【無自覚TS】ダンジョンで記憶喪失になった女の子だけど、周りの反応がなんかおかしい 作:じっくりコトコト弱火メス堕ち
「やだっ……離してっ……」
自分の顔が引きつっているのがわかる。呼吸が勝手に浅くなって、小刻みに胸の膨らみが揺れている。
嫌だ。怖い。ボクは身動ぎするけれど、押さえつけられた身体はほとんど動かない。
シゲルだ。彼はボクの上にのしかかって、ベッドの上から逃げられないようにしていた。
ボクの左腕とお腹は、それぞれシゲルの男らしい、太い腕で押さえつけられている。そして腰の上にはシゲルの臀部が降ろされて、がっちりと固定されていた。
脚をじたばたさせて彼の背中を蹴るけど、ビクともしない。彼は能面を貼り付けたような表情で、ボクの顔をじっと見つめている。
「シゲルっ……やだよこんなの……まだ、心の準備ができてないって……」
「……」
彼は口を開かない。代わりに、それぞれの手に力を込めた。
「ひっ……やだっ……無理無理無理っ! ボクこういうの初めてなんだよ!? そうだよね!?」
「そうだな。俺の知る限り初めてだな」
「やっぱり! やだっ……もっと優しくしてぇっ……!」
「……暴れると、余計痛いらしいぞ。ほら……入るぞ」
「だめっ……入らない……入らないからぁっ……!」
ぐいっと押し込まれる感覚。
「ひぎぃっ!」
電撃のように迸った痛みに一瞬意識が遠のいた。ガコンという音が遠くから聞こえ、同時に右肩に鈍く走っていた痛みがやわらぎ始めた。
「はいお疲れー。冬木くんありがとねー。この子めっちゃ抵抗するからさー」
掴まれていた右腕が放された。ペタペタと確認するように何回か触りながら、朗らかな声で達成感を露わにしたのは、眼鏡をかけた白衣の女性だ。癖のある長髪を整えずあるがままにしていて、眼鏡の奥に覗く目元には隈が見える。
彼女は
先生はベッドの隣のサイドボードに手を伸ばしながらゆっくりと首を振った。
「怖い怖いって……脱臼なんだから嵌めなきゃどうしようもないでしょうに。ダンジョンには平気で潜るくせに、なんでこういう治療行為を怖がる子は多いのかねー」
「はぁっ……はぁっ……っ……せめて! 麻酔くらいしてくださいよ!」
息を整えた後、顔だけ先生に向けて、可能な限りの力を込めてにらみつける。もっとも、潤んだ瞳じゃ大した効果はなかったらしい。先生は小動物の威嚇を微笑ましいと思っているような目をしながらケラケラと笑った。
「えー? やだよ。麻酔の使い過ぎはよくないし、必要なかったし。なにより、君たちみたいな若い子の悲鳴聞きたいから、研究の片手間でこの仕事やってんの」
「可愛い悲鳴だったよー」と続けてにっこりと笑った。なんて変態だ。
戦場さんとの戦闘の果てに訓練場で脱臼したボクはシゲルに引きずられてここに連れてこられた。道中では「なんで勝負受けたんだ」とか「魔力強化はあとで教えるって言っただろ」とか延々と小言を言われた。そっちは女の子に褒められながら楽しく訓練してたくせに。
で、真戸先生は患部をしばらく見た後「麻酔なしで嵌めよっか」とか言い出して、逃げようとして……結果、シゲルに取り押さえられてこうなった。
「情けないわね。私、こんなやつに追い詰められたの?」
コツコツと足音を立てて近づいてきたのは戦場さんだ。右手に湿布が巻かれている。多分、ボクがレイピアを弾いたときに痛めたんだろう。
「……大丈夫? その怪我」
「すぐに治るから平気」
戦場さんは目を細めて小さくため息をついた。
「……あなた、自分が女子だって分かってるのよね?」
「え? うん」
筋金入りのボクっ娘だったぽいことも。
「結構顔がいいってことも、分かってるのよね?」
「……まあ、うん」
復帰の挨拶のときに、クラスメイトがちらほら漏らしてたしね。
ちなみに戦場さんもかなりの美人だ。ボクとどっちが美人かって言われると、多分意見が分かれるくらいの。
「私達は連盟の要請に従う義務があるから、これ以上は言えないけど……今の自分にふさわしい振る舞いをしてくれないかしら」
「えっと……うん。がんばる、ね?」
どういうことだろう。
「本当は冬木さんへ謝罪しに来たんだけど、それどころじゃなさそうね」
戦場さんがボクからシゲルへと視線を移す。
彼は未だにボクの上にまたがっていて、その両腕をボクの身体から放していない。というか、さっきより力がこもっている気がする。
でも、もう脱臼の治療は終わったんだしどいてもらってもいいんじゃ? 重いし。戦場さんからシゲルへ顔を向ける。彼は未だにボクのことをじっと見つめたままだ。
いや、なんか変だ。まず、顔がさっきより紅い。呼吸が荒い。あと、目が合わない。瞳孔はかっ開いているのに。
「シゲル……?」
シゲルの視線はボクの顔に向いていない。彼が見ているのはもう少し下のような――。
ガツンという音が響いた。戦場さんが怪我していない方の手で、シゲルの頭を殴ったのだ。
「……はっ!?」
あっ、ようやく手を放してくれた。左腕を顔の上に持ち上げて見ると、シゲルの手形が赤く残っていた。乱暴だな全く。
非難の意を込めてじとりとした視線をシゲルに送ってみると、彼は慌てて立ち上がってとベッドの上から降りた。はあ、やっと身体が軽くなって楽になった。
「……風紀は乱さないように」
戦場さんがそう言って、ベッドから離れた。
どういうこと? 思わず聞き返そうとしたけど、彼女はスタスタと歩いて保健室を去っていた。シゲルの脚にローキックを思いっきりかまして。すごい音したな。
「大丈夫?」
「大丈夫だ問題ない」
「シゲル、そっちは壁だよ」
どこ向いてるのさ。
シゲルはベッドから降りたあと、保健室の出口の方を向いていた。蹴られた脚をさする素振りもない。
「……目を離して、悪かった」
喉の奥から絞り出すような声だった。
「離れるなって言ったのにな」
「気にしないでよ。シゲルだって自分の訓練があるんだから」
探索者のランクは数字で表される。1級探索者を頂点として、その下に2、3と続き、5級を下限とする。
5級はほぼ、ダンジョンに入るための許可証扱い。戦闘の心得を持つのは4級以降だ。その中でも一定以上の技能や討伐実績を示した人たちは3級以降へ上がっていく。
シゲルや戦場さんは2級で、そしてボクは3級。実力はもう、離れ始めている。
だから、ボクはあの日――なんだっけ。何かを思い出しそうになったけど、ダメだ。顔を出したそれはすぐ脳内の片隅に引っ込んで消えてしまった。
「今度の土日」
シゲルが声を張り上げた。
「ダンジョンに行こう」
「え?」
それはありがたいけど……でも。
「訓練でもこんな体たらくだし……シゲルの脚を引っ張っちゃうよ」
シゲルの脚を引っ張るのは嫌なんだけど。一泊おいてそう伝えようとしたら、シゲルがこちらを向いていた。
「俺は、お前が目指したから探索者になったんだ」
シゲルが大きく一歩、こちらに進む。
「お前なしでの探索なんて、考えてない」
……こいつ、自分が今いったこと理解してるのかな。
こちらを見つめる強い眼差しから思わず顔を背ける
顔が火照ってる。未だ着たままの訓練着、その背中に汗が伝う。
「……考えとく」
多分1分くらい悩んでようやく口から出た声は、少し上ずってたと思う。
ちらりと横目でみれば、シゲルの口元が緩んでいるのが分かった。
シゲルはその後、片付けがあるからと保健室から去っていた。
ボクは結局ベッドの上のまま。放課後には迎えに来てくれるらしい。
「ダンジョンかぁ……」
しかも多分、二人で。
どんな服を着てけばいいんだろう。この前の買い物のとき、服も買っておけばよかったな。
「ふふっ」
「……デートじゃないと思うんだけどね」
真戸先生のぼやきは、今は聞こえないことにした。
難産だった……
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