私は通常の将棋やチェスのようなロジック系な遊びは面倒なので、将棋崩しをよく祖父と遊んでいました。思えばあの時はわざと勝たせてくれたのかもしれない。
「ああ、将棋と言っても、普通のじゃないよ」
そう言った根津校長は、将棋盤の中央に駒が入った袋を、振ってからどさっと開け放った。
「将棋をやったことがあるのなら、おじいちゃんの家とかでやらなかったかい?将棋崩し」
「あります、けど」
「それだよ。ルールはわかる?」
「音を立てないように、山になった将棋の駒を盤外に運び出すゲーム……ですよね」
大きな音が鳴ったり、他の駒の位置が大きくずれたら交代する。そうして点数を競う。
「今回は……そうだね、王と玉は50点、飛車と角が30点、金銀が20点、桂馬と香車は10点、歩兵が1点にしようか」
「わかりました」
「では、始めよう。君からでいいよ」
「失礼します」
駒を盤の外に出す時は、滑らせる。使える指は一本のみで、大きな音が鳴れば失敗。運び出す途中にミスをすれば、その駒は相手に持っていかれる。
「まずは
「いいね。音を出さずに運び出せたら、もう一回いいよ」
「……俺が全ての駒を運ぶ可能性を考えなくてもいいんですか?」
「そんなことは起こり得ないよ。さあ、どうぞ」
……なんか煽られた気分。さっさと
「あっ」
「これで
「……マジか」
あっという間に
「ゆっくりで大丈夫だよ。いくらでも待とう」
「……舐めたマネしてくれるじゃないですか」
「まだ君は子供だからね。……お、2枚目の
……集中が削られる。崩しでこれなんだから、通常の将棋なんて気が遠く感じてくる。
(……集中)
・
・
・
「……
「
……ああ。
(もう、どうやっても勝てねえや)
金銀、王将を取られたのがデカすぎた。根津校長の手が小さいから、文字通り小手先なんだよ。
「さあ、これで残ったのは
全部取ったとしても勝てないんだよ……!
「……ありがとうございました」
「うん、お疲れ様なのさ。……将棋を一局やろうとすると、見学の時間が終わってしまうからね。崩しにしたのは、早く終わらせることが重要だったからなのさ」
「……俺の負けです」
『ハイスペック』以前の問題だった。そもそも雄英高校の校長で、予想外に慣れてる。俺は転生を経験してはいるが、それだけの一般人……最初から勝てるわけがなかった。けれど、これでもう……。
「貴方の協力は、得られそうにないです」
「何を言っているんだい、気体くん」
根津校長は、何を言っているのかわからないといった様相で首を傾げた。
「協力しないとは言ってないよ。私は君に無理をさせたくないだけ」
「……は?」
「最初に言ったろう?「私は君に無理をさせたくない。それでも動きたいのなら、ゲームをしよう」と」
「そりゃあ、言いましたけど……貴方が俺に協力するかどうかの勝負じゃなかったんですか!?」
「この国を憂うのは私も同じ。協力を前提に、どんな動きをするかを決めていたのさ」
……屁理屈ではあるが、話を聞いてなかった俺が悪いか……。
「私はこの国の未来のために。君は君の手の届く範囲で、国の未来に繋がるものに。それぞれ手を伸ばす」
「……ぁ」
「轟燈矢くんを助けたいんだろう?瀬古杜岳で大規模な森林火災が起きた事故はまだない。だが、その通報が入ったらすぐにでも君を呼ぼう。エンデヴァーにも働きかけるけど……君の話を鑑みるに、来なさそうだ」
「……ありがとうございます」
結局、この人に勝てそうにはないな。
「操、ちゃんと待ってた?」
「お父さん」
「大気さん、彼は私と将棋崩しで遊んだのさ。かなりの強敵だったよ」
「根津校長からそのような言葉を頂けて、光栄です!よかったな、操!根津校長のお墨付きだ!」
「ああ……うん」
……咄嗟に話を合わせてくれたのか。
「前もって渡しておこう、これが私の連絡先なのさ。瀬古杜岳付近でも、何かしら異変があったらすぐに君に連絡をする。いいかい?」
「はい」
小声でそう言われて受け取った付箋を、適当にポッケに入れる。
「ありがとうございました!」
「うん、君がヒーロー科に入学する未来を、楽しみに待っているよ」
・
・
・
「……ふぅ」
家に帰ってきてまず最初にやったのは、根津校長とのパイプの再認識だ。
(俺の校長の行動理念は、同じ『国の未来』を憂いてのこと。でも、根津校長はその立場を使って公安や政府、雄英の教師陣にまで働きかけてくれる。だから俺は──)
原作キャラに、干渉する。
(正直、怖い)
緑谷出久。爆豪勝己。轟焦凍。……彼らの成長が、なくなってしまうかもしれない。
「いや、やらなきゃいけない」
みんな救う。救けてみせる。
「……訓練の時間、少し増やすか」
根津校長との対話で少し頭から抜けかけていたが、今日は日曜日。親の携帯を通じて根津校長から連絡が来たのは、この直後のことだった。