あの惨絶たる地獄の片道チケットから、わずか1週間。
肉体の傷(と精神のトラウマ)がようやく癒えかけた市丸ギンと朽木ルキアの二人は、反省するどころか「やっぱり納得いかへん!」と、懲りずに現世の生花店『百花園』へと押し寄せていた。
■ 1. 百花繚乱への愚痴と、天理の「盛大な勘違い」
店内には、配達で留守にしている天理に代わり、着物姿で店番をしている百花繚乱の姿があった。
「なぁ百花さん、冷たすぎへんか!? 浦原さんから話聞いたで! ワイらが地下で惨殺ループされてる時、お茶飲んで笑ってたらしいなぁ!?」
「うむ! 我らは天理のために(不器用ながら)言葉を尽くしたというのに! 見捨てるどころか高みの見物とは、天理の刀としてあるまじき冷血さではないか!」
カウンター越しにギャーギャーと理不尽な愚痴をこぼす二人。
桃香は完璧な接客用スマイルを浮かべつつも、額に青筋を浮かべて静かに耐えていた。
その時である。
カランコロン……♪
「ただいま、百花。今週分の百合の配達、終わったよ……あ」
両手に空になった花かごを抱えた天理が、裏口から帰ってきたのだ。
そして、二人が桃香に吐き捨てていた「見捨てた」「冷血」という言葉の断片だけを耳にしてしまった。
「え……?」
天理の足がピタリと止まる。
その澄んだ瞳にみるみるうちに涙が溜まり、ポロポロと大きな粒となって頬をこぼれ落ちた。
「百花……僕のいないところで……この二人を……見捨ててたの……? そんな……百花がそんな冷たいことするなんて……っ」
「「えっ……!??!?」」
天理のあまりに純粋すぎる主観(=百花が二人をいじめて見捨てたという超・勘違い)に、ギンとルキアは顔面を蒼白にした。
「違っ……! 天理、違うんや! そういう意味やなくて——」
「……天理さん」
桃香の声のトーンが、絶対零度まで落ちた。
桃香は天理の元へ歩み寄ると、優しく涙を拭い、抱きしめた。
「違いますよ、天理さん。私は決して二人を見捨ててなどおりません。……ですが、天理さんを泣かせたこの万死に値する虫ケラどもには、今すぐ相応の報いを受けていただきますわ」
「ひっ……!!??!?」
桃香の背後から噴き出す、百花繚乱(かつて天理とともに千年の戦場を駆け抜けた神級の斬魄刀)の圧倒的な殺気と霊圧!
「浦原喜助ぇぇぇぇっ!!! 今すぐ地下修練場を空けなさい!! 今からゴミの処分を行います!!!」
百花はスマホを取り出すやいなや浦原に怒号を浴びせ、恐怖で腰が抜けたギンとルキアの首根っこを掴むと、空間を切り裂いて浦原商店へと消え去った。
■ 2. 絶対先制の「無限百花地獄」
浦原商店・地下修練場。
「あ、ちょっと百花さ——」
浦原が制止する暇すら与えられなかった。
「『狂い咲け、百花繚乱』」
解号とともに、地下空間全体が千変万化の「刃の花弁」で埋め尽くされた。
卯ノ花烈の時と違い、今回は「天理を泣かせた」という理不尽すぎるブチギレ状態の具現化である。
ドガガガガガガガガガッ!!!!
「ギャアァァァァァァァッッ!!?? 何これぇぇぇ!? 避けれへん! 概念レベルで先制攻撃されてるぅぅぅ!!」
「ぬわぁぁぁぁぁっ死ぬ! 死ぬぞこれは! 卯ノ花隊長の時より殺意がダイレクトすぎるーーーッ!!」
回道による治療すら不要なほど、斬られては再生し、また千切られる無限の「絶対先制地獄」。
百花は腕を組み、冷ややかな瞳で二人が肉片と化していく様を見下ろしていた。
「このまま100年ほど刻み続ければ、少しは反省なさるかしら」
「いやいやいや! 百花さん、100年はマズいですって!! 商店が壊れます!!」
冷や汗ダラダラの浦原喜助は、「これはワタシが天理さんに説明して誤解を解くしかない……!」と一瞬で察し、光の速さで『百花園』へとダッシュした。
■ 3. 浦原の弁明と、解ける勘違い
『百花園』の店内で、一人シクシクと泣いていた天理の元へ、息を切らした浦原が飛び込んできた。
「ハァ……ハァ……! 天理さん! 落ち着いて聞いてください!!」
「浦原さん……? 百花が二人を酷い目にあわせようとしてて……僕、百花に嫌われちゃったのかな……」
「違います! 全っ然違います!!」
浦原は必死の形相で、前回の「卯ノ花隊長地獄の全貌」と「今回の二人の理不尽な愚痴」を全て暴露した。
あの二人は1週間前、天理さんの前で大暴言を吐いて卯ノ花隊長に粛清されたこと。
百花さんはただ、店で平穏に過ごしていただけであること。
今日あの二人が来たのは、自業自得の報いを受けた腹いせに百花さんへ愚痴を言いに来ただけであること。
「つまりですね……あのお二人が踏んだのは完全に自業自得の地獄であり、百花さんは何も悪くありません! むしろ天理さんを泣かせたあのお二人が100%……いや1000%悪いのです!!」
「え……? 邪悪な暴言……? 自業自得……?」
事情を全て理解した天理は、ぽかんと口を開けたあと、みるみるうちに顔を真っ赤にした。
「じゃ、じゃあ……百花は僕や二人を見捨てたわけじゃなくて……僕が勝手に勘違いして泣いちゃったから、怒らせちゃったの……!?」
「左様でございます!!」
「た、大変だ!! 百花に謝らなきゃ……っ!!」
■ 4. 解放、そして新たなトラウマ
浦原の案内で地下修練場に駆けつけた天理は、花弁の嵐の中でボロボロ(※もはや原形をとどめていない)になって転がっている二人と、冷徹に刀を振るう桃香の姿を目にした。
「百花!! ごめんなさいっ!!」
天理は桃香のドレスの裾をぎゅっと掴み、必死に頭を下げた。
「僕が……僕が話をちゃんと聞いてなくて、勝手に勘違いして泣いちゃったんだ! 百花は全然悪くないのに、酷いこと思ってごめんなさい!! だから……もうやめてあげて!!」
「……天理さん」
天理の健気で愛らしい謝罪を受けた瞬間、桃香の纏う般若のような殺気がシュン……と消え去った。
「……ふふ。天理さんが謝る必要などどこにもございませんのに。……分かりました、天理さんのお言葉とあらば」
桃香が刀を収めると、地下室を埋め尽くしていた刃の花弁が一瞬で消え去った。
「ひ……ひぃぃぃ……助かっ……た……」
「命拾い……した……っ……」
床に崩れ落ち、白目を剥いて震えるギンとルキア。
天理はボロボロの二人の元へ駆け寄ると、申し訳なさそうにペコペコと頭を下げた。
「市丸さん、ルキアさん……僕の勘違いのせいで、こんな酷い目にあわせちゃって本当にごめんなさい……!」
「「(いや天理は悪くない……元はといえば自分たちの自爆だけど、一番恐ろしいのはあの斬魄刀だ……!!)」」
二人は涙目でブルブルと首を振り、桃香の可憐な笑みの裏にある「絶対的な恐怖」を魂に刻み込んだのだった。
こうして、天理の「可愛らしい勘違い」から始まった第二次地獄の惨劇は無事に(?)幕を閉じた。
なお、この一部始終を物陰から見ていた浦原喜助は、
「……ふむ。あの二人は来週あたり、間違いなく山本総隊長のところでも同じような爆死を遂げますねぇ」
と確信めいた笑みを浮かべ、密かに次の地獄の特等席を予約するのであった。