かぐや姫だって月の姫   作:すっごい性癖

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前話の後書き、追加しました 可能なら今日は二話更新したい所存(昨日は更新できなかったので)

ちなみにこの作品は結末どころかアフターストーリーまでプロットが決まっていますので、もしも私がエタった場合には、DMなりで聞いてくださればお送りいたします


連休なんてあっという間に溶けるもの(中)

 

「……子育て用品ってこんなに高いのか」

 

 『ゲーミング電柱から赤ん坊が……事件』の翌朝。

 

 俺は近隣にある西竹屋――子育ての味方、をフレーズにしている小売店である――へと開店時刻と同時に駆け込んだのだけれども。

 

 オムツに子供服、ミルクに哺乳瓶にエトセトラ。

 

 その一つ一つがまぁまぁのお高い値段をしているのに加え、ゼロからすべてを揃えるとなると塵も積もれば方式で金額が爆発する。

 

 今朝家を出る時に酒寄さんから手渡された、今、現在時点で必須となる物のリストを書いたメモに視線を移す。

 

 昨夜からの短い時間帯にここまで調べ上げてくれたのか、と彼女の優秀さと真面目さには脱帽ものだ。

 

 おまけとばかりにオムツの記載の横には『赤ちゃんの肌は繊細だから、値段よりも質を重視!』と吹き出しで追記されていた。

 

 拾ったばかりの赤ん坊にそこまで配慮をし、普段切り詰めているお金を惜しみなく――正確には惜しみはあったので、メモを手渡されるときはそれはそれは凄い顔をしていたけれども――使え、と。

 

 そう言える彼女の善性はきっと美徳なんだろうが、とても綺麗とは言えない現代社会においては息苦しいのではなかろうか、と邪推してしまう。

 

 現在、酒寄さんは自室で赤ん坊の相手をしてくれており、俺が一人で買い物に来たのは単純な話、男の方が力が強いので買い出しに向かった、という作業分担だ。

 

 まぁ体育の成績も学年一の彼女と、貧弱もやしな俺とを比較した場合、男女の差など逆転してしまっている気がしないでもないのだが……。

 

 俺には到底、赤ん坊の相手などできないので買い出し係に任命していただけてホッとしている。

 

「にしても、彼女も難儀な性格をしているよなぁ」

 

 そう言いながら今朝の彼女の厳命を思い返す。

 

『絶対っ、割り勘にするからレシートは持って帰ること!!』

 

 ピシッ、と玄関口でメモを眺めていた俺に向かって指を指しながら、そう言いつける彼女。

 

 眠っている赤ん坊を起こさない、限界ギリギリくらいの声量でそう叫ぶ彼女の表情には『もしレシートを捨てたら処す!』とでも言わんがばかりに必死だった。

 

「言わなければこの場は俺が全額出して終わりだったってのにさ」

 

 ノエルから毎月受け取っているお金の額は、最初に受け取った額程ではないが、それでも男の一人暮らしには十分すぎる金額で、今も通帳に貯まっていっている。

 

 おかげで生活が苦しい、なんてことはなく、不自由しない日々を過ごさせてもらっているのが今の俺だ。

 

 明日の食費にすら怯えている彼女がこの突然の、支払う道理すらない出費に見て見ぬふりをすることを、誰も謗ることなどできるはずがないのに。

 

 他でもない彼女自身が、現状から目を逸らす自分自身を許せなかった。

 

 一度背負ったのならば、最後まで。立ち上がった人間が責任を。

 

 そう口にする彼女の表情はどこか強張っていて、それでいて彼女らしくなく、まるで誰か他の人の言葉をなぞっているようであったことを思い返す。

 

 恐らく、諌山さんたちが言っていた『お母さん語録』なるものなのだろう。

 

 ……と、そうだ。諌山さんたちと言えば。

 

「メッセージを送るのを忘れてたっけ」

 

 急な連想だが思い出したぞ。

 

 昨晩、赤ん坊が電柱から出て来るだなんて珍事件が起きたせいで忘れてしまっていたが、その前、アルバイトからの帰宅途中。

 

 流れ星に向かって『金……』と切実な願い事を呟きながら、酒寄さんの目元は赤く腫れていた。

 

 きっと彼女の精神が限界に近いのだろう、と、情報共有のために二人へとメッセージを送ろうと思っていたのだったが……。

 

「……これでよし、っと」

 

 ポコン、と俺は簡潔に二人へと情報共有のメッセージを送る。送信先のグループ名は『対・酒寄彩葉』と簡潔で分かりやすいもの。

 

 元は諌山さんと綾紬さんの二人でチャットをしていたらしいが、そこに俺が加わることとなったので急遽作られた三人用のグループだ。

 

 もちろん、酒寄さんは加入していないし、その存在も知っていない。

 

「えっと、後は……」

 

 俺はメッセージがきちんと送れていることを横目に確認し、買い出しメモの次の記載の品を探すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、マジで高かったな……」

 

 会計を終え、俺は店の外に出る。

 

 手にはいくつかのビニール袋に入れた子育て用品。それはずっしりと重く、これは確かに買い出し係として俺が出動してよかったな、と思った。

 

 レシートに記載された金額は一万三千円とちょっと。割り勘にして一人あたり、六千五百円ほどか。

 

 世のお父さん、お母さんはこんな出費がある程度の期間、続き続けるというのか。そりゃあ子育ては大変だ、と皆が口をそろえて言うはずである。もちろん、それは金銭的な問題だけではなく、体力、精神的な問題も孕んだ発言ではあるのだろうけども。

 

「……ん?」

 

 と、そこで。

 

 俺は店を出て暫く進んだ先に、一人、死にかけの人間の人影を発見する。

 

「あれは……」

 

 壁にぐでぇ、と体重をかけ、頭をフラフラと揺らしながら顔を真っ青に染め上げる茶髪の女性。

 

 その姿に俺は見覚えがあり、……というか、えぇっと、その。

 

 ……えぇ? 

 

「あぁん、何見てんのよ……?」

 

 こちらの視線に気が付いたのか、女はそう、口悪く叫びながらもこちらを睨みつけてきた。

 

 だが、やはり顔色が悪すぎて怖くはない。

 

 というか、今の声。やっぱり……。

 

「……朝っぱらから何してるんですか、ノエル先生」

 

 はぁ、とため息一つを吐き出しながら駆け寄るその先。

 

 グロッキーを擬人化したようなその女は、俺と同じく別の世界からこちら側へと転移してきた、藍染ノエルその人なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っく、ぷはぁ。あー、染みるわぁ。やっぱオールで飲んだ後はしじみ汁、オルニチンがこのあたりに効くぅ……っ。はぁっ、日本人で良かったー!」

「あんた、日本人じゃないでしょうに……」

 

 そうツッコミながら、彼女の口の周りに着いた味噌のカスを拭い落とす。

 

 どうやら彼女は酒の飲み過ぎでああも不機嫌だったらしく、今にも吐き出しそうな様子だったので俺はしょうがない、と介抱することにしたののが十分ほど前の話。

 

 とりあえず付近のコンビニまで連れ運び、店内でインスタントのしじみの味噌汁を購入し、お湯を入れ手渡したのが五分ほど前だ。

 

 真っ青だった顔色はみるみる回復している当たり、彼女の言う通りオルニチンの効果はしっかり働いているのだろう。

 

「いやぁ、持つべきものは気の利く生徒よねー! クソ生意気なガキンチョ上司とか願い下げだっつーの!」

 

 志貴君大好きー、なんて軽すぎる言葉を言いながら彼女はケラケラと笑う。

 

 ズズズ、と最後の一滴まで残さないぞと、手に握る割り箸でカップの奥の奥までかき寄せるその姿は、本当に情けないまでに『ザ・ダメな大人』という像そのもの。

 

 この人、ホントなんでこんなに残念なんだろう。顔とか、別に悪くないってのに。悪いのなんて性根ぐらいで、性格も……。

 

「で、ノエル先生は休日の朝っぱらから、なんであんなグロッキーだったんですか?」

「ん? あー、それね。いやぁ、話すと長くなるんだけどさぁ……」

 

 ふぅ、と、二日酔いの気持ちの悪さが飛んで、今度は食欲が戻って来たらしい彼女はみそ汁のついでに買っておいたおにぎりのフィルムを剥がしながら語り出す。ちなみに中身はツナマヨだ。

 

「私さぁ、せっかくの異世界だし心機一転ってゆーの? こっちならではのことをやりたいなぁ、って思ってライバーってヤツ始めたんだけどさ」

 

 はぐ、とおにぎりを一齧りし「げっ、ツナマヨかよ。梅干しが良かったなー」などとほざきながら彼女は語る。

 

「それが結構うまくいっててさ? もう、そりゃあガッポガッポ稼げるわけよ。ホント、化け物相手に命懸けで戦って稼ぐなんて、バカらしいってくらい」

「そりゃあなんとも夢のある……」

「でっしょー? 代行者なんて今時古臭いのかもねー。知らない国に行って吸血鬼一匹殺すのと、クーラーの効いた部屋の中で好き勝手おしゃべりするのとで、後者のが下手したら時給がいいってどうかしてるわー」

「貴女、教師では……? 副業しちゃアウトでしょ」

「おバカねー。私はあくまで、教育実習生。正式な先生じゃないんだから、副業もセーフだっつーの」

 

 ……それもそうか、確かに。そう彼女の言葉に納得する。

 

 それにしてもノエルがライバーとは……。

 

 酒寄さん経由で月見ヤチヨの存在を知り、まぁまぁの期間こちら側に居るのもあって、それなりにライバーというモノについても詳しくはなったものだが、まさか知人がそれになるだなんて思ってもみなかった。

 

 ……いや、そう言えば諌山さんや綾紬さんはネット系のお仕事をしている、いわゆるインフルエンサー何だったか。

 

 この世界では割と普通なのだろうか、ライバーやインフルエンサーだってのは。俺の中でそれらが一番近い概念は芸能人とかなのだが。より身近な芸能人、ということか。

 

「……ん?」

 

 そこでノエルは俺の持つビニール袋に気が付いたのか、視線を一点に集中させる。

 

 その表情はみるみる驚愕の色に染まっていき、ぱくぱくと口を開いてまるで餌を強請る魚のようだ。

 

「……は? なんで男子高校生がベビー用品何て、って、嘘でしょ。アンタ、まさか!?」

 

 ヤったんか、と。どこまでも下世話な事を聞いてくる藍染ノエル、自称二十五歳。

 

 この人、曲がりなりにもシスターで聖職者なわけだよな。いいのか、教会ってのは、これで。

 

「っちょ、まっ、説明、説明プリーズ!?」

 

 説明が面倒になった俺は、彼女の体調も無事良くなったし、とその場を後にすることにする。

 

 後ろから聞こえてくる大声の静止の声は気に留めない。

 

 如何に顔色に色が戻ったとはいえ、流石にまだ足元は覚束ない彼女は、その場で立ち上がろうとするもすぐさま転げ落ち、「べへっ!?」なんて情けない声を漏らす。

 

「……さっさと帰ろう。酒寄さんが待っている」

 

 俺は今度こそ、帰路につくのだった。

 

 ……そう言えば話を途中で切ったから、彼女がなんでグロッキーな状態で朝の街に居たのかは判らずじまいだったな。




「へぇ、子育て用品って割とするんですねぇ。お買い物には行きますけど、流石にここら辺の値段帯は知りませんでした」
「兄さんが……、兄さんが……、赤ん坊用のオムツを、買って……」
「あーあー、秋葉様が壊れちゃいましたよ。志貴さんってば罪な男ですねー。……ちょっとくらいイタズラしてもバレませんかね?」
「……姉さん」


「……」
「……」
「……ねぇ、シエル」
「黙ってください。今、頭痛が酷いんで……」
「あっ、そう……」
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