【無自覚TS】ダンジョンで記憶喪失になった女の子だけど、周りの反応がなんかおかしい 作:じっくりコトコト弱火メス堕ち
警察のお世話になってから一週間後。
早朝6時、ボクは自室で、制服に身を包んでいた。
「なんか……スースーするな」
片足を軸にくるりと一回転すれば、姿見の中で少女が回る。
灰色……いや、銀色のボブヘアーが揺蕩い、黒いスカートがふわりと浮かんだ。このスカートだけど、ぜんっぜん慣れない。まるでパンツを丸出しにしてるかのような感覚だ。
クローゼットを見て察してはいたけど、ボクは普段からズボン派で、スカートは全然履いてなかったらしい。多分前のボクも、この感覚が嫌だったんだろうな。
よく制服は我慢してたな、ボク。それにしても。
「なんか、やけに新しい気がするけど……」
3年間使っている割には、擦れて薄くなった部分とかが全然ない。ボク、物を大事に扱うタイプなのかな。
ピロン、と机の上のスマホが鳴った。シゲルからメッセージが届いたようだった。
スマホのパスコードは、ボクとシゲルが初めてダンジョンで倒したボス、その魔石の買取価格だった。ちなみに、213000円だったらしい。すごい額だって思ったけど、シゲル曰く、命をかけてる以上これでも安い方らしい。
ロックを解除して、内容を見る。
『本当に今日から学校来るのか?』
しつこいなあ。『行くよ!』と返信する。全く、なんでそんなにボクに来てほしくないんだろう。
高校三年生とはつまり受験生だ。ダンジョン探索者は多少優遇されるらしいけど、勉強しないなんて論外じゃないか。
本当は退院した翌日から復帰したかったけど、シゲル含め色んな人から止められた。なんなら転校を進められた。わけがわからないよまったく。記憶はないけど知識は残ってるみたいだし、それなら今まで通り同じ学校に通えばいいじゃないか。それに、記憶が戻るきっかけになるかもしれないし。
転校は回避したけど、結局この一週間は毎日検査を受けさせられて行く暇がなかった。散々血液抜かれたり、胃カメラ飲まされたり、MRIに突っ込まれたり……ほんと、一生分やったんじゃないかな? 後遺症がないか確認するためって説明を受けたけど、過剰な気がする。
それと、服や化粧品の買いに行った。前のボクがどうしてたか分からないけど、女性用下着がないのはね。妹に付き添ってもらって近所のアパレルで7着くらい買った。
ちなみに、ボクと妹の仲はよくなかったみたい。返事はいつもそっけないし、下着があっているか確認してもらおうとしたら、すごい嫌そうな顔をされた。前のボク、いったいなにしたのさ。
再びピロンとスマホから音が鳴った。
『わかった。迎えに行くから家の前で待っててくれ』
「彼氏かよ」
確かに、一人で行くの不安だったけどさ。
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朝食を済まして家を出る。ローファーで踏みしめる地面が、妙に新鮮だった。初夏の朝日はすでに町を明るく照らしている。小鳥の嬉しそうなさえずりが、耳に残った。
「おはよ、シゲル」
「ああ、おはよう。……ライカ」
なぜか一瞬言葉に詰まったみたいだけど、シゲルはボクに笑顔を向けてくれた。
彼はボクと同じく、黒い制服を来ていた。違いはズボンとスカートだ。
「学校に話は通ってるのか?」
「話? ……あ、記憶喪失のこと? うん。『連盟』から話を通してくれたみたい」
今更だけど、この世界にはダンジョンがある。
今から10年前……西暦2028年に突然、世界のあらゆる地下を浸食して現れた空間。
それが特別指定地下空間、通称ダンジョン。
その中には既存の生物学を無視した魔物が蠢き、壁には物理学をあざ笑う魔法の知識が記されていた。
魔法は人類の限界を塗り替え、魔物はこの世の資源の価値をひっくり返す魔石をもたらした。
世界市場は混乱し、戦争も起きた。ダンジョンを破壊した結果モンスターを溢れさせ、国民もろとも滅んだ国もあった。
世界が混乱に陥る中、この国はうまく対応できたらしい。
特定指定地下空間探索連盟という組織が民間主導で立ち上がり、法整備やダンジョンの攻略に挑む環境がスムーズに整えられた。そして、探索者という職業が生まれた。
いや、職業というよりは一種の義務かもしれない。魔力を扱うには体質が大きく影響するらしいから。
ボクとシゲルは高校生として過ごす傍ら、放課後や休日は探索者としてダンジョンに潜っていたらしい。
「連盟から話しているなら、行っても大丈夫か……」
……シゲルは何が心配なんだろう。
そんなことを考えながら二人で並んで、最寄り駅へと歩いていく。
ボクたちが住んでいるのは東京の杉並区で、高校があるのは新宿区だ。
中央線の満員電車に揺られて30分以上。ヘロヘロになりながらボクたちはようやくたどり着いた。
国立中央防魔高校。探索者の素質を持った子どもたちが集まる教育機関。
それがボクたちが通っている場所だ。
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「本日から復帰される、霧島雷香さんです。以前説明したとおりダンジョンで重症を負い、記憶がなくなっています」
しんと静まり返った3年B組の教室に、山下先生の声が通る。彼女はボクとシゲルの担任だ。シゲルは言ってなかったけど、ボクたちは同じクラスだったみたい。
クラスにはボクを含めて30人。男女は同数くらい。皆一様にポカンと口を開けてボクのことを見ている。うーん……やっぱり思い出せないな。見覚えがあるのはシゲルだけだ。ちなみに、彼は一番奥の窓際の席にいた。空いてる席がその隣にあるから、そこがボクの席なのかな?
「霧島さん、一言お願いします」
「はい。霧島雷香です。改めて、よろしくおねがいします!」
ボクの目の前、教室の最前列に座る男子生徒がおずおずと手を上げた。
「あの……本当に、霧島さんですよね……?」
「え? ……はい、そうですけど」
なんだろう。すごい戸惑ったような表情をしている。……あ、もしかしてボクってこんな風に明るく挨拶するようなタイプじゃなかったとか?
「ボク、前と性格が違いますか?」
「いや、性格じゃなくて性べぐえっ」
名もわからない男子生徒が机に突っ伏した。何が起きたかと言うと、山下先生が目にも留まらぬ速さで踊り出て、拳を叩き込んだ。……なんで?
「事前に言いましたよね。霧島さん、困ったことがあったらなんでも相談してね」
前半は冷徹な声で、後半はボクに微笑みながら優しい声で山下先生が言った。
今まさに困ったことが起きている気がするんだけど……? その子生きてるよね? ボクみたいに記憶消し飛んでないよね?
「いや嘘だろ」
「顔も声も全部違うじゃん」
「でも声のトーンとか雰囲気は霧島だよね」
「ガチで女子になったの……?」
「シゲルによればそうらしい」
「女子っていうか全く別物になったというか」
「銀髪に赤目ってどこのアニメキャラだよ」
「ていうか可愛くなりすぎでしょ……」
「おいやめろ。目を反らしてたことを言うんじゃない」
クラスメイト、特に男子がざわつく。えーと……可愛くなった? ボク、今はメイクとかしてないんだけど。そもそもやり方わかってないんだよね。
自分で言うのもなんだけど、ボクは間違いなく美少女だ。彼氏がいないとか考えられないくらいに。むしろ、この容姿になびかないシゲルってどんな娘がタイプなんだろう。……いや、何考えてるのボク。シゲルは今関係ないじゃん。
ていうか、そろそろ座りたい。そんな意味を込めて皆に微笑んでみたら、なぜか数人の男子生徒が固まった後、机に頭を打ち付け始めた。
……なんで!?
「ちょっ、皆どうしたの!? シゲル、たすけっ……って! なんで君も打ち付けてるの!」
結局ボクが席に着けたのは、それから10分後のことだった。山下先生には「気をつけてください」と言われた。
本当になんで?