京楽春水と伊勢七緒が百花園に赴く少し前の時間軸
朽木隊長による説教の宴——そして道連れの市丸ギン
朽木邸の執務室。
依然として静謐な空気が漂う中、朽木白哉によるルキアへの厳格な説教は延々と続いていた。正座したまま拝聴するルキアの足はそこへ、すりガラスの障子が滑らかに開いた。
「やぁやぁ、失礼しますよ〜。朽木隊長、一番隊からの護廷関連の書類、お届けに上がり——」
現れたのは市丸ギンであった。ひらひらと書類をかざしながら、いつもの軽薄な笑みを浮かべて入ってきたギンだったが、部屋を包む重苦しい空気を察して一瞬だけ狐のような目を細めた。、「……む、市丸隊長か。そこに置いておけ」
白哉が冷ややかに応じ、ギンが「はいはい、そしたら僕はこれで……」と退散しようとしたその瞬間——。
正座していたルキアの目が、ギラリと怪しい光を放った。
■ ルキアの反撃と市丸ギンを売る
「兄様ッ! お言葉ですが、一つ申し上げるべき重要な事実がございます!!」
「……何だ、ルキア」
ルキアはバッと立ち上がり(痺れた足でグラつきつつ)、退散しようとしていたギンをビシッと指さした!「そもそも、現世で天理殿の生存を一番最初に発見したのは、そこにいる市丸隊長なのです!!」
「なっ……!?」
ギンの顔から笑みが消えかけた。
「市丸隊長は天理殿の生存をひたすら隠し通し、山本総隊長や卯ノ花隊長に徹底的に脅され、詰め寄られて……ようやくゲロ状に吐き出したのです! 本来なら、四大貴族の筆頭である兄様にこそ一番最初に報告すべき重大案件だったはず! それを黙っていたなど……到底許されることではありません!!」
完全な巻き添え&売却行為である。
ルキアは「これで兄様の意識が市丸隊長に向く……!」としめしめと心の中でガッツポーズを決めた。
「おやぁ……ルキアちゃん、そりゃ殺生だわ……。僕やって山じいや卯ノ花隊長に脅されたら言えるわけないやないですか……」
冷や汗をダラダラと流し始めるギン。
白哉の瞳が、凍りつくような冷たさを帯びてギンを射抜いた。
「……ほう。市丸隊長。四大貴族たる朽木家を差し置き、重大な隠蔽を行っていた訳か」
「い、いやぁ! 僕はただの使いっ走りと言いますか……! あ、いかん! 三番隊の隊務が山積みでしてね! 今日はこれで失礼——」
ギンがシュバッと瞬歩で逃げ出そうとした瞬間、白哉の声が部屋に響いた。
「案ずるな、市丸隊長」
「……はい?」
「今、私の使いを出した。今日の三番隊の隊務は、すべて松本副隊長に代わってもらうように手配した」
「……え」
「これで心兼ねなく、私と語り合えるな」
「(乱菊に任せたら書類が全部酒代に化けるか破棄される件についてぇぇぇぇえええッ!!)」
絶望に顔をひきつらせるギンの前に、地獄の扉が閉じられようとしていた。
■ 志波海燕、乱入
「よし、兄様! 私はこれで隊務に——」
ルキアがどさくさに紛れて部屋を抜け出そうとした、その時。
バンッ!!!
執務室の障子が豪快に叩き開けられた。
「白哉! ルキア! 入るぞ……って、市丸までいやがるか!」
「……海燕殿?」
入ってきたのは、十三番隊副隊長・志波海燕であった。その額には青筋がくっきりと浮かび上がっている。「ルキアぁぁぁッ!! お前、天理の生きている場所を知っておきながら、この俺にまで黙ってただとぉっ!?」
「か、海燕殿!? なぜそれを……!」
「浮竹隊長から聞いたんだよ! 『実はな海燕……天理は生きておるのだ』ってなぁ! なんで俺が一番最後に知らされるんだよ! 俺と天理がどんだけ熱い酒を酌み交わした仲だと思ってやがる!!」
「し、しめしめ……」と逃げようとしたルキアの企みは、完全に潰えた。
白哉が静かに立ち上がり、海燕と視線を合わせる。
「……海燕殿。良いところへ来た。ちょうど市丸隊長とルキアに対し、『護廷十三隊における報告・連絡・相談の欠如』について説いておったところだ」
「おう白哉! ちょうどいいぜ! 俺もこの二人の隠蔽体質には言いたいことが山ほどある! 今日は朝まで説教コースだ!!」
「なっ……海燕殿まで!?」
絶叫するルキア。そして横で死んだ目をしている市丸ギン。
■ 地獄の説教部屋
白哉の流れるような「貴族としての責務と組織の規律論」と、海燕の「仲間としての情義と熱血説教」という、絶対防御不能の二重重奏(デュエット)が始まった。
「まず市丸隊長。貴殿の軽薄な態度は以前から問題視されていたが、今回の件は特に悪質だ。山本総隊長に脅されたからと言って……」
「そうだそ! 市丸! お前はいっつもそうやってヘラヘラ隠し事しやがって! 天理が生きてるって分かった瞬間に俺に教えりゃ、俺が飛んで行ったものをよぉ!」
「そしてルキア。お前は朽木家の者でありながら、志波家の元当主筋である海燕殿にも報告を怠り……」
「そうだぞルキア! 俺はお前の上司だぞ!? 上司をハブって自分だけ天理に会いに行こうなんて、100年早いんだよ!」
正座させられたまま、無限に降り注ぐ説教の正論バズーカを浴び続けるルキアとギン。
(……助けて……くだされ……天理殿……! 兄様と海燕殿の説教が合体して……もう足の感覚どころか魂の感覚がありません……!!)
ルキアは心の中で必死に助けを求めた。
(……あかん……助けてやぁ……天理はん……! 乱菊に仕事押し付けられて激怒した乱菊が後で何してくるかも恐ろしいし、目の前の白哉隊長と海燕くんの熱血説教で耳がバカになりそうや……!!)
ギンもまた、笑顔を完全に引きつらせながら、心の中で絶叫していたのだった。
そして現世の『百花園』では——。
「ハックショイッ!!」
天理が豪快にくしゃみをしていた。
「あら、天理さん。風邪?」
「いや……なんだか瀞霊廷の方から、猛烈な助けを求める叫び声が聞こえた気がしまして……」
天理はのんびりと首を傾げながら、今日も平和なお花屋さんのお仕事を続けるのであった。