バタン……ッ!!
病室のドアが激しく押し開けられる。
そこに広がっていたのは、言葉を失う光景だった。
いつも不気味な笑みを絶やさない市丸ギンが、ボロボロと大粒の涙を溢れさせ、天理の手を固く握りしめながら声を上げて泣いていた。
「……天理くん……頼むから……目ぁ開けてぇな……! 僕を置いていかんといてくれ……ッ!!」
そしてベッドの上の天理。
その身体は、もはや実体を保てていなかった。足元から頭頂部へ向かって、透き通るような百合の花びらの光となって、空間に優しく溶け散ろうとしている。
「……よかった……みんな……無事で……」
「天理さん!! ダメだ、消えないでくれ!! 俺たちが……俺たちが助けるから!! 織姫!! 織姫を呼べ!!」
一護が必死に叫び、手を伸ばす。だが、その手は天理の体に届かず、光の花びらをすり抜けた。
「……いいんだ、黒崎くん。……これで、瀞霊廷(みんな)の空が……綺麗になった……」
「……七瀬……天理……」
重い足取りで一歩前へ出たのは、護廷十三隊総隊長・山本元柳斎重國だった。
元柳斎は柄頭を突く手が震えるのを抑え込めずにいた。己の命を削り、護廷の誇りを守り抜いた一人の死神の姿に、眼光を濡らしている。
「総隊長……閣下……」
「話は……すべて聞こえていましたよ。ユーハバッハの最期の言葉も」
天理はかすれ声で、しかし深く澄んだ瞳で全員を見渡した。
「彼は問うていましたね。『なぜクインシーだけが泥水をすすり、同胞を食らった虚だけが成仏できるのか』『こんな不条理な世界が間違っている』と。……確かに、死神が背負う三界の巡りには歪みがある。彼の抱いた怨嗟と、クインシーという種族の悲劇には……一理あります」
山じいが重厚に目を閉じ、一護たちが息を呑む。
天理は静かに首を横に振った。
「ですが——だからと言って、彼の行いが正当化されるわけではない」
天理の言葉に、力強い知性と凛とした絶対の拒絶が宿る。
「彼は『聖別(アウスヴァーレン)』を行い、自らの同胞……純血でない混血の滅却師たちを、ただの自分の血肉(エネルギー)として理不尽に命を奪い、切り捨てた。片桐叶絵さんも、黒崎真咲さんも……彼の気まぐれな『選別』によって命を奪われた」
一護の胸が、ドクンと激しく脈打った。
「どんなに高潔で、理のある言葉を飾ろうとも……自分たちの『都合』のために同胞すら命の重みを選別し、犠牲にした時点で、彼の理論は破綻しているんです」
天理は悲しげに、けれど確かな怒りを込めて紡いだ。
「『不条理を正す』と言いながら、彼自身が最も残酷な不条理を同胞に振りかざしていた。……同胞の命すら道具としか見なせない者に、新しい世界を築く資格など……最初からなかったのですよ」
山じいが杖を突き、天理に向かって深く頭を下げた。
「……七瀬天理。貴殿の言葉……確かに聞き届けた。この老骨、生涯忘れはせん、そして……見事であった。お主の生き様……お主が背負い続けたその静かなる義、この元柳斎……生涯忘れぬ。護廷十三隊を……三界を護ってくれたこと、心より感謝する……」
「……もったいないお言葉です……」
その隣で、帽子を深くかぶり直した京楽春水が、唇を噛み締めながら声を詰まらせる。
「……ずるいよ、天理君。僕に『死神の尊厳』を説いておいて……自分だけ全部背負って行っちゃうなんてさぁ……。君に頼らないって誓ったのに、結局……また君に救われちゃったじゃないか……」
京楽の目から零れ落ちた涙が、床に落ちて広がる。
「……いいえ、京楽隊長。みなさんが……自分の足で立ったからこそ、私は安心して最後の一振りを放てたんです。……どうか、これからの護廷を……よろしくお願いしますね」
そして、一護の後ろから擦り寄るように歩み出たのは、朽木ルキアだった。
ルキアは溢れ出る涙を袖で何度も拭いながら、消えゆく天理の手へ、届かないと分かっていても必死に手を伸ばした。
「天理……殿……ッ! なぜだ……! なぜいつも貴方は、誰にも気づかれぬ場所で……一人で傷つき、一人で全てを終わらせてしまうのだ……! 礼すら……ろくに言えておらんのだぞ……っ!!」
ルキアの痛切な叫びに、天理の瞳が優しく揺れた。
「……朽木隊員。君が……そしてみんなが笑って過ごせる日常があれば、私にはそれだけで十分な報酬だったんだよ。……綺麗だね、君の斬魄刀のように……今日の空は……」
「天理殿……っ! 天理殿ぁぁぁっ……!!」
最後の瞬間
天理は泣き続けるギンの頭に、残された僅かな光の手をそっと重ねた。
「……ありがとう、ギン。最後に……泣いてくれて、嬉しかったよ……」
「嫌や……嫌や天理くん……ッ!!」
天理の輪郭が、いよいよ光の粒子となって世界へ溶けていく。
集まった一護、隊長たち、そして仲間たちの顔を一人ひとり愛おしそうに見つめ、天理は最後の力を振り絞って、穏やかに微笑んだ。
「……みんな……さようなら」
温かな光の旋風が病室を包み込み、やがて静寂だけが残された。
天理の霊圧は、完全に途絶えた。
世界を救った一人の平隊員は、己の魂の全てを咲き誇らせ、静かに、けれど誰の心にも永遠に消えない光を残して散っていったのだった。
後日談や百花繚乱の規格外の能力の理由を書いてほしい?
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