【無自覚TS】ダンジョンで記憶喪失になった女の子だけど、周りの反応がなんかおかしい 作:じっくりコトコト弱火メス堕ち
「いいですか、落ち着いて聞いてください。まず、あなたは記憶喪失になりました」
ベッドの傍らに立つ医者が、重苦しい雰囲気を醸し出しながらそう告げた。
うん、まあそうなんだろうね。だって自分の名前すら思い出せない。
手に持たされた鏡を覗き込んでみたけど、そこに映る自分の顔にも一切の見覚えがない。
それどころか、違和感しかない。
映っていたのはすっごい美少女だった。本当に自分なのかと疑いたくなるくらいの。
頭を傾ければ、さらさらとした灰色のボブヘアーが合わせて揺れる。
鼻立ちはすっとしていて、全体の印象を引き締めている。雪のように白い肌はつつけば崩れてしまいそうな儚さ。
その中に浮かぶ2つの真紅の瞳が妖艶に輝いていた。
「俺、こんなに可愛いんだな」
素直な感想を口に出して、ふと違和感を覚えた。何だろう。あっ、そうだ一人称。
俺、ってなんだ。だって自分、明らかに女の子だ。
視線を下に移せば豊満な胸部が目に入る。股に手を伸ばして確認しても、やはり男に生えているそれはない。
……なんだろう、変な喪失感がある。記憶喪失の影響で混乱してるのかな。
「私……あたし……あたくし……」
自分の声には濁りがなく、鈴の音のように綺麗に澄んでいた。こんな声で俺はないでしょ。と思っていくつか候補を口に出してみたけど、これはこれで違和感がある。自分、どういう性格だったんだろう。こんな顔と声なのに、一人称が俺っていうくらいオラオラしてたのかな?
「僕……ボク……うん、これでいこ」
ギリギリ違和感がない。もしかして記憶を失う前はボクっ娘だったのかな。
「続けていいですか? あなたはダンジョンで重症を負い、意識不明の状態で運び込まれました」
「ダンジョン?」
「はい。あなたは探索者でした」
記憶はないけど知識にはあるかも。
ゲームにでてくるのじゃなくて、リアルにあるやつ。10年前くらいに突然世界各地に現れたんだっけ。探索者ってことはボク、スキルとか魔法とか使ってたのかな。あれ、もしかして本当にオラオラ系?
「あなたが眠っていたのは……」
どうしよっかな。ここで9年とか言われたら。
「9日間です」
「微妙な日数ですね」
けど、それだけの間目を覚まさなかったんだ。ボク相当やばかったみたいだな。
ここでふと気になった。こういうときって真っ先に家族とか友達が来るもんじゃないの?
それなのに誰も来ないってことは……。
「あの……先生、もしかしてボクって」
「……お気づきになられましたか」
先生が悲しげに目を伏せた。……そっかあ。
「ボクって天涯孤独な上にボッチだったんですね……」
「なんでそうなったんですか」
どうやら違ったらしい。
「だって誰も見舞いに来ていませんし……」
「ご家族にも連絡済みですし、そもそもあなたを運び込んだのはあなたのパーティメンバーです。ただ……ただ、ちょっと事情が特殊なんですよ。まずあなたに事情を説明しようと思ったら、記憶喪失ですし、本当どうしたら……」
そのときだった。廊下が騒がしくなった。バタバタと駆ける音、「とまってください」と叫ぶ看護師の声。次の瞬間、病室のドアが勢い良く開け放たれた。
「らいとっ!」
駆け込んできたのは青年だった。黒髪に黒目の普通の青年。目元は切れ長で、顔立ちは全体的にしゅっとしている。爽やかなイケメンって感じだ。
急いできたらしくて、息を荒らげていた。彼はボクのことを目にした瞬間、動きを止めて、そしてその場に崩れ落ちた。
「ごめんっ……ごめんっ……! 俺が弱かったせいで!」
「ちょっと、冬木さん! まだ面会は禁止だって……」
駆けつけてきた看護師達が、ただならぬ雰囲気に押し黙る。どうやら冬木って言う人らしい。
……誰なんだろう。
「あなたの仲間です。彼があなたを運び込んだんです」
ボクが質問する前に、医者が答えてくれた。
あー、なるほど。だから慌てて来たわけか。よかった、ボッチじゃなくて。でも困ったな。知り合いなのに全く思い出せない。
「冬木さん、ライ……いえ、彼女は記憶喪失です。ですからご自身の状況もまだ理解していません」
「記憶喪失……?」
嘘だと言ってほしい。そんな目で冬木さんは見てきた。でも嘘をついても仕方ない。
「ごめんなさい……本当です。……ボクの仲間だったんですか?」
「そんな……っ! 謝ることもさせてくれねえのかよっ……!」
冬木さんはその場で嗚咽を漏らした。……すっごいショック受けてるな。ボク、ダンジョンで何があったんだろう。
ていうかさ、記憶がないとはいえ、目を覚ましたわけだし、喜んでいいんじゃない? なんでメソメソしてんだよ。
なんかムカムカしてきた。冬木さんのことはやっぱり思い出せないけど、こいつのこんな姿を見たくないって、心のどこかから声がする。
ベッドを降りる。9日ぶりに動かした足は頼りなかったけれど、一歩一歩、うずくまる彼に近づいた。ワックスもつけていない頭に、華奢で細い手のひらを載せた。
「思い出せなくてごめんなさい。……でも、ボクは生きてますから。泣くよりも、喜んでほしいです」
「けどっ……俺が不甲斐ないせいで、お前がっ!」
「冬木さんがボクを運んでくれなきゃ、ボクはここにいないんです。不甲斐なくなんかないですよ」
それにダンジョン探索って、知識に間違いがなければ結構命がけのはずだ。
彼だけのせいじゃない。ボクだって、不甲斐なかったはずだ。
「……ああ、ちくしょう。そんな姿でも……記憶がなくても、お前はお前なんだな」
「はい、前のボクはわからないけど、ボクはボクです」
冬木さんは涙を袖で拭って、立ち上がった。彼の背丈はボクよりも頭一つぶん高いようだった。
「お前の記憶も……姿も、俺が絶対に取り戻してやる」
イケメンな発言だなあ。ボクじゃなかったら惚れてそうだ。
……惚れる? そういえばボクと彼ってどういう関係なんだろう。いくら探索者でも、男と女の二人でパーティを組むのかな。
あ、もしかして。
「冬木さん、もしかしてボクたちって付き合ってました?」
ピシリ。そんな音が冬木さんから聞こえた気がした。
「……んなわけあるかぁ!」
冬木さんが顔を真っ赤にして吠えた。
どうやらボクは、彼の好みじゃなかったらしい。残念……でもないかな?
===
「ここがあなたの部屋よ、ライ……ライカ」
「ありがとう、母さん」
あれから数時間後、すっかり日がくれた頃、ボクは自分の家に帰っていた。
ボクはどうやら母と妹、3人で暮らしていたようだった。父はすでに居ない。ダンジョンが出現した頃に死んでしまったらしい。覚えていないことに胸がチクリと痛んだ。
「困ったことがあったら、何でも言ってね」
「うん、ありがとう」
母と妹は、冬木さんが帰ったあと、しばらくして病室に通された。記憶喪失のことも説明されていたようで、覚えてないことに驚きはされなかった。
けど……なんだろう。妙によそよそしい気がする。家族というよりも、初めて会った他人に対する態度っていうのが近い。
「まあ、いっか」
前のボクがなにしたのか分からないけど、今気にしても仕方ない。
部屋の扉を開けて中に入る。正面には窓。左側にはベッドと机。机の上にはデスクトップパソコンとモニターが載っている。右側には本棚とクローゼット。そして壁の隙間を埋めるようにアニメキャラのポスターが貼られていた。どうやらボクはオタク趣味らしい。……それにしても。
「女の子の部屋って……これであってる?」
ぬいぐるみとかないし、なんか全体的に硬い感じがする。
「よいしょっ、と」
ベッドへ飛び込み横になる。使い古したスプリングがきしむ音。慣れている気はするけど、覚えていない。
仰向けになって、天井を眺めながら病院での説明を反芻する。
どうやらボクの名前は
二人でよくダンジョン探索に行っていたらしい。けど、9日前ボクたちは強力なモンスターに出くわして……ボクは重症を負った。そして冬木さんはボクを背負ってなんとかダンジョン入口まで逃げたらしい。謝られるどころか、ボクがお礼を言わなくちゃいけない側じゃないか。
顔を傾けると、ベッドの枕元にスマホが見えた。どうやら前のボクはダンジョンに持っていかず、ここに忘れていったらしい。
「あれ、指紋認証いかないじゃん」
右手、左手。どの指を試しても拒否される。パスコードも分からないし、これじゃ使えないな。
冬木さんならなにか知ってるかな。明日聞いてみよう。
それにしても、疲れたな……ボクは微睡んで、そのまま眠りについたのだった。
お気に入り登録お願いします!