そんな訳で、山奥から出てきた田舎ガール二人はダンジョン前にて鬼原と待ち合わせる
……筈だったのだが。
「お嬢ちゃん、俺らと一緒にダンジョン探索ってのはどうだい!? たった二人、しかも子供連れじゃあ心細いだろ!」「いやいや、こいつらよりも私達の方が優秀ですよ! 実際にこのダンジョンにて10階層まで潜っているんですから!!」「オッサン共は黙ってろよ! 見たところ年の近いオイラ達と一緒に潜らないか?」
三隅市。通称『有鱗の回廊』ダンジョン前。
冒険者がダンジョンに潜る為に待機したり、彼ら目当てでポーションからタコ焼き、お好み焼きなどの軽食の屋台まである広場。
そんな冒険者と商売人が集う場所である以上、喧騒はいつものことなのだが、今日は平日だというのにも関わらず、いつもよりも輪をかけて騒がしい。
その原因は二人。……というか、当の田舎ガール二人組、ウバメと
彼女達は現在、ナンパにあっている真っ最中。ただし、ウバメは完全に子供扱いされて蚊帳の外、群がる男は殆どが
(フヒ……。フヒヒヒ…………。ダンジョンに潜るロリッ娘……、フヒヒヒ…………)
……まあ、例外もいる様ではあるが。
ウバメも自身に向けられる“何か”を感じ取ったのか、背筋を震わせながら周囲を見渡すが、それを察知してすぐさま人込みに紛れて姿を消すあたり、当の彼も冒険者としてそれ相応の実力は持っているのかもしれない。
(……なんでこんな事になったんだろうねぇ?)
(そりゃあ、
(……。装備の件に関してはともかく、命がかかったダンジョン内で容姿の事なんか、気にする必要あるのかい?)
(いやいや、男の下半身への執念をなめちゃいけませんよ。実際、射
小声で話す二人。現在進行形で
それでも、まわりを囲んでくる人間が多すぎた。ざっと見ても30人はいるため、どうにか人の壁を突破しなくては外に出られない。
流石に武器を振り回して追っ払う訳にもいかないし、鬼原との待ち合わせがある以上、二人とも勢いに押された振りをして、のらりくらりと誤魔化しておくか……という結論に達したのは仕方が無かったかもしれない。
「――お姉ちゃん。お腹すきましたぁ……。お金は全部装備の為に使っちゃったって言ってましたけど、いくらかは残ってないですかぁ……」
(…………えーっと。ウバメ君、なんのつもりだい?)
(話合わせてくださいよ
(ウバメ、あんまりみみっちい真似はしない方が良いと思うが……)
(良いの!! アックスも口出さないで!!)
なお、その際にウバメは薄幸姉妹のふりをして周囲の人間に集るというライフハックを思いつき、たこ焼きやら焼きそばやらの食べ物に囲まれていたが、ここでは触れないでおく。
そんな中、転機は突然に訪れた。……彼女達にとって、悪い方向にだが。
「アッレエ~、
なれなれしい声とともに現れたのは、髪をやたらと明るい金髪に染めた男達。
二人の周りにいる者たちに構わず、ズカズカと押しのけて近づいてくる彼らに周囲の人間は眉を顰めるが、それを気にしている素振りは一切ない。
襟元を大きく開けたシャツに、いくつものアクセサリー。一応整った顔立ちをしているものの、浮かべている笑みはどこか軽薄で欲望に溢れている。
「……ああ、君達か。久しぶりだね。こんなところで何の用だい?」
その声を聞いた天逆は、知らない相手に囲まれていても浮かべていた愛想笑いを一瞬で消し去っていた。
どうやら知り合いらしい。もっとも、声をかけられた時点で露骨に嫌そうな顔をしているあたり、再会を喜んでいるわけではなさそうだが。
「イヤイヤ、そんな冷たいこと言わないでよ~。偶然見かけたからさ、ちょっと声かけただけじゃん?」
「そうそう! せっかく会えたんだし、これから俺らと一緒に潜らない? ちょうど人数にも余裕あるしさ!」
「俺ら、こう見えて結構やるんだぜ? このダンジョンだって何度も潜ってるし、
言いながら、男の一人がなれなれしくも天逆の肩に手を回そうとする。
「あー、ごめんね。今日は先約があるんだ。それに、ボク達だけで探索する予定だから、昔先輩風を吹かしていた程度の人と肩を並べる理由はないよ」
「ええ~、いいじゃん、そんな固いこと言わなくてもさぁ。どうせ潜るつもりだったんだろ? それなら人数多い方が良いぜぇ、そっちの子も!!」
男の視線が、ようやくウバメに向く。
「んーーー?」
頭のてっぺんから爪先まで、値踏みするように眺める。その目に宿っているのは、興味というよりも、露骨な侮蔑だった。
「へえ、思いだしたぜ、ジェイソンちゃんじゃん」
「ジェイソンって……」
思わず口を挟みかけたウバメを遮るように、男が鼻で笑った。
「だってそうだろ? 呪われたんだか知らねえけど、斧をそこら中で持ち歩いて、あんときゃいつ頭が狂って、周囲の人間を斬りつけだすんじゃねぇか心配してたんだぜ」
広場に響き渡るギャハハハという品の無い笑い声。
だが、ウバメは何も言い返す事ができなかった。
呪われた私が斧を持っている事について、まわりの人々は同情してくれていた。助けてくれていた。けれども、“それ”が周りの人の総意であることは知っていた。
同情は結局のところ自分が標的にならないためのもので、助けは目を付けられて恨まれるのが怖いから。
私も心の底で薄々分かっていた。 それどころか、その感情を利用して、同情に溺れて自分の利益にさえしていた。
――なら、どうして厚顔無恥に言い返すことができるだろう?
それに……。
「心配すんなよ、
ベチョッ!!
チャラ男の口が無理やりに塞がれる。
「ご高説ご苦労だったね。『それ』は、キミ達の下手糞な漫才へのボクなりの代金だ。さっさとそれを受け取って帰りたまえ!!」
「……テンメェッ!!」
気色ばんだ彼らだが、武器を抜く前にその動きはピタリと止まった。
もちろん、少女相手に武器を振るう事に良心の呵責を感じた……などという理由などではない。
もっと単純に、新しい闖入者が現れたからだ。それも、彼らよりも遥かに強大そうな人物が、だ。
ガシャンッ、ガシャンッ。
こけおどしではないと分かる程重厚な足音と共に現れたのは、巨大な漆黒の鎧に身を包み、凄まじい威圧感を発する大柄な鎧武者。
その面には怒り狂ったかのような顔が彫りこまれており、見る者の心胆を震え上がらせる。
右手は「何時でも抜ける」とでも言わんばかりに剣に添えられ、左手は1メートルはある、盾というよりも鈍器として使えそうなタワーシールドを持っている。
とてもではないが、こんな所で騒いでいるような存在ではない。戦場の只中、血と臓物に塗れた殺し合いから帰ってきた、と言われても納得できるほどである。
「……え、えーと……何か、用すか?」
凍り付いた雰囲気にたまらず、鎧武者に話しかけたチャラ男。彼に掛けられたのはたったの二言のみだった。
「どけ。 連れていく」
慌てて飛びのいたチャラ男達をよそに、二人に大股で近づく鎧武者。
警戒する二人の耳に入ってきたのは、昨日聞いたばかりの声だった
「えっ……!? 鬼っ…………」
小声で囁かれ、名前を出しそうになって慌てて口を塞ぐウバメ。
流石にここで名前を出したり、そうでなくても彼女が女であることがバレたりしたら面倒な事になるぐらい、彼女にもわかる。
踵を返してダンジョンの入口へと向かう鎧武者と彼に付き従う少女二人。
その凄まじい後ろ姿には、何十人もの人々から、様々な感情のこもった視線が注がれていた。
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「くそがっっ!!」
ウバメ達が残したままの料理を憂さ晴らしに蹴り飛ばす。
男たちのその姿からは狙っていた獲物を目の前で搔っ攫われた憎悪が溢れており、周囲の人間も巻き込まれるのを恐れて、遠巻きに見るばかり。
その憐れむような、蔑むような目線がことさらに彼らを苛立たせる。
「何だよ、あのデカブツ野郎は、せっかく俺らが初心者を助けようとしてやってたのによお!!」
自分たちの欲望を棚に上げて、大声で
今でこそ威勢よく鎧武者を罵倒している彼らだが、先ほどまでは、鎧武者の姿が見えなくなり、声も届かない距離まで遠ざかったことを恐る恐る確認していた。
結局のところ、彼らには自分よりも強い者に対して戦うだけの気概は無い。
あるとしたら、より強い者が後ろ盾になってくれて、相手が抵抗できない状態でいる時ぐらい。
そういった彼らの性根がにじみ出ている言動が
それを彼らが自省する事は無い。
彼らにとって、自分たちこそが正しく、邪魔をする者こそが悪なのだから。
「……おい、テメェら、あのデカブツと女ども、
「えっ……!! 良いんすか、そんな事して!?」
「良いんダヨ!! 俺らは初心者が心配で見に行くだけの
明らかに善意には見えない顔で建前を語る彼ら。
何か弱みでも握れないかと、ろくでもないことを考えているのは明白。
しかしながら、周りの人々は遠巻きに恐々見つめるだけで、ダンジョンに入る彼らを止められる者は誰もいなかった。