絶対の先制   作:幻影の塔

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隊長を売り飛ばす副隊長

浦原商店の地下修練場。

ドガァァァンッ! ボカァァァンッ!

「あがぁぁぁっ!?」

「ひゃあぁぁぁっ!?」

「い、痛みすら感覚が逆転して……痛いのか痛くないのか分からへん……あかん、ごっつ痛いぃぃぃっ!?」

『逆なで』に拒絶され、完全に詰んだ平子真子を巻き込み、もはや地獄絵図と化した修練場。

死ぬ直前まで斬り刻まれては、卯ノ花の回道(回復術)によって一瞬で全回復させられ、再び地獄に放り込まれる永久機関(地獄ループ)が稼働していた。

その時である。

地上から浦原商店の階段をトントンと降りてくる、可憐で控えめな足音が響いた。

「すみませ〜ん、浦原さん。うちの平子隊長、こちらに来ていませんか……? 現世の仕事が終わったのに一向に戻ってこなくて……」

五番隊副隊長・雛森桃である!

■ 蜘蛛の糸と、打ち砕かれる希望

「ひ……ひ、雛森ぃぃぃぃぃぃぃっっっっ!!!!」

床に這いつくばっていた平子が、涙と鼻水を撒き散らしながら絶叫した。

「雛森! ワイの可愛い副隊長! 地獄の底に垂れてきた一筋の蜘蛛の糸やぁぁぁっ!! たす……助けてくれ! 隊長命令や! ワイをここから救い出せぇぇぇっ!!」

「た……隊長っ!?? 一体何をやっているんですかそんな所でボロボロになって!?」

突然の光景に目を丸くする雛森。

それを見たギンとルキアは、苦虫を潰したような顔で不満をタラタラと漏らし始めた。

「……ちっ、なんやねん平子隊長だけずるいわ。副隊長に助けてもらうとかダサすぎやろ」

「うむ……我らには助けが来ぬというのに、平子隊長だけ身内に甘えて脱出など許しがたい……!」

自分のことは棚に上げて文句を言う二人。

だが、事態は二人の思い描くようには進まなかった。

■ 完璧なる副隊長と、甘露による買収

「あら、雛森副隊長。お久しぶりですね」

血に染まった刀を静かに収めながら、卯ノ花烈がふんわりと微笑んで挨拶を交わす。

「う……卯ノ花隊長……!?」

その瞬間、雛森の全身の毛髪が逆立った。

いくら普段は優しい四番隊隊長とはいえ、いま目の前にいるのは「初代剣八」の殺気を隠しもしていない状態の卯ノ花である。

修練場に満ちる禍々しすぎる霊圧。そして、完全に自業自得で地獄の業火に焼かれている3人の姿。

雛森は一瞬で察した。

(あ……これ、関わったら私も死ぬ……!!)

「あの……卯ノ花隊長? 平子隊長が何かご迷惑をおかけしましたでしょうか……?」

「いいえ。ただ少々……運動不足がたたっているようでしたので、私がお稽古をつけて差し上げているところですよ。……ふふふ」

「ひっ……!」

卯ノ花の発する暗黒の笑顔に気圧され、雛森の額からツーッと冷や汗が流れる。

平子は「雛森ぃ! 頼むから連れて帰ってぇぇ!」と必死に手伸ばしているが、雛森の頭の中で「隊長の命」と「己の生存」が激しく天秤にかけられた。

そして、雛森は完璧すぎる副隊長としての決断を下す。

「……あの、卯ノ花隊長」

「何でしょう?」

「隊長がお留守の間……五番隊の隊長業務ならびに雑務は、すべて私が代わりに完璧にこなしておきますので!! どうぞ心置きなく、隊長のお稽古を続けてくださいっ!!」

「……っ!!??!?」

目を見開く平子。

「まあ……! なんて出来た副隊長でしょう。平子隊長、本当に素晴らしい副隊長をお持ちですね」

卯ノ花は心底感心したように微笑むと、優しく言葉を付け加えた。

「あとで四番隊から、五番隊へ美味しい甘露(特製高級和菓子)をお届けさせますね。どうぞみなさんで召し上がってください」

「あっ……! 本当ですか!? ありがとうございます、卯ノ花隊長っ!!」

買収完了。

「ひ……雛森ぃぃぃぃぃぃっ!? ワイを和菓子と引き換えに売るんかーーーっっ!??」

「隊長! 運動不足を解消して、健康になって戻ってきてくださいね! それでは失礼しますっ!!」

雛森は一度も振り返ることなく、光の速さで階段を駆け上がっていった。

バタンッッ!!(容赦ない施錠)

■ 失効しない地獄の片道チケット

「あ……あははははハハハハッ!! 見たか平子隊長! ざまあみやがれですわ!!」

平子の絶望的な顔を見たギンが、腹を抱えて大爆笑する。

「うむ! 自分だけ助かろうなどという浅はかな考えが打ち砕かれたな! ざまぁみろだ!!」

ルキアも快哉を叫び、二人は抱き合って大喜びした。

……が。

「……? なんで二人はそんなに喜んでるんや?」

地面に突っ伏した平子が、死んだような目で二人を見上げた。

「……え?」

「雛森が帰っただけで……ワイらの地獄の片道チケットは一切失効してへんのやで?」

「「……あっ」」

ハッと我に返るギンとルキア。

二人を追い詰めていた恐怖は何一つ解決していないどころか、救世主の登場によって一瞬中断していたことで、卯ノ花の殺気がより一層深まっていた。

「……さて。お喋りの時間は終わりです」

静かに刀を抜き放つ卯ノ花八千流。

「雛森副隊長のおかげで、平子隊長のお時間をたっぷりいただけました。……さあ、心置きなく地獄の続きを始めましょうか」

「「「ひええええええええええっっっっっっ!!!!!!!!」」」

結局誰ひとりとして逃げ出せるはずもなく、浦原商店の地下には、再び三人の絶叫と刃の閃光が響き渡るのだった。

その頃、地上へ戻り甘露をGETした雛森から事情を聞いた一護は、

「お前……自分の隊長を和菓子で売ったのかよ……」

と引きつつも、やっぱり自分も関わらないようにそっと身を引くのであった。

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