(ああ、移動の訓練を怠ってなくてよかった……!!)
「つか
現在、神奈川県上空。雲が流れるような高度で俺は飛行していた。俺が家に着いてノートにメモをしていた時に根津校長から来た連絡は、それはもう素早かった。
『小型ロボから、「瀬古杜岳の方から焼けたプラスチックのような香りがする」と通信が来た。君の個性で浮遊が可能なこと、ガス形態では呼吸の必要がないことはわかっているから、神奈川県上空に輸送機を用意しておく。すぐに来てくれ』
『──うん、わかった!』
両親には、散歩と適当に誤魔化した。そのまま部屋の窓から飛び立って、上空へ。ちょうど夜で、住宅街に人がいなかったのはありがたかった。
(これか、輸送機!)
本当に小型の機械だったが、どうやらガス検知器を組み込んであったらしい。俺のガス形態に対応してきたか。
「ヘイタクシー、瀬古杜岳まで一直線で!」
『アイヨ!』
超加速による空気抵抗は意味がない。俺自身が空気だから。
(燈矢は必ず救ける。AFOの手を出させはしない)
更に、加速していく。
・
・
・
(なんだこれ、とんでもなく熱い……!!)
瀬古杜岳直上、雲の中でさえ熱が来ていた。気体になったとしても、熱そのものを逃がせるわけじゃない。燈矢やエンデヴァーの炎も、轟焦凍の氷も効く。当たりはしないが。
「1人の人間が出せていい火力かよ……」
輸送機には少し離れた場所で待機してもらおう。熱で故障しそうだし。
そうして、飛び降りる。
「──
『
この技は、俺の完全オリジナル。個性が成長したのか知らないが、自分の体を様々な気体に変えられるようになった。
大気、それは父の個性。父と同じように、体が透明になっていく。いや、
「あっっづ……!」
瀬古杜岳は、とんでもなく熱かった。これ全部燈矢の炎か!!
「待ってろ、今助けるからな!」
念のため、俺の体の二酸化炭素を多めにしておく。
「……見つ、けた」
そう漏れ出た声は、自分でも驚くほどに淡白で。
原作キャラに出会えたというのに感慨深いということもなく、ただただ現実だけがそこにあった。
(……達成感も、喜びも、何もない)
そこにあったのは、体の一部──おそらく燈矢の皮膚──だったもの。既に炭化してしまっている。掴むとぱらぱらと砕けて、火の粉当たって火種になっていく。
(人が死にそうになっているというのに──)
体が、動かない。
まだ、これはフィクションだという感覚が大きすぎる。俺にとっての現実世界と、燈矢にとっての現実世界は違う。数学的にねじれていて、交わることも向かい合うこともない世界。
「……っ!!」
動け。
「動、けぇぇえええええ!!!」
全力を懸けて、それでどうにか動いた俺の手は、どうしても俺をヒーローにしたいらしい。
そのまま、燈矢の左腕をぎゅっと掴む。
(気体の身体なのに、灼けるみたいだ……!!)
「な゛ん゛、だ、ごれ゛ぇええ゛え゛え゛」
燈矢の腕を掴んだら、反応した……?
「──まさか」
まだ、意識があるのか……!?
(
ガスの身体で、精一杯広げて、
目いっぱいぎゅっと、抱きしめた。
「聴こえるか、燈矢!!!!」
「……ぁ……ゔん゛っ!!」
っ、通じた!!
「ごめんな、ごめん!!瀬古杜岳、遅れて……!!お前のこと、ちゃんと見れてなかった!!」
この言葉が、燈矢にはどう聞こえているだろうか。言葉だけ聞けば、エンデヴァーのようにも感じる。
「息、吸えるか!?」
「……っ、は゛、ぁ……!!!」
よし、吸えた!
まだ少し酸素が残ってる……!
「ガスローブ*1」
シーザー、お前の技も使わせてもらうぞ。
(上に……飛ぶ……!!)
FLOAT!!
冷却、しなきゃ……!!上に……上に!!
(……燈矢の意識は、もう無いだろう)
周りに見えるひつじ雲は、今いる上空の気温がマイナス30℃前後だということを意味している。
「さっっっみィ……!!」
シュアアアアアアアア、と冷やされていく燈矢の身体はすっかり焼け焦げていて、弱々しくも鼓動が聴こえることすら信じられなかった。
「……まだ、生きてる」
地上を見下ろすと、赫く燃える瀬古杜岳が見えた。
「これ全部、燈矢1人の火力か」
とりあえず、高度を下げよう。燈矢の身体が冷えたら、今度は低体温症で死んでしまう。
「見つけた、救急車」
「うわ!なんだ君!?」
「おい子供抱えてるぞ!瀬古杜岳から助け出したのか!?」
「──っ、お願い、します!!」
救急車に乗っていた人の覚悟を決めた表情を見た俺は、つい安堵してしまって。
(あ……やば、眠りそう)
かくんと、意識を落とした。
これにて、轟燈矢の救出完了です。救命は外科医に任せましょう。