原子炉という色んな意味で爆弾な代物が六山町に存在すると分かった次の日、水曜日。二人は学校をサボってショッピングモールに来ていた。
本来は
「ダーメだ、こりゃ。もう手の付けようがないとしか言えないねぇ」
そこは何十種類もの機械が並んだ大部屋であり、ドリル付き加工機やデジタルモニタまみれの計測機器のような、素人にも何か分かるようなものもあれば、どうやって動かすのか、想像もつかないようなものまでが所せましと並んでいる。
「……原子炉以外にも、そんなにヤバいブツばっかだったので?」
ウバメからの言葉に
「中にはそういうのもあるねぇ。まあ、それ以前にほとんどの機器が経年劣化してて、正常に動くのか自体もさだかじゃない。肝心の原子炉の方も色々と未完成だし、
ガイガーカウンターとか、ウバメ君も聞いた事があるだろ? という天逆の言葉にウバメは思わず渋面になった。
「……一応聞きますけど、それって今の手持ちで出来るんで?」
「ボクの持ってるのじゃ工具の種類が足りないねぇ。……必要なのの中には今流通してないやつとかも混じってるし……。アックス君、キミ、変形できるなら工具になれたりしないかい?」
『無理だな。変形可能つってもそこまで精密な形にはなれねぇよ』
二人はひととおり考えたのち、「とりあえず手に入るものから」という事で六山町と一番近い三隅市、そこで最も品ぞろえが良いと名高いショッピングモールにやって来たのだった。
なお、この日は水曜日であり、しっかり中学があるのだが二人は思いっきりガン無視してサボっていた。
基本的に常時サボりまくっている(そしてそれが許されている)
「
それでも、別にあと数か月で卒業する(ここまで言及されていなかったが二人は中学三年生である)以上、どうでもいいかとブッチしてきたのだ。
『おいおい、ガッコーへの言い訳は大丈夫なのか? ウバメ』
「頭痛と腹痛と筋肉痛と腰痛と生理痛がセットでやって来た。――って電話で言っいたから大丈夫なんじゃないですか?」
「明らかに嘘であるって分かるサボり理由だねぇ……。せめて一つに絞りたまえよ」
「良いんですよ、一つの仮病ならともかく、何個もの仮病が嘘かなんて証明するのは相手側からしても手間なんですから、4つ偽だって証明しても、残りの一つの痛みのせいで誤認してたって言っときゃ良いんです。……ちなみに、
「ふつうにいつも通り、「今日も休みます」と言ったら「そうですか」の一言で終わりだねぇ」
「手慣れてんなぁ……。というか「今日は」じゃなくて、「今日も」なんですね。これが実績って事ですか」
溜息と共にウバメが世の不公平さに思いを巡らし、サボり方についての議論を溜息で終わらせる。
ちょうど、ショッピングモールの中でも目当てのテナント、各種工具を売っているホームセンターまで到着したからだ。
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それから1時間後、二人の少女は山のように工具が入った袋を抱えながらぐったりとほうほうのていで店から抜け出していた。
『店員の押し、強かったな……』
「ですね……」「だねぇ……」
店を離れた二人は明らかに生気を失っていた。その証拠に、天逆はがっくりと肩を落とし、ウバメもいつもはピンと立っているアホ毛がしおしおとしぼんでいる。
彼女たちがここまで疲れているのは、ウバメと
彼らは押し売りにならないラインで「この工具を使うと便利ですよ?」「これとセットだと役に立ちます!」とあの手この手で大量の商品を買わせようとしてきたのだ。
「客に大量に買わせるのが板につきすぎてますよ、彼らは。どんな接客教育してんですか、あの店は……」
「こっちが必要なものを聞かせたら、それに付随するもの関連で攻めてくるのがプロ臭いね……。ボーっとしてたらこの数倍は買わされてそうだったよ、まったく」
最終的には自分たちの家が六山町にある事、手作業で持ち運ぶにはこれぐらいが限界で、店がそこまで配達してくれるのならもっと買う事(六山町に至る道は勾配が激しく、かろうじて舗装されている路面もボロボロ、いわゆる酷道であるため、宅配便にも拒否される)を宣言し、怯んだ隙にそのまま逃げる様に店を出てくる事になった。
「とりあえず、なんか食べないかい? ……そろそろ昼時だし、お腹に何かいれておいた方がいいだろう?」
とりあえず目についたチェーン店、スイーツから軽食まで幅広く取り扱っているレストランとカフェのあいの子みたいな場所に入る二人。
彼女らは早々に荷物を降ろすと、メニューを広げながらウェイトレスに向かって自分の料理を注文していく。
「私は塩麺二杯とケーキで」「ボクは……ベーコンパイにクリームメロンソーダを頼むよ」
「かしこまりました~!! 現在当店ではご来店のお客様にくじを引いてもらうキャンペーンを行っておりまして、お一つどうぞ~!」
そう言われて、ウバメがついつい差し出されたくじ箱に手を入れてしまったのは良かったのか、悪かったのか。
それについてもっと考えるべきだった、と気づいたのは軽やかなベルの音、そして「特賞~~!」という掛け声とともに一抱えはある巨大なぬいぐるみが目の前に現れてからだった。
「…………あの、これは他の賞品に変えてもらうのは」
「ごめんなさい~。そういうのはちょっと~。お客様だけ特別扱いすると、他のお客様も似たような要望をしかねないので~」
明らかに持って歩くには大きすぎるぬいぐるみ、そして自分たちがここまで持ってきた工具の山。
それらを死んだ目で見ているウバメが特賞を全く喜んでいない事が分かったのか、ウェイトレスさんは申し訳なさそうにしているものの、それでも賞品を変えたいという要望は断られる。
たしかにそれを認めてしまったらくじの意味が無くなるし、当然の事なのかもしれない。だが、今のウバメにとってはただただ無情な宣告にしかならなかった。
一応、振り返りざまに「ごめんなさい~」と謝られたのは彼女なりの同情だったのか。
「…………どうしましょう、これ」
食事前の疲れが数倍になったかのように、ぐったりと項垂れながらウバメは呟く。
工具で膨れ上がったバッグに加えて、この大きさのぬいぐるみ。どう考えても手が足りそうにない。
「ボクとしては、適当にコインロッカーに預けておくことをお勧めするけどねぇ」
「料金掛かるじゃないですか……。こちとらひと月5000円のおこづかいでダンジョン探索含め、色々やりくりしてる身なんですよ? 装備もアイテムも命掛かってんだからケチれませんし」
(ここは夜食のグレードを一つ落とすか……。それともおやつを一食抜くか……。どっかで大量に買うと安くなるまとめ買いセールやってないかな……)
表向きはさも深刻そうな顔で悩みながら、頭の中ではかなりみみっちい考えを巡らせているウバメ。彼女にとっての福音が聞こえてきたのはそんな時だった。
「ええっ!!! もう『ケーキ・アニマルズ』のぬいぐるみ無くなっちゃったんですか!?」
その言葉につられて、店の入り口へと顔を向けたウバメ。
そこに居たのはファンシーな服に身を包んだ少女だった。
ただし、
身長の時点でもウバメより頭一つ半、ざっと30cm分は差を付けて高い。だからといってひょろ長い体型というわけではなく、全身にしっかりと肉がついている。その上、太っているという印象は感じさせず、むしろモデル体型と言える均衡のとれたプロポーション。
特に“ある部分”の主張が強すぎて、初見の人間はそこに目が向いてしまうほど豊満な体はウバメをひがませるのに十分なボリュームを持っていた。
(顔が見えネェ……)
そのデカさたるや、座っているウバメからは胸に阻まれて顔が見えないほど――といえば分かるだろうか?
「……そちらのお嬢さん。ぬいぐるみが欲しいなら譲りましょうか?」
厄介なブツを引き取ってくれるなら何でもいい。とばかりにウバメが声を掛ける。
「……ふへ? ほんとにいいの?」
「ええ、私が持っていても荷物になるだけなので」
(意外と顔若いな……成人してないかも?)
体の大きさから、大学生くらい――下手すりゃ成人している事を想定していたのだが、こちらを見つめる顔は整っていながらも、意外とあどけない。予想よりも年下なのかも……。
「うへへへーー。可愛いなあーー『ケーキ・タイガー』ちゃ~ん。ペロペロしよっかーー。んーー! ぬいぐるみなのに、甘い! これはもしやあたしの『ケーキ・タイガー』ちゃんへの愛がぬいぐるみを本物まで
そんな淡い感情は、ぬいぐるみに頬ずりしながらも、デレッデレに甘やかしまくる彼女を見て吹っ飛んだが。――というか、平日の昼間に公衆の面前で堂々とぬいぐるみをなめまわしている“これ”が成人であってほしくない。
その後、彼女に話しかけられたのは、しばらくたってぬいぐるみペロリストの奇行が収まった後だった。
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「ウバメさん、
(“少々”で済むんかね? アレが……)
(アックス! そういうのは心の中に留めておいてよ……)
ウバメは小声での突っ込みに「……たしかに」と思いつつも、向かい合って堂々と爆笑するのは失礼だろうと思い、顔がこわばるのを必死にとどめていた。
たたずまいを直し、席に座った彼女――
「――で、なんですが……お礼として何をすればいいのか分かんなくってさ!!」
(お淑やかさ、3行で消えたねぇ……)
(
「こっちとしては不用品を引き取ってもらっただけなんでそこまでは……」
「いや、「因果応報。恩には恩を、仇には仇を」ってのがウチの流派の掟でさ! 何もお礼をしなかったら師範に怒られそうで……」
「なるほど…………、流派?」
あんまり日常では聞かない言葉に首を傾げる二人。
「うん、あたし、
(かわいい……)
その言葉に一瞬頬が赤くなる。だが、その感情は、彼女に現在進行形で抱き潰されているぬいぐるみ(唾液でネチョネチョになっている上、鬼坂の力が強すぎるせいで胴が変形し始めている)を見て霧散した。
「……七枝流。たしか、ダンジョンでの戦闘のために生まれた新流派の一つ。七支刀を使う流派だっけ?」
「ふっふっふ、その通り! ウチの七枝流は、七支刀だけじゃなく、盾も併用する防御重視の武術で、
「元は古代ギリシアの
そんな風に一喜一憂しているウバメとは打って変わって冷静に飲み物を飲んでいる
「そうだよ、戦争が無い時代でも実戦の中で磨かれ続け、単独で戦う事に長けている警察の武術。そして集団近接戦の最適解たる
「それらを融合させ、ありとあらゆる状況に対応できるよう開祖が作り上げた武術。それこそが、七枝流であり、あたしこそが15歳にして七枝流の筆頭門下生、鬼坂ゆらぎなんだ!!」
「同い年!? ソレで!? ……あとついでに、アレで!?」
自分の流派が知られている事が嬉しかったのか、突如としてテンションMAXで宣言し、仁王立ちして喋り出す鬼坂。
余りにも自分と差がありすぎる肉体と、公衆の面前でペロリストになった前科に突っ込みを入れるウバメ。
冷静になってぬいぐるみのお返しの件について話すには、まだまだかかりそうだった。