【無自覚TS】ダンジョンで記憶喪失になった女の子だけど、周りの反応がなんかおかしい 作:じっくりコトコト弱火メス堕ち
背後から迫る足音を捉え、振り向きざまに刀を振るう。
緑色の肌を剥き出しにした毛のない猿――ゴブリンは上下に両断され、かき消える。同時に、軽い音が耳に届く。
ゴブリンの中から現れたドローンと刀がぶつかったらしい。ドローンはそのまま吹き飛んでいき、室内を覆う壁にぶつかって床に落ちた。
「……これで何体目だろ?」
多分100は超えたと思うんだけど。
現在5限目。昼食後の最初の授業だ。高校の名前に「防」という字が入っているのはダテじゃない。ここは高校であると同時に、探索者を育てる訓練施設でもある。
ボクがやっているのは8畳くらいの部屋の中で、次々に迫ってくるモンスターを迎撃するというものだ。モンスターは本物じゃなくて、ドローンが投影するホログラム。部屋の壁にも洞窟……ダンジョンの風景を投影していて、無駄に作り込まれている。いったいいくらかけてるんだろ?
両手にそれぞれ構えている武器は本物じゃなくて模擬刀だ。ボクはいつも双剣で戦っていたらしい。記憶はなかったけど、身体はしっかり覚えていた。
さて、次はどこから来るかな。そう思っていたら地響きのような足音が轟いた。ドローンに足はないから、これもわざと鳴らして再現してるものだ。
右壁から複数のドローンが射出され、即座にモンスターの皮をまとう。ゴブリン2体にコウモリ系。振られる棍棒を避け左右の刀で同時に切り裂く。さらにジャンプして、ブレスの構えをしていたコウモリの脳天を貫く。着地と同時に背後から射出音。振り向けば10体の色とりどりのモンスターが――。
「ちょっ……多くない?」
何体か切り裂いて、攻撃を避けるけどモンスターの数が増えていく。20、30……増えすぎてホログラム同士が干渉し始めた。ちょっ……まっ……ぐえっ。
『死亡判定。記録131ポイント』
結局増えすぎたモンスターに対処しきれずゲームオーバー。電子音声が無機質に成績を告げる。同時に部屋を覆っていたホログラムが解除される。壁は無機質な白へと戻り、モンスターたちは手のひらに収まりそうなドローンへと変わった。
「いや、最後のあれどう対処しろっていうのさ……」
刀でどうにかなるものじゃないでしょ。機関銃もちこんでなんとかってレベルじゃん。
『トレインの兆候を察知した場合は迅速な退避もしくは隠伏を行うことが鉄則です。処理能力にみあった対処を心がけてください』
愚痴を吐いたら答えが返ってきた。そこも高性能なんだ。でもなるほど。部屋の中に遮蔽のようなものが置かれているとは思ったけど、トレインを避けるためのものか。
モンスターを切るだけの訓練かと思ってたけど、存外奥深い。
さて、そろそろ次の人に代わらないと。部屋のロックを解除し外に出る。
ボクが居るのは高校にある訓練場の一角だ。訓練場の形は一般的な体育館と大して変わりがないと思う。天井は高くアーチを描く鉄骨が屋根を支えている。そこからいくつもの照明が屋根から吊り下がっていて、観客席もある。もしかしてここで試合もやるのかな?
クラスメイトたちは各々自分が思うように訓練をしている。一人で素振りをしている人も居れば、ペアを組んで得物で打ち合っている人もいる。遠くには魔法の練習場がある。火や雷、ときには氷が宙を飛んで、宙を跳ぶドローンを狙っている。
「……さて、どうしようかな」
小部屋の迎撃訓練は、もう5回以上やって飽きた。それに今、新しい人が入って埋まったから使えない。正直、誰かとペアを組んで手合わせしたいんだけど……。
「相手がいない……」
結論を言うと、ボクはボッチだったらしい。
なんとなく察してはいたよ? 入院してるボクの見舞いに来てくれたのは家族と、シゲルだけだったから。クラスメイトが大怪我負って記憶も失いましたって知ったら、普通来ると思うんだ。
しかも、授業の合間ごとに周りの人と話そうとしてみたけどさ、全然うまくいかない。
たとえば男子に話しかけると……
「お、おう。霧島……だよな? なんか、大変だったみたいだな」
「ありがと。うん、本当大変だったよ。皆のこと早く思い出さなきゃって思ってたのに、この一週間検査ばかりでさ。あっちこっちに機械突っ込まれてめっちゃ辛かった」
「……突っ込まれる?」
「うん。ボクがもうやめてって言ってるのに必要ですからって言ってぶっとい胃カメラ口の中に押し込んできたんだよ! ボクのことなんだと思ってるんだろ……あれ? 大丈夫?」
「大丈夫だ。決して想像してない。どれだけ変わったって霧島は霧島だもんな。絶対にそっちにはいかない。大丈夫大丈夫……」
って感じで会話が途切れる。で、女子とは。
「き……霧島くん、随分変わったよね」
「そうなの? 前のボクって皆の前だとどんな感じだったのか教えてもらえると嬉しいな」
「うーん……あんまり変わってない気はするかな……うん、変わってないんだけどその顔で霧島くんのままの振る舞いされると頭おかしくなるっていうか変な扉開かれそうになるっていうかごめんもう無理!」
って感じで避けられた。ほんとひどくない? もうボク、シゲルしか話す相手居なさそうなんだけど。
ちなみにそんなシゲルは今、魔法の訓練に参加してる。探索者を前衛と後衛の2種類に分けるのなら、シゲルは後者らしい。魔力量が学年でも五指に入るほどに高いと聞いた。魔法のコントロールもうまいみたいで、今も宙を複雑に舞うドローンを一つ一つ丁寧に、迅速に落としてる。そして女子に「すごい」って言われてる。ほーん。
ちなみにボクはもちろん前衛だ。タイプが全然違うから、手合わせは無理だ。そしてシゲル以外とは話せない。はい詰んだ。さよならボクの青春。
「……素振りでもしようかな」
というかそれしかやることないな。って思ってたら背後から声をかけられた。
「霧島さん、ちょっといいかしら」
振り返るとそこにいたのは、ブロンドの髪をポニーテールにまとめた女の子だった。翡翠の瞳が細められて、ボクの方へ向けられている。顔立ちには海外の血が見て取れた。
「私は
「え、いいの? ありがと。相手居なくて困ってたんだよね」
「お構いなく。見せてもらうわ……冬木さんの隣にふさわしいかどうかを」
……どういう意味だろう?
戦場さんはすぐに周りに手合わせすることを伝えて、周りを開けさせた。前衛志望のクラスメイトが見守る中、ボクと戦場さんは互いに得物を構えて向かい合う。
ボクはさっきと変わらず双剣。左右に短い模擬刀を構える。戦場さんはレイピアを1振り構えている。
「開始の合図はどうしよっか」
「このコインが地面についたら、でどうかしら」
戦場さんは銀色のそれをポケットから取り出しながら言った。いいね、嫌いじゃない。
「じゃあ、それで」
言うがいなや、戦場さんは指でコインを高く打ち上げた。
さて……戦場さんってどんな戦い方するんだろう。ていうか、ボクこれ初めての対人戦なのかな。女の子が相手だし怪我させないように気をつけなくちゃ。……いや待って、ボクだって女の子じゃん。なに気にしてるんだろう。
「冬木さんが断言するのだから、あなたはきっと霧島さんなんでしょうけど……本当に何も覚えてないのね」
「え? ……うん、ごめんなさい。皆のこと覚えてなくて」
「いえ、別に怒ってるわけじゃないの。もしもフリなら、絶対に私との一騎打ちなんて受けないからね」
……え?
「それって、どういう」
コインが落下していく。まるで何かの幕を切り裂くかのように、速度を上げながら、まっすぐに。
「もう一度わからせてあげる。戦場アリス。学年総合1位の実力を」
甲高い音を立てて、銀が開始の合図を告げる。
直後、戦場さんの背後に4つの魔法陣が顕現し、そこから放たれた光の弾丸がボクに襲いかかった。