「遅い!!」
すでに授業開始時間になっている。
にも拘らず、画像を見てから考え込み、遅れてきた飛色がもらったのは担任からの、ありがた~い教育指導(出席簿アタック)であった。
もはやどこから取り出してるか考えるのは諦め、頭を抑える飛色。
これを回避したくて一夏に言っておいたのだが、どうやら伝わってなかったらしい。
「………織斑にお手洗いに言ってくるから伝えたのですが」
「何?」
遅れる理由がトイレというのであれば、さすがの千冬も少しは話を聞くだろうと考えて言ったのだ。
しかし飛色が一夏に視線を向けると、ギクッ!といった風に体が
更にはその表情が青くなっていき、若干汗も額に出ている。
「………そのようだな」
バシーーンッッ!!この授業ですでに二度目の教育指導が出たのは言われるまでもない。
「ではこれより、ISの実習に当たり格闘及び射撃などを含んだ実戦訓練を開始する」
『はい!』
1組と2組の生徒が返事をする。
一夏は「元気があってよろしい」とでも考えているだろう。
対して飛色は「騒がしいだけあって声がデカい」と思っている。
「まずは戦闘を実演してもらう。凰、オルコット!」
「「はい」」
「専用機持ちならすぐに始められるだろ。前に出ろ」
返事をした二人に指示を出す。
専用機持ちは周りにいる生徒と違って、常に機体を持っているからだろう。
一夏が選ばれないのは初心者だから、シャルルやラウラは今日学園に来たばかりだからであろう。
この二人の選択に、飛色も少し納得する。
「はぁ、面倒臭いな……」
「なんか、こういったものは見世物みたいで気が引き締まりませんわね」
愚痴りながら前に出る二人。
そんな二人に千冬が近づいて、何かを耳打ちしているが見えた。
するとハッ!とした顔になり
「やはりここはイギリス代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわね!」
「実力の違いを見せるいい機会よね、専用機持ちの!!」
(((……………………)))
全員が二人の変化に沈黙する。というより、呆れて苦笑している。
そんな中、シャルルは千冬が何を言ったか一夏に聞こうとするが、一夏もわからず。
その一方で飛色は、二人の気を惹く単語に心当たりがついて、ばれない様に溜息する。
「それでお相手は?鈴さんとの勝負でも構いませんが」
「ふふん、こっちの台詞。返り討ちにしてやるわよ」
「あわてるなバカ共。対戦相手は――」
キィィィン
「(なんだ?)」
グラウンドに風きり音が響く。
それに気づいた者は辺りをキョロキョロ見渡すがこれといって何もない。
まさかと思った飛色は眼鏡を外して上空を見渡す。
高い視力で正体がわかると、少しその場から離れる。
正確には傍にいた一夏から離れる。
「ああああーっ! ど、どいてくださ~いっ!」
高速飛行物体が上空から飛来―――否、落ちてきた。
ちょうど一夏のいた場所に。
「いっ!」ドガァーーーーン!!
地響きが鳴り、発生源からは土煙が舞う。
「(………はぁ……これがラッキースケベというのか)」
煙が晴れたその先の状況を見て溜息をする飛色。
「あ………あのぉ……織斑くん……」
「う、ぅぅん………っ、なぁぁ!?」
現在の状況の簡潔な説明をすると……
一夏が真耶を押し倒すような体勢で胸を鷲掴み中
「そ、その、ですね……私と織斑くんは仮にも教師と生徒で……あ、でも、織斑先生がこのまま行けば義姉さんってこで、それはそれで魅力的な――」
そう言い続ける真耶の態度と考え方に、飛色は大きく呆れて溜息を吐く。
勿論、頭の中でこの状況から新たに
山田真耶に対しての観察結果その6:物事の考え方と捉え方がズレてることが「バヒュンッ」……
記憶中に一夏の目の前を通り過ぎたものの音で邪魔される。
この状況から来るものは決まっているが、とりあえず横を見れば
「おほほほ、残念。外れてしまいましたわ」
額にいくつもの血管が浮かび上がってるセシリア・オルコットがいた。
その表情は笑っているように見えるが、明らかにお怒り状態。
ガチャン。それを余所に、何かが合わさるような音が聞こえる。
しかし飛色と一夏は見なくてもその正体がわかっている。
鈴が青竜刀を合わせた時の音だ。
二刀一対であるのそれは柄の部分で合わせてバトンのように使用できるのが特徴で
投げることも可能である。要するに……
「いぃーーちぃーーーーかぁーーーーーー!!!」
雄叫びを上げた鈴が青竜刀を投げてきた。
緊急展開がまだできない一夏には止める術もなく………
「(織斑……まあいいか)」
一夏嫌いの飛色は完全に見捨てていた。
ダァンダァンッ!!
と思ったら、今度は発砲音が鳴り、青竜刀が弾かれる。
一瞬驚いた飛色は気になって発音源に顔を向ける。
そこには地に伏したまま射撃体勢の真耶がいた。
「織斑くん、怪我はありませんか?」
優しく微笑んで一夏に聞く真耶。
一夏に笑顔を向けて言うが、周りは唖然としたままだ。
唯一、飛色は
「(武装展開に目標捕捉をあの速度…さらに射撃体勢がアレで命中……教師なだけあるな……)」
冷静に状況把握して真耶を賞賛すると同時に
真耶のことをやるときはやる人、というカテゴリーの人物に記憶する。
「山田先生はああ見えて元代表候補生だからな。今くらいの射撃は造作もない」
「む、昔のことですよ~。それに私以上の人なんていくらでもいるんですし、結局は候補生止まりで教師になったんですし……」
頬を赤くしながら照れる真耶を「ああやっぱり山田先生なんだな……」と不意に思ったり、飛色もこれまでの評価を改め始める。真耶の株がここで結構上がったのは言うまでもない。
「さて小娘共、さっさと始めるぞ」
未だ愕然としていた二人を千冬は急かす。
それに対して二人もハッとなるが、今度は新たな疑問が生まれ、セシリアが手を上げる。
「え?あのぉ……二対一で?」
「いや、さすがにそれは」
「安心しろ。今のお前たちならすぐに負ける」
代表候補生を二人まとめて相手にすると言うのに些か心配であったが、千冬の『負ける』という言葉でムッとなる。プライドの高いセシリアと負けず嫌いの鈴にとってはその単語は大きな刺激になったようだった。
「では……始め!」
千冬が開始の合図を出すと、戦闘する三人は50メートルほど飛翔して相手の様子を
飛色たちがいる地上からだと声が届かないが、少しすると、セシリアと鈴が左右に分かれた。
そのままセシリアはビットを、鈴は衝撃砲を連射し始める。
セシリアのブルー・ティアーズは
しかし真耶はそれら全ての攻撃を回避、又はシールドで防御している。
セシリアのは光学兵器であっても見ることができ、ISのセンサーを使えば全方位を見て回避できる。
しかし、それには常に周りの状況を把握しながら攻撃に反応しなければならない。代表決定戦の時は油断してくれたのもあったし、飛色自身が空間把握能力を元から身に付けていた為、何とか、避け続けられた。
鈴の攻撃に関しては対策などを考えておかなければ食らうのは確実のはずである。
少なくとも掠るぐらいは。
以前対戦したことのある飛色は、鈴の肩上にある砲身生成の装置の見た目、そして過去の対戦データでも見た発射する場合に行われるスライド動作。そういった情報を知ることはできたが、発射のタイミング自体は予測しにくい。そのため以前は完全に回避できたのは数回で、他は掠ったり、ダメージの効きにくい箇所に被弾していた。
これほど厄介なものを同時に相手しているというのに、真耶は回避や防御を成功させている。
元代表候補生という経験の差からなのか、才能なのか分からないが、飛色はこの時点で真耶の実力の高さを知った。
「さて、ちょうどいな。遠………いや、デュノア。今現在、山田先生が使っているISの解説をしてみろ」
「えっ? あ、はい」
「……………」
言いかけた名前で、飛色は露骨な顔とジト目で千冬を見る。
一応、訓練や模擬戦ではラファールをよく使い、機体特徴は完全ではないが、ほとんど理解している。
結局はシャルルがすることになったが、だからと言って始めに自分を指名しようとするのが少し解せなかった。
「山田先生が使用しているのはデュノア社製、ラファール・リヴァイヴです」
戦闘の様子をメガネを外して見ながら、シャルルの説明を聞く。
「(均衡状態………いや、僅かながら先生が優勢といったところか)」
セシリアも鈴も連射をし続けるが、回避が防御される一方で、これと言った効果がない。
鈴の放つ衝撃砲でさえもだ。
真耶の方も迎撃でライフルを何発か撃ってくるが今のところダメージにはなっていない。
しかしそれの目的というのも、空間把握能力が高い飛色はこの時理解していた。
「現在開発が主流の第三世代と違って、第二世代開発最後期の機体ですが、そのスペックは初期の第三世代にも劣らないものです。現在配備されているISの中では、最後発でありながら世界第三位のシェアを持ち、装備によって格闘、射撃、防御と言った全タイプに切り替えが可能で、参加サードパーティーが多いことことでも知られています」
「(………デュノアも流石だな。簡潔でわかりやすい)」
教科書に載っている内容を要約した説明だったが、逆に分かりやすくて良かったと飛色は思う。
「ああ、そこまででいい。………終わるぞ」
さっき飛色が考えていた通り、セシリアが真耶の射撃によって鈴がいる場所へ誘導していた。
それに気付かずに回避していた本人は、鈴と激突。その一瞬の隙を見逃さず、真耶はグレネードを二人へ投擲した。
ドガァーーンッ!!!
爆発によって煙が出るが、そこからセシリアと鈴が滅茶苦茶に回りながら落ちてきた。
「くぅ………まさかこのわたくしが……」
「あ、アンタねぇ~、何面白いように回避先読まれてんのよ………」
「鈴さんこそ、無駄にばかすかと撃つのがいけないのですわ………!」
「そっちこそビットのエネルギー切れ早いし、出し過ぎじゃない!!」
アレを言ってはコレ、コレを言ってはアレ状態になる二人(負け組)
そんな二人のいがみ合いを見る周りは、代表候補生の株がかなり落ちて、一夏と飛色は
「(仲悪すぎだろ……)」
「(所詮は即席のチームか………)」
候補生としてでなく、二人の仲の悪さを考えていた。
「これで諸君にも教員の実力というのを理解してもらえただろう。以後は敬意を持って接するように」
その台詞で模擬戦は締めくくられ、真耶も褒められたからか、照れ臭そうに笑って頭をかく。
「次に、グループになって実習を行う。リーダーは専用機持ちの織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰がやれ。それと、遠木は私のところに来い。いいな? では分かれろ」
千冬の指示が発せられた瞬間、生徒達は迅速に動き分かれる。分かれた、確かに分かれたのだが、かなり偏りのある分かれ方が実現した。むしろ二分した、と言った方が早いだろう。
「織斑くん、一緒にがんばろう!」
「デュノアくんの操縦技術見たいな~」
言い終わるや否や、飛色以外の男子に向かって二クラスの女子が急接近した。
ちなみに本当なら飛色と一緒がいいと思ったら女子もいたが、千冬に呼ばれるということで一夏たちの方へ行っている。
二人とも「何で俺(僕)に?」と言った表情になる。
同時に勘弁してくれ、とも思ったのか、口元が引きつっている。
「このb「織斑先生、待ってください」………なんだ遠木」
叱ろうとした千冬に飛色が待ったをかける。
授業を進められないことに苛立ってるのか、被されて不快になったのか、千冬の返事が少し怖い。
「ここは代表補佐の自分が」
「……やってみろ」
言われると、飛色は「耳を塞いでいてください」と告げて集団に近寄りながら両手を少し広げる。
そして
パァァァァァァァァンッッ!!!!
「「「「………………」」」」
グラウンドに響き渡った音、飛色が両手を合わせた時に鳴ったもので、全員が沈黙する。
「………ちゃんとやれ」
そんな彼女らに、眼鏡を直しながらドスの効いた声を発する飛色。
それに恐怖した全員は蜘蛛の子を散らすかのように全員が均等に分かれた。
このとき彼を見た誰もが、飛色の後ろに般若が見えた……そう語るのであるのだった。
「………よし」
「…………よくやった、遠木」
飛色の制圧っぷりを、千冬がとりあえず褒めた。
「はぁ………」
「遠木、大丈夫か?」
「………見て考えろ」
午前の授業が終わり、訓練機を片付ける最中。
顔色が悪い飛色に一夏は声をかけていた。
「あ~……わりぃ」
機嫌の悪さを察して謝罪する一夏。
何があったかというと………
飛色が恐喝した後
千冬に呼び出された飛色には各班のバックアップをするよう頼まれていた。
理由は実習以外の時間でも訓練機の貸出しをしているから、他の生徒より経験が大きい。
だからと言って専用機持ちというわけでもないためリーダーには出来ず、この位置となっていた。
しかし、始めに来たラウラの班を手伝う……訂正、リーダーを代わってもらう形になっていた。
始めに訓練機を取りに行ったまでは良いが、その後からラウラは無言状態で何も進まず。
飛色が声をかけても白を切ってしまう。
その結果、飛色が指示を出して実習を行っていたのだ。
「………はぁ」
「溜息しすぎだろ。幸せが逃げてくぞ」
「…………お前に言われても、何もうれしくない」
「ひでぇ!?」
片付け終わり、更衣室に向かう一夏と飛色。シャルルの方は「デュノアくんにそんなことさせられない!!」と、女子の方から言ってきていたからか、すでに居なかった。
「あ、そうだ遠木。シャルルも後で誘うつもりだったけど、これから箒たちと飯にするんだ。お前も来るか?」
シャルル
「……行く」
「ああ、やっぱそうか…………ってええ!?」
飛色のOKに驚愕する一夏。
以前にもあったが、飛色は滅多なことでは一夏たちと食事しない。
一夏たちと接することにはあまり抵抗がなくなってきたが、飛色は一人でいるほうが好きなのだ。
食事も鈴の紹介以来、誰ともしていない。
「俺は教育係に任命されたんだ。仕事放棄したら、あの人に何言われるかわからん」
「………あ~」
あの人というのでピンとくる一夏。
「確かに千冬姉には逆らえないしな……」と飛色に返すが、いつも通り黙秘権を行使される。
「…………」
「…………」
そのまま話すこともなく更衣室へ向かう二人であった。
アドバイス、感想、何でもいいのでよろしくお願いします<(_ _)>