四番隊の地下深くで繰り広げられた、まさに筆舌に尽くし難い「地獄の健康診断(説教)」をようやく生き延びた市丸ギンと朽木ルキア。
満身創痍、心身ともにボロボロになりながらも、二人は癒やしを求めて久しぶりに現世の『百花園』へと足を運んでいた。
「あぁ……天理はん……百花ちゃん……生きとって良かったわ……」
「うむ……生きて再びこの街の空気を吸うことが出来るとは……まさに奇跡……」
二人は久しぶりに再会した天理と百花の姿に、心から感動していた。
しかし、タイミングが良いのか悪いのか、天理が「あ、ちょっと近所へお花の配達に行ってきますね!」と爽やかに店を後にしたことで、二人の箍(たが)が外れてしまう。
天理の留守中、懲りもせず二人は今回の「地獄の説教」について、とんでもない暴言を交えながら熱く語り出し始めたのだった。
■ 懲りない二人の極限暴言
「なぁ百花ちゃん! 聞いとくれやす! あの四番隊の地下で僕らが受けた仕打ちを!!」
ギンが身乗り出して叫べば、ルキアも目を血走らせて言葉を重ねる。
「そうだぞ百花殿! 特にあの卯ノ花隊長の説教の苛烈さたるや……! あれはもはや治癒などではない! 死神でも人間でもない、史上最強の悪魔だ!! あのような悪鬼羅刹の所業、聞くに耐えん!!」
「ホンマや! 笑顔でじわじわ精神を削ってくるあの感じ! 悪魔どころか、生きてるだけで害悪レベルのナニカやで!! 器が小さいどころか、器そのものがドブ川以下や!!」
ヒートアップした二人は、前回のお仕置きの恐怖もどこへやら、溜まりに溜まったストレスを吐き出すかのように言いたい放題。
カウンターの奥で二人の話を聞いていた百花は、ひたすら引きつった苦笑いを浮かべることしかできない。
(あ……あの二人……どうして学習というものをしないのかしら……)
百花が冷や汗を流しながら、必死に目線で「後ろ……後ろ……!」とサインを送っていることにも、調子に乗った二人は全く気づいていなかった。
■ 忍び寄る絶対の「死」と浦原喜助の悲鳴
「は〜! 言ったらスカッとしたわ! さて、天理はんが帰ってくる前に美味しいお茶でも——」
ギンが笑いながら振り向こうとした、その瞬間。
——ドス黒い、尸魂界まで届きそうなほどの殺気が現世の街角を包み込んだ。
「……あ」
ルキアの動きがピタリと止まる。
店の入口には、たまたま現世の視察で訪れていた四番隊隊長・卯ノ花烈と、その案内役として同行していた浦原喜助が立っていた。
浦原は帽子を目深にかぶり、滝のような冷や汗をかきながらガタガタと震えている。
「いや〜……参りましたねぇ……。まさか買い物のついでにこんな、三界を揺るがすレベルの暴言を聞いてしまうとは……」
浦原は扇子で顔を隠しながら、心底関わりたくないという顔で後ずさりしようとした。
だが、その隣に立つ卯ノ花は——見たこともないほど神々しく、そして禍々しい「殺しの笑顔」を浮かべていた。
「浦原さん」
「は、はいっ! 何でしょう卯ノ花隊長っ!?」
「浦原商店の『地下修練場』……今からお借りしてもよろしくて?」
「えっ……あ、いやしかし、あそこはちょっと散らかっておりまし——」
ズズズ……ッ!!
卯ノ花から溢れ出た初代剣八としての黒い殺気が、浦原の喉元を物理的に締め上げる。
「……お借りできますね?」
「……喜んでお貸しいたしますッ!! どうぞ何時間でもお使いください!!」
浦原喜助、即座に降伏。自分の命を守るために後輩二人を迷わず差し出した。
■ 完璧なる自業自得と、百花の冷酷な正論
「ひ……ひぇっ……う、卯ノ花隊長……ッ!?」
「な、なぜ現世に……っ!? 違うのです! 今のは市丸隊長が私をそそのかして——」
血の気を失った二人は、すがるような思いでカウンターの百花へ手を伸ばした。
「百花殿っ!! た、たす……助けてくれ!! 頼む!!」
「百花ちゃん! 助けてぇなぁ! 僕ら友達やろ!?」
しかし、百花は二人の必死の叫びに対し、冷ややかな視線を向けながら小さく首を横に振った。
「……無理です。完璧な自業自得ですので」
「「ええぇぇぇっ!?」」
絶望する二人に対し、百花はため息をつきながら決定的な事実を突きつける。
「思い出してください。私はあなた方の愚痴を聞いている間、一度たりとも『頷いて』いませんでしたよね?」
「「……ッ!?」」
脳裏に蘇る、つい数十秒前の光景。
確かに! 百花は苦笑いを浮かべていただけで、一度たりとも二人の暴言に首を縦に振っていなかった……!!
「私は巻き込まないでくださいね。それでは、いってらっしゃいませ」
百花はパタンと手元の帳簿を閉じ、完璧な営業スマイルで二人を見送った。
■ リアル煉獄開幕
「さて……」
卯ノ花は二人の襟首をワシ掴みにすると、まるで仔猫でも持ち上げるかのように軽々と引きずり始めた。
「四番隊の地下室だけでは足りなかったようですね。どうやらお二人とも……長年の怠惰により運動不足が畳み掛けているようです」
「や、やめてぇぇぇ! 運動不足ちゃう! 僕ら毎日隊務で走り回っとる!!」
「そうだ! 私はつい先ほどまで正座という名の極限運動を——」
「問答無用」
浦原商店の地下修練場へと叩き落とされる二人。
広い地下空間の中央で、卯ノ花は静かに刀の柄に手をかけた。
「二人まとめてかかってきなさい。あなたのその荒んだ心と運動不足……この私が、死ぬ直前まで解きほぐして差し上げます」
初代剣八・卯ノ花八千流の真の圧力が、地下室全体を押し潰す。
「「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっっ!!!!」」
逃げ場のない広大な地下空間で、絶望の地獄組手(という名の一方的な殺戮)の火蓋が落とされた。
果てしない刃の閃光と悲鳴が響き渡る中、ボロボロになりながら逃げ惑う市丸ギンと朽木ルキアは、本日何度目になるかもわからない慟哭を、心の中で叫び続けていた。
(……助けて……助けてくだされぇぇぇ天理殿ぉぉぉっっ!! 浦原地下が我らの墓場になってしまいますぅぅぅっ!! 悪魔だと言ったのは撤回します! 悪魔どころか概念そのものが災害ですぅぅぅっ!!)
(……天理はぁぁぁん!! 助けてぇぇぇええっ!! もう愚痴なんて一生言わん!! 花屋の配達なんか行っとる場合ちゃう! 今すぐ『百花繚乱』でこの初代剣八を止めてぇぇぇえええっっっ!!)
二人の魂からのSOSが虚しく地下室に溶けていく頃——。
近所への配達を終え、ほくほく顔で『百花園』へと戻ってきた天理は、空になった店内で首をかしげていた。
「あれ? 百花、市丸さんたちはお茶も飲まずに帰っちゃったの?」
百花は温かいお茶を天理に差し出し、どこまでも清々しい笑顔で答えたのだった。
「ええ。急に『運動がしたくなった』とおっしゃって、浦原さんのところへ走っていかれましたよ。……とても元気に」
「そっか! みんな健康的で良いことだねぇ!」
天理は嬉しそうに微笑み、現世の穏やかな風を感じながら、今日も美味しそうにお茶をすするのだった。