酒寄彩葉に泣かされる優柔不断で悪いモブの話~逆行編~   作:ゴリラ皇子

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じゅう

「ねぇヤチヨー」

「なんだいなんだい?」

 

ツクヨミ内、ヤチヨの自宅

ここには現在モブちゃん、ヤチヨ、そして月人の3人(?)が座って書き物のようなことをしていた

 

「なんでウチがツクヨミで月の仕事しなきゃいけないのぉー!?」

「…?」

「あ、いやちゃうんす、文句があるとかじゃなくて…だから、そんな悲しくなること言わないでください」

 

やるなら早い方が良いだろうというヤチヨの意見により、時間がある時にこうしてモブちゃんがヤチヨや月人の指導のもとせっせと仕事に取り組んでいるのだ

 

実際の所、モブちゃんも月の仕事をやることは嫌ではないのだが…仕事という時点で自動的に拒否反応が出てしまうのが日本人の性なのだ…まぁヤチヨとのこう言ったやり取りを楽しんでいる、というのもゼロではないが

 

それよりも問題は…

 

「(やれやれ、モブちゃんまーだ月人と話すの緊張しちゃうのかにゃあー?)」

「(う、うううるさいな!複雑なんだよ…心がー!)」

 

出会って日が浅い彼等とどう接すればいいのか、モブちゃんは悩んでいた。彼等にも事情があったとはいえ、彩葉を悲しませる直接の原因になった彼等に対して複雑な感情が消化できずにいたのだ

 

「(分かってるんだよ…月へ行くんだし、仲良くしなきゃいけないことくらい。でもどう接すればいいのか分かんにゃいの!)」

「(今回はかぐやの記憶のコピーもないもんねー)」

「(ヤチヨも必要な記憶以外渡す気ないんしょ?けちんぼ!)」

「(ないねー!とはいえ、何時迄もウミウシしてても何も始まらない!当たって砕けろー!ということで、さらばーい!)」

「ちょ、まっ!」

 

部屋にはモブちゃんと月人だけが残され、暫くの間サラサラという書物へ筆を走らせる音だけが聞こえていた

 

「…アンタ達のこと嫌いじゃないんすよ?これは本当っす」

「…」

 

沈黙に耐えかねたように、重い口をモブちゃんは開いた

 

「事情があってかぐやを連れて行こうとしたのも理解してるし、アンタ達が本当はめっちゃ優しいのも分かってるつもりっす」

「…?」

「あーそうっすね、この世界のアンタ達には関係ないっす。だから、ウチの私情に塗れまくった傍迷惑な八つ当たりで申し訳ないんすけど」

 

書く手を止め、モブちゃんは真っ直ぐに月人を見る。少し躊躇いなら、でもハッキリとこう言った

 

「別の世界だろうと違う未来だろうと」

 

「彩葉を悲しませたアンタ達が許せない」

 

モブちゃんはそう言った後、重いため息をひとつ吐いた。これがモブちゃんの嘘偽りのない本音だ

 

「…今のアンタ達には関係ないって本当に分かってるんすけどね」

「…?」

「え?あーそうっすね、彩葉はウチの…全てっす。命より大切な人っす」

 

モブちゃんのその顔を微笑ましそうに見た月人は、モブちゃんの本音に答えるように自分の嘘偽りのない想いをモブちゃんへと伝えた

 

「…」

 

その想いを聞いたモブちゃんは…絶句した

 

「そうか…そうだったんすね…アンタ達もかぐやのこと…」

 

そうして彼等のかぐやへの愛に気づいたモブちゃんは、自らの視野がいかに狭かったかを理解し盛大に笑った

 

「…やっと分かった、貴方達も"私"と同じなんだ…!あはは!何だウチ等同志じゃん!!」

「…?」

「同志ってのはつまり…特別な仲間ってこと!」

「…!」

「ん…そだね、こっからは畏まった口調はやめるねー!んじゃ早速…お近づきの印にウチの知らないかぐぴのこと色々教えてもらおっかなぁー!」

 

 

るんたったるんたったとスキップをしながらヤチヨの部屋まできたかぐやは、勢いよく部屋の扉を開け中へと入った

 

「ヤチヨ〜!あそ…ぼ…」

 

しかし、中にいたのは目を丸くしたモブちゃんと…呆れた顔でかぐやを見ている月人の姿

 

 

【挿絵表示】

 

 

その時、かぐやに電流走る

 

「(ま、まずい…これは説教&仕事させられるコースだ…!かと言って逃げるのは悪手、ならばモブちゃんを巻き込むしかない!モブちゃんはかぐやに激甘…つまり勝ち確ぅ!)」

 

この思考時間僅か1秒、かぐやはモブちゃんの元へ素早く移動すると上目遣いで懇願しだした

 

「モブちゃん…かぐや、モブちゃんと遊びたいなぁ〜?」

「かぐぴ〜!勿論!遊ぼう!!」

 

かぐやは内心ほくそ笑んだ、しめしめこれで何やかんや有耶無耶にできるぞぉ〜と

 

「あーでも、月人さんからのお話が終わってからね⭐︎」

「ヴェエ〜!?なんでぇ!?」

「にへへへ!厳しくすることも愛なんだって、ウチは学んだわけよー!」

「やぁだぁ〜!かぐやのことずっと甘やかしてぇ〜!!」

 

その日、かぐやの叫びがツクヨミに木霊したとかしないとか

 

 

「うぅ〜ひどい目にあった…くそ〜!地球のお説教術を学びやがってぇ〜!!」

「おぉよしよし」

 

お説教から解放されたかぐやは結局モブちゃんと一緒に仕事をし、疲労困憊といった様子でモブちゃんの膝を枕にして寝転がっていた

 

モブちゃんはかぐやが甘えてくれてご満悦だ

 

「月人さん達もかぐやのこと心配して言ってるんだよー」

「ぶぅ〜分かってるよぉ…でも、月人って時間感覚おかしいからさ、お説教がめっ〜ちゃ長いの!今日はモブちゃんがいてくれたからよかったけどさ」

「あらら…ウチでお役に立てて良かったよー」

 

家族だけの時はあだ名ではなくちゃんと名前で呼ぶようになったモブちゃんに、若干のくすぐったさを覚えながらかぐやは甘えるようにモブちゃんの膝へぐりぐりと頭を押し付けた

 

「ねぇ、1個聞いていい?」

「ん、なんだい?」

 

それは未来を知っているからこそ聞きたかったこと…そして、今のモブちゃんからしか聞けないこと

 

「モブちゃんはさ…なんで、かぐやのこと助けてくれるの?」

「んー」

 

モブちゃんは「そんなこと考えたことなかった」とでも言うように目を瞑って首を捻った

 

「だってさ〜いくら最強にキュートとはいえ、かぐやって悪童じゃん?普通自分を犠牲にしてまで助けたいとか思わなくない?」

「確かに…物増やすし勝手にお金使うし、結構な悪童だったもんね」

「ヴェエ〜!反省してるよぉ…まぁ物は今でも増やすけど」

 

モブちゃんは腕を組んで数秒考えると、思考をまとめるようにゆっくりと話し出した

 

「そうだなぁ…かぐやはウチがこことは違う世界の記憶を持ってるのは知ってるよね?」

「うん、ツクヨミもない月人もいない世界とか信じられないけど」

「ふふっそうだね…そこでかぐや達のお話を観て、ファンになったって言うのが最初のきっかけかな」

「へ〜」

「凄かったんだからね?沢山の…本当に沢山の人がかぐや達のファンになって…生きる元気を貰ってたんだよ」

 

私もその1人だった、とモブちゃんはそう呟きどこか遠い星を見るように…元いた世界へと思いを馳せた

 

「だからこの世界に来れて本当に嬉しかったし、かぐや達の為に何かしたいなぁーってただ漠然と思ってたんだ」

 

そして元いた世界からツクヨミへと、思いは移りゆく

 

「最初はね、かぐやの8000年の旅路に着いていこうと思ってたんだよ?」

「マジ?じゃあ、かぐやとモブちゃん2人でラブラブ新婚旅行!(8000年)だったかもしれなかったの!?」

「かもねー」

 

2人きりの新婚旅行?を想像してモブちゃんとかぐやは笑い合った

 

「でも、そんなこと考えてたのは最初のうちだけだったなぁ…だって、好きになっちゃったんだもん」

「あー…彩葉のこと?」

「うん」

 

優しくて、可愛くて、かっこよくて、不器用で、負けず嫌いで、寂しがりやで、強くて弱い…お話に登場するキャラではない、等身大の彩葉が

 

モブちゃんは自分でも知らないうちに彩葉のことが好きになってしまったのだと語った

 

「彩葉を悲しませたくなかった、泣いている彩葉を見たくなかった…でも、彩葉を助けることが…私にはできなかった」

「そんなことないと思うけどな」

「ううん、これはね…かぐやにしかできなかったことなんだ」

 

彩葉が泣いている姿をただ眺めるしかなかったあの時…思えばもうあの時には自分が何をすべきか分かっていたのだろう、とモブちゃんは思った

 

「だから、ウチがかぐやの代わりに8000年前に行ったと知った時も『まぁ、そうするだろうな』としか思えなかった」

「モブちゃん…」

「彩葉にはかぐやが必要で、かぐやには彩葉が必要なんだ」

 

かぐや…貴方と出会ってからウチもすぐにそう思えたよ

少し照れくさそうに笑いながらモブちゃんは言った

 

「キュートで、悪童で、優しくて、カッコいい…そんなかぐやを、ウチも直ぐ好きになっちゃったもん」

 

これは助けるとか救うとか…そんな高尚なものではないとモブちゃんはそう思っている。だって、自分のただの我儘なんだからと

 

「だからさ…彩葉とかぐやがお別れするところなんて、彩葉が…かぐやが…泣いている所なんて…もう…ウチは見たくない」

 

モブちゃんはヤチヨも自分と同じように思っているということを分かっていた。だって同じ自分なのだから

 

思えば答えはたった1つのシンプルなものなのだろう

2人が好き…きっとそれだけなのだ

 

 

「どんな世界だろうと、過去だろうと未来だろうと、違う選択をしようと…私は、かぐやを一人ぼっちにはさせないよ」

 

 

大好きな2人が笑っていてくれる…きっとそれだけでいいのだ

 

そう言って笑うモブちゃんの顔がかぐやには、いつか見た彩葉と同じように綺麗に輝いて見えた

 

「…それ、ずるくない?」

 

よく言われている言葉が、今日はかぐやの口からつい出てしまった。だってその顔でそんなことを言われたら、引き止めることなんてできないのだから

 

「ずるくありませーん!大体かぐやは地球来るまで月でお仕事頑張ってたんでしょ?後はお姉さんに任せてゆっくり休んどきなって!」

「そんなら〜!さっきも助けてくれたっていいじゃ〜ん!!」

「のんのん!それはそれ、これはこれというやつですよー!」

 

2人はヤチヨが帰ってくるまで、こうして馬鹿なことを言ってはいつまでも…いつまでも笑い合っていたのだった

 

 

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