穏やかに生きたいTS村娘。今日もヤンデレ女勇者様が結婚を迫ってきます。   作:汝とせがらを愛せよ

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第1話 今日も私は結婚を迫られる

「結婚しましょう」

 

 村娘なら一度は誰もが憧れるプロポーズ。

 王子様に見初められて、王城で華やかな舞踏会に出る。

 王子様じゃなくてもいい。

 そう、今の私のように、勇者様にプロポーズをされてるのだって。

 周りからすれば、憧れの的のはず。

 

「……あの、勇者様」

「なあに? 結婚してくれますか?」

「大変言いずらいのですが……私たち、女性同士です」

 

 そう、プロポーズしてきた勇者様が、女性でなければ。

 きっと、私ももう少しは考えていたのかもしれない。

 

 私、ティアは辺鄙な村の村娘だ。

 特にこれと言って特徴もない村の、特徴のない村娘だ。

 それなのに、ここ一週間というもの。

 ある日、突然村に現れた勇者様に、告白されて付きまとわれている。

 どういうわけか。どういうわけなんだろうか。

 

「性別なんて関係ありませんよ!」

「関係ありますよ!?」

 

 なんてことを言うのだこの勇者様は。

 

「子供の心配をしているの? なら大丈夫! 女神さまに頼めばきっと授けてくださるから!」

「そういう問題でもありませんよ!?」

 

 そう、そういう問題ではないのだ。

 村というのは基本的に存続させるために人員が必要となる。

 だから、そこで生まれた村娘は村を存続させるために婿を取るか、よその村に友諠として嫁ぐのが慣例なのだ。

 

 なのに、都会に出てしまえばどうか。

 単純に村は人員を一人失うだけではなく、機会を失ってしまう。

 労働力の事も考えれば、大きな痛手となるのだ。

 

「国王陛下には僕からお願いするから! 法律的問題は何とかするから!」

「そういう問題ではありません!」

「聖女様は知り合いだから! 宗教的問題も解決するから!」

「そういう問題でもありません!!!」

 

 膝をつかれて乞われてしまうと、どうしてもこっちが悪いみたいな気持ちになってしまう。

 いや、でも冷静に考えてみれば周囲の村の繋がりより王国の繋がりの方がいいのでは? なんて思わなくもないけれど。

 いやいやいや、冷静になろう。この世界での女性同士での結婚なんて、絶対ろくでもないことになるに決まっている。

 

 村娘だから、行商に来る人からしか外の世界の情報は知らない。

 けれど、前世に比べればかなり前時代的な世界だってのは分かる。

 ファンタジーな世界なのも、分かる。魔法やら、魔物やら、魔王やらがいるのだから。

 

 ――でも、幾らファンタジーだからって。

 その魔王を倒した勇者様が、村娘に結婚を申し込んでくるなんてところもファンタジーにしなくても良かったんじゃないですか???

 

「まあまあ、ティア」

「お父さん」

「勇者様。娘もこう言ってますので……」

 

 お父さんはなんだかんだ私の味方をしてくれている。

 村的にはきっと、そこまで大きな損失にはならない。

 むしろプラスになる可能性だってあるのに。

 

「おじさん。いや義父様!」

「そう呼ばれる筋合いはまだない!」

 

 まだ、まだなの!?

 お父さんっ!?

 

「娘さんを僕にください!」

「……ティアが許可すれば許可しよう」

「お父さんっ!?」

 

 結局私に全部投げ捨てるの?

 どういうこと? 私の結婚の決定権とかお父さんが持ってるはずだよね? 世界観的に。

 勇者様の権力に日和ってる? 日和ってるの? ねぇ、お父さんっ!?

 

「ティアさん、結婚してください!」

「いえ、だから急ですよね!?」

「一週間ずっと言ってるので急ではないです!」

「期間の話ではないんですよ!」

 

 こう、何というか。

 段階というものがあるんじゃないですか。

 まずはお付き合いからとか。

 お見合いからとか。

 いや、村娘にそんなものはないのですけれど。

 

「ふふふ、根気勝負は慣れっこですよ。旅で鍛えましたからね」

「勇者様の才能の無駄遣いをしないでください!」

「一目ぼれしました、結婚してください!」

「才能を捨てて直球勝負してくださいって言ってるわけじゃないんですよ!」

 

 そもそも論、どうして私にこだわるんだろう。

 以前に一回質問したことがあるけれど、はぐらかされたんだよね。

 

 ただただ、一週間もの間告白されるだけ。

 理由は聞いても答えてくれない。

 ……いや、冷静に考えてみると詐欺みたいな話だな?

 

「まったく、もう」

 

 いっそのこと、二度と話しかけないでくださいと断れればいいのに。

 断り切れないのは、決して冗談で言ってるつもりではないってのがわかってるからだ。

 この人は本気で、私に告白している。

 

「はぁ。今日も畑仕事手伝ってくれませんか?」

「そうしたら結婚してくれる?」

「私からの好感度がちょっと上がります」

「じゃあやるよ!」

 

 そんなこんなで。

 今日も私は、女勇者様に振り回されている。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 僕が鍬を持って後ろに立っていても。

 ティアさんは、まるで無警戒で前を歩いてくれる。

 なんだかんだ心を許してくれてるんだなって実感できて、嬉しい。

 

 僕の事を勇者ってだけでなく、一人の人として見てくれている。

 昔っから変わらない、その事実が堪らなく嬉しくて仕方がない。

 

 ティアさんは僕がこの村に来たのは一週間前が初だと思っているけれど、実際にはもっと前に来たことがある。

 それは、十年前。まだ、僕が八歳で、幼くも勇者として旅立った直後の話だ。

 

 当時の僕はまだ大して強くはなく、雑魚の魔物に苦戦して怪我を負って動けなくなってしまっていた。

 そこに彼女——ティアさんが来てくれたんだ。

 当時はまだ幼い彼女が、不思議そうな目でこっちを見て、静かに立ち去った。

 そして、ひっそりと村ではあまり使えないはずの傷薬を持って戻ってきてくれたんだ。

 

 どうして村の人を呼ばずに、傷薬を持ってきてくれたのかを、当時の僕は尋ねた。

 そうしたら、彼女はこう答えた。

 

『お姉さん。人に見られてるの恥ずかしそうにしてたから』

 

 傷を負うのは、勇者として未熟な証拠だったから。

 いずれ魔王を倒す役目があるのに、こんなところで躓いているのは恥ずかしいと思っていた。

 心の奥底を見透かされた気分だったよね。

 

 でも、彼女はこうも言ってくれたんだ。

 

『大丈夫。みんなのために戦ってくれてるんだもん。恥ずかしくないよ』

 

 その様子は、幼子とは思えない程母性に満ち溢れていて。

 僕は思わず、涙ぐんでしまった。

 あれだけ辛い訓練を重ねて、泣かないように鍛えたはずなのに。

 心は弱いままだった。

 

『ありがとう。戦えない私たちの代わりに、戦ってくれて』

 

 彼女の言葉は僕の奥底に染み入って、勇気を与えてくれた。

 僕は何のために戦うのか。

 それは、守るべき人々がいるからじゃあないか。

 こういう、守りたい人を、守るためじゃあないか。

 そう、再認識させてくれた。

 

 思い出させてくれた彼女に、その時の僕は提案した。

 

『何か、お礼をさせてもらえないかな?』

 

 少しだけ考えた末に、彼女は答えてくれた。

 誰にも言わないでね、と可愛く前置きをして。

 

『——世界を見てみたいな。この世界は、不思議でいっぱいみたいだから』

『じゃあ、今すぐは無理だけれど――いつか、迎えに来るよ』

 

 そうして、僕たちの約束は交わされた。

 

 ティア。僕は今でも覚えているよ。

 あの日、君が僕に与えてくれた優しさを。

 あの日、与えてくれた熱を。

 

 だから返しに来たんだけれど。

 君は覚えてくれていなかったか。しょうがない、君はまだ十三歳だもんね。

 五歳差かぁ。まあ、聖女様が何とかしてくれるでしょ。

 あの子は口は悪いけれど、根っこはいい子だから。

 

 だからさ、ティア。

 どうか、僕に恩を返させておくれよ。

 

 こうして君の隣で笑いながら。

 いつの日か、受け入れてくれることを望むのさ。

 

 ……でもなぁ、そろそろ一回戻らないと国王陛下がうるさいかもなぁ。

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