穏やかに生きたいTS村娘。今日もヤンデレ女勇者様が結婚を迫ってきます。 作:汝とせがらを愛せよ
さあて、勇者様という国の重鎮が一つの村にいるとどういうことが起きるでしょうか。
答えは一つ。国から迎えが来ます。
「勇者様、そろそろ陛下が……」
「えー。魔王を倒したんだしさぁ、いいじゃんちょっとぐらい!」
「だからですよ……」
国の兵士だと思われる人たちが村にやってきた。
なんでも、勇者様を連れ戻しにやってきたらしい。
「王様は僕の恋路を邪魔するっていうの!」
「そのようなおつもりはないかと」
「僕はまだ帰らないからね!」
そういえば、勇者様の身の上とか全く知らないな。
国中に配られた伝聞で、勇者様の見目形と、佇まいの貫禄で勇者様って分かったけれど。
「そういえば、勇者様は王都に婚約者とかいらっしゃらないんですか?」
「いないよっ!? なんてこと言うのティアちゃん!?」
そっかぁ、いないのかぁ。
……ん? 今私はどんな気持ちになった?
まあいっか。
「良かった。婚約者がいながら他人を口説くような方ではなくて」
「好感度上がった?」
「いえ、平行線ですね」
軽薄な人だなぁ。と思う瞬間はあるけれど。
そこまで酷い人ではなかったみたい。
流石に勇者様ってことなのかな。
最低限の節度はお持ちなようで。
「あの、婚約者がいないというよりも縁談を全て断られてらっしゃる……」
あっ、やっぱり縁談の話とかはいっぱい来てるんだ。
……なのにどうして私なんだろう。
聞いても答えてはくれないだろうけれど。
とても不思議だ。
「だってぇ、貴族たちのトロフィーになるつもりはないんだから」
貴族の方々相手の縁談なら、私なんかよりもよっぽど良縁に思えるけれど。
少なくとも、私だったら村のためにとりあえず頷くと思う。
村娘にとって貴族に見初められれば、上手いことやれば村に大きな利権をもたらせられるからね。
「どれも僕の称号が欲しいだけでしょ?」
「私共の口からは何とも言えませぬが……」
兵士たちが困った表情を浮かべている。
口にはできないけれども、多分勇者様のおっしゃってることが正しいってことなんだろうなぁ……。
こればかりは、ちょっと勇者様に同情してしまう。
勇者様は開き直ったように腕を組んだ。
「まあいいや。国王陛下には婚活中だからしばらく帰らないって伝えておいて」
婚活中って……。
間違ってはないのかな?
いや、口説かれてる側の私が考えるのは違うのかもしれないけれど。
再び兵士の方々は困ったように眉を下げた。
「ですが、式典などの出席の要請もございます」
「えー? 僕抜きで成り立つ奴でしょ?」
「魔王討伐の平和式典ですので、流石に主役抜きでは……」
それは流石に出席しないといけないのでは?
私にだってわかる。
とても大切な奴だ。
終戦記念日とか独立記念日とかその手の類の奴でしょ。
魔王討伐の平和式典ってことは、下手したら別の国からも要人が来るのでは?
「それまだまだ先の話じゃん! 半年後とかでしょ!」
「聖女様や賢者様へも既に要請が出ておりますので」
「あの二人みたいに忙しくないもん僕は」
聖女様に賢者様。
勇者様と一緒に魔王を討伐したという、英雄のお二人だ。
聖女様は教会のトップだし、賢者様も魔塔という魔術師が集う塔で最も優れた魔術師だと耳にしている。
そんな方々と肩を並べるぐらい、勇者様は凄い人なんだよね。
とてもそうは見えないけれど。
「とにかく! 僕はティアちゃんを口説ききるまで王都へは戻らないから!」
「ええっ!?」
ここで私が巻き込まれるんですか!?
ほら、兵士の方々がお願いしますみたいな視線を向けてきてますよ。
いや、式典は大事だけれども。
私の結婚とどっちが大切かと言われると。
ううん、ギリギリ結婚の方が大切かもしれない。
だって、式典がどうなったって私たちの村には影響なんてなさそうだし。
「ティアちゃんがついてきてくれるなら私も式典準備に行くんだけどなぁ~」
ちらっちらっ。とこちらを見てくる勇者様。
ちょっと? まるで私が悪いみたいなムーブやめてもらっていいですか?
「一人で行ってきてくださいよ。私関係ないじゃないですか」
「ええぇ~。結婚して」
「どさくさに紛れても駄目です」
もはや告白を作業か何かだと思ってないかなこの人は。
そんな流れ作業で告白されても受け取りません。決して。
じゃあ場を整えてくれれば受けるかと言われればノーなのですが。
「はぁ。国王陛下になんてご報告すればよいか……」
兵士さんも気の毒に。
勇者様がこんなに気まぐれなばっかりに胃痛持ちに……。
「まあまあ、僕がいないなんていつも通りじゃない」
「いつも通り困っているんですよ」
「それはー、まあ? ごめんなさい?」
あっ、悪いことしてるって自覚はあるんですね。
兵士の方が深い深いため息を一つ。
他の兵士の方々もあきらめムードですよ。
どうするんですかこの空気感。
誰か助けてー!
「ふうん、面白そうなことになってるじゃあないか」
「っ!?」
唐突にこの場に響いたのは、妖艶な雰囲気を漂わせる女性の声。
背後から聞こえてきたその声に振り変えってみれば、キセルをふかし、紫のローブに身を包んだ大人の女性がそこにはいた。
ほ、豊満だ。思わず一瞬目がいってしまったのは許してほしい。
私は十三歳、ないとは言わないけれど、まだまだお子様ボディなのだ。
「ソロル!」
「久しぶりだね、勇者。元気してたかい?」
「僕はいつでも元気だよ!」
ソロル、ソロル……。
聞いたことがあるような気が……。
このお姉さんは誰なんだろうという私の疑問は、兵士さん達によってすぐに解消されることとなった。
「こ、これは賢者様っ!?」
「賢者様っ!?」
さっきも話に出てた、あのっ!?
賢者様はキセルを一度ふかすと、じろりと私の顔に顔を近づけて、じっくりと嘗め回すように観察してくる。
な、なんでしょうか。失礼な顔立ちでもしてたでしょうか。
カエルに変えたりしないでください!
「ふぅん。面白いね」
私の杞憂はちゃんと杞憂に終わり、賢者様はそれだけ言うと私から顔を離した。
ゆ、勇者様? 顔が怖いですよ?
「初めまして。賢者の称号を持っている、ソロルだ」
「は、初めまして。村娘のティアです」
自己紹介をされたので、自己紹介で返す。
なんで私はただの村娘なのにこんな偉い人達に囲まれているんだろう。
お父さん助け……あっ! 畑に逃げてった!
「それで? これはどういう面白そうな状況だい?」
気が付かなかっただけでずっといたのかと思えば、そうではないみたい。
賢者様だし転移とかしてきたのかな……?
「のらりくらりと塔の小うるさい爺共から逃げ回ってみれば、勇者にばったり出くわすなんてね」
……賢者様?
「むう、それはいつでも僕が変なことに巻き込まれてるとでも?」
「それはそうだろう? 勇者はいつだって問題の渦中にいるじゃあないか」
「反論がしづらい!」
賢者様は勇者様ととても仲が良さそうだ。
やっぱり十年も一緒に旅をした仲だもんね。気心が知れてるってわけだ。
「それなのですが、どうか賢者様からもお口添えいただけないでしょうか」
おっ。兵士さん方が賢者様に助けを求めた。
これは勇者様も折れてくれるかもしれない。
「なにをだい?」
「実はですね……」
兵士さん方は、賢者様に事のいきさつを説明する。
平和式典の件。
勇者様が一向に王都へ戻ろうとしない件。
なぜか私が巻き込まれている件。
賢者様が現れる前にやっていたやり取りを一通り説明した。
「ふうん。勇者の好きにさせればいいじゃないか」
結論がこれである。
「ですがっ!」
「いいかい。勇者ってのは女神の加護を受けし選ばれた人なんだよ」
それはこの国の人間ならば誰でも知っている事実だ。
女神さまに選ばれた、素晴らしい人。
なぜか同性に結婚を申し込んでくる変人ではあるけれど。
「その行動は基本的に正しい。悪いようにはならないさ」
なにせ、女神さまのお墨付きだからね。
と、賢者様は再びキセルをふかした。
こう言われてしまえば、兵士の方々も強く出ることはできない様子。
引き下がるムードに入っていた。
「……分かりました。では、我々は一度王都へ戻されてもらいます」
「式典の件なら心配しないでいいよ。私が責任を持とうじゃないか」
「ありがとうございます」
「なあに、十年も面倒見たんだ。半年程度、似たようなものだよ」
ん? なんかおかしな方向に話が転がって行っているような気がするのは気のせいだろうか。
まるで賢者様までこの村に滞在するかのような……。
「見たところ、この村も中々悪いところじゃなさそうじゃあないか」
ようなじゃない! 泊まる気満々だ!
うちの村がなにをしたっていうんですか!
「ソロルも一緒に畑仕事する?」
「ははっ! 勇者と一緒なら退屈はしなさそうだ」
あっ、駄目だこれ。確定事項だ。
うぅ。お腹痛くなってきた。
賢者様ってあんまりいい噂聞かないんだよね。
気に食わない貴族の屋敷をそのまま吹き飛ばしただとか。
ちょっとセクハラしてきた男をカエルに変えてしまっただとか。
怖い噂をいっぱい聞く。
「ティアは歓迎してくれないのかい?」
まるで私の頭の中を覗いているかのようなタイミングで話しかけられた。
ひぃ! 私は取るに足らない村娘です、カエルにしないで!
「か、歓迎いたしますよ。賢者様」
「ちょっと。ティアちゃんを怖がらせないで」
「ははっ! いいじゃないか。可愛いもんだよ」
勇者様が庇ってくれて、賢者様は快活に笑う。
「それと、私の事はソロルでいい。賢者様、なんて他人行儀な呼び方好きじゃあないのさ」
「そ、ソロルさん」
「いいね。その調子で頼むよ」
とにかく気を損ねないようにしないとと怯えてる私を見かねてか。
――勇者様が腰の剣を引き抜いた。
「ソロル、幾ら君でもティアちゃんを怖がらせるなら許せないよ」
勇者様の剣幕は本物だった。
普段は見ない勇ましい姿にちょっとだけどきりとしてしまう。
「おお、怖い怖い。そんなことしなくても何もしないさ。けれど――」
対して、賢者様——ソロルさんは飄々とした雰囲気を崩さない。
そして、私の方へもう一度顔を寄せてきて。
じっくりと、視線と視線が交差する。間近で。
「やっぱり、面白いことになってるねぇ」
「な、なんですか?」
こんな美人に近距離で見つめられてしまうと、少しばかりどぎまぎしてしまう。
かといって視線を逸らすことも許されない圧がある。
勇者様からの圧も感じる。別の意味で。
「ふうん? ティア」
「なんで、しょうか」
「私の女にならないかい?」
「は?」
殺気の籠った、勇者様の声が響いた。