地上へ避難し、冷や汗を流しながら地下の重い扉を閉ざしていた浦原喜助と黒崎一護。
そこへ、「やあやあ、なんか賑やかやな〜」と、ヘラヘラした笑みを浮かべた平子真子がブラリとやってきた。
「平子!? なんでお前がここに……!」
「いやなに、現世にちょっと用事があってな。浦原の店寄ったら、地下からなんやら豚の悲鳴みたいなのが聞こえてきたから見に来たんや」
その瞬間、扉の隙間から「平子隊長ぉぉぉっ!」「平子殿ぉぉぉっ!」と、血吐くような必死の叫び声が漏れ聞こえてきた。
■ 救世主(?)平子真子の拒否と、命取りの「ひと言」
事情を一通り聞いた平子真子は、鼻で笑いながら即座に突っぱねた。
「ハッ! アホか自分ら! 卯ノ花さんに暴言吐いてシバかれてるとか、自業自得もええとこやろ! 誰が助けるかボケ! ワイは関わりごめんやで~!」
一護が「だろ? 俺も浦原さんに止められたとこだ」と頷き、浦原も「賢明な判断っす」と胸をなでおろした。
……が。
平子は帰ろうと背を向けかけたその去り際、ポケットに手を突っ込み、「隣にいる一護や浦原にも絶対に聞こえないレベルの、蚊の鳴くような極小の呟き」を洩らしてしまったのだ。
「(……ほんま、あのオバハンも相変わらず容赦ないなぁ……)」
「ん? なんか言ったか平子?」
「いや? なんも言うてへんで」
一護も浦原も全く気付いていなかった。
そう、普通の死神であれば絶対に聞こえるはずのない音量だった。
しかし——。
■ 地獄耳の初代剣八
ゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!!
突如、地下の重い鉄扉がメリメリと音を立てて歪み始めた。
「……っ!???」
一護と浦原の顔から一瞬で血の気が引く。
「……あらあら。『オバハン』……ですか?」
地下から響いてきたのは、地獄の底から這い上がってきたような、鈴を転がす美しくも禍々しい卯ノ花烈の声だった。
「ひっ……!???」
平子の顔が引きつる。
「平子隊長。どうやら貴方も、最近少々運動不足がたたっているようですね? ちょうど良い機会です……貴方もこちらへお入りなさい」
「い、いやいやいや! 卯ノ花さん! 今のはただの独り言と言いますか、愛嬌と言いますか——」
「何、『オバハン』レベルの攻撃など、仮面の軍勢(ヴァザード)のリーダーたる貴方なら余裕でさばけるのでしょう? ……ふふふ」
ドガァァァンッ!!
鉄扉が吹き飛び、地下から伸びてきた黒い霊圧の鎖(あるいは初代剣八の圧倒的威圧)が、平子の足を掴んで地下へと強引に引きずり降ろした!
「うわあああぁぁぁぁぁっ!?? 浦原ぁぁ! 一護ぉぉぉっ! たすけ——」
バタンッッ!!(再び施錠)
地上に取り残された一護と浦原。
「……平子さん、余計なこと言わなきゃ良かったのに」
「ね……。あの初代剣八の地獄耳を舐めちゃいけませんねぇ……」
二人は静かに合掌した。
■ 仲間が増えた喜びと、腐っても藍染惣右介の上司
「ひえぇぇぇ……平子隊長ぉぉぉっ!!」
「平子殿ーーーッ! 仲間が……仲間が増えたぞぉぉぉっ!!」
地下に叩きつけられた平子を、ボロボロのギンとルキアが涙と鼻水でグチャグチャの笑顔で出迎えた。
「喜んどる場合かボケぇ! なんでワイまで巻き込まれてんねん!!」
だが、底知れぬ「殺気」をまとって近づいてくる卯ノ花を見据え、平子はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「……フン、まあええわ。ワイをただの被害者と一緒にしてもらっちゃ困るで。腐ってもワイは、昔あの藍染惣右介の上司やってんからな!」
平子は懐から斬魄刀を抜き放つ!
「先手必勝や! 倒せへんまでも、これで時間を稼いで逃げる!! 『倒れろ、逆なで』——ッ!!」
上下左右、前後、そして斬られる方向の感覚をすべて逆転させる、極めて厄介な催眠系能力!
これで卯ノ花を混乱させ、その隙に地上へ脱出する……!
誰もがそう確信した、その瞬間だった。
ガタガタガタガタッ……!
「……え?」
平子の手の中で、『逆なで』の刀身が尋常じゃない恐怖でガタガタと激しく震え始めた。
目の前に立つ初代剣八・卯ノ花八千流から放たれる、あまりにも生々しく圧倒的な「純粋なる殺気」の前に、まさかの斬魄刀(逆なで)自体が恐怖で怯えきってしまい、能力の発動を拒絶(ボイコット)してしまったのだ!
「あ……あれ……? 逆なで……? 頼むから言うこと聞いてくれや……逆なでぇぇぇ……!?」
平子の顔面が蒼白になる。
「……あら、終わりですか?」
極限の笑顔を浮かべた卯ノ花が、ゆっくりと刀を構え直す。
「それでは……三人まとめて、参りますね」
「「「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっっ!!!!!!」」」
逃げ場なし、能力不全、救助なし。
ここに、市丸ギン、朽木ルキア、そして平子真子による「地獄の片道チケット(三人組)」が正式に発行されたのだった。
絶望の悲鳴と爆音が浦原商店の地下で止むことなく響き渡る中——。
『百花園』では。
「天理、今日はお客さんが少なくて穏やかね」
「そうだねぇ、百花(ももか)さん。平子さんも浦原商店に来てるって言ってたから、後でお花でも持っていこうかと思ってたんだけど……」
天理はのんびりと湯呑みを傾け、ふんわりと微笑んでいた。
「なんだか遠くで、平子さんたちの楽しそうな歓声(?)が聞こえる気がするから、邪魔しないでおこうかな!」
「ふふ、そうですね天理さん、みんな元気が一番です」
平和すぎる百花園の日常の裏で、地下の3人は死ぬ直前まで回復されては叩きのめされる永久機関(地獄)を味わい続けるのであった。