「やれやれ……一番隊庁舎がやけに焦げ臭いと思ったら、やっぱりここかい」
重厚な鉄の扉がギィと開き、花柄の羽織を肩に羽織った八番隊隊長・京楽春水が、すっと特訓室に入ってきた。
視線の先には、かろうじて卯ノ花の回道(回復術)で肉体を繋ぎ止められながら、消し炭の一歩手前で転がっている市丸ギンと朽木ルキアの悲惨すぎる姿。
「山じい。そろそろ勘弁してあげたらどうだい? これ以上やると、本当に『器が小さい』ように見えちゃうよ?」
帽子を目深にかぶり直し、やれやれと苦笑いを浮かべながら仲裁に入る京楽。
その言葉を聞いた瞬間、虫の息だったギンとルキアの瞳に、最後の希望の光が宿った!
「き……京楽隊長ぉぉぉぉっ!!」
「そう言ったのだ! 我らは事実を……真実を口にしただけで……ッ! さすが京楽隊長、物事の道理が分かっていらっしゃる!!」
京楽を救世主と仰ぎ、調子に乗ってここぞとばかりに乗っかる二人。
……だが。
二人は、そして京楽自身も完全に失念していたのだ。
現在の山本元柳斎重國は、怒りのパラメータがすでにカンストして天井を突き破っている状態だということを。
「…………む?」
元柳斎の片目が、ギラリと凶悪な光を放った。
限界突破した山じいの頭の中で、京楽の「仲裁の言葉」は一瞬で恐ろしい形に脳内変換されたのである。
(訳:『山じい、あんたの器は本当に小さいね。僕が代わりに教え直してあげようか?』)
「……ほう。春水……お主も『儂の器が小さい』と……そう申すのだな?」
「え? いやいや山じい、僕はそんなこと一言も——」
「では貴様も加わるがよいッ!!!!」
ゴォォォォォォォォォォォォッ!!!
「ちょっと待って山じいぃぃぃっ!?」
言葉すら最後まで言わせず、京楽の足元の石畳が爆炎とともに吹き飛んだ!
間一髪で瞬歩で回避する京楽だったが、巻き込まれた衝撃で自慢の花柄羽織の裾が焦げ上がる。
「な、なんで僕まで!? 僕、ただの通りすがりの仲裁役だよ!?」
「黙らぬか!! 弟子たるお主がそのような軟弱な態度だから、下の者の教育が甘くなるのだ!! 纏めて焼き叩いてやるわい!!」
元柳斎の『流刃若火』から放たれる熱気が、従来の3倍へと跳ね上がった。
この地獄絵図の巻き添え拡大に対し、それまで黙々と回復術を練り直していた四番隊隊長・卯ノ花烈が、今日一番の深〜い溜め息をついた。
「……はぁぁぁ……」
卯ノ花は冷や汗を流しながら、頭を抱えるようにして呟いた。
「何故……余計なことを言うのでしょうか……。次期総隊長とまで目されるお方が、千慮(せんりょ)がなさすぎます……」
(ただでさえ二人の分子レベルの再生で霊力がカツカツだというのに……京楽隊長まで焼き尽くされたら、私の霊力がいくらあっても足りませんよ……!)
卯ノ花は青筋をひくひくさせながら、さらに強大な霊力を練り直し、両手から極大の回道の光を放出し始めた。
「京楽隊長。逃げ回るなら、どうか私の回復範囲から出ないでくださいね。……出たら死にますので」
「卯ノ花隊長まで目がマジで怖いんだけどぉぉぉっ!?」
こうして、たった一言の仲裁(余計な一言)によって自ら地獄の業火に飛び込む形となった京楽春水、そして完全に巻き込まれ事故の被害者となった卯ノ花烈を巻き込み、一番隊特別特訓室の【煉獄】はさらに過酷な地獄へと深化していくのだった。
その頃——現世の『百花園』。
「ふぅ……天理さん、今日もお店が大繁盛で少し疲れましたね」
「そうだね、百花さん(ももか)。でも、みんなが笑顔でお花を買っていってくれるのは、とても嬉しいことだよ」
お茶を飲みながらほのぼのと笑い合う二人の頭上を、爽やかな初夏の風が吹き抜けていくのだった。