「「ありがとうございます、お父様(おじ様)」」
声をかけられた俺とマーガレットはそれぞれスニッツに挨拶をする。スニッツさんも、訓練用の鎧に身を包み、木剣を手にしている。
「2人ともいい機会だ。私と手合わせしよう」
結果だけ言うと、勝ったとはいえなかった。確かにマーガレットも俺もスニッツさんを倒したが、おじさんがわざと隙を作るまで俺たちはどっちも仕掛けることができなかった……これが征戦騎士の実力なのか。今度しっかり稽古をつけてもらおう。
「ふふ、2人とも強くなったわね」
いつのまにかヨランタさんもいて、マリアを抱き抱えながら、俺たちの勝利を褒め称えていた。門の外にはムリナールも居て、いつものように難しい顔で立っている。
「また、ウルサスですか」
「君のウルサス嫌いは致命的だな……今回は違うんだが、話すことはできない。極秘任務なのでね」
「北にお土産を買いに行ったとでも思ってちょうだい」
北。ウルサスでないとしたらサーミか?
だがあそことは何もないはず……
「長くなるのですか?」
「少しね。だから、マリアとおじいちゃんのお世話をお願いね。」
ヨランタさんは抱いていたマリアをマーガレットに抱かせる。マーガレットは落とさないようにかなり気を使っているように思えた。
「バトラズ君も、お願いね。マーガレットもあなたのことをとっても……」
「は、母上!」
マーガレットが珍しく顔を真っ赤にして母に詰め寄る。
「あら、私としたことが……余計なお世話だったようね」
「叔父さんもたまに家にいてくれるらしい。何か困ったことがあれば頼るといい。バトラズ君も、我が家だと思って住んでくれていいからな」
そして、コン、コン……とドアを叩く音が聞こえる。銀槍のペガサスの名で知られる、2人の征戦騎士が迎えに来ていた。スニッツ夫妻は家族に別れを告げ、俺と彼女に見送られながら大騎士領を後にした。
2人が行った後、マーガレットはマリアを抱えたまま俯き、浮かない顔をしていた。
「大丈夫、また帰ってくるさ」
「……そうだな。」
結局、2人は帰ってくることはなかった。彼女も俺も、2人はもう帰ってこないのだということを受け入れていった。
幸いにも、マリアの子育てや勉強、鍛錬に追われる忙しい日々だった。悲しみに暮れる暇もなかったのは、かえって良かったのかもしれない。
ゾフィアの家とうちの実家の援助もあり、そこまで生活苦にはならなかった。
鍛錬についても、たまに帰ってくるムリナールおじさんの的確な指導のおかげでどんどん上達していったーーもっとも剣から光を出すことはできそうにないが。
まだマリアは赤子なので、俺とマーガレット、ゾフィアで交代しながらつきっきりで面倒を見なくてはいけない。マーガレットもゾフィアもまだ子供で甘えたい年頃だろうに、文句も言わずにお世話をしていた。俺は精神的に大人であることと、転生者特有の血縁意識の薄さからか寂しさや不満を感じることはなかった。
マリアの寝かしつけに疲れ寝てしまったマーガレットに毛布をかけ、ゆりかごで眠る仔馬ちゃんを見守る。この子を初めて抱っこした時は新鮮さと愛しさで胸がいっぱいになった。赤ん坊を抱くと子供が欲しくなりやすいと聞いたが、案外間違ってないのかもしれない。前世では結婚も子供も必須ではないと思っていたが、この世界ではいつか家庭を持つのも悪くないのかも……
「ん……ごめん寝ていた……」
寝落ちしたマーガレットが起きたらしい。寝ぼけているのか普段のような口調が抜けている。
「気にしないで。まだ寝ていていい……」
「マリアは……?」
「ちゃんと寝てるよ」
マーガレットの背中を優しくさすり、再び眠れるようにしてやる。
しかし、彼女の入眠は自身の空腹を知らせる音によって妨げられた。
「お腹すいた……」
「じゃあマリアを見てて。夜食を持ってくる」
「ありがとう……」
厨房でココアとドーナツを見つけてきた。二人でそれを食べながら仔馬ちゃんを見守っているうちに、いつしか眠気が襲ってくる。
俺たちはそのまま、ゆりかごのそばで眠りについてしまった。