浦原商店の地下修練場。
そこはまさに、初代剣八・卯ノ花八千流という名の災害が猛威を振るう「生き地獄」と化していた。
ドガァァァァァンッ!!
「ぐあぁぁぁぁぁっ!?」
「ひゃあぁぁぁぁっ!?」
逃げ惑う市丸ギンと朽木ルキアの足元に、卯ノ花の解き放った凄まじい斬撃が突き刺さり、岩盤が派手に吹き飛ぶ。
「あらあら、どうしました? まだ『準備運動』の段階ですよ。もっと素早くお動きにならないと、本当に命を落としてしまいますよ?」
満面の笑みで神殺しの刃を振るう卯ノ花。その眼光は完全に「初代剣八」のそれであり、二人に配給されたのは文字通りの「地獄の片道チケット」だった。
■ 黒崎一護の来訪と、救世主(仮)の登場
その時、地下修練場の天井の扉が開き、ドタバタと階段を駆け下りてくる人影があった。
「よお、浦原さん! 頼んでた霊圧回復の薬、でき……って、なんだこの凄まじい殺気は!?」
現世に遊びに来ていた黒崎一護である。
一護は地下に一歩足を踏み入れた瞬間、肌を刺す圧倒的な死の気配に全身の毛髪を逆立たせた。
「い……一護ぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!!」
「黒崎一護ーーーーっっっ!!!!」
絶望の淵にいたギンとルキアの目に、一護の姿が後光の差す救世主のように映った。
二人はなりふり構わず、顔面を涙と鼻水でグチャグチャにしながら、爆速の瞬歩で一護の足元へスライディングし、その両脚に必死にしがみついた。
「た、助けてくれ一護! 頼む! 命の恩人になってくれ!!」
「一護! お前しかいない! 我らを……我らをこの悪鬼羅刹の手から救ってくれぇぇぇっ!!」
「うわっ!? なんだよお前ら!? ルキアに……市丸!? なんでそんなボロボロで泣いてんだよ!?」
突如として必死すぎる二人にしがみつかれ、困惑する一護。
■ 浦原喜助の冷徹なる「見捨て」
「あー……黒崎さん。それ以上、関わらない方が良いっすよ」
修練場の端っこで、帽子を目深にかぶり、扇子で顔を隠しながら壁と同化していた浦原喜助が、心底哀れむような目(と同時に冷酷な目)で呟いた。
「浦原さん!? 一体何がどうなってんだよ! 卯ノ花さんがなんで刀抜いて二人を追い回してんだ!?」
「まあ……簡潔に言いますとね」
浦原は声をひそめ、冷や汗を流しながら一護の耳元で事情を説明した。
「あの二人がですね……天理さんの前で卯ノ花隊長の方向性を『死神でも人間でもない史上最強の悪魔』だの『生きてるだけで害悪』だの『ドブ川以下の器』だの、言いたい放題暴言を吐いていたところを……卯ノ花隊長ご本人にバッチリ聞かれちゃいましてね」
「は……? え……?」
一護の顔から、一瞬で血の気が引いていった。
「……で、今からあの二人を助けようとして、もし卯ノ花隊長の逆鱗に触れたらどうなるか分かりますか? ……ええ、自分も一緒に『地獄の片道チケット』を手に入れて、二人まとめて切り刻まれることになります」
浦原はそう言うと、いつになく真剣な……いや、己の命を本気で守ろうとする冷徹な目で、一護の肩をぽんと叩いた。
「私は嫌ですからね? アタシまで巻き込まれて命を落とすなんて冗談じゃありません。ですから黒崎さん……見捨てましょう」
「えっ……でも、ルキアたちが……」
「見・捨・て・ま・す!」
浦原は一護の襟首を掴むと、一護の脚にしみついていたギンとルキアの手をフンッ! と容赦なく振り払い、爆速で階段の上へと引きずり戻し始めた。
「あっ!? 浦原さん!? 待てよ、見捨てるって——」
「問答無用っす! アタシの店でこれ以上死者を増やさせないでくださいっ!!」
バタンッッ!! ギィィィィィ……(施錠)
重々しい地下の扉が厳重にロックされた。
■ 残された二人と、真の絶望
「「う……ウソだろぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!???」」
唯一の希望だった一護と浦原に、完璧かつ無慈悲に見捨てられた二人。
扉の向こうからは、浦原の「黒崎さん、関わっちゃダメです! 早く地上に出ますよ!」という冷酷な声と、一護の「おい! ルキアたちの悲鳴が……!」という声が遠ざかっていくのが聞こえた。
静まり返る地下修練場。
カツン……カツン……。
二人の背後から、あまりにも静かで、あまりにも重い足音が近づいてくる。
「……ふふ。お邪魔虫は去りましたね」
振り返ると、そこには刀を静かに構え直し、爛々とした眼光を光らせる卯ノ花八千流が立っていた。
「さあ……お友達に助けを求める時間はおしまいです。お二人とも、まだまだ運動不足が解消されておりませんよ? 今度は本気で参りますね」
「「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっっ!!!!! 天理はん(天理殿)ぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」」
もはや言葉にならない悲鳴を上げながら、再び地獄の鬼ごっこへと投じられる市丸ギンと朽木ルキア。
その頃、地上では——。
「浦原さん、本当に良かったのかよ!? あいつら殺されるぞ!?」
「大丈夫です、卯ノ花隊長は四番隊隊長ですから。死ぬ直前で回復させて、また最初からやり直すだけです」
「一番ヤバい拷問じゃねぇかぁぁぁっ!?」
一護の絶叫が空しく現世の空に響く中、今日も『百花園』の天理は、「あ、今日は一護くんがうちに来るのかな? にぎやかで良いなぁ」と、ほっこり笑顔でお花の剪定を続けるのであった。