絶対の先制   作:幻影の塔

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悪魔の交渉術

浦原商店の地下修練場。

ドガァァァン! ボカァァァンッ!

「あがぁぁぁっ!?」

「ひゃあぁぁぁっ!?」

「痛ぁぁい! 助けてぇな、ほんまに死んでまうぅぅぅ!!」

死ぬ直前まで斬り刻まれては四番隊の回道で即座に完治させられ、再び斬られる永久地獄(ループ)。

血と悲鳴が乱れ飛ぶ絶体絶命の極限状態の中、床に顔面を擦り付けていた平子真子の脳細胞が、かつて藍染惣右介を部下に従えていた頃の「冴え」を取り戻した。

(あかん……! このままやったらマジで命が幾つあっても足りん! 雛森にも売られた今、自分の頭でこのバケモノから逃げ出す策を捻り出すしかない……!!)

平子は薄れゆく意識を死に物狂いで繋ぎ止め、必死の覚悟で声を張り上げた。

■ 渾身の弁明と、蠢く悪意

「ま、待ってくれ卯ノ花隊長!! 最後にひとつだけ……ひとつだけ言わせてくれ!!」

ピタッ……。

血に染まった白刃が、平子の鼻先コンマ一ミリのところでピタリと停止した。

卯ノ花烈は狂気に満ちた、だが美しく冷徹な笑みを浮かべたまますっと首を傾げる。

「……何でしょう、平子隊長。遺言なら短めにお願いしますね」

「た、確かにワイはさっき『あのオバハン』って言いましたよ! 認める! それはワイが百パー悪い!! ……けどな、ちょっと胸に手を当てて考えてみてほしいんですわ!」

平子は必死の形相で、隣でボロボロになって転がっている市丸ギンと朽木ルキアを指差した。

「そこの二人が天理の目の前で吐いた暴言……『生きてるだけで害悪』だの『ドブ川以下の器』だの『史上最強の悪魔』だのという……人としての尊厳を根底から叩き壊すレベルの極悪非道な暴言と、ワイのちょっとした口の滑り……『同一レベルの罪』として裁くのは、流石に理不尽が過ぎまへんか!!??」

「……っ!?」

卯ノ花の手が一瞬、ピクッと止まった。

(……確かに。この二人の暴言は『初代剣八』としての存在意義すら踏みにじるものでしたが、平子隊長のはただの軽率な口の滑り……)

卯ノ花の思考が一瞬揺らいだその隙を、ギンとルキアは見逃さなかった。

自分たちだけが地獄に残されるなど、天地がひっくり返っても許しがたい!

「う……卯ノ花隊長ぉぉぉ! 騙されたらあきまへん!!」

ギンが血反吐を吐きながら必死に叫ぶ。

「そうです卯ノ花隊長! 罪の重さに貴賎などない! 暴言はどこまでいっても暴言! 平子隊長も我らと同罪……いや、目上の者に対する不敬も含めれば同等以上の罪にあります!!」

ルキアも死に物狂いで道連れにしようと声を荒らげる。

■ 悪魔の交渉——「1個3万円の高級ショートケーキ」

「黙っとれボケ共!! 道連れにしようとすな!!」

平子は二人を一蹴すると、ここが勝負の分かれ目とばかりに、懐から一枚の金色の予約チケットを取り出してみせた。

「……卯ノ花隊長。ワイは知っとるんです。隊長が最近、現世の『完全会員制・1個3万円する幻の極上生苺ショートケーキ』に激ハマりしとることを……!」

「……!!」

卯ノ花の目が、ほんのわずかに見開かれた。

厳選された最高級の苺と、一口食べれば魂が昇天するほどの極上生クリーム。現世でも政財界の重鎮しか口にできないという、あの伝説のスイーツ——!

「実はな……ワイが個人的に食べるために、コネを使いまくって1週間分(7個)を予約してあったんですわ。……けど! 自分の犯した無礼の謝罪として、この予約チケット……全部、卯ノ花隊長に差し上げます!! 命には変えられへん!!」

「な……ッ!!??!?」

これにはギンとルキアも大衝撃を受けた。

「ひ、卑怯だぞ平子隊長! 食べ物で買収など!!」

「う、うむ! だったら我々も……我々も同じケーキを献上する!! だから平子隊長だけ許すなど——」

「ハッ! 無駄や無駄!!」

平子がニヤリと悪魔のような勝ち誇った笑みを浮かべる。

「あのケーキはな、今から予約しても『半年待ち』や!! 今すぐ手に入るチケットを持っとるのは、ソウル・ソサエティ広しと言えどワイだけなんや!! 自分らに乗っかれるわけがなさすぎるやろ!!」

「「な……なんて奴だ……っ!!??」」

完璧すぎる詰み。

自らの欲望のために用意していた超高額・入手困難なスイーツを、土壇場の命の盾として差し出す……!

腐ってもあの藍染惣右介の上司を張り、過酷な戦場を生き抜いてきた平子真子の、まさに「執念の一計」であった。

■ 勝利の脱出と、残された二人の末路

沈黙が地下修練場を包み込む。

1個3万円の幻のショートケーキ。それが……今日から1週間、毎日1個ずつ自分の元へ届けられるという圧倒的すぎる誘惑。

初代剣八としての殺気と、甘味を愛する可憐な女性(?)としての欲望が激しく葛藤した末——。

スッ……

卯ノ花烈は静かに刀を鞘へと納めた。

「……ふふふ。平子隊長」

「は……はい……っ!」

「貴方の反省の誠意……確かに受け取りました。今回の不敬、特別に全額免除(無罪放免)といたしましょう」

「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」

平子はガッツポーズを決めると、光の速さで地獄の修練場から這い上がり、階段を駆け上がっていった!

「おおきに卯ノ花隊長! ケーキは毎朝四番隊に届けさせますさかいになぁぁぁっ!!」

バタンッッ!!(平子、完全脱出)

「ひ……平子隊長ぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!」

「見捨てるな平子殿ーーーッ!! 卑怯者ぉぉぉっ!!」

絶望の悲鳴をあげるギンとルキア。

平子が去り、一人(と二人)残された修練場。

チケットを優雅に懐へ収めた卯ノ花烈は、満足げな笑みを浮かべたまま、ゆっくりと二人の方へ振り向いた。

「……さて。お邪魔虫も消え、ケーキの件も解決しました」

その瞳に宿る殺気が、先ほどまでの3倍増しで激化する。

「ケーキの誘惑から解き放たれた今……純粋に『暴言を吐いた愚か者二人』のお仕置きに専念できますね。……さあ、続きを始めましょうか」

「「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっっっっ!!!!!!!!!!」」

買収の術を持たない市丸ギンと朽木ルキアの地獄の片道チケットは、当然のように有効期限が無期限延長され、浦原商店の地下には再び凄惨極まる悲鳴が響き渡るのであった。

地上へ逃げ延びた平子は、一護と浦原の前で「フッ、見たかワイの知恵を。伊達に藍染の上司やってへんわ」とドヤ顔を決めていたが、

「……まあ、1個3万円×7個で21万円飛びましたけどね……泣きたいわほんま……」

と陰で財布を見て号泣していたのだった。

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