絶対の先制   作:幻影の塔

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無闇での邂逅

市丸ギンの言葉は、まだ終わっていなかった。

「……ま、これらは全部、僕がむけんにぶち込まれてた時に、七瀬天理から直接聞いた話なんやけどね」

そう言ってギンは、どこか楽しそうに思い出を語るように首を傾けた。

1. 無間での対話

霊王宮に集う隊長格たちの視線が、再びギンへと集中する。

「藍染の件が片付いて、僕が無間に収監されてた頃……あいつ、ひょっこり面会に来よったんです。僕が『何で阿散井恋次を一度も相手にしなかったんや?』って気になってた疑問をぶつけたら、あいつ、淡々と答えてくれましたわ」

ギンは細い目を少し開き、天理のあの感情の籠もらない声音を模倣するように語り始めた。

「あいつが恋次 はんを見限った決定的な瞬間……それは、藍染が虚圏へ姿を消した、あの双極の丘の事故の直後やったらしいです」

2. 双極の丘の直後——「冷め切った心」

「あの乱が終わって、まだ二、三日しか経ってへん時のことや」

ギンの声が、静かに場を支配していく。

「当時の状況を思い出してみなはれ。黒崎くんや朽木ルキアは、苦々しい顔で天理に状況を説明しとった。一護くんは自分の不甲斐なさに血を吐くような思いで拳を握りしめ、ルキアは捕らわれて皆の足を引っ張った己を責めて、死にたくなるような懺悔の渦中におった」

一護とルキアが、当時の光景を思い出してハッと胸を突かれる。

「周りの誰もが悔しさに顔を歪め、己の無力さを噛み締めて暴れ出しそうな空気の中で……恋次 はんだけは違った」

ギンの視線が、地に伏したまま動かない恋次へと注がれる。

「恋次 はんだけが、まるで他人事みたいに、淡々と天理に事実だけを語っとったんや。……『藍染が裏切った』『手も足も出なかった』『ルキアは無事だった』とな。感情の波一つ立てずにね」

3. 天理の確信と、残酷な見切り

「あいつはそれを見て、確信したそうや」

ギンは溜息を混じえて言葉を継いだ。

「『ああ、この人は心の奥底で、自分でも気づかないうちに敗北を受け入れているんだ』とな」

場の死神たちが息をのむ。

「事件から一年、二年経ってから落ち着いて事実を語るなら分かる。けど、仲間が傷つき、世界がひっくり返った事故のわずか二、三日後やで? 本来なら一番悔しくて、血反吐を吐いてでも強くなろうと叫んでなあかん時期に、一人だけ冷め切った顔で事実を報告しとる」

ギンは言葉を切り、酷薄な笑みを浮かべた。

「かつてあの藍染惣右介に『一番厄介になりそうな男』とまで警戒させ、最大級の評価を抱かせた男でも……魂が折れるとこんなもんか、とな。天理はんはあの瞬間に、恋次 はんに完全に見切りをつけたんや」

4. 残された男の叫び

「……く……っ!」

恋次の口から、絞り出すような呻き声が漏れた。

双極の丘での出来事。

白哉に敗れ、藍染に踏みにじられ、それでも「ルキアを助け出せた」という安堵に甘え、己の底にある敗北から目を背けていたあの数日間。

一護やルキアが血の涙を流しながら強さを求めていた裏で、自分だけが「自分なりに戦った」と諦めの理由を作り、感情を殺して事実だけを語っていた。

その欺瞞を、天理の冷徹な目はいとも簡単に切り裂き、捨て去っていたのだ。

「……俺は……俺は……っ!!」

恋次は血が出るほど地面に突いた拳を打ち付けた。

市丸ギンによって暴かれた己の「冷めた心」。

山本総隊長が見抜き、七瀬天理が捨て置いた己の「敗北」。

一護とルキアが霊王宮という高みへ向かおうとする中、一人泥の中に残された阿散井恋次は、今度こそ逃げ場のない「本当の地獄」と向き合わされることとなったのだった。

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