白哉が、それぞれの刃に霊圧を込める。
零番隊が立ち上がり、初めて護廷十三隊と「対等な戦友」として深く頷き合った。
天理という「影の絶対者」を都合よく使うのではなく、自分たちの足で立ち、自らの命を懸けて世界を守り抜く。
かつて天理が京楽に言い放った「死神の尊厳」が、今、霊王宮に集うすべての死神たちの胸に完全に灯った瞬間だった。
「——行くぞ。滅却師の始祖を討ち、七瀬が安心して眠れる世界を護るために!」
元柳斎の一声とともに、真の和解を果たした護廷十三隊と零番隊の連合軍が、ユーハバッハの待つ決戦の地へと踏み出していく。
病床で静かに目を閉じている天理の耳に、彼らの力強い踏み込みの音が、優しく届いていたのだった。