飛色が退院してから少し経った。
退院したあの日から、女子生徒や教師から飛色への接し方や考え方が変わっていた。
以前は地味で勉強漬けをする男子という物であったが、
事件でアリーナからの脱出が出来たのは、教師でも、専用機持ちでもなく、飛色の御蔭であった。
もちろん、襲撃してきた方を倒したのは一夏を含めた専用機持ちによるものだが
アリーナの惨状を見て、もし飛色が行動してくれなかったと考えると、誰でもゾッとしてしまう。
しかも飛色は扉を開いて自分はすぐに逃げるという臆病な行動を一切せず、最後の一人が出るまで残っていった。
そして最後の最後で自身を犠牲にして生徒を助け出す。
それらの行動によって、すっかり英雄扱いにもなり、接してこようとする女子も少なくはない。
更にはある人物が飛色の名前と英雄を掛けて『ヒーロー』というあだ名が通ることになってしまった。
……が、飛色自身はそのような言われ方は嫌うため、女子の間で偶に呼ばれるくらいであった。
ジュゥゥ――――
肉の焼ける音……それが響くのはIS学園、生徒専用キッチン
六月始まって一番初めの日曜日
土曜日でも授業のあるIS学園だが、さすがに日曜は休日となっている。
といっても、アリーナも許可が下りれば使用はしても構わず、機体も
だが生徒の一人は毎月一週目の日曜に用事がある。
「ふぅ、こんなもんか」
生徒専用で供えられているキッチンで料理をしていた生徒、飛色がそこにいた。
周りにはいつも通り、誰もいない。理由は日曜だからだ。
朝から外出する生徒や、朝食を食堂で食べる生徒が大半で使うことは基本的にないのだ。
飛色は作った物を確認する。
おかずには豚の生姜焼き、ピーマンの煮びたし、卵焼き、千切りのキャベツ、ポテトサラダ。
メインには
誰がどう見ても美味しそうに出来ている。
弁当箱に入れると、残しておいた味見用を朝食として用意し終わる。
「いただきます」
しっかりした朝食の場合は感謝をこめて合唱、そしてその場で食べ始める。
勿論、立ったままではなく、ちゃんと用意した椅子に座って。
「(モグモグ)……………………よし」
小学生の頃から家では一人が多かったため自然と覚えてしまった料理。
今では月に一度しかやらないため腕が鈍ってないか心配だったが、一口食べて問題ないと結論した。
一応、どれも問題なく出来ていたため少しだけ安心して食べ終わる。
「ごちそうさまでした」
合掌と感謝をして終了し、調理器具や食器を片付け始める。
自分の使用したものは自分でどうにかする。自給自足という奴だ。
片付けをが終わり、作った物をバックに入れようとするが……
「…………………何をやっている、
「……エへへ~、ばれちゃったか~」
ひょこり、と使っていた調理台の横から顔を出してきたのはクラスメイトの
一夏からは『のほほんさん』と呼ばれている。ただし名前を省略したからという理由ではなく
雰囲気がのほほんとしているということからだと言われている。
そして……
「ヒーローは何でもわかっちゃうんだね~」
「その呼び方はやめろと言っているだろう」
あだ名をつけた張本人である。
本音は呼びやすい、または面白いからという理由でこうしてあだ名をつける。
ちなみに一夏は『オリムー』で、セシリアは『セッシー』といわれていたのを聞いたことがある。
「……………(ジー」
ふと、本音が何がを凝視しているのに気付き、視線の先を見ると何を要求しているのかが判る。
そこには弁当とは別に、まだ仕舞われていない料理……もといお菓子がある。
抹茶のミルフィーユ。勿論飛色の手作り。
必要な分は仕舞ってこれは余った分だ。
飛色が食後のデザートとして食べようと考えたが……
「……………(スッ」
「……………(ジー」
「……………(スッ」
「……………(ジー」
さらに乗っているそれを飛色が動かすと、それに沿っていくように本音も目を離さずにいる。
あまりにも鬱陶しい為
「…………食べるか?」
「!!!(コクコクコク」
飛色は食べるか聞くと、それに素早く反応して何度も頷く本音。
フォークを取り出して彼女の前に置く。
「いただきま~す!!!」
ザクッ、パクッ
「!!!!!……ちょう、ちょう、ちょう、うまぁぁぁぁあああああ!!!」
「黙って食え。取り上げるぞ」
「――っ!!は、はい………」
大声で歓喜した本音が五月蠅くて睨みつけられ、取り上げると言われたことで
マイペースの本音も流石に黙った。
「じゃあ食器は自分で片付けろよ」
「は~~い♪」
美味しそうに食べる本音を尻目に、キッチンから必要なものを持って部屋に戻っていった。
「すいません」
「あ、遠木くん。今日も来たのね」
IS学園近くの病院
大学病院なだけあって、その大きさはIS学園と比べても遜色ないような所である。
飛色は私服の状態でその病院の入り口近くの受付にいた。
手にはやや小さめのバックがある。
「はい。面会許可用の名簿とバッチをお願いします」
「ちょっと待ってて……はい、どうぞ」
一緒に出されたボールペンで名簿に必要事項を書いていく。
書き終わると、バッチと引き換えで渡す。
「部屋は変わってないから、いつも通りに」
「判りました」
言われて、飛色は目的の部屋――――病室に向かう。
七階でエレベータから降りて、すぐ傍の病室に着く。
コンコン
『誰です?』
「俺だよ」
『あ、飛色ね。いいわ、入って』
「ああ」
扉を開けて入室する。
室内には眼鏡をかけ、長い黒髪を後ろで束ねている女性が上半身を起こしてベットにいた。
脇にある棚の上に置いてある本を見ると、読書中であったようだ。
「毎週毎週、よく来るわね~」
「当たり前だ……親なんだし」
そう、彼女は飛色の母親、
お互いが眼鏡をすれば、顔は結構似ている。しかし飛色は伊達眼鏡で、星香はちゃんとした眼鏡……
要するに星香は視力が低いのである。
「それで、学園での生活はどうなの?」
「ああ、まぁ…………有意義……なのか?」
星香からの質問に答えようにも、正直微妙なところである。
無理にかまって来ようとする一夏、ライバル視しているセシリア、再戦再戦と五月蠅い鈴、
迷惑な呼び方をする本音、理不尽で叩いてくる千冬、ドジをよく踏む真耶
…………これらを聞いて有意義だと言えるのか?
改めて振り返ると、有意義かどうかが疑わしいことばかりである。
「なぜ疑問形なの?………まさか、まだ友達の一人すら出来てないって言うんじゃないでしょうね?」
ギクッ!!
母親の言葉に体をビクつかせてしまう。
実は飛色、母親である星香と話している時は体が勝手に反応してしまうという不思議な体質を持っている。
そのため、星香だけには嘘はつけない。
それはお約束なのかなんなのか……
「……はぁ、あなたは本当にディスコミュニケーションな人ね……あの人と同じで」
飛色の反応に呆れている。
ここでいうあの人というのは飛色の父であろう。
ちなみにその人も飛色と同じ……コミュニケーション能力が低く、星香に嘘をつけない体質持ちである。
血は争えないわね……と溜息をしながら言われる。
毎週こんなくだりをしているのは気のせいなのか……
そんなことも考える飛色であった。
「どうぞ」
「はいはい。じゃあ、今回は何かな~♪」
昼食の時間
持ってきていた弁当を出して渡す。
星香も包を取り、蓋を開ける。
「お、生姜焼き弁当!しかも炊き込みご飯!!」
好物が入っていることに喜びだす。
しかし……
「見た目とバランス………85点。赤い野菜…ミニトマトとかあれば90点は行くんだけどね」
目つきが鋭くなり、点数を言ってきた。
星香は意外と料理に五月蠅い。しかも味だけでなく見た目にまで拘るという。
そのため毎週、こうして弁当を持ってきては点数をつけてくる。
高得点ばかりであるため別段文句はないのだが……
ちなみに点数などを言うのは無意識らしい。
「わかった。次からはそうする」
「では」
パチンッ
「「いただきます」」
「ではまず生姜焼きから」
三枚ほどあるうちの一枚を箸で摘まむ。
「(モグモグ)ふむふむ…………うん、ちゃんと味が染みてるね。私好みの濃さだし」
咀嚼して飲み込むと、評価する。これも無意識でやっているとのこと。
「炊き込みご飯は……(モグモグ)……うん!ちゃんと素材の味を生かしてるよ。美味しい」
それを他のメニューも同じように評価する。
そして……
「ふぅ……ご馳走様でした。判定の方は………」
ゴクリッ、食べ終わった飛色は思わず唾を飲み込む。
毎週これをやっているが、何故か未だにこの緊張感が払えないのだ。
「………95点かな」
その評価に安堵の溜息が出る。
さすがに仕込みから手間暇かけているのだ。
これで高得点が取れなかったら少しショックではある。
「う~ん、ちゃんと生姜焼きは染み込んでてよかったし、他も素材の味や食感、生かしてたからね」
「ふぅ」
「あ、でもねぇ―――」
その後も調理法などのアドバイスを貰って昼食は終了。
そして……
「じゃあ、やろっか」
「ああ………今日こそ勝たせてもらう」
棚に仕舞ってあるものを取り出して準備をする。
「ふふふ、その言葉、何度目?」
「今日で終わりにする」
「負けたらいつも通り………」
「判っている……」
普段のクールさは何処へやら、2人の間に火花が出始める。
「「いざ………」」
こうして二人の
「チェックメイト」
「くっ………」
30分に
「これで通算24連勝~♪さあ、今日は何かしら~」
「くそっ………抹茶のミルフィーユだ」
苦虫を噛む思いで持ってきたお菓子を皿に乗せ、水筒で持ってきた紅茶を淹れる。
まさに敗者は勝者に従うべし、状態である。
「う~ん♪やっぱり飛色はお菓子作りの才能はあるわね」
紅茶を飲みながら言われる。
ちなみにデザートだけは、なぜか100点を毎回貰っているのだ。
さて、ここで星香がなぜ病院にいるかを説明しておくと
飛色は星香たちは機械関係の仕事をしている、と聞いたことがあり、
星香は少し前に仕事先での事故で両足を大火傷。
まだ完治はしておらず、治療とリハビリを行うために入院している。
現在も移動には脇にある車椅子を使用している。
一方、飛色の父はというと………
「……………そう言えば、もうすぐ十年経つわね」
「………………」
「………あの人が居なくなってから」
「っ……………」
星香からの言葉に飛色は唇を噛み締める。
あの人……飛色の父のことである。
十年ほど前から姿を眩ませた人物
飛色の尊敬していた存在
「……………帰る」
「……ええ」
気分が悪くなり、帰る用意を始める。
「………じゃあ」
「今度来るときは、友達ぐらい連れてきなさいよ」
「………考えておく」
飛色はそう言い残して病室を後にした。
アドバイス、感想、何でもいいのでよろしくお願いします<(_ _)>
それと、作者は現在中間試験の勉強に勤しんでいます。
次回の投稿は少し先だと思います。
読者の皆様、申し訳ありません<(_ _)>