カジミエーシュの未踏領域、環山高地平原。その麓に騎士身分であるクシェシンスキ家の領地があった。そしてその移動都市『マガス』では、突然の天災警報に蜂の巣を突いたような騒ぎになっていた。
「何故いきなり天災警報が出る!天災トランスポーターは何をしていた!」
「わかりません!数分前までセンサーでも半径100キロ以内に異常は無かったのに!」
「言い訳をする前に手を動かせ!緊急回避だ、速度を上げろ!」
「駄目です!天災雲直撃コース、避けきれません!」
「くそっ、よりにもよってこんな時に……」
突如現れた天災雲が『マガス』を覆い、1つの隕石が都市に直撃する。幸運だったのは破壊されたのが1区画だけである事、不運だったのはその区画が領主であるクシェシンスキ家の屋敷で、そこでまさに領主へミュツ=クシェシンスキが妻ゼラスサの出産に立ち会っていた時だった事……彼は咄嗟に妻と、生まれたばかりの我が子を庇おうとして覆い被さり……そして隕石が都市区画ごと邸宅を木っ端微塵に粉砕した。
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「これはひどい……」
天災雲の直撃後、死亡したヘミュツの姉であるサタナ=クシェシンスカは粉砕された都市区画を旦那のムリナールと共に歩いていた。彼女は軍務でいつものように国境にちょっかいを出してきたウルサス軍を撃退した後、故郷の惨劇を聞いて銀槍のペガサスの名に恥じない速度で帰還したのだ。周囲ではすでに損壊した区画を切り離す作業が行われていた。
「流石にこの有様では何も残っていないでしょうね……」
「そうだな、ヘミュツたちについては残念だった……待て、何か聞こえる……」
かつてあっただろう立派な邸宅は見る影もない。彼女が諦め、葬儀の準備と都市区画の切り離しを指示しようとしたところで、ムリナールの耳は微細な音を拾った。まるで赤ん坊が泣き叫ぶような声。それを聞いた2人は急いで音の方向へ駆け寄り、瓦礫をどかす。
炭化した2つの死体に守られるように赤ん坊は包まれていた。傍らにはヘミュツが愛用していた剣が転がっていたから、その遺体が領主ヘミュツであることは疑いようがない。ならば、もう一方はゼラスサだろう。一体どうしてこの子だけ無事なのかは知らない。
「とっさに我が子を庇ったのか」
「見たところオリパシーにも感染している形跡もないわね……念のため病院で見てもらったほうがいいのでしょうけど」
救い出された子供はバトラズと名付けられた。太古の祖先の神話に謡われる、父の瘤より生まれし英雄と同じ名。
のちに「黯騎士」と呼ばれ、カジミエーシュを強国へ押し上げた男が生まれた瞬間だった。