ポストヒューマンワールド 屍少女の冒険譚   作:α1.8

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少女たちの提案と思案

「でね! でね! 師範が言ったんだ! パニック状態になって無辜の人々に襲い掛かろうとする暴徒相手に、こんな風に大見得を切って、「天上天下唯我独尊、人を傷つけたいのならまず私を殺して見せろ!!」って言ったんだ。そしたら皆タマなしになっちゃって、すごすごと帰っていったんだ!!」

 

「そりゃあまた、仮にも一つの流派の師範だけあって、徳の高い方だねぇ」

 

「うん、そうでしょ? その日から師範はずっと私のあこがれの人なんだ!! ……でも、その時の事でよくわかんない事があってさぁ」

 

「なんだい?」

 

「タマなしって何の事なのかなぁ……?って、兄弟子が言ってたんだけど、どういう意味なのか、聞いても誰も教えてくれないし。それどころか、そういう事、あんまり言うなって言うんだよ!? 自分は知ってて堂々と言ってたくせに、ひどいと思わない!?」

 

「…………そうかい、残念ながらボクにも良く分からない言葉だね」

 

「そっかあ……分かんないかぁ……。同じクラスの友達にも聞いてみたんだけど、分かんないっていわれたんだよねぇ……」

 

(……それって男友達ですか? もしかして女友達? 後者だった場合、色々ヤバくないです? というか、一人か二人は絶対に知っているヤツが居るでしょ。……まあ、彼女に説明できるかって言ったら別問題だろうけど)

 

ここまでずっと話を聞いているが、意外と彼女は幼い――というかどっか根本的にお人よしなところがある。これに関してはウバメが色々と擦れているという事、あとは天逆(あまさか)が大人びすぎている事もあるかもしれないが。

 

そう結論づけたウバメの心をよそに、彼女らの際どい(一名自覚なし)話は最終結論まで達しようとしていた。

 

「ふぅむ……それなら、大人の人――市役所あたりに聞いてみたらどうだい?」

 

(んで面倒になって適当にぶん投げましたね、天逆(あまさか)さん……)

 

「もしも、三隅市の市役所でも回答拒否されたら、しっかり書類で送ると良い。たしか三隅市だと、所定の用紙で送られた市民からの声には回答する義務と記録する義務が有ったはずだ」

 

(想像以上にやり口が悪質だった!? 下手すりゃタマなしって言葉が市の公的文書に乗る事になりますよ!?)

 

なお、ここまで身振り手振りまで混じっている鬼坂(おにさか)の話に付き合って話しているのは全て天逆(あまさか)である。ウバメは口下手な事もあり、もっぱら相づちを打つだけの聞き役に徹している。

 

まあ、途中から鬼坂(おにさか)の話に聞き入ったり、凄まじく微妙な顔になったりはしているので、適当に合わせているとは思われていないだろうが。

 

「と、時間かけ過ぎちゃったかぁ……」

 

鬼坂が我に返ってその舌を止めたのは、話し始めてから数十分後だった。

 

(たしかに長かったな……。 おかげで流派の歴史とか、鬼坂さんがどんな風に戦うのかとかも分かったとも言えるけど……)

 

彼女曰く、七枝流は警察などの武術を取り入れている事もあり、基本的に切ったはったで他者にダメージを与えるよりも、相手の行動を阻害する事を重視しているらしい。

 

本人曰く、「七支刀じゃ、枝刃部分が邪魔して普通の剣みたいに切り裂くことは出来ないので!」だそうだが……。

 

話の中で挙げられた技は、どれも有効なのだが、確かに実戦の中で培われたらしき泥臭さがじみ出るものばかりだった。

 

例としては、七支刀の枝刃部分で十手の様に相手の武器を受け止め、絡め取る【枝絡(えだがらみ)】。枝刃部分で敵の筋肉や神経、腱をこそぎ取って動きを封じる【|鋸引(のこぎりび)き】。七支刀で地面ごと敵を突き刺して縫い留める【杭穿ち】。など……。

 

(実戦剣術と聞いてましたけど、えげつない技多いですねぇ……。【枝絡(えだがらみ)】とか、微妙に見えて相手の気管とか骨とかも潰せるじゃないですか。【杭穿ち】だって口には出さなかったけど、動きを止めた後に盾で殴るような動きをしてましたし)

 

ところどころ、えぐい使い方を考えつく技がある(というか残虐な技を外聞の為にぬるく取り繕ったっぽい)ところもあったり。

 

そんな話を聞きながら、二人の前に置かれた皿はすでに空になっていた。

 

途中で運ばれてきた鬼坂の料理も、演説にかまけきりで手を付けられていなかった事もあり、すっかり冷めきっている。

 

「ごめん! あたし、熱がこもると話が止まらなくなるタイプで。まだぬいぐるみの恩も返せてないのに迷惑かけちゃって……」

 

「いやいや、別に良いよ。――そこで、鬼坂クン、ひとつ思いついたことがあるんだが」

 

溶けた氷と混じり、すっかり薄くなったメロンソーダをストローで啜る天逆(あまさか)。彼女の顔には、何かを企んでいるようなにんまりとした笑みが浮かんでいた。

 

「キミが、ボク達と一緒に、ダンジョン探索をする……ってのはどうだい?」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「…………あの人もウチの一党(パーティ)に勧誘するつもりなので?」

 

ショッピングモールから出て、昨日と変わらず自転車に二人乗りしながら帰る二人。その中で口火を切ったのは、ウバメの方からだった。

 

「そうだねぇ。派手な攻撃役(アタッカー)や安全性の高い後衛と比べて、前線で敵からの攻撃を受ける事に徹し続ける事が出来る盾役(タンク)は希少(レア)も希少(レア)だ、完全にウチに引き込めないとしても、将来有望な一党(パーティ)って印象を与えられれば儲けものだよ」

 

七枝流って言ってたし、流派自体と縁を繋いで盾役(タンク)が必要な時に人をよこしてもらったり、若い人を成長枠として一党(パーティ)に入れるってのもアリだね。という彼女の意見は、ウバメも確かに納得できるものだった。

 

たしかに今の一党(パーティ)は人数不足。所属しているのはウバメと天逆(あまさか)の二人きりで、まず何よりも人手が足りないのが彼女らの現状である。

 

それを解消するために近いうち冒険者協会(ギルド)で人を紹介してもらおうとしていたのだが……。

 

「身のこなしを見たところ、ある程度の実力もありそうだったし、全身に筋肉もきれいに付いていた。ありゃよくある一部の筋肉を鍛える筋トレじゃなく、しっかりした全身運動を日常的に行っているタイプだろうね」

 

たまーに力さえ強ければってな具合に、チキンレッグみたいに筋肉をバランス悪く付けてる人とかも居るからねぇ。という天逆(あまさか)。

 

ウバメ自身も筋肉についてはともかく、彼女が実力者であろうことは疑いが無いと考えている。実際にレストランでの演説の間に彼女は技を出す素振りをしていたが、それは余りにも自然すぎた。

 

まるで、何千回も練習して体に染みついているかのように、重心が一切崩れず、動きも滑らかすぎる。もしも、あれが演技だとしたら、よっぽど役作りに命を賭けている詐欺師か、パントマイムの達人かだろう。

 

そんな奴が都合よくいる訳もなく、普通に考えて彼女自身にそれ相応のの実力があるという事。少なくとも、冒険者協会(ギルド)で0から人材ガチャするよりも遥かに期待が持てる。

 

「一応、彼女の人格の方はどう思います? 初対面でぬいぐるみを嘗め回しているのは、かなりアレでしたが……」

 

「流石にダンジョン(命掛かってる危険地帯)内であそこまでの奇行はやらない……と思う。同年代の同性なら、お互いに気兼ねも少ないだろうし、そこら辺も含めてなかなかの拾い物じゃないかい?」

 

「……そう、ですね」

 

そう、そのはずだ。彼女の言っている事には、一切反論の余地がない。まさしく、正論だった。

 

(なのに、それなのに、――どうしてこんなにも、胸がチクチクすんだろう?)

 

「~~♪ ――おっと、そろそろ山道だ。自転車を押していくから、ウバメ君も降りてくれたまえよ」

 

これだってそうだ。このレベルの山道を二人乗りすれば、昨日みたいに人間入りシェイクマシンになるのは自明の理だろう。

 

そうである以上、正しいって分かってる、けど……。

 

天逆(あまさか)の腰に回されていた手が解ける。その掌に残ったぬくもりが失われるのを惜しむかのように拳を握りしめたのは、ウバメ本人すら気づけていない。

 

(今日の方が――帰り道が長いって思うのはどうして?)

 

自転車を後ろから支えながら考える。けれども、それに対する答えは出てこない。

 

たった一つの自転車を押して帰る二人。けれども、方やハンドルを持ちながら、方や荷台側から支えながら、夕日に照らされて長く伸びる彼女らの影は、交わる事無く揺れ続けていた。

 

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