テラには魔法に似た技術が存在する。それがオリジニウム・アーツだ。
もっとも一般的な魔法のイメージとは裏腹にアーツは学問として体系化されており、誰でも適性さえあれば学ぶことができる。
……そう、適性さえあれば。
俺にはその適性がなかった。アーツ学Ⅰの教科書を読み込んでその通りに実践しても、初歩の初歩すら習得できなかったのだ。
両親に相談したところ、俺の体質のせいだろうと言われた。
体内に源石が全く存在しないからかもしれない、と。
この世界では非感染者でもごく微量の源石が体内に存在している。感染者は体内の源石を使って強力なアーツを放てるのだとか。
アーツ適正が欠落していても心配することはない、他に身を立てる術はいくらでもあるのだから……そう慰めのお言葉をいただいた。
そんな俺にもなぜか唯一使用できるアーツがあった。
「バトラズ、塩コショウ取ってもらえるかしら」
「はいはーい」
卓上に塩コショウは置いてない。俺はキッチンに置いてあるそれに手を向けた。
すると容器が宙に浮く。俺はそれを食卓まで運び、サタナの前に置く。
重力操作。
それが俺の能力だ。階段から落ちそうになったキリルお爺さんを助けようと無意識に発動させた時に判明した。何故このアーツだけ使えるのか分からない。もしかしたらアーツでないのかもしれないが、俺はこのアーツを極めていくことにした。
ニアール家に預けられる定例イベントにて、俺は早速重力アーツをいとこたちとの稽古に使っている……というより、俺がキリル爺さんを助けたところを見たマーガレットが「騎士はあらゆる敵に対応できないといけない」とアーツの使用を求めてきたのである。
重力のアーツで楽々勝利……などと考えていたがそう甘くはなかった。自分の剣を軽くしたり逆に攻撃の時に重くしたりしようとすると感覚の違いに振り回され思うように剣を振れない。自分を軽くしようとしたら加減を間違え転倒してしまい、そこを突かれ敗北してしまった……使いこなすには練習が必要なようだ。
最初こそキリルさんに使ってしまったが、それ以降はあえて他人にアーツを使うことはしなかった。
力は加減を誤れば容易に他者の命を奪いかねない。
下手に重力を操作して幼馴染のマーガレットやゾフィアが目の前でぺしゃんこにしてしまったりでもすれば、取り返しのつかないことになる……彼女たちを傷つける事だけはしたくなかった……だから彼女に勝てないのだろうか。
そのため最初はモノで実験して段々力を強くしていき、次に自分で試してみて、他人に対しても安全に使える所まで上達した。
そんな感じで俺がアーツに慣れて来て少ししたら、彼女もまたアーツを使うようになってきた。
ニアール家のアーツは光に関係するようで、そのアーツを攻撃防御、そして回復に使えるらしい。
ムリナールおじさんもそういえば光り輝く斬撃を飛ばして見せてくれた記憶がある。いいなあ、俺も斬撃飛ばしたい。重力操作でなんとかならないか……?
そんな思考を脇に置き、俺はマーガレットと対峙する。
彼女は父から貰った木製のソードスピアを俺に向け、突進の構えを取っている。
スニッツ叔父さんが見せてくれた、銀槍のペガサスが敵軍に突撃する時の構えだ。
彼らが一旦突撃すれば、リターニアの金律法衛によるアーツも、氷の壁の如く立ち塞がるウルサスの重装盾兵の密集陣形も止めることは出来ない。
「始め!」
審判役のゾフィアの掛け声とともにマーガレットが突撃する。
俺は重力のアーツで彼女の動きを食い止める。突進の構えのまま、彼女は地面に縫い留められる。
勝てる……!
「今日こそ勝たせてもらうぞ!」
「くっ……だがこれならばどうだ!」
「うおっ、眩しっ!」
マーガレットの放つ光のアーツに視界を奪われ、転倒する。
次に目を開けた時には、喉元に彼女の得物の切っ先が付きつけられていた。
「そこまで!マーガレットの勝ちよ!」
「騎士様の戦い方じゃない……」
「あなたのアーツも大概だろう」
勝敗が決し、俺は差し出された手を取り起き上がる。いつも通り握手を交わし、ゾフィアが拍手……
あれ、拍手する人が多いような……?
「二人とも、よい動きだった」
スニッツ・二アールが幼い二人の健闘を称えていた。