酒寄彩葉に泣かされる優柔不断で悪いモブの話~逆行編~ 作:ゴリラ皇子
ヤチヨのライブまで時間があるので、私とかぐやは折角だからとツクヨミを観光することにした
「ちょ〜楽しい!けど、あんま変わらないね〜」
「そりゃツクヨミはVRの完成系とまで呼ばれた代物なんだから、10年そこらで大きく変わらないって。精々、味覚やら体温やらが実装したくらいで」
「それはそれでとんでもないことしたって自覚ある?」
「なーに言ってんの、それくらいできて当然でしょ?かぐやとヤチヨ、2人が協力してくれたんだから」
「でへへ〜」
「わん!」
「うん、犬DOGEもFUSHIも頑張ってくれたもんね」
早速とばかりに大きい猫…猫かこれ?のぬいぐるみ買っちゃったりして、お姫様は相も変わらずツクヨミを満喫しているようだ
ところで、観光がてらモブちゃんを探しているんだけど…全然会えない…おかしいな、私がログインしたら大抵すぐ会いに来てくれたのに
そんなことを考えていると犬DOGEが突然走り出した
「わん!」
「あ、犬DOGE〜!」
「わわっ!?」
犬DOGEは曲がり角にいた誰かへと駆け寄るとその人の胸へ飛びついてしまったようで、驚いたような声が聞こえてきた
「す、すいませ…ってモブちゃん?」
「あっ!モブちゃんだぁ〜!」
「へ?いろぴに…ま、まさか…か、かぐや…!?」
犬DOGEをそっと地面へ下ろしたのは私達が探していたモブちゃんその人だった
かぐやを見てビックリしていたみたいだけど…あぁ、知ってはいても実際に会うのはこの時が初めてだっけ
それにしても…何だか今日のモブちゃん…凄い可愛いな
勿論普段も可愛いかったんだけど、どちらかというと格好良い寄りというか頼れるお姉さんというか
普段と違い軽く巻いた髪に苦手だと言っていたスカート、チラチラと私を見る潤んだ瞳、そして上気した顔
約10年ぶりに会うのも相まってか…とても、とても愛おしく感じる
「モブちゃん、スカート似合ってるよ…可愛い」
「アゥ…ア、アリガトゴザイマス」
「んね!その髪型も可愛いよ〜!」
「アッアッ…チ、チカイデス」
「わんわん!」
モブちゃんは電子生命体だから、私の体温を今はまだ感じることはできない。でも、少しでもこの心が伝われば良いと思って、私達はその手を握った
「突然こんなこと言われるの迷惑だろうけど…どうしても言わせて」
「うんうん、やっぱ想いは伝えられる時につたえなきゃだよね」
「…!…!?」
「モブちゃん」「モブちゃん〜」
「「大好きだよ」」
困惑させてしまうだけなのは分かってる。それでも私は…私達は伝えたかったんた、どれだけ貴方に感謝していて、どれだけ貴方を愛しているのかを。私達の言葉で
「モブちゃんすげぇ〜!」
まぁ伝えられたモブちゃんは空へと飛び上がり、ツクヨミの夜空へ大輪の花を咲かせていたけど
なんでよ
モブちゃんが夜空へ散った後、私とかぐやはヤチヨのライブが行われる会場へと足を運んでいた
「ライブが終わったら、ヤチヨと話せるんだよね〜?」
「握手券があるからその辺は大丈夫、その時にヤチヨに記憶があるかも確認しないと」
暫く待っているとカウントダウンが始まり、ヤチヨが現れ…ライブが始まった
「うぅ…ヤチヨぉ…」
「うわぁ〜ありえんほど泣いてる」
仕方ないじゃん、ヤチヨの歌は最高超えて至高なんだから…勝手に涙が流れてくるじゃないのよ
『ヤチヨCUPって言うのを開催するよー!』
月見ヤチヨ史上初の試み、ライブでのコラボ相手を決めるための大会。新規ファン獲得数が多かったチームが優勝者となり、特設ステージでヤチヨと初のコラボライブを行うという名誉を賜われる
ってかイメージ映像に映ってる狐耳の女性…あれ私じゃないか?
説明が終わったタイミングでお兄ちゃん達…ブラックオニキスが軽快な音楽と共に乱入してきた
イケイケだなぁ
いやまぁ流石にもう慣れたけど、普段どちらかというと落ち着いている方なだけに…ギャップが…何と言うか、凄い
乃依さんとか雷さんは結構そのまんまなんだけどねぇ
お兄ちゃん曰く「需要に応えて」ってことらしいけど
まぁそんなことはさておき
「1発かましとく〜?」
「当然」
お兄ちゃん達の優勝宣言を聞き終えたかぐやは不敵な笑みを浮かべると、ズンズン前へ歩いて行った
そして、大きく息を吸い込み
「ヤチヨーーーーーー!!!!!!」
ツクヨミ中に響き渡るのではないかというくらい大きな声を出して、宣戦布告を始めた
「ヤチヨCUP!かぐやと彩葉が優勝する!んで優勝したら〜」
ん?
かぐやさん、何を言うつもりで?
「ヤチヨと結婚する!!!」
堂 々 の 結 婚 宣 言
まさかの内容に騒つく周囲
どこからか聞こえてくる黄色い声援と野太い雄叫び
「ちょっと、私は仲間外れなわけ?」
「もちろん彩葉と芦花とも結婚するよ~ん☆」
なら良いか(よくない)
私も周りの騒めきへ負けないように声を張り上げた
「そういうことでー!私とかぐやは本気で優勝目指していくから宜しくー!」
「宜しくお願いするっす!」
私達の宣言にヤチヨは大爆笑
お兄ちゃんは目を丸くした後、こっちを見て苦笑してた。もしかしたら声で私だって気づいたのかもしれない
うん、まぁ私達のアプローチは無事ヤチヨへ伝わったようだし…結果オーライってことで
「皆んなとちょこーっとお話しさせてねー!」
さて、ここから握手会の始まり…なんだけど
「彩葉ー!かぐやー!」
笑いながら泣くという器用なことをしながらヤチヨがすっ飛んできた
「何ですぐ会いにきてくれないのぉー!?ヤッチョすっごく心細くってぇー!泣いちゃいそうでぇー!!」
ふふっ、先ずは歌姫様を慰めることから始めないといけないようだ
所変わって、私のアパートに私とかぐやとヤチヨ(AR)が集まった。FUSHIと犬DOGEも勿論いる
何故私のアパートなのかと言うと、ヤチヨに「ヤッチョねー1度で良いから彩葉のアパート行ってみたくてぇ…だめぇー?」とお願いされたからだ。私とかぐやが過ごした部屋を見てみたい、なんて可愛いお願い…叶えてあげるのが甲斐性というものだろう。チョロ葉いうな
『ヤチヨも2人と同じかにゃー。気づいたらツクヨミの自分の部屋にいたというかー42ブラウン管点灯済みというかー?』
「?彩葉、ブラウン管ってなに?」
「確か…かなり昔のテレビの総称じゃなかった?」
『か、かなり…昔…?』
よく分からないけど、かぐやの言葉にダメージを喰らっているヤチヨの話を聞く限り、どうやらヤチヨも私達と同じような状況らしい。ツクヨミや私達の状況を把握するため右往左往して…結構大変だったとのこと
労いの意味を込めて撮り溜めした赤ちゃんかぐやを送ったらめっちゃ喜ばれた
『彩葉達も大変だったのは分かるけどー、メールくらいくれても良いんじゃないかなーってヤチヨは思ったりー!』
むくれてるヤチヨも可愛いなぁ
昔と違い、こうやって素直に感情を伝えてくれることに嬉しさを感じる
「いやいや、直通の連絡先知らないし」
「ま〜運営への問い合わせから連絡するわけにもいかないよね〜」
『それは大丈夫!彩葉とかぐやからの連絡はヤッチョへ直接届くようになってるから全然問題なi…ごめん今の忘れて、FUSHIお願い』
『い、行くぞぉー!』
「やめなさい」
気軽に記憶を消そうとするんじゃない!
ってか、それくらいなら全然良いから
「結局さ、記憶あるのってかぐや達だけなのかなぁ〜?」
『多分ねー、モブちゃんやオタちゃん達とも話してみたけど…皆んな記憶はなさそうでしたー』
「芦花や真実も記憶なさそうだったよ。一体なにが原因なんだろう…」
『これはヤチヨの勘、なんだけど』
「…?うん」
『神様って結構気まぐれだから、深く考え過ぎないのが1番良いってヤチヨは思うよ』
…まぁヤチヨの言う通りなのかもね
転生とかいう不思議体験の経験者が言うと説得力が違うわ
「私達はこれからどうすればいいのかな?」
「これまで通り、やりたいことやって面白おかしく毎日を過ごしていく!で良いんじゃん☆」
『ヤッチョもかぐやにさんせーい!』
「それはそうなんだけど、考えなきゃいけないことあるでしょ」
「?」『?』
「月からのお迎えどうすんの」
「あぁー」『あぁー』
あぁーって…自分達のことなのに忘れてたんかい
月の人達はあれで結構優しいので、ちゃんと話せば良い感じの妥協点なりを見つけられるだろう
問題はその先だ
タイムパラドックス論には詳しくないけど…ヤチヨがいてツクヨミがあるなら、タイムマシンで過去に行かなきゃいけない。だからと言って前みたいに、モブちゃんへ8000年という永い時間を1人で旅してもらうなんて…私はして欲しくはない
「ん〜ならさ、元光る竹のタイムマシンでツクヨミ作る時くらいに戻ればいいんじゃね?イレギュラーな事態だし、タイムパラドックス的にも月人的にもオールOKじゃない?」
「確かに…それもそうか、どう思うヤチヨ?」
『うーん…ヤッチョは8000年前で良いと思うけど、2人がそう言うなら…ってあれれ?』
「ヤチヨ?どうしたn」
話している最中にヤチヨが突然フリーズしてしまった
トラブルかと思って尋ねた私の声は、外から聞こえてきた大きな声にかき消された
「大@#g〜バン_i→2°!!!!」
「うるせっ!いま22時だぞ、22時!!」
「ヴェエ〜耳がぁ〜!!??」
音量MAXの選挙カーみたいな騒音に、怒りのあまり強めに窓を開け放ち…絶句した
「な、なに…これ…」
空を照らす光…サーチライトというやつだろうか、それがいくつも輝き、銃を持った兵隊らしき人達が拡声器で何事かを叫びながら道を闊歩している
「い、彩葉ぁ〜!こ、これ!これ見てぇ〜!?」
真っ青な顔をしたかぐやが見せてきたタブレット、よくあるニュースサイトに掲載された見出しには…
【大日本帝国、米国へついに宣戦布告!】
【第三次世界大戦勃発!】
【国際テロリスト月見ヤチヨの正体に迫る!】
「でぇぇぇえええー!?」
『い、彩葉ぁー!かぐやぁー!つ、つつつつ、ツクヨミがなくなってるんだけどぉー!?!?』
「「はぁぁああああー!?!?」」
あ、あぶねー…
3人で「8000歳じゃないヤチヨは解釈違い!」「ヤチヨさんマジパネェっす!よっ!キラキラのおばあちゃん!」『あー!やっぱ8000年前に行きたくなってきたなー!ヤッチョ8000年前に行きたくなっちゃったなー!!』とか言いまくってたら、何とか元に戻れた…
私の身体が薄くなってきた時は本気でヤバかった…心底肝が冷えたわ
「いや〜…流石のかぐやちゃんもビビった〜」
「はぁ…はぁ…ヤチヨの影響力デカ過ぎでしょ…流石私の推し…」
『よよよー!なぜこんなことにー!?』
歴史の影にヤチヨあり、ってわけじゃないだろうけど…少なくともヤチヨが8000年前から存在しないと大変なことになるというのが理解できた、いや本当に、マジで
『彩葉、かぐや』
落ち着いてきたところで…姿勢を正したヤチヨが、静かにそう切り出した
『やっぱり輪廻からは逃れられないみたい、だから…どうか、この旅路を最後まで見届けてね』
「ヤチヨ…」
「…」
『ってー、雰囲気出して言ってみたけど、ヤチヨ的には結構楽しかったし?8000年全然ウェルカム的なー?』
「…」
「かぐや…?」
ヤチヨの記憶を見た私達には、その言葉が嘘ではないと分かる。けど、かぐやは俯いたままで…そんなかぐやを見たヤチヨは態とらしく大きなため息をつくと、かぐやの頬へ手をやった
『もう…かぐや』
「…どしたんヤチヨ〜?」
『これは"私"が選んだ道なのだから、そんなに気にしちゃダメだよ』
「あ、あはは〜…やっぱ分かる?」
「かぐや…」
私はかぐやの少し冷たくなった手をぎゅっと強く握りしめた
『ヤチヨが望んだことなんだから、かぐやも彩葉も気にしないでー』
「だってさ!これは元々…!」
『のんのん!元がどうあれ…あの楽しい旅は、もうヤチヨのものなのです。いくら愛しのかぐやでも、譲ってあげられないかにゃー』
そう言って微笑むヤチヨの目には、ヤチヨが愛した覚悟とも呼ぶべき光が宿っていて…その吸い込まれるような眩しく優しい瞳に、こんな状況なのに私は見惚れてしまっていた
「ぐぬぬぬ…その言い方されると謎の悔しさがあるんだけどぉ〜!」
『ふっふっふっ美味しいところはヤッチョが頂いていきましてよー?』
私達の誰かがその役目を担う必要があるのなら、ヤチヨは…モブちゃんは、絶対にその役を譲らない。それが分かってしまった
このままではヤチヨをまた1人にしてしまう…私が、酒寄彩葉ができることを考えて、考えて…そして辿り着いた答え
「ねぇヤチヨ…」
『なんだいなんだい?』
「ひとつ相談なんだけどさ…」
ツクヨミの自宅へ戻ったヤチヨは独りごちる
「まさかこんなことになるとはねー」
ヤチヨの胸に去来していたのは、8000年の旅路で出会った人達のこと
「そっか…皆んなが、いまの時代を創ってくれていたんだね…」
助けられなかった人がいた
助けられた人がいた
助けた人がいた
共に生きて、笑って、泣いて…そして見送った
本当に沢山の人達
本当にかけがえのない人達
全ての出会いに意味があったのだと、改めて肯定されているようで嬉しくて堪らなかった
「ありがとう…どうか、これからも見守っていてね」
今は側にいなくとも、何処かで繋がっていると信じて思いを馳せる
数秒程目を閉じて、瞳から零れ落ちそうな雫を拭った。まだまだやることも考えることも沢山あるのだ
「さて、お話をしましょう?」
ヤチヨは気持ちを切り替えるように笑うと、FUSHI達へ向かってそう声をかけた
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