「ZZZZZZ…………ん?」
「
二人がダンジョンから出てずいぷんたった頃、彼女らはおんぶスタイルのまま、ウバメの家に帰って来ていた。
なお、ボス戦の激しさに忘れている方も居るかもしれないが、そもそも
そのため、鋼十郎が帰ってくるまでの時間つぶし兼実力の試しとして、ダンジョンに潜るという計画だった。
その後で、帰ってきたら
(予定よりも遅くなってしまいましたね、お爺ちゃんまだ起きていると良いんですが……)
ダンジョン5階層でのボス戦に手間取った事、およびそれで
実際、昨日ウバメ経由でアポを取っているのは鋼十郎が帰ってくる夕方であり、彼が家に帰ってきたらウバメの紹介で
現在はとっぷりと日が沈み、辺りも暗くなった夜そのもの。先ほど、ダンジョンを出る時に
そこでドロップアイテムやポーション等、ある程度の荷物を預けて身軽になったとはいえ、人一人おんぶして歩いたため、結構な時間が経っている。
話を通しているとはいえ、時間がかなりズレている以上、まだ待ってくれているかは怪しいと言える状況だ。
時間にルーズな相手でも、一応は待たなくてはならない社会人と違い、半分世捨て人と化している鋼十郎はそこら辺容赦なく切り捨てるところがある。
そんな不安を抱きつつも、ウバメが家の戸を開け、帰ってきたという感覚で一息をつく。
ほんの数時間前に出ていった家なのに、無性に安心できる。そして、それ以上に自分達は大きなことを成したという達成感にも近い疲労。そんな安心感と疲れに引きずられるように、靴を適当に蹴り飛ばし、脱皮するように上着と防具を纏めて脱ぎすてた。
ついでに、今なおもおんぶされている
そんな彼女が次に感じたのは空腹だった。
ウバメは心地よい疲労感に足を引きずりながらも、寝ぼけ眼の
(たしかテーブルの上にお菓子がまだあったはず…………)
そのリビングには戦隊もので『○○レンジャー!!』なんて名前がついていそうな、全身スーツを着た不審人物が立っていた。
「……良く帰ったな、ウバメ。ついでにそちらが
というか、ウバメの祖父、鋼十郎がリビングでコスプレをして立っていた。
「「『………………』」」
なお、肉体はガッチリ筋肉が付いていると外から分かるくらい鍛えられているため、ヒョロガリが無理して着てる感は無いものの、顔部分、特に鋼十郎の豊かに蓄えられた髭がマスクを内側から押して、いびつな形にしているのが場違いさを加速させている。
『爺さん、とうとうボケたか』
口火を切ったのはアックスだった。彼は
「違うわ!!」
「その上自覚なし、と。……弟子や孫にイジメまがいのスパルタ訓練する鬼畜時代外れ糞爺だとは、思っていたけれど、こうまでとんちんかんなボケ方するとは……」
「聞こえとるわ! それにボケておるわけでは無い!!」
『その服装で客人を迎えて置いてか? ……TPOをわきまえられないのもボケの症状の一つだと思うがねぇ……?』
「アックス君……。あまり人を揶揄うのはよしたまえよ。ボケではなく認知症と言いたまえ。まだ受け答えが出来ることから、進行は初期。まだ病院にいれれば十分進行を和らげることが出来る……と思うよ。限られた時間を無駄にはさせてはいけない、早く病院に……」
「いい加減にせい、ボケでも痴呆でも認知症でもないわーーー!!!!!」
アックス、ウバメ、
数分後、鋼十郎の自室では装甲板付きツナギの少女、白衣を纏った科学者、顔だけお爺さんの特撮ヒーローがそろって正座で茶を飲み、おまけに金の斧が座布団に立つ。そんな奇妙な状況になっていた。
「……で、なんでそんな妙な格好をしているのでしょうか、お爺様?」
『ウバメ、なんか言葉がよそよそしくなってねーか?』
「もし、お爺ちゃんがふんどし一枚で徘徊するような事があったら、平然と他人のふりをできるようにしてないといけないですよね? その練習ですよ」
「せんわ!! というかウバメ、仮にも祖父である儂にたいして薄情すぎやせんか……?」
「それなら年齢弁えた振る舞いというものをしてください……。今100歳超えてるんですから……」
流石にこのままだと話が延々と脱線していくだけだと考えたのか、鋼十郎は無理やり軌道修正して話を続ける。
「これは儂の現役だった頃の装備、その中でも最強のものを着ているだけだ!! 儂らが現役だったころの礼儀がそうだっただけじゃ!! ――それで、
「…………とりあえず、お祖父さまの遺産というものについて、話を伺わせておくことは可能ですか? 私の祖父、
「ン……、平の遺産というと……あれか? ちょっと待ってくれ、確かこの引き出しに……と、あったあった、これだ。」
鋼十郎は
そういって引き出しから取り出したのは、何の変哲もない鍵だった。
「鍵……ですね?」『確かに鍵だな……特に何かしら呪いがかかってるとかでも無し……、なんでこんなもん他人に預けてんだ?』
そう言って不思議そうに話し合う
曰く、それは
なんでもそこはガチの隠し部屋らしく、鍵を持っていても特定の順番で物を動かしたりといった脱出ゲーム並みの仕組みを解かなければ入れない。他の方法で侵入するには家ごと更地にするレベルで家をぶっ壊さないと入れない強固なセキュリティがあるとのこと。
「そこまでして何を隠してたんですかね? お祖父ちゃん、なんか知ってますか?」
「儂も詳しくは知らん、が大体の想像はつく。大方、平の
「祖父と孫娘で
「……ああ、そうだ。もう一つ伝言だが」
鋼十郎は何でもないことのように湯呑みを傾ける。
「一番奥の“原子炉”はまだ未完成で、大したことは出来ないそうだ」
ブーーーーッ!!!
唐突すぎる、個人宅原子炉宣言にウバメがお茶を噴き出す。
『原子炉っつーと……アレか? ウランとか使って、莫大なエネルギーと引き換えに、放射能とかのそういうヤベェもんが出る?』
アックスの声から、珍しく茶化すような響きが消えていた。
だが。
「…………原子炉?」
天逆だけは、目を輝かせていた。
「ちょっと待ってください、お爺ちゃん」
「なんだ? ……おい、鼻から鼻毛みたいに茶柱が出とるぞ」
「余計なことは言わなくていい!!」と激しく咳き込み、お茶まじりの緑の鼻水をティッシュで拭きながら、ウバメは聞き間違いであってくれと祈りながら再度聞いた。
「今、なんて言いました?」
「原子炉と言ったが? ああ、アックスの想像してる原子炉であっとるぞ?」
「間違っていて欲しかったですよ!! なんでそんなものが個人宅にあるんですか!? つか、“まだ”って事は完成させる予定があったの!?」
「40才ぐらいの時に平が自作していてなあ。当時は色々と緩かったから、材料とか設計図も手に入りやすかったし。ウランとかの燃料も裏ルートを使ったり、ウランガラスをばらしてチマチマ集めたりして、たしか結構な量があると言っておったな……」
「「…………」」
なお、少女二人は両者ともに無言であったが、表情は正反対、ウバメは凄まじく面倒な事になるという顔を、逆に天逆はおもちゃを前にした子供のような興奮した顔をしていた事を追記しておく。
「なんだ、その顔は」
「いや……お祖父ちゃん。今の話、普通の人間なら警察に通報するか、お祖父ちゃんがボケた事にして闇に葬る内容ですよ……?」
「だが、ここでハッキリ言っておこう!! 私は普通の人間とは異なると!! ウバメ君もだ!! そして、祖父の宝を公僕にくれてやる気も、見なかったことにする気もない!!」
ノリノリの
彼女の心中には特大の厄ネタに対する面倒くささも確かにあった。
けれども、秘密を共有する嬉しさ、それが確かに存在していたのだった。