この世には人や亜人以外にも、魔物や神と呼ばれる存在がいる。
魔物は魔人と呼ばれる亜人と共通の祖先を持つが、かなり古い頃から分化し、人と共に暮らす魔人と比べて明確に人に対して敵意を持って襲いかかる獣のことを指す。
また神とは、信仰心を集めた存在のことや、人や亜人、魔物といった存在が、圧倒的なまでの力を有しその枠組みから超越した者のことを指すほか、『外』と呼ばれる異空間から襲来した未知の力を持つものも該当する。
──―目が覚めた。
まだ朝日も出ていないため、辺りは暗闇そのものである。
ベッドから降りると床が甲高い音を出して軋んだ。
壁をつたいながら、もう一方の手で扉を探りドアノブに手を掛け部屋を出る。
部屋と違い、月明かりがほぼ全く入ってこないため、部屋よりも暗く、自分のペタペタという足音がなんとも背筋をゾクリとさせる。
部屋を出て7歩ほど歩き、慎重な足つきに変えて手すりを探す。
少し腕を脱力させ垂らしていると、手に何か硬いものが当たる感触がした。
それを掴み、辿りながら歩いていく。
いくら暗闇と言ってもしばらくいたら少しは慣れてくるもので、少し見えるようになると段差に直面した。
段差の数は全部で13段。
俺は「1,2,3,……」と数えながら下っていき、最後の段まで終わるとある場所へ向かった。
そして、俺は厨房に着いた。
厨房は換気や光を取り入れるため小型の窓が3つほど付いており、今の時間帯でも月明かりが入ってきているおかげで、廊下に比べて非常に見やすい。
何故厨房に来たかと言うと、俺は人よりも鍛錬の時間を人よりも長く取らないといけないため、朝の日の出前には朝食を取っておかないと鍛錬に間に合わない。
あとは、お節介かもしれないが弟と妹が通っている王都魔法学園と呼ばれる場所に弁当を届けるためというのもある。
俺は王都の騎士団 副団長という立場であるため、よく学園に顔を出す機会もある。
だから、弟と妹に会うための口実である他、一緒にご飯を食べたいなと思って作っている。
それに今成長期だろうし、厨房とかのごはんの量とかだけじゃない全くとは言わないが足りなくなることも多いだろうし……という気持ちで用意している。
さて、では料理を始めよう。
俺は魔法が使えない。
だから、師匠がこの家と一緒に俺に大量の魔道具*1をくれた。
俺は師匠からもらった魔道具のうちの一つである火の魔道具を使用した。
火の魔道具の使い方は、出っ張りを最後まで捻り、火が点き始めたら火力を弱めながら調節する代物だ。
魔道具が火を点けると周囲は月明かりに照らされてたよりもずっと明るく活動がさらにしやすくなった。
俺は食料を保存している魔道具から、先日肉屋で解体された魔物の肉とコカトリスの卵を取り出した。
(これは朝食用。弁当用は……)
ファムザ*2、ロセット*3、後は魔物の肉に師匠から教わった『玉子焼き』という料理も作るか。
「他には東の方の国の輸入品というこの『コメ』と言うのも使ってみるか」
商人から聞いた話では、3~4度研ぎ、研いだ分と少し多めの水で蒸せばいいんだったか?
片腕というのもあって扱いの難しい食材だ。蒸すのにも時間がかかるし、先にやってしまうか。
結局『コメ』と言う食材の調理には失敗した。
何度か試したが、なかなか蒸されないことと、言われた通り3〜4回研いでみたが、あまり美味しくなかったこともある。
「あと商人の言葉を思い出して水を捨てたが、ほとんど全部捨ててしまったし、ザルを使えば良かったな。今度商人に1回手本を見せてもらうか」
肉や野菜の調理は毎日やっているということもあって、大変であることにかわりはないがすっかり慣れている。
魔物肉の筋を断ち、フライパンに油を引き、臭み消しも入れ火を入れる。
魔物の肉はクセがあり、食べるにも慣れが必要であったり、正しい調理にはかなりレベルの高い技術が求められることもあって魔物食は珍味であったりするが、あまり好まれて食べられることはない。
だが、クセをなくす方法自体は至って簡単だ。
それはツボを押すだけ。
魔物肉のクセは魔力を流れる回路が可食部にも不可食部にもびっしりと張り巡らされていることが原因だ。
だから、そのクセを無くすために正しい順序で正しい場所を正しいやり方でほぐしてやる必要がある。
技術的にも知識的にも理解していないと難しい。だからこそ、理解している者にとっては簡単になる。
だから、焼く直前に済ませてある。
片面を4分ほど弱火から中火の間でじっくりと焼き、塩コショウを掛ける。
ひっくり返したタイミングで卵を落とし、これまた、塩コショウだけ振って蓋をする。
この時に、弁当の準備をする。
弁当箱は知り合いの職人が一から作ってくれた作ってくれたが、精密さや、作るときにすぐ壊れたらしく、ストレスが溜まったようで、一つ作ってもらった時点でかなり高い金額を要求された。
金額的に買えても3つまでだったこともあり、弟たちに渡す分でもう一つ作ってもらった。
ちなみにこの弁当には、職人に頼んで、中の料理の保存状態が変わらないように刻印を掘ってもらった。その分さらに高くついてしまったが……
弁当には、区切りとなる野菜を仕込み、切って茹で、塩で味付けしたファムザや、ロセットを入れる。
朝食の分の肉が焼き上がれば、皿に移し替え、そのフライパンを使い、新しい魔物肉を同じ要領で作り、弁当の空きへ形を崩さぬように入れる。
後は、口も使いながら弁当を布で包み、大きめの袋に入れ、用意を完了する。
ちょうどその頃、外から明るい光が入り、厨房が照らされる。
「もう日の出かよ……コメに時間かけすぎて朝の鍛錬の時間削りすぎちまった」
なるべく早く朝食を食べ、水で流し込み、剣を腰のベルトの間に挟み、弁当の入った袋を持って、まずは学園に向かう。
学園には寮があり、実家に近い人もその寮に住むよう学園から指示が出されている。
そのため、朝に学園に弁当を持っていく時、先生方にも他の生徒さんたちも見当たらなかったが、校門の入り口で門番さんがいた。
「あぁ! ベルさんじゃないっすか! ご無沙汰してます」
「ご無沙汰ってほどでもないですけどね。すみませんが、休み時間にこれを弟たちに渡してもらってもいいですか?」
そうして門番さんに弁当の入った袋を渡した。
門番さんは嫌な反応を見せず、
「わかりました! デイビットくんとミレスちゃんですね。お渡ししておきます」
「ありがとうございます。そうだ、いつもお弁当渡して申し訳ないですし、今度お食事でも生きませんか? 俺が出しますよ」
「いいんですか!? いや〜実は今月ピンチだったので助かりました。あの学園長、この前学生たちと戯れてたのバレて月給されてしまいまして……ホント、ケチっすよねー」
この学園の学園長はかなりお金にがめつく、この学園に弟たちが入学できた時、騎士だからという理由でかなり持っていかれた。
だから、その点に関しては物凄く同意である。
そうですねー。
と、俺が言おうとした瞬間、とんでもない寒気に襲われ門番さんとともにゆっくりと頭上を見上げると、グラマラスな女性が笑っていない笑顔で見ていた。
「へぇー、誰がケチなのか……ぜひ教えてもらいたいですわ」
「ヒェ……いや〜、あの〜、そのー、」
「俺は関係ないので失礼します」
そして、俺は全力で踏み込んで逃げた。
「あっ! ちょっ! ベルさぁぁぁぁぁん!!!」
「クリス……じっくりと話し合いましょうか……」
「イヤァァァァァァァ!!!」
さらば門番さん……いや、クリス。
「あなたも失礼なこと考えていましたわね。ベルギットさん」
唐突にかけられた声と肩に置かれた手に俺の足の動きは止まり、プルプルとしながらゆっくりと後ろを振り返ると、そこには、般若すら凌駕しかねないほどのオーラを纏ったにっこりと笑顔で俺を見てくるレスト学園長がいた。
「キャァァァァァァァ!!!」
そして、俺の出勤は3時間ほど遅れた。
主人公ことベルギットくんは、副団長に至るまでのそれはそれは他人が引くほどのエグい努力をしてます。
でも、そんな努力が才能で否定させられるだけでなく、頑張って積み上げてきたものがスッと取られて、自分は愛され玩具にされる尊厳破壊って好きじゃないですか?
ちなみに私はあったら読んでみたいです。