絶対の先制   作:幻影の塔

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秘密の協定

魂魄消失事件の直後。

浦原喜助、四楓院夜一、そして平子真子ら8名の隊長・副隊長格が瀞霊廷から姿を消し、中央四十六室の決定によって彼らが「罪人」として処理された直後の出来事。

深夜の一番隊執務室。

静寂と厳粛な空気が満ちる部屋で、天理(平隊員)と、護廷十三隊最高指揮官・山本元柳斎重國が対峙していた。

1. 誰もいない一番隊執務室

「……そうか。奴らは全員、姿を消したか」

重々しい声が、執務室の太い柱を振るわせる。

山本元柳斎重國は深々と目を閉じ、腕を組んだまま壁際に佇んでいた。

部屋の中には、書類を整理する手をとめた天理だけがいる。

平隊員でありながら、総隊長室の「特別な清掃・雑務」を任されている男。

「はい。浦原元十二番隊隊長、四楓院元二番隊隊長、並びに平子元五番隊隊長以下、被害に遭った隊長格の霊圧は完全に瀞霊廷の外へと消失いたしました。中央四十六室の処罰が下るより前に……夜一様の手によって救出されたものと推測されます」

主人公の声には、揺らぎも動揺もない。

ただ客観的な事実だけを、淡々と報告する。

「……うむ」

元柳斎はゆっくりと目を開けた。その片目から放たれる鋭い眼光は、立ち向かう者すべてを灰燼に帰すほどの重圧を秘めている。

「四十六室の決定は『浦原喜助の処刑と、被害者たちの虚としての処理』……。だが、おぬしの目にはどう映った?」

元柳斎の問いかけ。それは、中央四十六室の裁定に対する疑問であり、この「あまりにも理不尽な事件」の裏にある真実についての問いでもあった。

2. 見抜かれていた真相

天理は持っていた書類を静かに卓上に置くと、元柳斎の視線を真っ向から受け止めた。

「……私の視界(あかり)の中にあったのは、浦原隊長の陰謀ではありません。平子隊長たちの霊力、そして魂魄そのものが『外部からの異物』によって強制的に変質させられていた事実のみです」

「……」

「そして……その異物を打ち込んだ張本人は、現場で平子隊長たちを見下ろしていた『もう一人の男』です」

元柳斎の眉根が、ぴくりと動いた。

「誰だ」

「五番隊副隊長——藍染惣右介」

静まり返る執務室。

護廷十三隊の権力機構がどれほど藍染を「信頼厚き誠実な副隊長」と評価していようとも、天理の「絶対先制の瞳」と理外の観察力は、事件の全貌と主犯の正体を完璧に捉えていた。

「……藍染か。あやつが何ゆえそのような真似を……」

「真の目的までは分かりかねます。ですが、彼は自身の解号、あるいは能力を他者に認識させることで『事実の改変』を行っている気配があります。……今回の事件も、すべての証拠と証言が藍染副隊長の手によって『浦原喜助の犯行』へと完璧に仕立て上げられていました」

元柳斎は静かに息を吐き出した。

その拳が、微かに握り締められる。

護廷十三隊の隊長格が多数犠牲となり、長年信頼してきた夜一や浦原までをも失うこととなった不条理。その裏で糸を引くのが、身内の副隊長であるという絶望的な事実。

「……おぬしが手を出さなかったのは、なぜだ?」

元柳斎が問う。

「おぬしのその理外の力をもってすれば……あの夜、藍染をその場で叩き潰し、平子らを救うことも出来たはずだ」

もし天理がその場に踏み込み、その「絶対先制」の拳を藍染に叩き込んでいれば、事件は未然に防げていたかもしれない。

だが、天理は静かに首を横に振った。

3. 総隊長と平隊員の「暗黙の裁定」

「不可能です、総隊長閣下」

「なに……?」

「私が藍染副隊長を排除することは容易です。……ですが、あの場にはすでに多くの隊長格が毒され、また藍染副隊長が敷いた『構造』が瀞霊廷全体に張り巡らされていました。私が彼を急激に排除すれば、彼の遺した『仕掛け』が暴走し、瀞霊廷の三分の一が吹き飛んでいたでしょう」

天理の言葉に、元柳斎は黙し込んだ。

「それに……」

天理は自分の手を見つめた。

「私はただの平隊員です。表に出て歴史を動かせば、それこそ瀞霊廷の秩序が崩壊します。……山本総隊長、あなたが『護廷十三隊の絶対的な柱』であるように、私は『誰も気づかない場所で破滅を防ぐ最後の重石』でなければなりません」

その言葉を聞き、元柳斎は長く、重い溜め息をついた。

「……相変わらず、可愛げのない男よ」

元柳斎は木刀(あるいは杖)を床に深く突いた。

「中央四十六室の裁定は絶対だ。表向き、浦原らは永久追放および罪人として処理する。藍染惣右介についても……確定たる証拠のない今、下手に動けば敵に悟られ、かえって事態を悪化させる」

「御意に」

「……だが、藍染の動きについては、ワシの目からも厳重に監視させる。おぬしも……裏から瀞霊廷の破綻を防げ。よいな?」

「はい。私はこれまで通り、一番隊の雑務と清掃に励みます」

二人の間で、歴史の表舞台には決して残らない「極秘の協定」が結ばれた。

山本元柳斎重國という「表の最高権威」と、主人公という「裏の絶対不可侵」。

二人の老練と異能が静かに交差し、藍染惣右介という巨大な毒蛇に対する長い長い冷戦が始まったのだった。

「……時に、天理」

天理が去り際、元柳斎がふと呼び止めた。

「はい」

「……平子や夜一にお祝いの酒を贈るはずだったおぬしの棚の酒瓶、冷めておるぞ」

「……後で一人で飲むことにします。掃除が終わりましたら」

天理が一礼して執務室の扉を閉めると、元柳斎は静かに目を閉じ、消えた仲間たちの無事を祈るように、深く長い息を吐いた。




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