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我らは見た、黄金のペガサスがその光を解き放つのを。
神よ、何という力であろう! 彼らは煙の中を走り抜けた。
その蹄の響きは幾千もの鍛冶屋たちが幾千もの槌を振り下ろすが如くであった。
我らは見た、おお、主よ、聖母よ!
精鋭たちの長槍は、ライ麦の茎の如くに倒され、前に向けて構えられた。
騎士は嵐の如し、栄光は迸らんとす。
彼らの目前で術師は輝くアーツを放つ!
しかし騎士たちはとどまることなくウルサス人どもに襲いかかる!
騎士たちはウルサスの盾兵たちを打ち砕き……踏みにじる!
さらに次の連隊を……踏みにじる!
抵抗は砕かれ、解け散る。
騎士たちは大通りを行進するが如くやすやすと前進する。
彼らは難なく敵の大軍をまるごと切り裂いてしまった。
次の獲物は……重装のウェンディゴ、
ウルサスの皇帝その人の立つところ。すでに敵の近衛隊は打ち震えていた!
――ヘンリー・シェンキェーヴィチ「大洪水」より
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俺がこの世界に転生して5年くらい経った。
ポーランド語……ではなくカジミエーシュ語にも慣れ、自分の置かれた状況やこの世界についてもおおむね理解できるようになってきた。
まずは家族構成について。
養母のサタナ=クシェシンスカおかあさん。(おばさんと呼んだら飯抜きにされた)
茶髪の美人でスタイルもいいクランタ(テラではウマ耳の人種をこう言うらしい)女性で、騎士身分で領主の貴族らしい。性格はいたずらっぽいみたいで、おじさんにちょっかいを掛けてその堅い顔が綻ぶのを喜んでいる節がある。
そして養父のムリナール=クシェシンスキおじさん。
この人も騎士身分。いつも剣を手放さない、金髪イケメン高身長のクランタ男性だ。いつも気難しい顔で新聞を読んでおり話しかけづらそうだが、よく遊びに付き合ってくれたりと面倒見は良い。
転生直後は勘違いしていたが、俺は二人の実子ではないらしい。俺が生まれた時に実の両親は天災に巻き込まれ、俺を庇って死んでしまったということだ。テラでの実の両親に会えなかったのは残念だが、異世界転生で貴族の家に生まれれば難易度は平民生まれと比べて格段に下がるので親ガチャは大成功……と気持ちを切り替えることにした。
神に感謝せねば。いあいあはすたあ!
次にこの世界について。
この世界は「テラ」と呼ばれており、住民たちは自分たちの世界のことを「大地」と表現する。「世界」と言ったら義母が「あらあらそんな言葉どこで覚えたのかしら」と不思議そうにしていたからまず使わないらしい。この世界の信仰なのだろうか?
そして鉱石病。
不治の病とされており、テラのそこら中にある源石、オリジニウムが体内に入る形で感染すると徐々に体が源石に置き換えられ、死ぬと四方八方に粉塵をまき散らすという恐ろしい病である。オリジニウムはこの大地で頻繁に発生する天災によってももたらされる。テラでは街1つ壊滅させる規模の天災が頻繁に発生するおかげで人々は定住することができず、主要都市は絶えず移動して天災から逃げ続けているらしい。天災に巻き込まれ生き残った人々は高確率で感染するらしく、俺が感染していないのは奇跡だと義両親は言っていた。なんでも感染するとその恐ろしい性質からもれなく差別迫害に巻き込まれ、貴族であってもお家追放は免れないらしい。いくら何でもやり過ぎではないかとも思うが。
そしてテラにはいくつもの国家が存在する。全部挙げだすとキリがないので、カジミエーシュ周辺に絞ることとする。
カジミエーシュ。
言うまでもなく俺が生まれた国である。史実で分割されたポーランド=リトアニア共和国が存続して資本主義が発展したような国である。
首都のカヴァレリエルキでは騎士競技会とかいうものが開催されているらしく、ムリナールおじさんに見に行きたいとお願いしたらすごい嫌な顔をされた。義母に聞くと腐敗と利権の温床らしく、おじさんはそういうのをよく思っていないらしい。どうやらオ◯ンピックみたいなものらしい。
俺の家はクシェシンスキ家と言い、カジミエーシュの貴族階級である騎士身分で、首都から離れたところに領地を持っている。領地は人類未踏の地とされる環山高地平原の麓に位置しており、地震が多いことや、好奇心から赴いたものたちが1人を残して全滅、彼から語られた名状し難い一行の最後のために、周囲の人間からは「禁忌の地」と呼ばれて忌み嫌われているらしい。他の貴族と同じように移動都市を首都としており、都市は『マガス』と呼ばれている。家の由来はかつてカジミエーシュに侵攻してきた「悪夢のハガン」に服属した、この山地の麓に広がる平原部に住んでいた遊牧民の族長の系譜に連なるのだそう。そのためか、他の西洋的で現代的なカジミエーシュ貴族とは異なった、16世紀から18世紀にかけてのポーランドで花開いたサルマティズムに近い文化を有している。
ヴィクトリア帝国。
史実の大英帝国そのまんまみたいな国で、テラで一番裕福な国らしい。異世界でも元気にブリカスをやってる様子。
リターニア。
史実のドイツ・オーストリアがモデルっぽい国。ちょび髭みたいな独裁者による恐怖政治が終わり、今はマシになっているらしいが、それでも以前我が国との国境で小競り合いがあったという。今は和平が結ばれ文化交流もあるらしいが、警戒は必要だろう。
ウルサス帝国。
カジミエーシュの北方に位置する国で、世界史の授業に出てきた帝政ロシアみたいな国だ。調べると極東の小国をはじめ隣接する国家に手当たり次第に侵略を仕掛けているらしく、我らが祖国とも戦争状態になっている。前世で似たような国が難癖付けて隣国を侵略しているのを思い出し、俺のかの国への好感度は最悪になった。
サーミ。
ウルサス帝国被害者の会筆頭の国である。北欧や北極圏の民族の文化が混ざったような国で、観光地として急速に訪れるカジミエーシュ人も多いのだとか。
義両親も軍に所属しているらしく、ウルサスが攻めてくる度に俺は親戚のニアール家に預けられる。2人の口からそう言われたわけではないが、現在の情勢と2人の身支度を見れば、だいたい察しはつく。
しかし二アール家もまた当主のスニッツさんとその奥さんのヨランタさんが軍人で出征に行ってしまうため、家には病床に臥せているキリルお爺さんを除けば少し歳が上の分家のゾフィア姉さんや同い年で誕生日も近いマーガレットだけになり、自然とこの3人で遊ぶことになる。
騎士物語の本を読んだり、勉強で分からないところを3人であれこれ言いながら解いたり、生まれたばかりのマーガレットの妹マリアの子育てをしたり木剣を使ったチャンバラごっこをしたりして時間を共に過ごした。
チャンバラではマーガレットが強かったが、勉強では俺とゾフィアの方に分があった。年の功ってやつだ。
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庭で孫たちが木剣を振るっているのを自室の窓から眺める。
ニアール家のマーガレットとゾフィア、そして親戚となったクシェシンスキ家のバトラズ。彼は時折年齢に似合わない聡さを見せる。両親が家を空ける理由についてもなんとなく察しており、そして……その原因となる国家をひどく嫌悪していた。
「ウルサスなんて国が、ウルサス人が消えて無くなればみんなで一緒に遊べるようになりますか?」
子供は恐ろしい。その純粋さから時折とんでもないことを言い出す。
「確かにお父さんたちが戦っているのは悪いウルサス人たちだ。でも良いウルサス人だっていない訳じゃない。フォーゲルヴァイデさんとこの鍛冶師さんだって悪い人じゃないだろう?」
「確かに……分かりました。」
そう諭すと彼は頷きつつも若干納得していないようだった。無理に今言い聞かせる事でもない、聡い子ならば成長すればおのずと理解してくれるだろう。
貴族たちがウルサスの国体が揺らいだ隙を突いて失地を回復するべきだと主張し始まったこの戦争。我が国は血峰の戦いに負け、それ以降はさらなるウルサスの侵攻を防ぐのに精一杯という戦況のようだ。親たちはなんとか我が子と関わる時間を作ろうと苦心しているようだが……私も病に犯される身で先が長くはない。状況が好転すれば良いが……