最高のヒーローになるんだこいつ!   作:揚げパンcat

7 / 10
今の時代、将棋を理解して遊ぶ人は学生にいるのだろうか。
私は通常の将棋やチェスのようなロジック系な遊びは面倒なので、将棋崩しをよく祖父と遊んでいました。思えばあの時はわざと勝たせてくれたのかもしれない。


根津校長との勝負

「ああ、将棋と言っても、普通のじゃないよ」

 

 そう言った根津校長は、将棋盤の中央に駒が入った袋を、振ってからどさっと開け放った。

 

「将棋をやったことがあるのなら、おじいちゃんの家とかでやらなかったかい?将棋崩し」

「あります、けど」

「それだよ。ルールはわかる?」

「音を立てないように、山になった将棋の駒を盤外に運び出すゲーム……ですよね」

 

 大きな音が鳴ったり、他の駒の位置が大きくずれたら交代する。そうして点数を競う。

 

「今回は……そうだね、王と玉は50点、飛車と角が30点、金銀が20点、桂馬と香車は10点、歩兵が1点にしようか」

「わかりました」

「では、始めよう。君からでいいよ」

「失礼します」

 

 駒を盤の外に出す時は、滑らせる。使える指は一本のみで、大きな音が鳴れば失敗。運び出す途中にミスをすれば、その駒は相手に持っていかれる。

 

「まずは金将(20点)」

「いいね。音を出さずに運び出せたら、もう一回いいよ」

「……俺が全ての駒を運ぶ可能性を考えなくてもいいんですか?」

「そんなことは起こり得ないよ。さあ、どうぞ」

 

 ……なんか煽られた気分。さっさと香車(10点)取るか。

 

「あっ」

「これで香車(10点)は私のものだね。では」

「……マジか」

 

 あっという間に銀賞(20点)1枚と歩兵(1点)2枚を取られた。校長が失敗した飛車(30点)でなんとかって感じだけど……。

 

「ゆっくりで大丈夫だよ。いくらでも待とう」

「……舐めたマネしてくれるじゃないですか」

「まだ君は子供だからね。……お、2枚目の金将(20点)じゃないか。君は運がいいね」

 

 ……集中が削られる。崩しでこれなんだから、通常の将棋なんて気が遠く感じてくる。

 

(……集中)

 

 

・

・

・

 

 

「……玉将(50点)」

「桂馬(10点)」

 

 ……ああ。

 

(もう、どうやっても勝てねえや)

 

 金銀、王将を取られたのがデカすぎた。根津校長の手が小さいから、文字通り小手先なんだよ。

 

「さあ、これで残ったのは歩兵(1点)だけ。全て寝ているから、もう君が全て取っていいよ」

 

 全部取ったとしても勝てないんだよ……!

 

「……ありがとうございました」

「うん、お疲れ様なのさ。……将棋を一局やろうとすると、見学の時間が終わってしまうからね。崩しにしたのは、早く終わらせることが重要だったからなのさ」

「……俺の負けです」

 

 『ハイスペック』以前の問題だった。そもそも雄英高校の校長で、予想外に慣れてる。俺は転生を経験してはいるが、それだけの一般人……最初から勝てるわけがなかった。けれど、これでもう……。

 

「貴方の協力は、得られそうにないです」

「何を言っているんだい、気体くん」

 

 根津校長は、何を言っているのかわからないといった様相で首を傾げた。

 

「協力しないとは言ってないよ。私は君に無理をさせたくないだけ」

「……は?」

「最初に言ったろう?「私は君に無理をさせたくない。それでも動きたいのなら、ゲームをしよう」と」

「そりゃあ、言いましたけど……貴方が俺に協力するかどうかの勝負じゃなかったんですか!?」

「この国を憂うのは私も同じ。協力を前提に、どんな動きをするかを決めていたのさ」

 

 ……屁理屈ではあるが、話を聞いてなかった俺が悪いか……。

 

「私はこの国の未来のために。君は君の手の届く範囲で、国の未来に繋がるものに。それぞれ手を伸ばす」

「……ぁ」

「轟燈矢くんを助けたいんだろう?瀬古杜岳で大規模な森林火災が起きた事故はまだない。だが、その通報が入ったらすぐにでも君を呼ぼう。エンデヴァーにも働きかけるけど……君の話を鑑みるに、来なさそうだ」

「……ありがとうございます」

 

 結局、この人に勝てそうにはないな。

 

「操、ちゃんと待ってた?」

「お父さん」

「大気さん、彼は私と将棋崩しで遊んだのさ。かなりの強敵だったよ」

「根津校長からそのような言葉を頂けて、光栄です!よかったな、操!根津校長のお墨付きだ!」

「ああ……うん」

 

 ……咄嗟に話を合わせてくれたのか。

 

「前もって渡しておこう、これが私の連絡先なのさ。瀬古杜岳付近でも、何かしら異変があったらすぐに君に連絡をする。いいかい?」

「はい」

 

 小声でそう言われて受け取った付箋を、適当にポッケに入れる。

 

「ありがとうございました!」

「うん、君がヒーロー科に入学する未来を、楽しみに待っているよ」

 

 

・

・

・

 

 

「……ふぅ」

 

 家に帰ってきてまず最初にやったのは、根津校長とのパイプの再認識だ。

 

(俺の校長の行動理念は、同じ『国の未来』を憂いてのこと。でも、根津校長はその立場を使って公安や政府、雄英の教師陣にまで働きかけてくれる。だから俺は──)

 

 原作キャラに、干渉する。

 

(正直、怖い)

 

 緑谷出久。爆豪勝己。轟焦凍。……彼らの成長が、なくなってしまうかもしれない。

 

「いや、やらなきゃいけない」

 

 みんな救う。救けてみせる。

 

「……訓練の時間、少し増やすか」

 

 根津校長との対話で少し頭から抜けかけていたが、今日は日曜日。親の携帯を通じて根津校長から連絡が来たのは、この直後のことだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。