「でね! でね! 師範が言ったんだ! パニック状態になって無辜の人々に襲い掛かろうとする暴徒相手に、こんな風に大見得を切って、「天上天下唯我独尊、人を傷つけたいのならまず私を殺して見せろ!!」って言ったんだ。そしたら皆タマなしになっちゃって、すごすごと帰っていったんだ!!」
「そりゃあまた、仮にも一つの流派の師範だけあって、徳の高い方だねぇ」
「うん、そうでしょ? その日から師範はずっと私のあこがれの人なんだ!! ……でも、その時の事でよくわかんない事があってさぁ」
「なんだい?」
「タマなしって何の事なのかなぁ……?って、兄弟子が言ってたんだけど、どういう意味なのか、聞いても誰も教えてくれないし。それどころか、そういう事、あんまり言うなって言うんだよ!? 自分は知ってて堂々と言ってたくせに、ひどいと思わない!?」
「…………そうかい、残念ながらボクにも良く分からない言葉だね」
「そっかあ……分かんないかぁ……。同じクラスの友達にも聞いてみたんだけど、分かんないっていわれたんだよねぇ……」
(……それって男友達ですか? もしかして女友達? 後者だった場合、色々ヤバくないです? というか、一人か二人は絶対に知っているヤツが居るでしょ。……まあ、彼女に説明できるかって言ったら別問題だろうけど)
ここまでずっと話を聞いているが、意外と彼女は幼い――というかどっか根本的にお人よしなところがある。これに関してはウバメが色々と擦れているという事、あとは
そう結論づけたウバメの心をよそに、彼女らの際どい(一名自覚なし)話は最終結論まで達しようとしていた。
「ふぅむ……それなら、大人の人――市役所あたりに聞いてみたらどうだい?」
(んで面倒になって適当にぶん投げましたね、
「もしも、三隅市の市役所でも回答拒否されたら、しっかり書類で送ると良い。たしか三隅市だと、所定の用紙で送られた市民からの声には回答する義務と記録する義務が有ったはずだ」
(想像以上にやり口が悪質だった!? 下手すりゃタマなしって言葉が市の公的文書に乗る事になりますよ!?)
なお、ここまで身振り手振りまで混じっている
まあ、途中から
「と、時間かけ過ぎちゃったかぁ……」
鬼坂が我に返ってその舌を止めたのは、話し始めてから数十分後だった。
(たしかに長かったな……。 おかげで流派の歴史とか、鬼坂さんがどんな風に戦うのかとかも分かったとも言えるけど……)
彼女曰く、七枝流は警察などの武術を取り入れている事もあり、基本的に切ったはったで他者にダメージを与えるよりも、相手の行動を阻害する事を重視しているらしい。
本人曰く、「七支刀じゃ、枝刃部分が邪魔して普通の剣みたいに切り裂くことは出来ないので!」だそうだが……。
話の中で挙げられた技は、どれも有効なのだが、確かに実戦の中で培われたらしき泥臭さがじみ出るものばかりだった。
例としては、七支刀の枝刃部分で十手の様に相手の武器を受け止め、絡め取る【
(実戦剣術と聞いてましたけど、えげつない技多いですねぇ……。【
ところどころ、えぐい使い方を考えつく技がある(というか残虐な技を外聞の為にぬるく取り繕ったっぽい)ところもあったり。
そんな話を聞きながら、二人の前に置かれた皿はすでに空になっていた。
途中で運ばれてきた鬼坂の料理も、演説にかまけきりで手を付けられていなかった事もあり、すっかり冷めきっている。
「ごめん! あたし、熱がこもると話が止まらなくなるタイプで。まだぬいぐるみの恩も返せてないのに迷惑かけちゃって……」
「いやいや、別に良いよ。――そこで、鬼坂クン、ひとつ思いついたことがあるんだが」
溶けた氷と混じり、すっかり薄くなったメロンソーダをストローで啜る
「キミが、ボク達と一緒に、ダンジョン探索をする……ってのはどうだい?」
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「…………あの人もウチの
ショッピングモールから出て、昨日と変わらず自転車に二人乗りしながら帰る二人。その中で口火を切ったのは、ウバメの方からだった。
「そうだねぇ。派手な
七枝流って言ってたし、流派自体と縁を繋いで
たしかに今の
それを解消するために近いうち
「身のこなしを見たところ、ある程度の実力もありそうだったし、全身に筋肉もきれいに付いていた。ありゃよくある一部の筋肉を鍛える筋トレじゃなく、しっかりした全身運動を日常的に行っているタイプだろうね」
たまーに力さえ強ければってな具合に、チキンレッグみたいに筋肉をバランス悪く付けてる人とかも居るからねぇ。という
ウバメ自身も筋肉についてはともかく、彼女が実力者であろうことは疑いが無いと考えている。実際にレストランでの演説の間に彼女は技を出す素振りをしていたが、それは余りにも自然すぎた。
まるで、何千回も練習して体に染みついているかのように、重心が一切崩れず、動きも滑らかすぎる。もしも、あれが演技だとしたら、よっぽど役作りに命を賭けている詐欺師か、パントマイムの達人かだろう。
そんな奴が都合よくいる訳もなく、普通に考えて彼女自身にそれ相応のの実力があるという事。少なくとも、
「一応、彼女の人格の方はどう思います? 初対面でぬいぐるみを嘗め回しているのは、かなりアレでしたが……」
「流石に
「……そう、ですね」
そう、そのはずだ。彼女の言っている事には、一切反論の余地がない。まさしく、正論だった。
(なのに、それなのに、――どうしてこんなにも、胸がチクチクすんだろう?)
「~~♪ ――おっと、そろそろ山道だ。自転車を押していくから、ウバメ君も降りてくれたまえよ」
これだってそうだ。このレベルの山道を二人乗りすれば、昨日みたいに人間入りシェイクマシンになるのは自明の理だろう。
そうである以上、正しいって分かってる、けど……。
(今日の方が――帰り道が長いって思うのはどうして?)
自転車を後ろから支えながら考える。けれども、それに対する答えは出てこない。
たった一つの自転車を押して帰る二人。けれども、方やハンドルを持ちながら、方や荷台側から支えながら、夕日に照らされて長く伸びる彼女らの影は、交わる事無く揺れ続けていた。