絶対の先制   作:幻影の塔

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三界の歪みとユーハバッハの悲痛な叫び

真世界城の頂。

進化を遂げ、絶対の絶望として君臨するユーハバッハの影が、一護たちを飲み込もうとしたその一瞬。

世界の底——はるか遥かなる地上、瀞霊廷の病室から放たれた極光が、三界の理(ことわり)を切り裂いて天を突いた。

誰の耳にも、届くはずのない距離。

だが、その声は空間も、時間も、魂の境界すらも飛び越えて、真世界城に立つ一護、阿散井、浦原、雨竜、そして死神たち全員の「頭の中」に、あまりにも温かく、美しく直接響き渡った。

『咲き誇れ——百花繚乱』

「……っ!? 天理……さんの……解号……!?」

一護の目が大きく見開かれた。

その瞬間、ユーハバッハの全身を覆っていた禍々しい『全知全能(アルマイティ)』の無数の瞳が、何が起きたのか理解する間もなく、ただの一瞬で永久に消失した。

「な……なに……!? 我が能力が……『全知全能』が……消え……っ!?」

ユーハバッハが自らの存在の核であった「未来を視て改変する力」を喪失し、途方もない恐怖と驚愕に顔を歪める。

未来の書き換えも、攻撃の察知も、概念の無効化も——その一切が『発動前』に先制して完全に砕かれ、二度と戻らぬものとして消滅したのだ。

「……今だぁぁぁぁぁぁっっ、一護ぉぉぉぉぉっ!!」

浦原の叫びが響く。一護は一切の迷いを捨て、全霊の霊圧を始解『斬月』に引き絞った。

「うおあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

未来を改変する盾を失ったユーハバッハに向け、一護の渾身の一撃が走り抜ける。

純粋な黒と紅の刃がユーハバッハの胸を完全に一断し、その肉体と過剰な霊圧の影を吹き散らした。

決戦の終わり——ユーハバッハの絶叫と遺言

砕け散る『全知全能(アルマイティ)』の光芒。

天理の放った最後の始解『咲き誇れ百花繚乱』の圧倒的な領域の中、ユーハバッハの体は漆黒の霊子となって足元から崩壊を始めていた。

しかし、その瞳から絶望の恐怖は消えていた。

代わりに宿っていたのは、数千年の怨嗟と、世界の「理(ことわり)」そのものに対する凄絶な怒りだった。

膝をつき、消えゆく身でありながら、ユーハバッハは目の前に立つ死神たち——一護、恋次、そして威風堂々と刀を握り直す山本元柳斎重國を鋭い眼光で射抜く。

「……フハハ……ハハハハハ!! いい気になるなよ、死神ども……!!」

血を吐き出しながら、ユーハバッハの地響きのような声が崩壊する空間に轟く。

「勘違いするな……! 私は貴様ら死神に負けたのではない!! 圧倒的な神の領域に立つ、七瀬天理という不条理に敗北したのだ……!!」

死神たちが思わず息を呑み、刃を収められずに立ち尽くす。

ユーハバッハの視線は、天理が残した凄絶な霊圧の残滓、そして真正面で鋭く眼光を光らせる山じいへと向けられた。

「一次侵攻の時もそうだ……! 貴様らは天理がいなければ何もできぬ腑抜けではないか!! 答えろ……何故我らクインシーが虚(ホロウ)を殺してはいけない……!? 何故我らが同胞の仇を討ってはいけないのだ!!」

ユーハバッハの全身から、凄まじい滅却師の霊子が激しく吹き荒れる。それは命の最後の灯火を燃やした、魂の叫びだった。

「何故我らクインシーだけが泥水をすすり……! 我ら同胞を貪り食らった虚どもだけが『成仏』などという生ぬるい機会を与えられる……!! こんな不条理な世界が間違っていると言っているのだ!! どうなんだ答えろ、山本元柳斎重國ーーーッ!!」

その叫びは、単なる侵略者の言い分ではなかった。

三界の巡りを維持するために切り捨てられ、歴史の陰で死を強制され続けた「滅却師という種族の悲痛な叫び」そのものだった。

山じいは眉一つ動かさず、ただ静かに、重厚な霊圧を纏ってユーハバッハの叫びを真正面から受け止めていた。

「私は断じて……私心の為に行動を起こしたのではない……! この圧倒的な理不尽に立ち向かう為に……この歪んだ世界を破滅させ、新たな理を立ち上げようと……っ」

徐々に、ユーハバッハの声が小さくなっていく。

黒い霊子が空へと昇り、彼の顔半分が崩れ去っていく。

「……死神ども……覚えておけ……。貴様らが誇る平和は……誰かの犠牲の上に成り立つ……偽りの理だ……。そして……その理すらも……あの男(天理)という……更なる不条理に頼らねば守れぬ……脆き箱庭なのだと……」

最後の言葉とともに、ユーハバッハの体は完全に霧散し、静寂が現世と霊王宮を包み込んだ。

■ 沈黙、そして天理のもとへ

「…………」

誰も、言葉を発することができなかった。

黒崎一護も、阿散井恋次も、京楽春水も。

ユーハバッハが最期に吐き捨てた「死神のシステムの歪み」と「自分たちが天理という存在にいかに依存していたか」という残酷な真実は、勝利の歓喜を凍りつかせるには十分すぎるほど重かった。

山じいは静かに『流刃若火』を収め、閉じられたままの片目とともにユーハバッハが消滅した空を見つめていた。その背中は、千年の歴史と数多の業を背負ってきた総隊長としての重みを漂わせている。

「……元柳斎先生」

京楽が静かに声をかける。

山じいは深く息を吐き出すと、低い重厚な声で言った。

「……ユーハバッハの言い分、偽りにあらず。……我らが背負う三界の理とは、それほどまでに血と歪みに満ちた代物よ」

その時だった。

「……ッ!? 霊圧が……!?」

日番谷冬獅郎が目を見開いた。

ユーハバッハが消滅したことで静まり返るはずの空間で、地下の救護室から全土を包んでいた「天理の霊圧」が、急速に細く、小さくなっていることに全員が気づいたのだ。

世界の理を強引に上書きし、ユーハバッハという神を打ち滅ぼすための最後の始解

その代償が、今まさに天理の魂魄を内側から蝕み始めていた。

「天理さんの霊圧が……消えかけている……!?」

一護の顔色が激変する。

山じいが猛然と杖を突き立てた。

「何を怯んでおるか……!! 全軍、地下救護所へ急行せよ!! 我らを、そしてこの三界を救った男を……絶対に死なせるな!!」

「「「はっ!!!」」」

山じいの力強い一喝に弾かれたように、一護たち、そして隊長たちは一斉に走り出した。

ユーハバッハの遺した重い言葉を胸に抱えながら、自分たちのために再びその命を削った「七瀬天理」のもとへと、全員が必死の思いで向かうのだった。




今まで理不尽にユーハバッハを扱って来た為、最後はユーハバッハなりの理を話すシーンを入れました。クインシーが受けてきた理不尽さを山本元柳斎重國に問いただす。それに対する山本元柳斎重國の沈黙が全てを物語る。これで残りもあとわずかです。今まで読んでくれた皆様には感謝です。あと少しお付き合い下さい
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