【無自覚TS】ダンジョンで記憶喪失になった女の子だけど、周りの反応がなんかおかしい   作:じっくりコトコト弱火メス堕ち

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戦闘訓練のはずだけど、威力がなんかおかしい

 正直言うと、一瞬見惚れた。その佇まいと所作は、とても美しかったから。

 戦場さんは右手を胸元まで引き上げ、レイピアを顔の前に掲げていた。細い剣身は彼女の鼻梁をかすめ、切っ先は天井へ向けられていた。その向こう側にある、細められた翡翠色の瞳はまっすぐボクを射抜いている。ブレのない堂々とした佇まい、その後ろで光り輝いた、人の顔くらいの大きさの魔法陣は彼女の金色の髪を照らす。そこから放たれる光の流星は寸分違わずボクの頭を狙ってってちょおおおおおおおおおおおおおおおっ!

 

 左へ跳んだ。着地のことなんか考えずに。

 戦場さんとボクの距離はだいたい10メートルあったけど、4つの白い光の矢は一瞬で、ボクの頭があったところに到達した。そして当然、ぶつかるものがないため通り過ぎ、いきつく先は――。

 

「は? なんで俺――ぎゃあっ!」

 

 当然、ボクたちを囲っていたクラスメイト。背後から男子の悲鳴があがる。だけど、振り返っている余裕はなさそうだ。

  

 訓練場の床に肩から叩きつけられたボクは、痛みを無視してすぐに立ち上がる。が、眼の前に迫る1筋の光の弾丸。今度はほのかに紅い。

 回避は無理だと判断して、左手の刀で弾く――が、刀身に触れた瞬間光が膨らみ、爆発。炎と白い煙がボクの視界を塞いだ。

 

 魔法は訓練用の威力に調節されていると聞いているけど、本当だよね? 寸前で後ろに下がったけど、まともに食らったら痛いで済むとは思えないんだけど!? そして。

 

 咄嗟に顔を左へずらし、両手の刀を自分の前で交差させる。煙の中から突き出たレイピアが、刀と擦れながら、ボクの耳元をなぞった。

 

「ぐっ……!」

「あら惜しい」 

 

 戦場さんが片手で持つレイピアが、ボクの双剣と拮抗する。重い。跳ね除けられない。おそらく、腕に魔力を循環させて強化させているんだろう。

 息がかかるほどの距離で、彼女とボクの視線が交差する。近くで改めて見ると、本当に綺麗な顔だ。少し吊目よりで勝ち気な印象を受ける。

 

「顔面狙いって……何かのルールで禁止だったりしないのかな?」

「あら? これはダンジョン戦闘を想定した訓練よ。なら当然……ルール無用でしょ」

 

 彼女は唇に薄い笑みを浮かべながら答えた。……目が笑ってない。

 ボッチで困り果ててたボクに声かけてくれた優しい人だと思ってたけど……逆だ。戦場さんは、間違いなくボクのことを嫌っている。手合わせと称してボコリたいくらいに。

 

「ボク、いったい君に何をしたのさっ……!」

「なにも? ただ……私が冬木さんの隣に行くには、あなたは邪魔なのよね」

「は?」

 

 なんでそこでシゲルがでてくるのさ。

 一瞬の思考停止。その隙を戦場さんは見逃さない。

 

「【小盾よ(タルガ)】」

 

 戦場さんの左手、バトルグローブの甲にはめ込まれた蒼い宝石が光る。それを起点に広がったのは薄い半透明の円盤。バックラーだ。

 レイピアを引き戻すと同時に、左手に追従するそれでボクの刀の身を叩いた。

 

「うわっ」 

 

 右腕が大きく身体から離れ、上半身がのけぞる。

 戦場さんは反動を使って、片足を軸に一回転。金色のポニーテールがボクの鼻先をかすめる。甘い蜂蜜のような匂いだ。

 

 なんのシャンプー使ってるか、後で教えてもらえないかな――なんて、胸元にレイピア突き付けられた状態で考えることじゃない。

 

「【火炎(エルズ)】!」

 

 切っ先に赤い魔法陣、そこに火が灯るまでコンマ1秒。バランスを崩していて、逃げられない。双剣による防御も不可能。そもそもどうやって防御するんだって話だけど。

 

「っぁああ!」

 

 やるしかない。自分を鼓舞するために吠える。

 魔力の流し方は、やった記憶がなくても身体が覚えている。左足、右足。筋肉の多い太ももを集中的に強化。負荷のかかる膝を伝って、かかと、そして足の指先。熱のような、けれど決定的に違う何かが身体の中で蠢く。

 

 無理やり足を下げ、強化された脚力で踏ん張る。上半身を無理やり起こす。腕に魔力を通し、引き戻す。筋肉が悲鳴を上げるが無視して、勢いのまま刃をレイピアに叩きつける。

 そらされた切っ先から熱の奔流が放たれる。

 

「きゃあああっ!」

「あつぅい!」

「戦場ぁ! お前周りのこと考えろぉ!」

 

 それは、ボクの頬をなぞりながら、ボクたちを囲むクラスメイトへ向かったらしい。巻き添えになった彼らの悲鳴と怒号が轟く。

 戦場さんは非難を素知らぬ顔で聞き流して、ボクから目をそらさない。

 

「よくかわしたわね」

「かわしきれてないんだけどね……」

 

 息を荒らげながら答える。頬はヒリヒリしているし、頭に手を当てれば、さらさらだった髪もチリチリになっている。視線を下ろせば、訓練用のボディアーマーが煤けていた。

 魔力強化は何も考えずにやると、よくて筋肉痛、最悪の場合は体内から破裂する。シゲルと昼食を食べてるときに、きつく注意された。本当は放課後、教えてもらうはずだったんだけど、仕方ない。とはいえ。

 

「あとでシゲルに怒られそうだな……」

 

 そうポツリと漏らした瞬間、戦場さんの目が鋭くなった。

 

「これでもまだ、冬木さんの隣に居続けるつもり?」

「……ごめん、よく意味が分からない」

 

 確かに今日ボクはずっとシゲルと一緒にいた。今日高校に来るまでの道中で散々言われたんだよ。俺から離れるなとか、一人で歩くなよ、って。彼氏かよ。

 トイレの時まで着いてこようとして困ったよ。まあ、あのとき何故か間違って男子トイレに入りかけたから、止めてくれて助かったな。

 ……多分こういうことじゃないな。

 戦場さんはボクを嫌っていて、それはシゲルに関係している。隣に居続ける……ふさわしいか……シゲルはイケメン……。えーっと、つまり。

 

「シゲルが好きだから、身を引けってこと? ボクはもう振られてるからお好きにどうぞ」

 

 ま、告白したあとOKもらえるかは知らないけど。

 

「……なに言ってんの?」

 

 ぞっとするほど冷たい声だった。あ、これ間違えたな。

 

 戦場さんが地面を蹴った。さっきまで鍔迫り合いをしていた距離だ。一瞬で距離をつめられる。けど、ボクも少し動きに慣れてきた。

 刀で弾き、もう片方の刀で胴を狙った反撃。残念、展開されている盾で防がれる。

 

「もしかして性自認までリセットされてるの? ダンジョンでなにがあったのよ」

「それは、ボクが知りたいな!」

 

 斬撃と刺突の応酬。さっきみたいに一方的ではないけど、押されてるのはボクの方だ。一歩、また一歩と足が下がる。

 後ろから巻き添えを危惧したクラスメイトの悲鳴と、防御呪文が聞こえてくる。

 

「優秀な後衛が必要とするのは、優秀な前衛。そうだと思わない?」

「そう、だろうね!」

 

 話の脈絡が分からないけど、とりあえず同意する。互いに攻撃を捌きながら。

 

「なら――」

 

 肩にレイピアがかする。ボディアーマー越しとはいえ、無視しきれない痛みが走る。

 

「3級探索者のあなたより、冬木さんと同じ2級の私が、彼の隣に立つべきだと思わない?」

「それは……探索者としてってこと?」

「そうよ!」

 

 魔法の気配。放たれた火を、身体を捻りかわす。

 

「冬木さんは優秀なの。これから先、ダンジョンのもっと深いところに潜れる。記憶を失ったあなたの世話に割く時間なんか、ない!」

「それは……」

 

 そうかもしれない。

 以前のボクはシゲルとよくダンジョンに潜っていた。ダンジョンの経験があった。

 けれど、今のボクはダンジョンがどんな場所なのかとか、彼とどんな連携をしていたのかを全く覚えていない。

 ボクはこれからダンジョンに潜るために1から学び直す。魔力の扱い方だって、本当は教えてもらうつもりだった。

 戦場さんの言うとおり、それにシゲルをつきあわせて、いいんだろうか。

 

「あなたと冬木さんの連携は、すごかった。だから私は諦めてたけど……これ以上つきあわせるのは許さない」

「ぐっ」

「あと、クラスの女子のためにも冬木さんから離れなさい。本当に……今日だけで何人絶望したと思ってるのかしら」

「……は?」

 

 それは……ダンジョンだけでなく、普段の生活でもシゲルから離れろってこと?

 ダンジョン探索の話だけだったら、別に良かった。

 告白だって勝手にすればいい。けど、シゲルに近寄るなってことになると、話は別だ。

 

「悪いけど、無理だ」

 

 記憶はないけどボクは彼の幼馴染で、彼はボクの記憶を取り戻すと言ってくれた。

 ボクの大切な人。絶対に、離さない。

 

 それに。

 

「シゲルの傍から離れたら……ボクはマジでボッチになる」

「……は?」

 

 戦場さんは口を開けてポカンとしたけど、洒落になってないからね。今日まともに話せたのシゲルだけだよ。

 シゲルも取られたらボクもう何を楽しみにして、高校に通えばいいのさ。

 

「だから……負けない」

 

 腕に魔力を込める。今まで程度じゃ足りない。まだ行けるはずだ。流れろ、暴れろ。

 脳裏に一瞬、映像がよぎる。白い肌の巨大な化け物、そして倒れている誰か。手に握られた見知らぬ剣。

 

 ボクは呪い、願ったはずだ。一瞬よぎった思考は泡沫に消えた。

 

 バチン、と稲妻が体表より弾ける。

 レイピアがこちらに突っ込んでくる。鼻先を捉えようとするそれに、右手の刀を下から振り上げた。

 

「ぐ――っ!?」

 

 レイピアが宙を舞った。戦場さんが衝撃に耐えきれず、手を離してしまったのだ。彼女の翡翠の瞳が大きく揺れ、眉が跳ね上がった。

 もう片方の手で斬りかかる。戦場さんは盾でガード。けど、今度は弾けない。

 

 武器は失い、もう片方の手は抑えた。ボクのもう一つの刀はフリー。これで終わりだ。……あれ?

 

「……なによ。降参するの待ってるの? さっさと打ち込みなさいよ」

「いや、それが……」

 

 戦場さんは怪訝な表情を浮かべた後、その視線を力の抜けたボクの右肩に向けた。

 

「あなた、もしかして」

「……はい」

 

 肩が外れた。クッソ痛い。

 戦場さんはため息をついて、空いた手でボクの腹にパンチをかました。

 

「ぐえっ」

「……とりあえず、引き離すのはやめてあげる」

 

 負けた……けど、よかった。とりあえず、ボッチは回避したらしい。

 戦場さんの声は不満げで、けれどどこか晴れやかに聞こえた。

 




ハメ匿3は終わったけど、まだ更新はしたいですね。ダンジョンにも行ってないし。

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