ヒヒイロカネの落とし子~転生者は異能学園で何を成す?~   作:ヒカル・ムラクモ

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第4話

本島先生の先導に付いていくとそこには一軒の豪邸がポツンとあった。俺含めた生徒全員が頭に疑問符を浮かべる。

 

「フフ…皆困惑しているようだね。まぁ見ていてくれ」

 

先生はそう言うとシャツの胸ポケットからカードのような物を取り出す。

 

「俺のこのカードは君たちの学生証とほぼ同じような物だ」

 

先生はそう言いながら屋敷のインターホンのカメラにカードをタッチして、ボタンを押すと、スピーカーから『教員認証シマシタ』という機械音声が鳴り、門が自動で開く。

 

「さっ、急いで!」

 

先生の誘導にしたがい、次々と1組の生徒が門をくぐる。俺も門をくぐると何か魔力の干渉を受けたような気配があった。

 

「なぁお前ら」

「えぇワタクシも感じましたわ」

「僕も気がついたよ」

 

2人も魔力の干渉を受けたことに気づいていたようだ。

全員が門をくぐり終えると、本島先生は満足そうに頷き、目の前に佇む立派な屋敷を親指で指し示した。

 

「よし、全員入ったな。……さて、君らの表情からして『これが寮……?』って思っているだろう」

 

まさに先生の言う通りだった。美乃梨も刀真も、そして周りの生徒たちも、全員で暮らすにはどこか小さく見える豪邸を見上げ、首を傾げている。

 

「外から見るとただの大きめな屋敷に見えるだろう? だが、内部は高度な【空間魔法】によって極限まで拡張・歪曲されているんだ。外見からは想像もつかないが、中にはなんと200個近い部屋が存在している。これによって全校生徒を余裕で収容できるわけだな」

「に、200……!?」

 

どこかの生徒が思わず驚きの声を漏らした。

外観はどう見てもせいぜい部屋が十数個程度あるくらいの豪邸だ。それが内部では何倍もの広さに伸張されているという。

 

「プライベートルームから訓練場、大浴場まで完璧に完備されてるぞ。それじゃ入ろうか」

 

促されて屋敷内に足を踏み入れると、そこは格式高いホテルや城館を思わせる絢爛な内装だった。

エントランスにはフカフカの赤い高級絨毯が敷き詰められ、壁や天井の継ぎ目からは仄かに青や白の魔導光が走っている。奥へ移動すると、ゆったりとした革張りのソファやガラスのテーブルが置かれたラウンジがあり、生徒たちの交流スペースになっているようだ。

 

「では、自分の部屋へ行くための手順を説明するよ。みんなついておいで」

 

先生が歩き始める。

 

「まずは2階に移動する」

 

エントランスの階段を上って2階へ向かう。そこは吹き抜けになっており、見上げるほど高い壁面に沿って、円形回廊に無数のドアが整然と並んでいた。その圧倒的な光景に、全員が思わず息を飲む。

 

「じゃあ、部屋へ行く方法を実演しよう。朱月くん、ちょっと来てくれるかい?」

「わかりました」

「ありがとう。では始めようか。まず、これを見てくれ」

 

先生と同じ場所に視線を向けると、高さ1メートルほどの金属柱が10本、円形に配置されていた。

 

「この柱の頂点に自分の学生証をタッチするんだ」

「はい」

 

指示通りに学生証をかざすと、足元に透明な箱——魔導エレベーターがスーッと出現した。

 

「後は中に入って『閉じろ』と言えば君の部屋の前に連れて行ってくれるよ。やってみて」

「了解です。よし…『閉じろ』!」

 

俺の一言で、俺と先生を乗せたエレベーターの扉が閉まり、ふわりと身体が浮き上がる。

瞬く間に上昇し、ひとつの扉の前で静かに停止した。ドアの右横にある表札には『01-01 朱月 仁』の名前が刻まれている。

 

「次は戻る方法を教えよう。といっても簡単なことだ、扉の左横に紋章があるだろう?そこに学生証をタッチするんだ。あとはさっきと同じことをすれば下に降りることができる」

 

指示通りに操作して俺と先生がエントランスへ降りると、俺は先生にひとつの質問を投げかけた。

 

「先生、質問です」

「何かな?」

「他の生徒の部屋に行きたい時はどうすればいいんですか? エレベーターで行きたい部屋番号を言えば運んでくれるんでしょうか?」

「ああ、基本的にはその通りだ。エレベーターに入って『行きたい相手の名前』か『部屋番号』を言えば、自動でその部屋の前まで運んでくれる」

 

先生は指を立てて付け加えた。

 

「ただし、プライバシー保護と防犯のために『訪問許可システム』が組まれていてね。相手が室内にいて端末の『許可』を押すか、あらかじめアプリで『相互訪問許可』の登録をしておかないと、エレベーターはその階層まで運んでくれない仕組みだ。あとは当然だが、本人が鍵を開けてくれないと部屋には入れないぞ」

「なるほど」

「ちなみに、部屋の主と一緒に乗り込むなら訪問許可システムを通す必要はないよ。……他には何か質問はあるかい?」

 

先生は周りを見回すが生徒達が静かなのを見て

 

「それじゃあ解散! 各自部屋で荷ほどきや教科書の確認を済ませたら、ルールの範囲内で自由に行動してよし!」

 

◇◆◇◆

 

解散の指示があった後、俺は美乃梨と刀真の2人に話しかけ、『相互訪問許可』とメッセージアプリの登録をした。

 

「2人は部屋で荷ほどき終わったらどうする?俺はお昼ご飯食べて、購買施設っていうのを見に行きたい。兄貴曰く『購買施設というかショッピングモール』だとさ」

「うーん気になるけど一旦家族に連絡するかな~」

「ワタクシは荷ほどきしたら鈴と凪が来るのを待つのでパスですわ」

「オッケー、もし機会が合ったら一緒にご飯食べようぜ。じゃあな!」

 

ふたりと別れ、各自の部屋へと向かう。

部屋の鍵を開け、靴を脱いで上がると、右手にはインターホンのモニター端末と『W.C』と刻まれたドア。左手にはホテルのようなリネン交換カードフック。廊下を少し進むと洗面所とバスルームがあった。

さらに廊下の突き当たりの扉を開けると——広々と洗練された空間が広がっていた。部屋の左手手前には、一人暮らしには十分すぎるほどのシステムキッチン。最新型の魔力コンロや小型冷蔵庫、スタイリッシュな吊り戸棚が備え付けられており、自炊も余裕でこなせそうだ。

奥に進むと、高級ホテルの一室のような落ち着いた空間になっている。正面の大きな掃き出し窓からは柔らかい光が差し込み、手前にはシングルベッド、勉強デスク、ワークチェア。デスクの上には学園からの資料や端末が整然とセットされていた。壁には大型テレビとエアコンも完備されている。

部屋の片隅には、朱月家から事前に送っておいた俺の私物が入った段ボールが積み上げられていた。

 

「これが1人1人に与えられているのか…贅沢だな」

 

ベッドに腰を下ろしてそう呟くと一人で使うには十分すぎる広さの部屋に俺の声が響く。

 

◇◆◇◆

 

ひとまず荷解きを済ませた俺は、制服から着慣れた私服へと着替え、学園の情報収集のために部屋から出る。魔導エレベーターに乗り、1階のエントランスから寮を出る。3分ほど歩いていると兄貴から聞かされていた大型購買施設「英星プラザ」が見えてきた。

 

「……購買ねぇ」

 

目の前の巨大な建造物を見上げて、思わず苦笑する。

『購買』という慎ましい言葉から想像されるものとは程遠い、巨大なショッピングモールそのものだった。

 

足を踏み入れると、吹き抜けの立体構造の中に食料品店、日用品店、最新の魔導具ショップから専門的な武具ショップまでがズラリと立ち並んでいる。

 

近くにあった案内図のタッチパネルによるとここ「英星プラザ」は4階建てで1階にはスーパーマーケットを中心とした食料品エリア、2階は日用品店、魔導具店など物品エリア、3階はおよそ3分の1がフードコートが占めており、4階は映画館まで入ってるそうだ。

その後、紙の案内図を片手にぶらつきながら文房具や日用品を購入した後フードコートで少し早めの昼食とした。

 

 

 

俺は食事を終えると2階奥の錬成道具や資材を取り扱う専門店へと足を向けていた。棚に整然と並べられた鉱石や特殊合金、魔石の数々。そっと指先で触れると、個体ごとに異なる鮮明な「声」が【神鉄傾聴】を通じて脳裏に響いてくる。さすがは星陵、置いてある素材の純度も質も一級品ばかりだ。

 

資材の『声』を聞きながら人気の少ない再生資材コーナーを歩いていると不自然な『声』が聞こえた。

 

『ネラエ』『コワセ』『ヒキサケ』

「この『声』…【異能】で造られたヤツかな?」

 

俺が足を止めた瞬間、資材の陰からガチリと金属が噛み合う不快な硬質音が響いた。

直後、物陰から飛び出してきたのは、体長50センチほどの金属製の蜘蛛だった。それも一匹ではない。三匹、四匹と壁や棚を蹴り、明確な殺意をもって俺の頭上から襲いかかってくる!

 

(襲撃!?……いや、込められた魔力に本当の悪意は感じられない。動きも様子を探るような……だが、今は関係ねぇ!)

「しょうがねぇ、使うか!」

 

俺は両手に魔力を練り上げ、ふたつ目の【異能】を発動させた。飛びかかってきた金属蜘蛛の頭部を鷲掴みにし、脳裏に刻まれた「技名(わざな)」を口にする!

 

「【万物解創(ディゾルブ・クラフト)】、【弐式・解(バラージュ)】!」

 

異能の発動には「完成形」の緻密なイメージが必要。そしてそのためには脳裏に刻まれるように浮かんできたその「技名(わざな)」を口にすること。言葉として放たれた「名」は脳内のイメージを不純物ゼロに研ぎ澄まし、魔力出力を劇的に跳ね上げる最強の起動コードなのだ。

 

【神鉄傾聴】によって一瞬で理解した金属蜘蛛の分子構造、接合面の応力、金属疲労の歪み——そこに解創の魔力を流し込む。

次の瞬間、俺の手の中で金属蜘蛛がバラバラのパーツへと一瞬で解体され、ボロボロと崩れ落ちた。

さらに間髪入れず、左右から襲いかかってきた2体の金属蜘蛛の脚を掴み、別の技名を叫ぶ!

 

「【参式・再構築(リ・ビルド)】!」

 

掴んだ金属の構造を瞬時に組み替え、2本の精巧な短剣へと錬成。そのまま振り向きざま、背後から迫る最後の1体へ肉薄する!

 

「これで!終わり!」

 

閃光のような二連撃。

ほんの数秒前まで鋭い脚を光らせていた金属蜘蛛は、綺麗な4等分に切り裂かれ、無害な金属片となって床へ転がった。

 

「ふぅ…」

 

と短剣を手元で弄びながら息を吐いた直後、両手の短剣と金属蜘蛛の残骸が突如魔力に変化して店の外へ飛んでいった。

 

「何だったんだ今のは…」

 

◇◆◇◆

 

大型購買施設「英星プラザ」の3階の一角にあるカフェで3人の生徒がテーブルを囲んでいた。

1人目はクリーム色のロールツインテールにイチゴの髪飾りをつけた少女・木野苺

2人目はすらりとした長身と銀色の髪にオレンジ色の頭に巻いたバンダナが特徴である少年・鋼月竜弥

3人目は膝裏に届きそうなほど長い黒髪と切れ長の目が特徴的な少年・長井黎

 

テーブルの中央には、木野苺が展開した【異能】【菓子獣密偵(スイート・サーヴァンツ)】による立体映像によって先ほどの朱月仁の戦闘映像が流れていた。

 

「カイチョーの指示で有望そうな同級生探れ云われたけど、初っ端からすごいもん観たなぁ」

 

苺がアイスラテのストローを咥えたまま、驚きと困惑の混ざった関西弁を漏らした。

 

「そうだゼ、急造とはいえオレの鋼の咆哮(フルメタル・ロアー)で造った金属は【異能】だとしてもそう簡単に崩れはしねぇゼ。多分対物に特価した【異能】じゃねぇかゼ?」

 

パフェを頬張りながら竜弥が己の考えを述べる。

 

「さっきの映像の件で益子(ましこ)会長からメッセージ来たぞ、『良い情報だったぞ、基本は偵察に徹して仕掛けるのは今回のような人気の少ないときでやるのを忘れるなよ。報酬には色つけてやる』だってさ」

 

最後に黎が膝裏まで伸びた艶やかな黒髪を軽く払いつつ、依頼人からのメッセージを伝えた。

 

「ふーん、まぁええわ。次は誰狙う?」

「そうだな~同じ組の加々見か3組の光閤(こうごう)姉妹、個人的には4組の御堂筋(みどうすじ)ってヤツも気になる」

「まぁまだ初日だゼ、しばらくしたらトンでもなく伸びるヤツがいるかもしれんから焦らず行こうゼ」

「せやなぁ~竜弥の云うとおり焦らず進めよか」

「あ…そろそろ戻しとくかゼ、【鋼魔変換・魔(メタマジフォーゼ・マジカ)】」

 

竜弥が呟き、口を開くと立体映像で仁の持つ短剣や地面に転がる金属蜘蛛の残骸が魔力へと変化し、竜弥の口腔へと収まっていった。

竜弥が魔力を回収したことで、苺の使い魔が映し出していた立体映像も役目を終えたようにしゅんと光を失い、静かに消えていった。

 

「とりあえず今日のところは終わりにしとこう。買い物して帰ろうぜ」

「黎の云うとおりやな、さっさと帰って予習しとこ」

「あーワリぃ、オレは買いてぇもんあるから先帰っといてくれゼ」

「オッケー」

「了解や」

 

仁の観測を終えると3人は各々やりたいことをするために解散していった。




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