ヒヒイロカネの落とし子~転生者は異能学園で何を成す?~ 作:ヒカル・ムラクモ
◇◆◇◆
ピピピっという音が広い部屋の中で鳴り響く。俺、
俺は身体を伸ばし、軽く身をよじる。「ふわぁ」と軽くあくびをし、目をこすりながらスマホに表示された日付を確認する。
「遂に入学か~緊張するな」
そう言いながら俺はデスクにある
異能養成学院は5年間の全寮制の学校だ。この日本では中学3年生までは前世同様の義務教育だが、中学2年生の11月に高校入試を行うか、異能養成学院の入試を行うのかを選ばされる。
異能養成学院は読んで字のごとくで対アヤカシ・モンスターや対異能犯罪者の異能力者を育成するための学校だ。全国に国公立・私立合わせて25校存在する。
その中でも国立星陵は全国トップクラスの異能養成学院で国内外から多くの優秀な生徒を受け入れている。
「今日からあそこでの生活が始まるのか」
期待と少しの不安が混ざり合った溜息を吐き出すと、俺はカーテンを開け、寝間着のままリビングへ向かう。
リビングのソファーに寝転ぶ1人の人影があった。俺はその人影に声をかける。
「おはよー兄貴」
「おーおはよう仁」
人影の正体、それは今世の俺の兄である
「それにしてもしばらくここの景色も見納めだな~」
俺はそう言いながらリビングの巨大な窓から視界いっぱいに広がるのは、見下ろすほどの街並みと、遠く霞む水平線だ。下を通る車の列はミニカーのように小さく、地上を歩く人々の姿に至っては豆粒ほどにしか見えない。
「そうだな〜全寮制だから長期休みくらいしか戻ってこれねぇし。あぁそういや父さん母さんとは現地での落ち合うことになってんのは忘れてないよな?」
「もちろん!2カ月ぶりかぁ…」
「ふたりとも仕事でいろんなとこ飛び回ってるからな。入学式くらいは顔を出すって言ってたが、まあ相変わらずだ」
兄貴は苦笑しながらソファーから起き上がり、背伸びをした。
「さてと、仁そろそろ支度しろよ。荷物は昨日郵送で送ってあるし、手荷物だけで済むのは楽でいいよな」
「そうだな。俺、着替えてくる」
俺は洗面所で顔を洗い、自室で着替えるために歩き出す。兄貴は朝食を準備するためにキッチンへ向かう。といってもフルーツを切って、トーストを焼く程度のものだが。
うちは父が日本全国やアジア諸国を飛び回り、母もそれについて行ってるため1年のおよそ半分は家にいない。そのため朝食と朝イチの洗濯以外の家事はお手伝いさんに任せている。
自分の部屋に戻った俺は、ハンガーにかけられた新品の制服に袖を通す。鏡に映る自分の姿を確認し、ネクタイの曲がりを直すと、いよいよ新生活が始まるのだと実感が湧いてきた。
「よし、バッチリだな」
身なりを整えた俺がリビングへ戻ると、芳ばしいトーストの香りが漂っていた。テーブルの上には、手際よく用意された焼き立てのパンと色鮮やかなフルーツが並べられている。
「サンキュ、兄貴」
「おう。手早く食っちまおうぜ。これからの5年間、学校の食堂のメシも悪かねぇが、この家で食う朝飯もしばらくお預けだからな」
「確かに」
「「いただきます」」
向かい合わせで席につき、手早く朝食を済ませる。空になった食器をシンクへ運ぶと、ちょうどリビングのインターホンが鳴り、定刻通りにお手伝いさんの吉沢さんが到着した。軽く挨拶と留守中の挨拶を交わす。
「仁様、
「叔父さんが?過保護だなぁ、ま好意には甘えとくか。吉沢さん運転手は有り、無し?」
「有りですね。一ノ瀬さんがするそうです」
「一ノ瀬さん!?"牙"の人連れてくるなんて」
「まぁ仁、お前は『落とし子』だからな…叔父さんも少しピリピリしてるんだろう」
確かにそうだ。俺は『ヒヒイロカネの落とし子』という朱月家に100年に1度生まれるって言われる特別な存在だ。異能を2つ持つだけなら貴重だがいないこともないが、俺の場合2つ能力を持つだけでなく、紺色の髪色の父さんと兄貴、黒髪の母さんと違う髪色、先代の『落とし子』と同じ能力を持つとイレギュラーづくしだ。
先代の『落とし子』であるひいばあちゃんと世界各国の研究機関で検査を受けたことも一度や二度どころじゃない。
幸いにも今まで一度も誘拐の類のことはされたことが無いというのは人生最大の幸運と言えるだろう。
とそれはさておいてそろそろ出発しなければ。
「スマホ、財布、パンフレット、ハンカチ、ポケットティッシュ、空間魔術ブレスレット、うんこれでヨシ!じゃあ吉沢さん家のことよろしくお願いします!兄貴また明日星稜で!」
「はい、いってらっしゃいませ。仁様」
吉沢さんの温かい見送りを受けながら、俺は一足先に重厚な玄関ドアを開けた。内廊下を進み、エレベーターのボタンを押す。
すぐにやってきた籠に乗り込み、行き先階の「1」を押す。四十階から一気に地上へと降りていく高速エレベーター特有の浮遊感が足元を襲い、思わず小さく息を吐いた。高層階のこの静けさと見慣れた景色もしばらくはお預けだ。
ちなみにだがうちのマンションのうち40階は朱月家の者たちが居住し、38、39階は"牙"を始めとした朱月の使用人とその家族が居住している。
1階に着き、高級感あふれるエントランスを抜けて地下駐車場へと向かう。薄暗いフロアの一角には、一目でそれと分かる漆黒の高級セダンが静かに横付けされていた。
運転席から降りてきたのは、黒のスーツを隙なく着こなした男——叔父さんの秘書兼護衛であり、実力派の異能者として知られる
「仁様、おはようございます」
「一ノ瀬さん、おはようございます。朝早くからわざわざすみません、運転よろしくお願いしますね」
「いえいえ、朱月家の方々を支えるのが"牙"及び一ノ瀬家の使命なのですから」
一ノ瀬さんが恭しく開けてくれた後部座席へと乗り込む。重厚なドアが閉まり、静寂に包まれた車内でシートベルトを締めると、エンジンが滑らかに始動した。
スロープを上り、地下駐車場から地上へ躍り出ると、朝の澄んだ日差しがフロントガラス越しに降り注ぐ。サイドミラーに映る自宅のタワーマンションが次第に小さくなっていくのを横目で見つめながら、俺は気持ちをグッと引き締めた。
「『落とし子』か……」
自分の置かれた異例の立場と、これから待ち受ける未知の学園生活。期待と緊張を胸に宿しながら、俺を乗せた車は国立星陵異能養成学院を目指して走り出した。
◇◆◇◆
俺の乗った車は鎌倉市のとある駐車場に到着していた。
国立星陵異能養成学院は鎌倉市と大島の間あたりにある島に存在している。船で学院のある島へと向かうのだ
この島は前世の記憶が正しければ、前世には存在しないものだ。ちなみに島の名前は
「仁様、到着しました」
「お疲れ様です、一ノ瀬さん」
そう言いながら一ノ瀬さんは車のドアを開ける。俺は港に向かうために歩き出した。そして俺から見て左斜め後ろを一ノ瀬さんがついて歩く。
「一ノ瀬さん、もう着いたようなモンなんで大丈夫ですよ」
「いいえそうは行きません。始様からの指示はあなたが間島に到着するまで護衛することですから」
「はーい…」
「あっ…1つ言い忘れていました。仁様のご両親はすでに到着しているようです」
「早く言ってくださいよ!!」
俺の足の速さがどんどん上がっていく。自分でも思っていた以上にテンションが上がっていたらしい。どんどん魔力があふれて足に集まり、スピードが上昇していく。一ノ瀬さんも表情を一切変えずに移動速度を上げていく。それにより、車から降車して2分ほどで船着き場へと到着した。
「父さん、母さんどこだろ…」
「おーい仁!ここだここー!」
聞き慣れた声が俺の耳に届いた。スーツを着た中年の男女が近づいてきた
「父さん!母さん!2ヶ月ぶり!」
「おぉ!仁!その制服よく似合ってるぞ!」
「えぇ、一緒に仕立てに行ってよかったわ」
「
「久しぶりね颯也さん」「久しぶりですね一ノ瀬さん」
俺は父さん母さんと久しぶりの再会を喜び、一ノ瀬さんも2人とあいさつを交わしていた。
その後俺は両親と写真撮影をし、(一ノ瀬さんが撮影してくれた)父さんからどんなところに行ったのかという話を聞いていると
ボォ~
と汽笛の音が鳴った。
「さて、そろそろ乗船の時間だな」
父さんが時計に目をやりながらそう促すと、俺たちは大きな客船が横付けされている埠頭へと向かった。
国立星陵異能養成学院は、陸地から離れた隔離島に存在する。そこへ向かうための唯一の交通手段が、目の前に聳え立つ専用の巨大フェリーだ。船体には学院の紋章が誇らしげに刻まれており、デッキやタラップの周辺には、俺と同じ制服を着た新入生たちが続々と集まってきていた。
「仁、あなたは正しいと思ったことを成しなさい、きっとそれがあなたの力につながるはずよ」
「もし何か困ったことがあったら迷わず誰かに相談、連絡するんだぞ!学院には光也もいるしな!」
「仁様、いってらっしゃいませ」
母さんの優しい抱擁と、父さんの力強いポンという肩たたき、一ノ瀬さんの一礼を受け、船のタラップを登る。
そして船のデッキへと足を踏み入れる。やがて重厚な汽笛の音が港全体に響き渡り、巨大な船体が静かに岸壁を離れ始めた。
潮風が頬を撫でるのを感じながら、俺は手すりに手をかけ、小さくなっていく両親と一ノ瀬さんの姿、そしてその奥に広がる鎌倉の町並みを眺めた。
「待ってろよ、星陵――」
俺はまだ見ぬ未来へ思いを馳せた──
お母さんが朱月の人で、お父さんは婿に入った人です。