ヒヒイロカネの落とし子~転生者は異能学園で何を成す?~ 作:ヒカル・ムラクモ
謎の金属蜘蛛の襲撃を退け、俺は寮に戻るとラウンジでどこか興奮した様子の鈴と凪が美乃梨を囲んでいた。
「凄いですよねここ!どんな術式が構築されてるんでしょう!」
「えぇ!空間に干渉できる【魔術】及び術式となると光閤か
「ふふっ本当に魔術が大好きなのですわね貴方たちは」
「「はい!三度の飯より【魔術】が好きです!!」」
胸を張って満面の笑みで言い切る二人の姿に、美乃梨は呆れつつも笑顔を見せた。
俺は3人の様子を眺めているとふいに耳元から声が響いた
「や、帰ってきてたんだね」
「うおっ!びっくりした…!刀真、背後から話しかけんのはやめてくれ…」
「ふふふ…」
「何変な笑い方してんだよ…」
気配もなく忍び寄ってきた刀真が不意打ち気味に声を掛けられた。
「あら?貴方たち、帰ってきたのですわね」
鈴と凪と楽しげに話していた美乃梨が、こちらに気づいて視線を向けてくる。
「おう、一通り英星プラザを観てきたよ。めちゃくちゃ広かったぜ」
「僕は部屋で荷ほどきして学園内のほうメインで探索したんだけれど、どれも最新の設備で、さすが国内最高峰なだけあるね」
「ふーん…」
俺と刀真がそれぞれ答えると、美乃梨は返事をしながらちらりとラウンジの大時計へと視線を滑らせた。
「フフン、ちょうど良いタイミングですわね。鈴、凪、それに仁と刀真も……よかったらこの後、寮の食堂で一緒に夕食でもいかがかしら?」
美乃梨が気高さを崩さずにそう提案すると、一瞬の静寂の後、一番に反応したのは取り巻きの二人だった。
「み、美乃梨様とお夕食……! ぜひお供させてください!」
「はいっ! 美乃梨様と一緒のご飯、すっごく楽しみです!」
「二人とも、はしゃぎすぎですわよ。……で、貴方たちはどうするの?」
美乃梨の問いに対して刀真ははどこか楽しそうに目を細め、疑問を口にした。
「ははっ女子からの誘いは嬉しいね、でも何が目的かな?」
刀真の疑問に対し、美乃梨は自身の目的を俺たちに語った。
「貴方たちは校舎と英星プラザ、ワタクシと鈴と凪はこの寮をそれぞれ探索していたでしょう? だから情報交換をしたいのよ」
「なるほど…寮は明日探索する予定だったけど今すぐ情報知れるってんならその誘い乗らせてもらおう」
「僕もそうさせてもらうよ」
「感謝いたしますわ。では参りましょう」
◇◆◇◆
俺たちは美乃梨を先頭に寮の長い廊下を歩いていると、俺の前を歩いていた鈴と凪が振り返りながら口を開いた。
「まず寮に食事できるところは3つ存在します。1つ目は私たちが今向かっているビュッフェレストラン『フェストマール』、2つ目は食券式食堂の『英星学生食堂』、3つ目は喫茶店『ふわり』」
「あたしたちはお昼に『英星学生食堂』、1時間前くらいに『ふわり』でお茶したよ。学生食堂のほうは安いやつが15Pくらいで1番高いのが70Pだったかな。ふわりはドリンクとケーキのセットが60Pくらいだったかなぁ」
「そして『フェストマール』は2時間食べ放題で1人につき200Pだそうです」
「200Pか……ポイントを気にしてたら少しお高めだけど、ま初日ならいっか」
俺が納得して頷くと、凪が「今日くらいは贅沢しちゃいましょう!」と元気よくドアを開けた。
「いらっしゃいませ、『フェストマール』へようこそ。5名様でご来店ですね?」
扉をくぐると、清潔感のある制服に身を包んだホールスタッフの店員さんが温かい笑顔で俺たちを出迎えてくれた。
「ええ、5人でお願いできますかしら?」
「かしこまりました。こちらの学生証端末に人数分のタッチをお願いいたします」
美乃梨を筆頭に、各自が端末に学生証をかざしていく。ピピッと軽快な電子音が鳴り、200Pが引き落とされたのを確認すると、店員さんは奥の広いテーブル席へと手際よく案内してくれた。
「お席はこちらになります。お料理は全てビュッフェ形式となっておりますので、どうぞご自由にお取りください。こちらのプレートを裏返した時から2時間食べ放題となっております。お食事を終了するときは再びプレートを裏返してください」
「うわぁ……! すごい、本当に高級ホテルのレストランみたいです!」
「見て鈴ちゃん、あっちにローストビーフの切り分けコーナーがあるよ!」
店内には暖色系の魔導照明が柔らかな光を投げかけており、オープンキッチンの奥では白衣を着たシェフたちが手際よく腕を振るっている。湯気とともに漂う香ばしい匂いに、思わず胃袋が刺激された。
俺たちは各自トレーを手に取り、並べられた出来立ての料理を思い思いに盛り付けていく。
各々のトレーが賑やかになったところで、テーブルへと腰を下ろした。
「「「「「いただきます」」」」」
声を揃えて手を合わせ、待ちに待った夕食が始まる。皆美食に舌鼓を打ち、しばらくすると俺はふと1つの疑問を美乃梨に投げかけた。
「そういえば美乃梨はいつからそんなお嬢様言葉でしゃべるようになったんだ?」
「んえっ!?えーと…気づいたらなっていたとしか説明できないですわね…」
動揺して素が出かける美乃梨に、俺は半信半疑の視線を送る。
「…でも一応意識すれば普通のしゃべり方もできるわよ。……久々にやったけど自分でも違和感が凄いわね…」
慣れない普通の口調に自ら首をかしげる美乃梨を見て、美乃梨の両隣に座る鈴と凪がニコニコと楽しそうに微笑んだ。
「ふふっ、美乃梨様は加々見家のご令嬢として頑張り屋さんでしたからね」
「素が出ちゃう美乃梨様も可愛くて素敵です!」
「ふたりとも、余計なことを言わないでちょうだい!」
「ふふ、人間味があって僕は良いと思うよ」
美乃梨は照れ隠しに顔を赤くしながら、素早く「ですわ」口調へと戻し、コホンと咳払いを一つ落とした。その様子に、刀真もどこか楽しそうに目を細めている。
その後はワイワイと盛り上がりながら食事を進め、お腹も膨れて「あとはデザート」という段階になったところで、刀真が美乃梨に向かって問いかけた。
「さて、お互いに探索していた場所の情報交換だったね。何から話そうか?」
「ええ、そうですわね。ワタクシたちは寮の施設を中心に見て回っていましたから、校舎や『英星プラザ』がどうなっていたか教えてくださるかしら?」
「じゃあ俺から話すよ。英星プラザはマジで『購買』なんて規模じゃなかったな。ドデカいスーパーマーケットにフードコート、映画館もあったな」
「あたし質問、魔術関連のお店はあった?」
「あったぞ、たしか2階のこの場所だな」
凪の質問に対し、紙の案内図を開いて場所を指さす。俺が行った魔鉱石専門店のすぐ近くだ。
「なるほど…ありがとう」
「なら良かった」
「じゃあ次は僕だね。僕は校舎内と図書館を調べたんだ。本当は訓練場ってところも見てみたかったんだけど、教員に立ち入り禁止だって言われちゃってね。でも寮と同じく空間魔術の気配があったよ。校舎内には『加工室』っていう教室があって、凄そうな機械が置いてあった。あと図書館は4階建てで、蔵書量は150万冊以上だってさ」
俺と刀真の話を聞きながら、美乃梨は真剣な表情で頷き、2人も関心の声を上げる。
「ふむ……どちらも非常に魅力的ですわね。それでは最後に、ワタクシたちが見て回ったこの寮の設備についてお話ししますわ。この場所は朝、本島先生がおっしゃったとおり空間魔術によって外観以上の空間拡張が施されていて、設備もかなり充実していますの」
「そうなんです。まず地下には本格的なトレーニングルームや最新器具の揃ったジムがあって、職員の方が言うには明後日からインストラクターの方が来るそうです」
「あとは1階奥にかなり大きい温水プールがありますし、あたしが特に注目してるのはプールの付近にある大浴場です!スタッフさんに聞いたんですけど露天風呂があるそうです!」
鈴と凪が目を輝かせながら教えてくれる。充実しきった寮の設備に、俺と刀真は思わず顔を見合わせた。
「想像以上に充実してんな。至れり尽くせりすぎて怖くなるレベルだ」
「僕はワクワクしてるよ。例えばトレーニングして大浴場で汗を流してって感じでさ、明日が楽しみだよ」
「ふふっ、お互い良い情報収集ができましたわね」
情報交換が一段落し、制限時間も残り少なくなってきた頃、美乃梨が思い出したように俺へ視線を向けた。
「そういえば仁、貴方のお兄様もこの学院に通っていらっしゃるのでしょう?」
「あぁ、朱月光也。俺の3つ上で今年4年生だ」
「僕も聞いたことがある、たしか去年の【異能魔術頂上陣】の団体戦で歴代最年少優勝者…」
「ワタクシも2回ほど会ったことがありますわ」
「そうなのか!?確かに兄貴、パーティーとか社交界には昔から積極的だったしなぁ…」
「ええ。加々見家のパーティでお見かけしたけれど、気品があって立ち振る舞いも洗練された素晴らしいお方でしたわ」
「まぁ真面目だけど家だとだらけてる時間の方が多いぞ」
「あら、そうなのですか?」
俺が呆れ交じりにそう呟くと、美乃梨は少し意外そうに目を丸くした。
「でも間違いなく強いよ。兄貴の【異能】は【
「そこに仲間との連携も加わるのか…かなり恐ろしいね」
「去年の頂上陣でもその圧倒的な盤面把握能力でチームを勝利に導いた姿は印象に残っていますわ」
「兄貴も明日の朝のフェリーで本土から来るから皆にも紹介するよ」
「ええ、ぜひよろしくお願いいたしますわ」
他の4人を代表するように美乃梨が答える。
会話に花を咲かせているうちにテーブルの皿は綺麗に空になり、制限時間も終わりを迎えていた。皆満足そうに息を吐き、「ごちそうさま」を言い終えると、鈴がテーブルのプレートを裏返した。
「とても充実した夕食になりましたわね。明後日の授業開始に備えるためにも今夜は解散いたしましょう」
「「はい、美乃梨様!」」
鈴と凪が元気に頷き、俺と刀真も立ち上がり、身支度を整えた。
「美乃梨、誘ってくれてありがとな。情報もたくさん聞けたし、飯も旨かったぜ」
「僕からもお礼を言うよ、加々見さん。とても楽しい時間だった」
「フフン、お互いに実のある情報交換ができてよかったですわ。……それと仁、刀真。貴方たちはクラスの仲間であると同時に、ワタクシのライバルですのよ。ワタクシはこの英星で頂点を掴むためにも、貴方たちに負けるつもりはありませんことよ!」
「あぁ、望むところだ!俺も負ける気は無い!」
「僕は僕のペースで競い合おうかな」
「まぁ結局のところ言葉だけでなく、実際の成果で示しあいましょう。それでは、二人ともおやすみなさい」」
「「おやすみなさい」」
「おう、おやすみ!」
「おやすみ、みんな」
『フェストマール』を出た俺たちは、ラウンジで手を振り合い、それぞれの自室へと戻っていった。
学園での刺激的な初日が終わり、静かな夜が間島と寮を優しく包み込んでいった。
◇◆◇◆
早朝の澄んだ空気のなか、本土の港を出航した大型フェリーは、白波を立て間島へと向かって進んでいた。
船内の談話室、海を一望できる窓際のソファー席には新学期を迎える4人の姿があった。
「はぁ……ついに始まっちゃうね、4年生。あと2年かぁ、なんかあっという間だなぁ」
ブルーグレーのミディアムボブに揺れる白いリボンを整えながら、
「なに言ってるの未来!
隣でフンスと鼻息荒く拳を握りしめたのは、明るいライトブラウンの髪を揺らす
「二連覇、か。言うのは簡単だが去年俺達が最年少優勝したことで今年からは間違いなく全国から研究され、マークされる側になるだろうな」
窓際に腰掛け、ウルフカットにした緑色の髪と紫の毛先を揺らす青年ユーリス・サカキが自身の推測を口にする。
「まぁまぁ、ユーリス。そんなに固くなる必要は無いさ。確かにマークは厳しくなるだろうけど、皆も自分がやるべきことは変わらないさ」
ユーリスに声をかけたのはソファの中央に座り、穏やかな笑みを浮かべ、紺色の髪をツーブロックにした男──
「光也は相変わらず余裕って感じだね! ……あ、そういえば!」
響華が思い出したようにポンと手を打ち、光也の方に身を乗り出した。
「光也の弟の仁くん! 今年度から
「ああ、無事に寮に入れたみたいだよ。昨日も連絡が来てたよ。フフッ、もう友達ができたって報告もしてくれたんだ」
「…あぁそれと響華、彼氏持ちが他の男に他の男に身を乗り出すなよ。ユーリスが嫉妬するぞ」
「は~い」
「それにしても光也は弟くんが大好きだね」
未来は手元のスマホから顔を上げて苦笑いする。
「でも、心配しなくても大丈夫じゃない?選ばれし『落とし子』であなたの弟なんだし」
「そうかねぇ…」
「初日から友達と夕飯を食べられたなら、心配はいらないんじゃないかな。……それにしても、仁君と仲良くなったのはどんな子たちなのか少し気になるな」
「まあな。あいつが楽しくやってるならそれが一番なんだけど」
光也の言葉にユーリスも静かに頷き、1つの提案をした。
「そうだな。まあ、俺も仁君には興味がある。去年俺達が会ったときも他の人とは違う目つきをしていた。島に着いたら一度挨拶させてもらおうかな」
「ユーリスが行くならわたしもー!」
「ふふふ響華ったら。でも私もどんな人なのか気になるな」
元気いっぱいに盛り上がる響華たちを見つめながら、光也は「やれやれ」と肩をすくめた。だが、その瞳には弟・仁への温かい情愛と、今日から始まる新しい学園生活への期待が確かに宿っていた。