酒寄彩葉に泣かされる優柔不断で悪いモブの話~逆行編~ 作:ゴリラ皇子
コラボライブの打ち上げ会場、私はビタンビタンと床でのたうち回るモブちゃんを見て苦笑していた
「むりむりむーりぃー!ウチ1人でライブなんてでーきーなーいー!」
「いとおかし笑」
「むきぃーーー!!!」
「にゃー」
私達も最初はかぐやの卒業ライブならぬ休業ライブでもやろうかと話しをしていたんだけど、コラボライブ当日にヤチヨが謎の電波を受信して
「前にかぐやのフリしてライブしたのも、ツクヨミから卒業するのもモブちゃんなんだから…モブちゃんの卒業ライブでいいのでは?」
なんて言うもんだからさぁ大変
私達もしっくりきてしまう所もあったりで、とりあえずモブちゃんに相談してみようということになり…現在に至るというわけだ
「モブちゃんの歌良すぎたのにね」
「ダンスも凄かったよねぇ〜」
芦花と真実もモブちゃんのことベタ褒めだ
コラボライブを観た全員がそう思うほど、あの時のモブちゃんは輝いていた
「「「…!」」」
月人さん達もそう言っている
いやまぁ、私は何言ってるか分からないけど…多分合ってる筈
「勿論、私達も無理にとは言わないけどさ」
「モブちゃんもライブが嫌ってわけじゃないっしょ〜?何で無理なの?」
「持ち歌がない」
「「「「あ〜」」」」
それはそう
モブちゃんの回答に一同納得するしかない
ツクヨミ名物兼KASSEN解説系ライバーとして名を博しているけど、人前で歌を歌ったのはコラボライブが初めてだ。持ち歌なんてあるわけがない
ソロでのライブなのにカバー曲ばかりじゃ締まらない、その気持ちは確かに分からないでもないかな
「いやいやいや、あるじゃん!モブちゃんの持ち歌〜!」
「へ?」
「今のモブちゃんが知らないのも無理ないって、それ先の話だし」
「マ?ウチに?それなんて歌??」
今現在は確かに持ち歌と呼べるものはないだろう…だけど私達は知っている、モブちゃんの持ち歌と呼べるその歌を
今は存在すらしていない
その歌の名は
「「Reply」」
モブちゃんの目が大きく見開かれる
驚きのあまり声が出なかったのか口をパクパクと何度か開いた後、大きく息を吸い込んで叫び出した
「何言ってんの!?それは…それは、いろぴとかぐぴだけの歌でしょーが!?!?」
「ちっちっちっ、それが違うんだなぁ〜」
ドヤ顔のかぐやの言う通り、これは私達2人だけの歌じゃない。確かに1番は私とかぐやで作った歌だ、けど2番からは違うのだ
「だって、モブちゃんの為に作ったからね」
私とかぐやのために、自分1人で何もかもを背負い込もうとした…大切な貴方を想って
「だからこの歌は、私とかぐやとモブちゃんの歌だよ」
「彩葉ぁ…かぐやぁ…」
「泣き虫さんだなぁ〜まるでヤチヨみたい…って同一人物か!」
「ヤッチョのこと突然刺さないで欲しいなぁー!?」
ヤチヨの嘆きにひとしきり笑った後、モブちゃんはこう言ったんだ
「ウチ…やってみるよ!」
おぉ〜!と拍手する私達、ライブへ前傾姿勢になったモブちゃんに習ってどんなライブにするかをやんやと皆んなで話し合った
とあるKASSEN場にて
「それで、ライブとKASSENを同時にやるわけか」
「そんな感じー⭐︎」
帝とモブちゃんは身体をほぐしながら雑談を交わしていた
「面白いこと考えんなぁ…それ、俺たちも参加していいわけ?」
「もち!誰でも参加可能だよん!」
「いいね…そんじゃあ、ライブ前の前哨戦でも始めますか」
「りょー⭐︎」
それぞれの武器を構え、対峙する2人
何故こんな状況になっているのかと言うと…ある日モブちゃんへ帝からこんなメッセージが届いたからだ
『モブちゃんお疲れー、時間ある時で良いから一戦付き合ってくれね?』
朝日が帝としてブラックオニキスの活動をするようになってから、遊ぶことは減ってしまったが…どちらともなくお互い誘い合い、偶に遊んでいた
今回もそうだと思ったのだが…どうやら違うらしいことを、モブちゃんは帝の雰囲気から感じとった
「ヤチヨちゃんの時と同じように、本気で頼む」
「…マジで言ってる?」
「ああ」
帝の顔を見たモブちゃんはため息をつくと、自身にかけていたリミッターを解除した。こうなった帝は、何言っても聞きやしないことは経験で分かっていたからだ
「手加減なんてしないから、負けても泣かないでよ?」
「はっ…上等!」
モブちゃんの拳と帝の金棒がぶつかり合う
その音を聞きながら、モブちゃんは思考を巡らせた
帝と…朝日と本気で戦うのはいつぶりだろう、と
初めて彼に会った日か?
それとも彼が家を出ていくと決めた時か?
「ハァ!」
「甘いね」
連撃を文字通り皮一枚で躱して、お返しの蹴りを叩き込む
帝は吹き飛ばされながらも素早く体勢を立て直し、モブちゃんを鋭く睨みつけた
本当に…強くなったなぁ
ーあんたが噂のモブちゃんか?
ーかぁー!それずるくない!?もう1戦!もう1戦だけ!!
ー俺の妹、ゲーム上手いだろ?
ー決めた、モブちゃん…俺東京に行くよ
ーブラックオニキスの帝アキラだ、改めて宜しくな!
モブちゃんの初めての友達
沢山遊んで、沢山喧嘩して、沢山笑って…思えば彼とは本当に沢山の時間を一緒に過ごした
…朝日は知らないだろうけど、これでもすごくすっごく感謝してるんだよ?
…ありがとう、私と友達になってくれて
…貴方のおかげで私、独りじゃなかった
銃撃を首を傾けるだけで避け、距離を詰めると思いっきり拳を前へ突き出した
その拳へ合わせるように、帝も金棒を前へと突き出した
激突する寸前、モブちゃんは拳の軌道を変え打ち払う動作へと変更する…モブちゃんお得意のパリィである
このパリィというスキル、成功すれば相手の動きを一時的に止め、自身のスキルクールタイムを早めるという効果があるが…一般的には地雷スキルと認知されていた
何故なら猶予が1Fという極短い時間であること、遠距離からの攻撃や飛び道具には効果が発動しないこと、失敗した際は硬直時間があること等のメリットに比べてデメリットが多すぎるからだ
しかし、あらゆる能力が人間を超越しているモブちゃんは、ほぼ100%パリィを成功させることができる。そのため、このピーキーなスキルを好んで使っていた
これで、この楽しい時間も…終わり
金棒に触れる瞬間パリィを発動し、金棒を弾くとスキルの効果で帝の動きが
帝の動きが止まることはなかった
「な…んで!?」
パリィ失敗により硬直した身体の、唯一動く目だけを必死に動かすと刀を握った帝の姿が映る
「モブちゃんの考えることくらい…」
まさか…スキルを使う瞬間だけ武器から手を離した!?突きにしたのは手元を隠すために!?
「全部分かってるつーの!!!」
数多の敵を屠ってきた帝の最速が、動けないモブちゃんへと迫り
「…やればできんじゃん」
あーあ負けちゃった
悔しいなぁ…
消えゆくその刹那…見上げたツクヨミの空はとても綺麗で、青く…どこまでも青く澄んでいた
「だぁあああ!勝ったぞこんちくしょー!!ほんま疲れたわ!!」
「お疲れ様ー⭐︎凄いじゃん!ウチもまさか負けるとは思わなかったよ!!」
疲労困憊といった様子で寝転ぶ帝とニコニコしながらそれを見ているモブちゃん、一目ではどちらが勝者か分からない有様だ
「本当…強くなったね」
「ブラックオニキスは、皆んなに夢見せなきゃいけねぇーからな」
「…うん、素敵な夢…見せてもらったよ」
ヨイショっと帝の隣に座ったモブちゃんは、同じように空を眺めた
そんなモブちゃんをチラリと見た後、帝は口を開く
「彩葉のためなんだろ?」
「ん…」
漠然とした情報でも、帝は何故モブちゃんが月へと…そして過去へと行くのか、その理由を長年の付き合いから把握していた
「んー、どちらかというとウチ自身のため…かな」
「はぁ…そうか」
帝の目に映るツクヨミの空もまた、青く澄んでいて…それは不思議と、いつもより綺麗に見えた
「ウチね、朝日のことずーっと羨ましかったんだ」
「俺が?」
「うん、ウチの欲しいものぜーんぶ持ってて…そのくせウチが1番欲しかったものを置いて家を出るなんてさ…そんなんズルじゃん!って思ってた」
「はぁ〜…耳が痛い」
今考えるともっと色々やりようがあっただろうとは思うが、それでも帝は自身の選択に後悔などしていない。そして自分が安心して家を離れられたのも、きっとモブちゃんがいてくれたからだろう…と改めてそう感じた
「朝日が家を出るって言った時、ウチと本気の喧嘩したでしょ?あれ、ただの八つ当たりもあったんだ…ごめん」
「あーね、確かに信じられないくらいボコボコにされたもんなぁ」
「うっ反省してます…」
昔を思い出して気まずそうなモブちゃんの様子に、帝は思わず苦笑が漏れてしまった
「いいよ、あの時だって結局は背中押してくれたじゃん」
「それは…」
朝日の目がキラキラ輝いて見えて…止めるなんてできなかった、とモブちゃんは小さく呟く
「…そういや、名前で呼ばれるの久しぶりな気がするな」
「あれれ?そうだっけ??」
たわいもない話をしながら帝はふと考える。こうして見上げた空を、またいつか一緒に見られるのだろうか…と。しかし、帝はその考えをすぐに振り払った。きっと大丈夫だ…この愛すべき友とその家族達なら
「勝ち逃げさせたくなかったら、リベンジいつでも待ってるからな」
「うん、朝日こそあっさり負けないよう腕を磨いててよ?」
いつの日かまた戦おう…再戦の約束をしたモブちゃんと帝は、お互いの拳をコツンと重ねた
「さて、じゃあヤチヨカートでもやるか?」
「おっ良いねぇー!ウチFUSHIバイク使っちゃおうかなぁー!」
「ずりぃ!今のトップティアじゃねぇーか!」
「にはははー!早い者勝ちだもーん!」