原作。それは、俺が介入しなかった世界線。つまり俺が介入すれば、この世界線がバタフライエフェクトによって大きく変わる可能性がある。
それでも、根津校長の『ハイスペック』を利用しない手は考えられなかった。
「……にわかには信じがたいね。君が、この現状維持の社会の末路を知っていること。オールマイトに訪れる引退。エンデヴァーのスキャンダル。巨悪が齎す、日本全体への影響」
「信じられないかもしれません。でも信じてほしい。お願いです根津校長」
「だが、ここまでの情報が、すべて君の妄想だとも思わない」
「!」
根津校長が、この対話で初めて俺から視線を外した。
「恐らくまだ話していない情報があるんだろうね。これだけじゃ説明がつかないことが沢山ある」
「それは……その」
「君にはまだ、僕らの知らない恐れていることがあるのかもしれない。だからと言って、この国の未来を憂う君が、すべてを知っている君がそれを話さない理由にはならないよ」
「……わかりました。時系列を追って話します」
そうして、俺は話した。『僕のヒーローアカデミア』のことは伏せて、オールマイトと緑谷出久……『OFA』と『AFO』の因縁と、それに連なる悲劇の全てを。
校長は、荒唐無稽にも思える俺の話を、一言一句漏らさずに聞いてくれた。ノートにメモまでして。
「……なるほど。確かにオールマイトの経歴も、エンデヴァーの経歴も一致する。君の言う未来とやらも、変えられる可能性は上がるだろう」
「……」
「それでも、君はこの大筋を変えたくないんだね?」
「はい」
俺は選びかねている。
原作開始から6年前……俺や緑谷、ポニーが小学4年生の時点で『AFO』の命を絶って、死柄木弔の成長を止め、巨悪の危機を消し去る。そして、主人公たちの成長を蔑ろにするか。
一度日本社会を崩壊させて、緑谷出久という無個性の少年と、それに近しい少年少女の成長のために、多くの命を捨てるのか。
「……君にとって、その子供達は大切な存在なんだろうね」
「……はい」
「でも、今はただの一般市民だ。オールマイトだけでなくエンデヴァーを使い、その『オールフォーワン』とやらを排除したほうが、余程合理的だ」
「……仰ることは、ごもっともです」
「でも、確かに今のヒーロー飽和社会が危ういのも事実だ。オールマイトの引退や、日本の崩壊のような大きな出来事がないと、民衆の意識を根本から変えられはしないだろうね」
……根津校長も、揺れている。俺の話を聞いて、考え、少なからず動揺している。
たった1人の子供の、戯言かもしれない話のために。
「君が介入をすれば……被害は軽くなるのかい?」
「……軽くしますよ」
「ふふ、君はまだ子供だ。そこまで気負わなくていい」
「?」
「……君は何もしなくていいのさ。轟燈矢くんも、オールマイトも、未来で待つ無個性の少年も、オールフォーワンも。私が引き受ける」
「校長、貴方何を言って──」
「私にとっては、君も守るべき国民の1人なんだよ。気体操くん」
「……っ」
ああ、この人は……俺の言葉ひとつで。子供の言葉を真摯に受け止めて、その対策を講じてくれる。
「……君が危険を自ら負う必要は、ないんだよ」
優しいんだ。そうじゃなきゃ、雄英の校長なんてできない。秩序側に立てない。雄英高校というあまりに大きな力の責任者として、その全てを背負えない。
「……それでも君が動きたいと言うのなら……ひとつ勝負をしよう」
「?」
「将棋はわかるかい?」
「……はい」
「私と将棋で戦おう」
「……は?」