「ひょっ、ひょわっ、わわわっ!! 舌噛む!! 噛むって!!」
「いででっ!! ふぐっ!! ボクの優秀な頭脳がシェイクされて~~※%●!!!」
ウバメと天逆、二人の女子中学生は山道をマウンテンバイクを駆け下りていた。想定通りなら起伏の多い山道でも快適にサイクリングできる……はずだったのだが、彼女らは現在、虫かごの中で揺さぶられる虫の気持ちを味わっている。
本来、山道を走るときの振動はスプリングで吸収できる。しかし、そのスプリングはサドルにはともかく、荷台には設置されていない。
ダイレクトに叩きつけられる揺れにさらされたウバメは、振り落とされまいと天逆の肩に捕まり、何とか堪えようとする。結果、二人は仲良く三半規管からの逆襲にあっていた。
なんとか自分の町に帰ってきた二人だったが、その目に光はない。
「揺れが酷……、うっぷ、あの自転車二人乗り考えてないでしょ……」
「いや……、ボクの改造は理論上は問題ない……、はずだったんだけど……、ふぐぅ……」
「実際に問題発生しているじゃないですか、頭でっかちのポンコツ天才がぁ……。自転車も改造のせいで重くなってるし……。運ぶのも一苦労ですよ……。」
よたよたとゾンビのように(実際にゾンビなのだが)顔色を悪くして頼りなく歩く二人。重たそうに自転車を押して歩くその姿からはそこはかとなく哀愁がみてとれた。
彼女達はなんとかウバメの家にたどり着くと、ぐったりとしながら鍵を開け、自転車を置いて家の床に座り込む。普通の女子中学生とは言えない二人だが、さすがに公衆の面前でゲロ吐くのが嫌だというレベルの羞恥心は持っているのだ。
しばらくして、吐き気が収まった二人は今後の事について話し出していた。
「一息ついたところで聞いておきたい事があるんですが、戦闘スタイルはどんなタイプですか? 私は見ての通り、この金の斧――アックス『おう、よろしくな、可愛い嬢ちゃん!』を使ってヒットアンドアウェイで戦うタイプになりますね。――天逆さんは?」
「ボクは主に魔法と弓を使用した後衛、あとはちょっとした応急手当も出来るくらいかな」
「魔法ですか……。何系ですか?」
「雷系の攻撃魔法、特に高威力のってところかな。ついでに弓はこれ」
天逆が取り出したのはコンパウンドボウをハイテク化したような、機械的なデザインで作られた青い大型弓。
「ああ、一応言っておくけど、これは
ダンジョン内でも機械が使えない事は周知の事実であるが、例外もある。今のところ確認されているものでは原始的な滑車や歯車、そしてモンスターのドロップしたものは問題なく使えるのだ。
「さて、最後に“奥の手”かな」「!?!?」
そう言った彼女はガバッ!と勢いよく制服を脱ぎ、下着姿になってその肉体をさらけ出す。赤面しながらもワタワタと目を隠し、顏を逸らそうとしたウバメ。しかし、その目は天逆の“異常”に強烈に引き付けられていた。
「アイ〇ンマンのアーク・リ〇クター……?」
彼女の胸の谷間には、クリスタルの様に光を放つ奇妙な機械が埋め込まれている。その光はまるで心臓の鼓動の様にゆっくりと明滅していた。
「さすがにあそこまで高性能ではないよ、これ自体にエネルギーを生み出す能力はない、あくまでもダンジョン内でも使えるよう調整された高性能な電池ってところさ。コイツを使って弓にエネルギーを供給したり、雷系の魔法に電力を
「……一応聞いておきますけど、どのぐらいまで貯蔵できるんですか?」
「まあ……、人間数十人を完全に炭に出来るぐらい?」
うわぁ……と若干引いていると、ふと下着になったから分かる彼女の形の良い胸が目に留まる。
(やっぱり大きいな……、まだ中学生なのにD……下手すりゃEに届く大物だ)
「なんだいなんだい、ボクのスリーサイズに興味があるのかな? 上から88・61・はちじゅ……「そういうのは油ぎったオッサンか防具職人の方に言ってください、私は他人の胸には興味無いので」……いやぁ、ガン見してたのはそっちなのに、そこまで言わなくても良くないかい?」
死んだ目で天逆のメリハリの利いた
(――完っ全に僻みだな、こりゃあ……)
「……アックス。 “何か”言った? ――
『なんでもありませんデス!! ハイ!!!』
流石に肥溜めに突っ込まれるのは回避したいアックスが慌てて叫ぶ。斧にだって尊厳はある。女の胸の事で汚物に突っ込まれたい程ヨゴレ芸人に憧れてはいないのだ。
話が脱線している。そう感じたウバメはブンブンと頭を左右に振って無理矢理バカ話を打ち切ると水を向けた。
「脱線しましたけど、天逆さんの役割は弓でダメージを与えつつ、隙があれば詠唱して強力な魔法で攻撃する後衛――ってかんじでいいですか?」
「そうだね。ただ魔力には限りがあるから、ダンジョンのどこで何相手に使うかは考える必要があるだろうけど」
『肝心の連携はやってみないと分からんし、実戦の中で試してみるしかねえだろうな。いわゆるOJTって奴か?』
基本的に魔力で直接攻撃的な現象を引き起こす『魔法』は魔力を武器等にまとわせて攻撃する【
一応魔力を回復する薬剤などが無いわけではないが、極めて高価で希少である。そのため、パーティの魔法使いは四苦八苦して魔力のやりくりをするハメになる。しかしそんな短所を計算に入れても欲しがるほど魔法は強力で便利なのだ。
故に魔法使いは引く手あまた。
(どうして私を選んだのか、それが分からないんですよね……)
顔に出そうになった劣等感を抑え込む。彼女から何か嫌なことをされたという訳ではない。むしろ親切にしてくれている。それはわかっている、それでも……。
「…………ウバメくん?」
不自然な空白に不審がったのだろう天逆からの問いかけにハッとなる。目の前には不思議そうな顔をした彼女が居た。
「どうかしたのかい?」
「いや、なんでもありません!! ちょっと天逆さんの戦闘スタイルが凄すぎて唖然としてしまっていて!!」
言える訳がない、貴方の事に嫉妬して、疑っていたなんて。これは心の奥にしまい込んでおくべきものであるから。
「じゃあ、ためしにダンジョンに行ってみるかい、実際にどんなものなのか見てみた方が理解も早いだろう。私の装備も自転車の
「……わかりました! それなら着替えてくるんで少し待っててください。アックス、覗かないようにね!!」
『ガキの下着になんか興味ねえよ。色気たっぷりの姉ちゃんならともかくな。 ――イデッ!』
アックスを小突きつつ自分の部屋に向かって小走りで駆け出す。
これ以上、彼女を見ていたくなかった。……いや、この言い方は正確ではない。本当は彼女を見て歪む私の顔を見てほしくなかったのだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
部屋に戻っていくウバメを見送り、天逆理乃は顔をほころばせる。そうして自転車から外してきた携帯型空間拡張トランクを開き、装備を身に付けていった。
「くふふふふふ…………」
(自転車の二人乗りもできたし、順調に友達として親しくなっているといっても過言ではない。ゆくゆくは親友になって、桃園の誓いみたいなそんな感じで友になれるのもそう遠くはないかもしれないな!)
目を輝かせながら呟いているのはとてもではないが中学生が言う事ではない。というか今時なら小学生だって本気にしないようなたわごとである。しかしながら、彼女は100%、本気と書いてマジと読むレベルで本気だった。
(彼女と友達になれたが、距離を詰めるというは予想よりも難しい。まださん付けで苗字呼びだし……。自転車の二人乗りをするとぐっと距離が縮まると本に書いて有ったんだがなぁ)
それもそのはず、彼女には“友達が居ない”。今いないとか、過去はいたとかそういう逃げ道も出来ない友達いない歴=年齢。そもそも友達の作り方すら知らない完全なるボッチであった
(子供のころから寄ってくるのは、私を利用したいというクズばっかり。町の外の人間を信用するなとお
そう語る彼女の頬は恋する乙女の様に紅潮していた。いや、『様に』というのは正確ではないかもしれない。彼女は本当に恋焦がれているのだ。友達と友情を結ぶという『行為』そのものに。
今までの彼女の関りは全て利害で結ばれたものだったから。真っ当な友達なんて出来た事はなかったから。
(ボクだって脳みそお花畑ってわけじゃないんだから。ボクの才能と頭脳がバレればそりゃあ人は寄ってくるって思ってたよ。想定外だったのは……来た奴が全員大ハズレだったことかな)
利益を求めてくるのは別に良かった。それがきっかけになって友情がはぐくまれるというのもよくある話だし、――と天逆はこれまで読んできた
……だが、それを踏まえても彼女が友になりたいと、友になれると思える者は誰もいなかった。
(
人数だけなら、彼女が出会ってきた数は同級生の誰よりも多かったと言えるだろう。その中には、大会社の社長や国の高官といった本来なら単なる高校生が会えるような身分ではない人間も多数含まれていた。
それなのに、彼女の目の前に現れるのは欲望を隠さないような者ばかりで。
(せめて欲望を隠して――心の奥底に秘める事が出来る人が良かったんだけど……)
――故に彼女は孤独だった。そう、これまでは。
(友達になったら何をしようか? 一緒に家でゲームをするとか、二人でショッピングを楽しむとか、……うん? いまどきは同性の友達と一緒に出掛けるのでもデートって
よぶのかな?)
天逆の見る限り、ウバメの目には天逆への嫉妬があった。卑屈さがあった。
――そして、それら全てを塗りつぶすような情熱があった。まだ、目の奥に隠れているだけで、本人すら気づいていない、小さな小さな
それを燃やしているのが何なのか、天逆にも分からない。けれど、直感で分かる。
あの炎は全てを燃やし尽くすほどの
そう思いながら、冒険者用防具に着替え終えた彼女はスマホで友達との遊び方について次々とに検索していく。
実際問題として、天逆本人も友達と遊んだことが無い。一応創作物で見たり、周囲の人が遊ぶ予定について小耳を挟んだ程度だ。だからこうやって信ぴょう性も定かではない検索エンジンにキーワードを打ち込み、探し回っている。
(本当ならAIとかに任せておいた方が速いんだけど……友達と遊ぶのぐらいボク自身のアイデアで遊びたいんだよねぇ)
一つ、一つ、遊び方が見つかるたびに胸が躍るような感覚を彼女は覚えていた。その姿は傍から見れば天才的なメカニックにも魔法を操る有望な冒険者にも見えない。けれど、その姿も彼女の一面で。
周りの誰もがそれを見なかったから、彼女は孤独になってしまったのかもしれない。もしも誰かが彼女に寄り添えれば、案外簡単に友達になれたのかもしれない。
「どんなに道を誤っても、危機に陥っていても、自分の命が脅かされていても、背中を預けら、助け合う友達。ウバメくぅん、ボクは君と、そんな友達になりたいんだ」
まぁ、アニメや漫画から学習した、この重すぎる感情も一因としてあるかもしれないが。