IS インフィニット・ストラトス 努力の天才   作:xix

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キャラクターについては、オリジナル展開有りにさせていただきます


第16話 真実と未来

 

 

 

約20秒前

 

 

「……………………ん………ふ、あ~~………」

 

 

まだ少し眠気が残ってるのか、欠伸をして、目を擦りながら飛色は体を起こす。

 

 

「……………」

 

 

時計を見ると、すでに5時を過ぎていた。

部屋に戻ってきたのが1時だったから、およそ4時間寝ていたことになる。

 

 

(………顔洗うか)

 

 

未だボーっとした頭を動かして立ち上がると、そのまま洗面所へ向かう。

顔を洗ったら軽く何か食べて復習と予習をやろうと、今後の予定を考えた時ふと違和感を感じる。

 

 

(………いつの間に眼鏡を外した?)

 

 

やけにハッキリしてくる視界で、ようやく気付く飛色。

寝る前に外した記憶がなく、今着けていないということは寝ている最中に外れたか、または――――

 

 

ガチャッ

 

 

「「…………………………え?」」

 

 

すでにルームメイト(シャルル)が帰ってきたのかと考えたところで、思考が停止した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「…………………………」」

 

 

どれだけ時間が経ったのだろう。

 

とは言ったものの、実際には10分も経っていない。

しかし部屋にいる本人たちにとっては何十分、何時間と経っている様に感じている。

 

 

飛色は机で肘を着き、シャルル―――だった女の子は自分のベットに腰掛けている。

 

飛色は部屋着で、シャルルはジャージを着ているが、今までと違う点が一つある。

 

着ている物が違うというわけではない。

女性の象徴……要するに胸がちゃんとあり、飛色と異性であることが明白であった。

 

そして二人は視線も合わせず、お互いに顔が少し赤くなっている状態。

言いたいことはあるのだろうが、空気がそうさせてくれなかった。

 

 

「……………はぁ」

 

 

溜めに溜まった息を吐きながら、飛色は立ち上がる。

それに反応して、シャルルは体をビクッと震わせる。

自分のことで何か言われそうに感じたが

 

 

「……………飲み物を取ってくる」

 

「う……うん」

 

 

そう告げて飛色はシャルルに背を向けてキッチンへ歩き出す。

 

食器棚からマグカップを二つ取り出して、一つのパッケージを取り出す。

飛色が飲み物を用意するなら普段はコーヒーであるが、この時ばかりは以前

買っておいたココアを取り出す。

 

まだ封を切っていなかったが、「別にいいだろう」と思う。

切った後、匙スプーンで一杯ずつカップに入れると、用意していた電気ケトルでお湯を注ぐ。

 

昨夜用意して使ったが、まだ二人分残っていたのは幸いだった。

 

注いでからスプーンで少しかき混ぜる。

 

 

 

カチャ、カチャ、カチャ……

 

 

「「…………………………」」

 

 

部屋に混ぜるときの音だけが響く。

それ以外には音がなく、とても静かであった。

 

 

「………よし」

 

 

二人分終えて、片手ずつ持つ。

キッチンから出ると、自分の分を机に置いてシャルルのもとへ歩く

 

 

ところで立ち止まる。

 

 

(……………直接渡すというのか?)

 

 

それはつまり女子の肌に触れるということ……

忘れがちだが、飛色は女子が苦手………

 

正確に言ってしまうと、女子の香り、肌の感触、視線といったものが苦手なのだ。

IS学園に来てからはだいぶ慣れてきたと思ったが、考え直すと直接触れたりした回数は0なのである。

 

 

(……………心頭滅却すれば火もまた涼し、か)

 

 

一人で何を考えているのやら。

止まっていた足を再度動かし、まず自分の分を机に置き、それからシャルルのほうへ向かう。

 

 

「ほら」

 

「あ、ありがとう――――」

 

 

(……………………………)

 

 

頭の中は真っ白なはずなのに、心臓からドクン、ドクンと音がうるさく感じている。

そんな勝手に鳴り響く心臓の音を押さえてカップを渡そうとする。

 

そしてシャルルがそれを受け取ろうとした瞬間

 

 

「あっうわっ!」

 

「!!!」

 

指先が触れ合い、飛色は指を引っ込めようとした。

しかしそれはシャルルも同じようだったようで、彼女の方が先に手に引かれる。

 

その結果

 

 

「っ!!!」

 

 

手にココアがかかり、あまりの熱さで顔を少し歪める飛色。

カップはかかってない手で床寸前でキャッチでき、そのまま水道まで駆け出して水道の蛇口を思いっきり捻る。そのまま全開で流れる水に手を当てた。

 

 

「ゴ、ゴメン大丈夫!?ちょ、ちょっと見せて!」

 

 

そう言いながら駆け寄ってきたシャルルが飛色の手を覗きだす。

というより、密着するようになってしまう。

 

 

「っ!!!」

 

「……ああ、赤くなってる。本当にゴメンね」

 

「その前にお前は自分の体勢を考えろ!!」

 

 

一刻も早く離れてほしかったのか、シャルルのためを思ったのか、勢いよく怒鳴りだす飛色。

シャルルは初めて飛色に怒鳴られて少し驚くが、言われたことを確認する。

 

体勢を考える……今の自分の体勢、腕に密着するようにしている。

しかも女子特有のもの、つまり胸は…………ブラを着けていない。

 

それはつまり………

 

 

「!!!」

 

自分も気付いたのか、飛びのけるシャルル。

水を当てて動けない飛色に向き直り

 

 

「……………遠木くん……エッチ」

 

「ふざけるな!!」

 

 

いつもの冷静な受け答え方はどこへやら……

怒りでそうなってしまう飛色だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、何もないのか?」

 

「え?」

 

 

氷袋を片手に縛った飛色が、入れ直したココアを一啜りして問いかける。

しかしその内容が予想していた物と違ったからか、シャルルは困惑する。

 

 

「……お前が話したくないなら別に構わん。人には話したくないことというのがあるからな」

 

 

ここまで来たというのに正体を知ったというのに問いただそうとはせず、あまつさえ無かったことにしようともしている。

 

偽善で言っているのか、本心で言ってるのか……

無表情である飛色からは、どちらなのか分からない。

 

 

「………話すよ。 ううん、僕から話したい」

 

「………………」

 

 

少し俯いていたシャルルは、決心したかのような瞳で飛色に視線を向ける。

それに対して飛色もカップを置いてシャルルに向き直る。

 

 

「僕がこうしてここに居るのは……実家からこうしろって言われてね……」

 

「………デュノア社か」

 

「そう、僕の父がそこの社長。 ……その人からの直接の命令でね」

 

 

話を続けるシャルルだが、その表情には曇りがある。

父という単語で少し反応する飛色であったが、一瞬で無表情に戻って話を聞き続ける。

 

 

「僕はね、遠木くん……愛人の子なんだよ」

 

 

それを聞いて今度は眉を寄せる飛色であったが、先ほどと同じように表情が戻る。

 

 

「……2年前、お母さんが倒れて、僕はデュノアに引き取られたんだ。お母さんは過労で倒れたって言ってたけど、今も入院中。しばらく会ってないけど、それでも定期的に連絡はくれるんだ。

 

 

 

(……………………母親が倒れて入院……強制的な引き取り……)

 

 

 

「それで僕は、デュノアでいろいろ検査を受ける過程でIS適性が高いことがわかったんだ。で、非公式であったけれど、テストパイロットをやることになってね。でも、父に会ったのはたったの2回だけ。話をした時間は1時間にも満たないかな」

 

 

 

(……………………………父親とは上手くいかず………)

 

 

 

「その後のことなんだけど―――」

 

「経営危機……なんだろ。 主流である第3世代の開発が遅れて、欧州の『イグニッション・プラン』から外された……お前のことを調べて行くうちに、フランスのニュースを見て知った」

 

 

先に飛色が言ったことにシャルルは驚愕する。

飛色がデュノアの名を知ってからフランス本社について軽く調べていたらそのことはすぐに分かっていた。なんせフランスのニュースでもやっていたのことがネットにあったのだから。

 

 

「……うん、まあ、その通りだよ。リヴァイヴは結局第2世代だからね。第3世代の開発に着手はしてるんだけど、なかなか形にはならないから……だから―――」

 

「だからこそ、お前をこの学園に男子として送り込んだ……広告塔と、俺や織斑のデータを盗むために………違うか?」

 

「……なんでそこまでわかっちゃうのかな?」

 

「簡単な推測だ。特異ケースである男の操縦者……俺や織斑を欲しがらない企業なんているはずないだろう。だが俺たちが居るのはIS学園……さすがにそこへ手を出そうと考えるバカはいない。ならば接触しやすくしてデータだけでも、と考えて偽装させる。そして男子としてデビューすれば間違いなく……こんな所だ」

 

 

推測でしかないがな。と付け加えるが、最早先のことがわかっているかのようだった。

 

その様子にシャルルは苦笑しながらも、それを否定せずにいる。

つまりは……

 

 

「………すごいね、飛色は。そう、あの人からも『同じ男子なら日本で現れた特異ケースと接触しやすいから』………そう言われたんだよ………」

 

「…………………」

 

 

途中で飛色が口を挟んだが、話が締められる。

飛色はその無表情と無言の状態だった。

父親はシャルルを道具として扱っている。そしてそのリスクすらも、分かっているかのように。

 

シャルルもシャルルで、父親のことを他人行儀に話した。

 

 

「ああ、なんだか話したら楽になったよ。聞いてくれてありがとう。それと、今まで嘘ついてゴメン」

 

「………お前はこれからどうするつもりだ」

 

「……わからない。でも、正体がバレたから、きっと本国に呼び戻されるだろうね……後のことはわからない。良くて、牢屋行きかな」

 

 

そこまで聞いた飛色は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………父親というのは、どこも身勝手なものだな」

 

「?」

 

 

フッと笑う飛色の小言にシャルルは疑問を抱く。

 

 

「………俺の親父も、10年ほど前に蒸発したんだよ」

 

「え?」

 

「それからは母さんと二人暮らし……そして母さんは今怪我をして入院中だ」

 

 

お前の母親と同じようにな、と付け足してくる。そしてそれに驚愕するシャルル。

一夏についてのことは事前に資料で知っていたが、飛色に関してはこれと言った資料が見つからず、知らなかったからだ。

 

“遠木”という名字も、世界で知れ渡っている“織斑”と比べれば有名というわけではない。

だから、飛色の経歴には大して目を向けていなかった。

 

わかったことと言えば、名前や学歴などで、家族事情などは特に知らなかった。

 

 

「母さんが働いていた分のほとんどは治療費や入院費で使ってる。俺に使ってほしいと言ったが、それだと母さんの方が払えなくなる。別に俺は欲深いわけでもないしな」

 

 

そのことを聞いてシャルルは転校した日の昼食を思い出す。

一夏が『親はどうしているのか』と聞いた途端にあの場から離れて行ったのはそういうことだったのだろう。金がないというのも今の説明と最近聞いたこと(・・・・・・・)で何となくわかる気がする。

 

聞いたこと、というのは飛色の部屋………

 

同居していてわかったのだが、飛色には生活用品以外……娯楽関係の物などが一つ(・・)しかない。

 

部屋の勉強に使用している本は、殆どが学園の図書館、又は最寄りの市民図書館などから借りている物だと以前言っていたのも思い出す。

 

 

「じゃあ……学費は?」

 

「政府から出してもらっている。もともと強制入学させられた身だ」

 

 

また少し笑いながら言ってくる飛色。

そうやって言われても、シャルルは笑うこともせず、飛色の話が気になるのか、ただ聞いている状態。

 

 

「後のことはわからない、か……お前はまだいいと思う。俺なんて、お前よりも未来が見えてこないからな」

 

「?……どういうこと?」

 

「男のIS操縦者……今はIS学園という籠で守られているが、卒業したらもうそこから追い出される。そうなったらどうなるかぐらいわかるだろ」

 

「………えっと」

 

 

言っていることが理解できず、シャルルは頬を掻く。

飛色はそんなシャルルを見て、説明不足か言い方が悪かったなと考えて推論を喋り出す。

 

 

「お前の言った特異ケース……そんなものを調べたくないところなどないさ。俺と違って織斑にはデカい後ろ盾がある……だからこそ、俺を狙ってくるだろ。誘拐なんかしてでも………そうなれば人……というより実験生物扱い……皮膚や臓器、血液、脂肪、毛の一本だって、研究材料にするだろうな……」

 

 

飛色の考えを聞かされたシャルルは唖然としていた。

何にかと言えば、いろいろ……

 

そこまで未来(さき)を考えていたこと、そしてそれはあまりにも的を射ていること。

 

自分は牢屋行き。対して彼は牢屋どころか、人間とすら扱われなくなる。

これではどちらが辛いかなど、考えるのは容易だ。

 

 

「でも、そんな人から外れるようなことが……」

 

「あるわけない……と絶対に言えるか?」

 

 

飛色に問われて、シャルルは黙って下を向いてしまう。

本当はそんなことないと言いたいが、さっきの説明から自信がなくなる。

 

男の操縦者は世界で現在二人だけ。

研究させてくれ、なんて考える人物が居れば間違いなくハイリスクの一夏より飛色を取っていく。

こうして自分も一夏ではなく、飛色を観察対象にしているのが良い例だ。

 

 

「その………ゴメン」

 

「別に構わん。見解の相違だ。……………それに、今は(・・)、だしな」

 

「え?」

 

 

もう何度目になるかわからないシャルルの疑問の声。

飛色を見れば、どこか決意しているような顔つきになっている。

 

 

「卒業するまで3年……もしかしたらその間で起きた事、それ次第で変わるかもしれない。成績が良かったから、この企業への推薦が出来る。この企業ならまだ所属してもいいと考えられる。そんな出来事があるかもしれない。俺に出来るかと言ったら、かなり難しいだろうな……それにお前も、デュノア社が何も開発そのものが止まってるわけではないだろ?なら、“もしも第3世代の開発に成功できたら”……それで復興できるだろう。その“もしも”のために……お前はそれまでに何をすればいいと思ってる?」

 

「でも―――」

 

「飽く迄、一例を挙げただけだ。でもも何もない。それに……お前は3年間、ずっと考えずに過ごす気か?」

 

「………」

 

「……なら、ここにいればいいだろ」

 

「え?」

 

「……俺が言わなければ周りの奴らは気付かないだろうし、仮にバレたとしても、この学園そのものがお前を守れるだろ。俺たちもそれに守られているに近いからな」

 

「え……えと……」

 

「………時間などないだろうと思うことはないだろう。IS学園特記事項、第21、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする」

 

「……あ!」

 

 

暗記してある特記事項の一つ、目を閉じてそれをスラスラと言う飛色。

いきなり何を言い出したかと思ったが、シャルルはそれを理解する。

 

 

「―――要はこの学園にいれば、3年は問題ない筈だ。俺はこれで守られているようなものだしな。考える時間はまだあるにはある……だからと言って別に急がない理由にはならないがな」

 

「……よく覚えられたね。特記事項って55個もあるのに」

 

「俺の生活は知っているだろう」

 

「そうだったね。ふふっ」

 

 

その時のシャルルは………心から笑った。

その表情を見た飛色は、頬を顔を赤くしているのが自分でもわかる様になる。

 

可愛く、そして純粋……飛色にはそう見えていた。

 

それにつられるかのように、飛色も笑う。

………誰にも分からないぐらい小さくだが。

 

なんとか誤魔化そうと、本人は話を続ける。

 

 

「……決めるのはお前自身だ。望みがあるならまず行動しろ。それが人生の基本ルール。……だから俺は自分で考え、自分で行動する。……お前も、自分で考えて、自分で決めろ」

 

「……うん。そうするよ遠―――この際、飛色って呼んでいい?」

 

 

一瞬、シャルルが考え込んで名前を呼ぶと、飛色の眉が少し動く。

 

名前で呼ばれることはあまり好まない飛色であるが、ここで拒絶するのもどうかと思う。

そしてそのまま目を閉じると、少し溜息をする。

 

 

「……………決めるのはお前自身だ。といったばかりだ」

 

「ふふ、ねぇ飛色」

 

「……なんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――ありがとう

 

 

 

 

 

コンコン

 

「「!?」」

 

『おーい、シャルル、遠木。飯行かねえかー?』

 

ノックの音に、二人の身体がビクリとはねる。

掛けてきた声は男のもの……要するに一夏だが。

 

 

『おーい……入るぞー』

 

「「(不味い!!)」」

 

 

すでにドアが開こうとして、二人は同時にそう思う。

ここに居るシャルルは一目見れば女だとわかる格好だ。

それを他人に知られるのはかなり不味い。

 

 

「ど、どうしよう?」

 

「落ち着け。布団の中に入れ」

 

「あ、ああっ、そっか!」

 

 

慌ただしく動くシャルルと、内心焦っているが冷静に対処する飛色。

そのおかげで事なきをえた。

 

 

「織斑か」

 

「おう、これから飯食いに行こうと思ったんだけど……シャルル、どうかしたのか?」

 

「具合が悪いようだ。帰ってきて早々、寝ていたしな。飯だったか。俺は別に行けるが、デュノアは部屋で待ってもらった方がいいだろう」

 

「ゴホッ、ゴホッ、だ、大丈夫だから」

 

 

わざとらしい咳をしたシャルルに、飛色は更に内心で焦り、冷や汗を流す。

普通ならここで何か突っ込んでくるだろうが

 

 

「そうか。じゃあ俺と遠木だけで行ってくる」

 

「飯は食堂の物をもらってくるからしばらく寝てろ」

 

「う、うん、ゴホッ、ゴホッ、よろしく……」

 

 

ラッキーなことに一夏の鈍感スキルがここでも働いてくれた。

 

いつもなら、バカ、アホ、などと考える飛色であるが、この時ばかりは助かったと心の底から思った。

 

 

「んじゃシャルル、お大事に」

 

「なるべく早く戻る」

 

そう告げて、一夏と共に飛色は部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………自分で考えて、自分で決めろ……か」

 

飛色たちが部屋を出て、残ったシャルルは先ほど飛色に言われたことを反芻していた。

 

「………そうだよね。自分で決めていかないと」

 

僅かばかりの光……それでもシャルルにとっては、それが大きな希望にも映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして

 

 

「今戻った」

 

「あ、飛色。おかえり」

 

 

貰った焼き魚定食を持つ飛色は、部屋の電気をつけて入室した。

 

 

「………すまんが余っていたのがこれだけだった。食べるか?」

 

「うん、ありがとう。いただくよ」

 

 

飛色はシャルルのデスクに置くが、それを見たところで、突然シャルルは固まった。

 

 

「……………」

 

「い、いただきま―――」

 

「いや待て」

 

 

さっきからシャルルがぎこちないのに気付いて、飛色は待ったをかける。

箸を持って食べようとしたシャルルも、それで一旦止まる。

 

 

「……箸使えないんじゃないのか?」

 

「! ……な、なんのことかな?」

 

「………………今のはお前の表情がわかりやすいからだ」

 

「うっ………ぅぅ……まあ、練習してはいるんだけど……」

 

 

飛色の考えが図星だったようで、シャルルは少し落ち込む。

はぁ、と溜息をすると、飛色は背をキッチンに向けて歩き出す。

 

 

「え、えと、どこに……?」

 

「フォークを取ってくる」

 

「え!?い、いいよ、別にそこまでしてもらわなくても」

 

「だが食べづらいんだろ? 俺は別に人に協力を頼むことを悪いとは言わん」

 

 

そう言ってくる飛色に、少し考え込む。

そして結論が出たのか、顔を上げたシャルルは少し恥ずかしそうに

 

 

「じゃ、じゃあ、さ―――」

 

 

 

 

 

「………食べさせて欲しいなんて考えてないよな?」

 

「(ドキィ!!)そ、そんなわけ、! 」

 

 

先読みした飛色にアワワワと慌てだすシャルル。

それを見て、飛色はまたも図星だと確信する。

 

 

「はぁ、それじゃあ肯定してるのと変わらんぞ」

 

「ぅぅ~……(絶対、変な奴って思われてるよ~ )」

 

 

溜息と指摘をする飛色にシャルルは、ネガティブな思考になっていく。

 

 

「………箸を貸せ」

 

「え?」

 

 

なんで、と聞こうとしたシャルルだが、手からスルリと割り箸が取られ、飛色はそれを綺麗に割る。

 

 

「何を食う?」

 

「え、えぇ!?」

 

 

何が言ってるのか理解した瞬間、これ以上無いほどに頬が赤に染まる。

 

 

「早く言え」

 

「う、うん……魚でお願い」

 

 

わかった、と飛色は了承すると、身をほぐして摘まみだす。

ちゃんと一口サイズになるほどの大きさにもなっている。

 

 

「ほら、口開けろ。あーん」

 

「あ、あーん」

 

 

飛色がそっと口まで運ぶと、シャルルはそれをもぐもぐと咀嚼する。

その頬は誰から見ても、かなり赤くなっている。

 

 

「………どうだ?」

 

「う、うん。おいしいよ。……飛色はなんか手馴れてるようなんだけど、なんで?」

 

「………母さんが入院したての頃な」

 

「あ、ああ! それで……」

 

 

飛色の手際の良さ、その理由に納得する。

 

 

「次は?」

 

「え、えっと……ご飯がいいな」

 

「わかった」

 

 

言われた飛色は、また一口程の量で摘まむ。

それを他の物でもまた………

 

 

 

こうして、最後まで飛色がやることになり、終わるころにはシャルルは耳まで赤くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャルルが就寝した後

 

部屋で今にも死にそうな息遣いをしていた男子が一名いたのは余談だ………

 

 

 

 

 




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