日によっては数話投稿するかもしれませんし、その逆も然り。
一人称が違う、等があったら遠慮せずツッコんでください、作者のガバです。
※クロスオーバーな話を楽しみたい方は三話ほど読み飛ばしていただいても恐らく問題はございません(多分)
はじまり
「今日こそ決着をつけます、アルクェイド!!」
「望むところだっての! かかって来なさい、シエル!!」
その掛け声と同時に、我が家の裏庭で二つのミサイルが衝突した。言うまでもなくその二つのミサイルの名前はそれぞれ、アルクェイドとシエルである。もしくはファニーヴァンプとバッドエンド先生でも問題はない。
「朝早くから元気ですねぇ」
「あれを元気、の一言で済ましていいんでしょうか、姉さん」
そう和やかに語り合う二人の少女の声が背後から聞こえてくる。一つは感情豊かで、もう一つは感情ゼロのような両極端な声。
こちらも言うまでもなく遠野の家で働いてくれる使用人の姉妹、琥珀さんと翡翠のものである。カチャカチャと聞こえる陶器同士がぶつかり合う音がするのは、先ほど用意してくれた紅茶のためのポッドを片付けているからだろう。
ズズ、とそんな淹れてくれたばかりの紅茶を、俺は啜るようにして口に含む。
流石は琥珀さんだ。アッサムだとかダージリンだとか、紅茶について詳しいことなど何も知らない俺だけれども、それでもこの一杯の異常なまでの美味さくらいはわかる。
遠野家に仕える使用人の名は伊達ではない、ということか。これはさぞ雇用主の秋葉の鼻も高い事だろう。
さて、もう一口。口内に広がる香りや風味を楽しもうじゃないか。
そろり、そろりとゆっくりと離していた唇とカップとを近づける。その仕草はまるで蛇に睨まれた蛙が「別に捕食者とか怖くねぇし?」と虚勢を張っているかのよう。
あぁそうだ。別にビビっている訳なんかじゃない。訳じゃないんだけれども……。
――ドンッ!!
「やってくれたわね、この!!」
爆発音とともに、我が家の裏庭に大きなクレーターが誕生した。具体的に言うなら、半径二十メートルくらいの大穴である。
もくもくと粉塵を漂わせながら、その中心から勢いよく飛び出す金髪の姿が視界にチラリと映った。その速度はジェット機もかくや、というほどでその像を完璧に視界に収めるのは普通の人間ならまず不可能といったところだろう。
「……」
「あ、あはは。いやぁ、ホント元気だなぁ。なぁ、秋葉?」
恐る恐る眼前に座る妹の表情を覗き見る。
目を閉じ、眉一つ動かさず時折、俺と同じようにカップを口元に運んではその唇を濡らしている姿はまるで、気品という文字を擬人化させたかの如く様となっている。育ちが庶民な俺なんかとは全然違う。月とスッポンだ。
兄の贔屓目抜きで見ても秋葉は美人と言って差し支えないほどに顔立ちが整っている。
そんな彼女が無表情で黙り込んでいる様子は、まるで美術品の一つのようで、このだだっぴろい屋敷にとてもお似合いではあるのだけれども……。
それ以上に、彼女から放たれる無言の圧力で俺は押しつぶされてしまいそうで、とてもじゃないが気が気でない。
――正直に白状するなら、内心、めちゃくちゃ怖いです。
「……なんです、兄さん?」
「――いや、なんでも」
君子、危うきに近寄らず。つつけば百パーセント藪蛇だって赤子だってわかることだ。当然、一般男子高校生である俺は口をつぐむ。
いやぁ、それにしても琥珀さんの淹れてくれた紅茶は美味い。俺ってば、さっきからこの紅茶に夢中だよ。夢中すぎて、他のこととか考えられないなぁ。
そう心の中で情けない言い訳を並べながら、キリキリと痛む胃からは目を背ける。ついでにクレーターからも目を背けるし、秋葉からも背けた。
「はぁ……。由緒正しき遠野家の敷地を、あぁも無残に扱うとは。……兄さん、やはり交友相手は選んだほうがよろしくてよ」
よろしければ、私が選別して差し上げましょうか? などと続ける妹様。今日初めての笑顔だけれども、ちっとも可愛くない。むしろより怖さが倍増したくらいだ。
多分ここで頷いたら本気で秋葉は俺の交友関係にメスを入れるだろう。いつもお決まりのアレ、『遠野家の長男として……』が炸裂することは想像に難くない。
だから俺はその言葉に肯定せず、また気分を害さないように否定もしないように、曖昧な笑みを浮かべながら紅茶を啜るのだった。
アニメや映画での貴族が交渉の際に紅茶を良く飲んでるイメージがあったが、なるほど、まさしくお茶を濁すためのそれだったのか。こんな形で実感したくはなかった。
それから半刻ほど経過した頃。
ようやく二つの核弾頭は衝突しあうことに飽きたらしく、辺りに響く爆発音は鳴りを潜めていた。
裏庭には両の手じゃ到底足りない数のクレーターが誕生しているが……、見えないふりをする。アレは人間の手に負える代物じゃない。俺みたいな貧弱な男ならば猶更だ。
「アレ、もしかしなくても私たちで修復することになるんですかねぇ」
そう遠い目をしながらぽつりと零す琥珀さんに涙を禁じ得ない。
遠野家の使用人である彼女たちは基本、当主である秋葉の命令が絶対だ。つまり、秋葉がアレをどうにかしろ、と命令したら彼女たちに拒否権は無い。
普通に考えてあれほどの大規模な被害を少女二人に押し付ける、だなんて暴挙がまかり通っていいはずもないのだけれども……。
秋葉のことだ、恐らくサラリと「明日までにアレ、どうにかしておいてね」なんて言いつけるのだろう。
なんとブラックな労働環境。労働基準法とか、そう言うのは無いのだろうか。
「琥珀、翡翠。明日の朝には来客の予定が入ってますから、今日中にアレの修復を頼みます」
「……」
訂正。無いのは労働基準法などではなく、人の心であったらしい。
我が妹、普段は遠野家当主と学生とを両立する完璧超人のようでありながら、その正体はまさか鬼であったか。
――シャレにならん。
「……俺も手伝いますよ、琥珀さん、翡翠」
「志貴さん……っ」
地獄に救いを見たり、とガッツポーズで立ち上がる琥珀さん。翡翠も無言ながら拒絶はしてこない。普段の彼女なら「主の手を煩わすわけには……」なんて言って協力を拒むだろうが、そうしないということはOKということでいいだろう。
というか、そこまで有難そうにされると反応に困る。半分くらい、マッチポンプな気もするし。原因がアルクェイドとシエル先輩、ってのとかモロに俺経由だから。
「私ももちろん、手伝わせていただきますね」
「あ、先輩。ケガとかは大丈夫ですか?」
「えぇ、この通りピンピンしていますよ」
戦地の方からいつの間にやら俺たちのいる本館のテラスまで歩いて来たらしいシエル先輩に声をかける。彼女はニコリと笑みを浮かべ、力こぶを作るような仕草をして返事をした。
ちらりと見える細い腕、主に上腕の部分。先ほどまでの怪獣大決戦を生んだ一角とは思えない、少女特有の美しさに自然と視線が吸い込まれる。
「……」
今の先輩は対アルクェイド用に着替えた本気モードで、普段の制服や修道服ではなく、露出多めの恰好をしている。あの青いボンテージみたいな奴だ。
健全な男子高校生的には非常に視線のやり場に困るというか、なんというか。
正直、ごちそうさまです。
腕とか、脇とかさ。他にも脚とか、腿とか……
「……兄さん?」
「なんでもないです、ごめんなさい!」
そんな俺の良くない様子を悟ったらしい秋葉がギロリ、とこちらを一睨み。兄貴として情けない話だが、俺はその睨み一つでノックアウトされてしまう。
笑いたければ笑うがいい。秋葉に歯向かう方が、よっぽど怖い。笑われるだけで済むなら、それが最高だ。
「……あれ、そう言えなアルクェイドは?」
「さぁ? 先ほどの戦闘以降、姿を見ていませんけど」
俺は首を振って周囲を見渡す。シエル先輩がこっちに来れてるってことは、アイツだってこっちにもう来ていてもおかしくないはずなのだけども。
まさかアイツ、さっきまでのバトルで消耗してそこら辺のクレーターで寝込んでる、とかじゃないだろうか。
……いや、ないな。自分で言っておいてアレだが、それだけは百パーない。アイツがあの程度で寝込む奴だったら、俺だって普段苦労しないし。
まぁ、気分屋なアイツのことだ。飽きてどこか適当なとこにでも行ったんだろう。
どうせその内、またヒマになったころに「ヒマだから遊びに来たわ!」なんて言ってひょっこり顔を出すはずだ。
「なー、メガネナイフマンよ。そりゃあちょいとばっかし、お姫様の扱いってのが雑なんとちゃうの?」
「うわぁ、出やがった!」
突如聞えた珍妙な声に振り返る。残念なことに聞き馴染みがあるその声。
そこに居たのは……
「なんでい、人様をお化けみたいに扱いやがって。下手したらどの登場人物よりも知名度が高いかもしれない、でお馴染みのアタシだぞ? もっともてなせい! ……主にミーム的な意味でだけど」
そこに居たのは、猫という生物の全てに謝罪しなければならないほどに冒涜的な姿をした名状しがたきナマモノであった。
二足歩行の三頭身猫モドキ、と言えばその奇妙さは誰にでも伝わることだろう。
「……出ましたね、怪生物。あなたの出番はデッドエンドの先のおまけだけ。それくらいの分別さえ失ってしまいましたか?」
「おめーにだけは言われたくないんですけど!? 勝手にシレっと宝具のネタ枠でアタシを犠牲にしやがって!!」
「なんの話ですか!?」
懐から取り出した武器――確か黒鍵という名前だったか――を構え、ナマモノの首に宛がいながら凄む先輩。
しかしソイツは先輩の威圧をどこ吹く風とばかりに気にも留めず、普段通りの奇妙な言動を続けた。
大物と言えば良いのか、それとも大バカといえば良いのか。恐らく後者なのだろうけれども、その勇気だけは認めてもいいのかもしれない。
「っと、話が逸れた。おい、メガネナイフマン」
「その呼び名にはすっごく抵抗があるが……、まぁ今は良い。なんだよ」
どうやら怪生物は俺に用があるらしかったのか、すぐに先輩との漫才を辞めてオレの方を見て口を開いた。
どうしよう、嫌な予感しかしない。コイツ関連の話ってだいたいロクな話じゃないんだよ。ちょっと前にも魂を分割されたりしたし。
「おめー、月のお姫様の扱いがちょいと雑なんですよ。さっきだってシエルとの戦闘を酒の肴に、やれ美人明度姉妹とイチャコライチャコラ、ツンドラ妹とイチャイチャちゅっちゅと……。恥を知れぃ!」
「はぁ?」
俺が、アルクェイドをないがしろにしてるって? いやいや、そんなまさか。
というか、どうやったらアイツをないがしろに出来るんだよ。ふと気が向いたら勝手に人の部屋まで押しかけてくるような女だぞ。
そうナマモノに主張する。
「ハーレム、いいじゃないの。ヒロインがいっぱいってのは夢があることだしね? オタクの場合、厄ネタが多すぎてハーレムってよりは地雷回収って感じだけども。何、マインスイーパーでもしてんの?」
だが俺の抗議の声などまるで聞こえていないかのようにヤツは話を続ける。
正直、驚きはない。コイツ、コミュニケーションできるようでコミュニケーション何てほぼ無理だし。だから余計、奇妙なんだけども。
「月姫で月のお姫様をないがしろって、そりゃダメっしょ、いくらハーレムでもよ~。どういうルートをたどってヒロイン全員こうして揃えてハーレムルートに行ったかは知らんけどもさ。……てかさっちん、イズ、どこ? あの子、またハブられちゃったの?」
何故そこで弓塚さんの名前が出てくるんだ。
「そもそもハーレムってのが気に食わねぇ。男ならよ、心に決めた、たった一人の女を愛しぬけ。それがネコの道、ってもんじゃないのかい」
「言ってること、ころころ変わり過ぎだろ。あと俺、猫じゃなくて人間」
そもそもハーレム、ハーレムって。
俺のどこがハーレムだってんだ。別にそんなたいそうな身の上じゃないぞ。
ちょっと血の繋がってない妹と、美人の使用人姉妹の三人と一緒に同じ家に住んでいて、それでいて金髪の吸血姫と学校の美人な先輩とも親しい関係にあるってだけで……。
……いや、文字にするとちょっとダメかもしれんが。
しかし、そんな爛れた関係じゃないし。
「……ってわけだから、お前にはあの月のお姫様がどれだけお淑やかで可憐なパーフェクトヒロインであったかを知ってもらうため、別世界の月のお姫様に会いに行ってもらう」
「……は?」
何を言っているのだ、コイツは。
「んーっ、しょと。ほいこれ、聖杯ね。魔力とかちゃんと入ってるガチの願望器。どうやって入手したかは乙女のトップシークレットだから聞かんでくれよ」
懐からヤツが取り出した金色に輝く、まるで体育祭の優勝トロフィーのような形をした杯。
というか、聖杯。
聖杯と言ったか? 確かそれって、前に……、
「んじゃ、行ってこいスケコマシ。いくらジゴロのお前でも、あの世界でなら女を堕としてくるなんてことはねーだろうしな。せいぜい、気をつけろよ~」
そう、確か、あの大きな盾を持った少女が言っていたはずだ。
この世には、どんな願いでも叶えてくれる、そんな万能の代物が存在すると。
なら、ヤツが持っている杯が本当にそれだとすると……。
非情に、マズいのでは???
「は?」
瞬間、足元に大きな穴が産まれる。
先ほどまで足裏で感じていた垂直抗力は消え失せ、ふわりと宙を漂う浮遊感が全身を覆った。
足元の穴に目線を向けるも、その先は見えない。それはもはや、ただの暗闇といっても差し支えない程のものだった。
「兄さん!?」
ガタリ、と秋葉がその席から立ち上がる。その表情は酷く焦ったもの。周囲を見渡せば、琥珀さんも翡翠も、それからシエル先輩も。全員、同じような表情をしている。
それもそうだろう。普通の雑談からこんな急展開に一気にぶっ飛ぶだなんて想像できる人間なんていない。俺だってこんな展開、思ってもみなかった。
「あ、お土産は木刀でいいよ? 修学旅行と言えばお決まりですしね」
「っはぁ――!?」
とぷん、と落とし穴へと沈んでいく。
――そこでオレの意識は途切れた。
一話の後書きで言うことじゃないかもしれないが、敢えて言おう。超かぐや姫!と月姫のクロスオーバーと言ったな?
――アレは(ほぼ)嘘だ。
御覧の通り、月姫ってよりかほぼメルブラですよ、こんなの。
ヒロイン、全員揃ってますしね。それくらい緩い世界観のクロスオーバーと思ってください。
また、月姫、メルブラだなんて言ってますが一部、型月別作品の話が出ないこともないですが(志貴の先生関連とか、型月での宇宙からの侵略者と言えば、的な)、まぁそこら辺は後書きで補足させていただきますので、型月を知らない方もどうぞ楽しんでいただければ幸いです。