「……持って参りました」
雀部長次郎が恭しく抱えて戻ってきたのは、厳重な注連縄と古風な符で封印された上質な桐の箱であった。
その箱の周囲には、内部の超絶的な霊力を抑え込むための透き通るような冷気の結界が何重にも張り巡らされている。
その箱が特訓室に持ち込まれた瞬間——。
「……え?」
床に倒れ伏していた市丸ギン、朽木ルキア、京楽春水、平子真子の4人の身体に、凄まじい異変が起こった。
桐の箱の極わずかな隙間から漏れ出た、果実と蜜の芳醇な香り——ただその「匂い」を鼻腔に吸い込んだだけで、山じいの霊圧に晒され擦り減っていた精神疲労が、まるで清冽な湧き水を浴びたかのように一瞬で完璧に回復していったのだ!
「な……なんやこれ……!? 匂いだけで頭がスッキリして……精神の疲れが綺麗サッパリ消えていく……!?」
「ば、馬鹿な……! 我らの霊性と魂そのものが、香りを嗅ぐだけで癒やされていくぞ……!?」
4人がその規格外すぎる効能に言葉を失う中、長次郎は静かに箱を開け、中から輝く『神のスイーツ』を取り出すと、一切の迷いなく卯ノ花烈へと捧げた。
「卯ノ花隊長……お納めください」
「……感謝いたします」
あの天下の初代剣八・卯ノ花烈の指先が、微かに震えていた。
受け取った神のスイーツを、彼女はゆっくりと口へと運ぶ。
ゴオォォォォォォォォォォォォォン…………ッ!!!!
食べたその瞬間。
特訓室の空間そのものが歪むほどの、爆発的かつ神聖な霊圧が卯ノ花から噴き出した!
それはもはや四番隊隊長としての回復霊圧の域を完全に超え、神域へと足を踏み入れた「絶対的な生命の奔流」であった。
全身の毛穴から溢れ出る圧倒的な霊力を纏い、卯ノ花はうっとりと微笑む。
「……素晴らしい。これが……天理殿に与えられるはずだった世界の至宝……! 今の私ならば……概念そのものすら再生させてみせましょう」
「「「「ヒィィィィィィィィィィィィッっっっっっっっ!!!!?????」」」」
その超常の霊圧を目の当たりにし、4人はガタガタと歯の根を鳴らして震え上がった!
だが、事態はそれだけに留まらなかった。
その神がかった卯ノ花の霊力を真正面から受け止めた山本元柳斎重國の目が、ギラリと猛烈な炎を宿して見開かれたのだ。
「……くくっ、見事なり卯ノ花! それほどの霊圧……生半可な炎ではお主への礼儀にもならぬな!!」
元柳斎が腰の刀を引き抜く。
「卍解——『残火の太刀(ざんかのたち)』」
ズズズズズズズズズズズズズッ……………ッ!!!!
一瞬にして特訓室の全ての水分が蒸発し、三界を灼き尽くす極限の灼熱が解き放たれた! 炎を刀身に封じ込めた絶望の刀が、容赦なく4人に向かって振り下ろされる!
「「「「ぎゃあああああああああああああああああっっっっっっっ!!!???」」」」
死を覚悟した4人の絶叫!
シュワァァァァァァァァァァァァァッッッッ!!!!!
だが、4人が分子レベルで灰になる直前、背後に佇む卯ノ花烈の手から放たれた極限の回道光が、襲い来る残火の太刀の超熱波を完璧に相殺し、瞬時に4人の身体を超速再生させた!
「……あ?」
「……え……?」
灼熱の絶望で焼かれた瞬間に、神の回道で完治する。
痛みを感じる暇すらなく、「灼熱」と「超速再生」が0.0001秒の周期で永遠にループし続ける。
ここで、4人は恐ろしい現実に気づいてしまった。
((((((((僕(私)たち……ただの『回復されるための標的(かかし)』になってない……!!????))))))))
そう、いま一番隊特別特訓室で繰り広げられているのは——
三界最強の攻撃力を誇る山本元柳斎重國の『残火の太刀』と、神のスイーツを得て絶対的な防御・回復力を得た卯ノ花烈による、護廷十三隊史上・最高にして最悪の「極限の頂上決戦」であった!
「ハハハハハ! 行くぞ卯ノ花ぁぁぁっ! 『残火の太刀・東 “旭日刃”』!!」
「ええ、来なさい総隊長殿! 何度焼かれようと、私がその都度完璧に治してみせますわ!!」
ドッゴォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!
二人の最高峰の霊圧が衝突し、特訓室の超空間が激しく爆発する!
その真ん中に挟まれた市丸ギン、朽木ルキア、京楽春水、平子真子の4人は、ただ回復されるだけのサンドバッグとして、涙目になりながら絶叫し続けるしかなかった。
「誰か……! 誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっっ!!!!(絶叫)」
二人の神々の戦いは、一番隊の地下深くで、朝が来るまで永遠に終わりなく続いていくのであった——。
これにて煉獄編Part1は終了です次は、あの抜群のコンビネーション後の逃げ切った世界線の話になります。