「うっ……」
目が覚めると、見知らぬ場所にいた。
意識がまだはっきりしないのか、視界が酷く歪んで見える。体を動かすのも億劫で、自分の手足すら確認することができない。
そしてぼんやり奥に見える、黄色い何か。それが名状しがたい声色で語りかけてくる。
「目が覚めたか、不運なる者よ」
そうだ、確か俺は……
その日俺は早出のためにいつもより早く起こされ、睡眠不足のまま仕事を終え帰宅していた時だった。駅前を歩いていると金髪の外国人らしき女性に辿々しい日本語で声をかけられたのだ。
「アナタ今幸セデフカー?」
お決まりの宗教の勧誘だった。普段の冴えた脳みそなら適当にあしらうところだが、生憎その時の俺はそうではなかった。
正直、今の生活は不幸というほどでは無い。可もなく不可もなく、普通に生きていくには問題ないが、それ以上を求めるには足りない。良い言い方をすれば「身の丈に合った生活」。
そんな感じの返答をしてしまい、後はあれこれ言いくるめられて彼らの教団の施設に連れて行かれることになった。流石にへんちくりんな施設が視界に入ると脳が遅すぎる警告信号を発し、俺は逃げようと信徒らと揉み合いになった途端、そいつらの1人が2つの太い筒に配線やら引き金やらつけた物騒なものを向けてきた。何を思ったか俺はそれを掴んで映画みたいに奪い取ろうとし……気付いたらこの直線バカ◯マ娘やキリスト教徒が見たら発狂しそうな非ユークリッド幾何学的な意匠を凝らした素敵な場所に居たのである。
ということは最近流行りの異世界転生か。どう見ても魔王城といった雰囲気だが、最近は魔王側につく話もあるしそっちかも……などと考えていると奥にいる存在が再び語りかけてくる。だんだん視界も鮮明になり、語りかけてきた何かも黄色いローブを纏った王として認識することができた。
「貴様は不運にも我を崇める人の子に殺され、神たる我に魂を掬われここにある。」
えっ、神様……?じゃあ生き返らせてもらえたりとかは……まだやり残したことが山ほどあるしスリープ状態で放置しているPCの中を覗かれると色々まずいというか……
「それは出来ぬ。貴様の肉体は火葬され、戻るべき器を失った。見よ。」
黄色い神様はそう言うと傍にあったこれまた冒涜的な形状の巨大な鏡に映像が浮かび上がる。さすが神様。4kなんて目じゃない神画質だ。そこには見覚えのある火葬場で悲しげに遺骨を拾う家族の姿が映し出されていた。頭蓋骨には大穴が空いている。
「あの骨が貴様だ。」
そう言われると自分が死んだことに妙に納得してしまう。祖父母の死の時も火葬前の遺体は本当に生きていた頃のままで、もしかしたら生きてるんじゃないかという考えに縋りたくなり、そして火葬され遺骨と灰になって改めて死を実感したものだ。
家族は骨が細い、親より先に逝くとは不孝者めだの何だの言いながら俺の遺骨を骨壷に収めていく。悪かったですねえ不健康な食生活で!
……ともあれ、もう元の世界に戻れないことはわかりましたけど、この後どうなるのでしょうか?もしかしてずっとここで魂のまま暮らすとか……?
「貴様にはある星へ行き、我が目となってもらう。魂なき器に宿り多くのものを見よ……」
要約するとどうやらその星に転生して当面は自由に暮らせとのことだ。神様が何を考えてるか分からないが、最初は情報収集に徹するという事なのだろう。
「では行くが良い……我が僕、『星間の駿馬』……我が名は『黄衣の王』ハスター也……」