なお今回の話は本筋には関係のない、この二人なら三連休最後までどう過ごすかなぁ、ってだけのお話
クソ短いです
三連休は、まるで熱波の前に置かれた氷のように融けていく。
赤ん坊はとりあえず、連休中は面倒を見ながら迎えを待つということにし、迎えがないまま休みが明けたら、その時は警察に相談しに行こう、ということで話はまとまった。
やはり赤ん坊は母性を求める生き物なのか、俺よりも酒寄さんに懐いており、そのため基本的に赤ん坊は酒寄さん預かりとなっている。
俺が酒寄さんからあの子を受け取って、代わりに抱っこをしようとすると泣き出したのはかなりショックだったことを思いだす。
その時はすぐさま酒寄さんに赤ん坊を返し、そして彼女に抱いてもらったら、それまでの泣き声が嘘かのようにおさまり、すぐに笑顔になったのだが……。
そんなに俺の抱っこは下手なのだろうか。
酒寄さんも、俺より自分の方が赤ん坊に好かれている、という事実に気を良くしたのか「まぁ、下手に泣かれても近所迷惑ですし? 私が面倒見てあげるのも吝かじゃないんですけど?」と、それはそれは満足そうな笑みを浮かべながら、ツンデレなのかどうなのかもわからない発言をしていた。
別に悔しくはない。
……別に悔しくは、ない。
話を戻そう。
基本的に赤ん坊の面倒を酒寄さんが、酒寄さんの部屋で見ている訳だけれども、では、俺はその間、何をしているのか。
それは……。
「あーぶーっ!」
「あでっ!?」
「きゃっ、きゃっ」
ぽい、と遠慮なしに投げつけられた積み木が俺の額目掛けて一直線で飛来。油断していた俺はそれを躱すこともできないまま、ぺちり、と間抜けな音を奏でながら、額に積み木の形をした赤い跡を残すこととなった。
「こーら、コレは投げて遊ぶものじゃなくて、積んで遊ぶの」
「あぅ?」
いてて、と額を擦りながら俺は床に落ちた積み木を摘まみ上げ、赤ん坊にそう教える。
言葉が伝わっているかはわからない、というより多分伝わってはいないだろうが、それでもこの歳からの教育が後々響いてくるんだ。そう、ネットにも子育てコラムに載っていた。
ちなみにこの積み木は近くの百均で買ったもので、例に漏れず俺と酒寄さんの二人で割り勘だ。百均の割り勘とか、その時に初めて聞いた概念である。
「にしてもお前、やっぱり大きくなってないか? 最初拾った時は、積み木じゃ遊べなそうな年齢だったはずだけど」
「うー?」
はて、と首をこてんと倒しこちらを見上げる赤ん坊。
そりゃそうだ、尋ねたところで赤ん坊が答えるはずも無し。聞いた俺がどうかしている。
いや、でも、やっぱり大きくなっている気がするんだが。具体的に言うと、生後三か月から生後一年くらいに?
「……やっぱ志貴もそう思う?」
「あ、酒寄さん。勉強は終わった?」
「うん、とりあえずはね」
ふぅ、と息を吐き出しながら両耳に付けた無線式のイヤホンを取り外す酒寄さん。それを確認して、俺は自身の仕事の終わりを悟る。
――そう。
基本的に子育ての主体は酒寄さんとなっているが、数少ない俺の手伝える要素として携わらせてもらえているのが、この、『酒寄さんの勉強中のベビーシッター業』だ。
話自体は単純だ。
優等生であることを自身に課す酒寄さんは、いくら連休中とは言え、勉学を疎かにすることを嫌がった。
しかして一方、赤ん坊の面倒を見ていたら当然、勉強などしている暇などない。
ならばどうするか。
簡単だ。自分で出来ないのならばアウトソーシング、が現代の何事においてもの共通的な基本である。
この場合は、勉強をしたい酒寄さんの代わりに、その間だけは俺が赤ん坊の面倒を見る、といった風に。
何故酒寄さんが勉強中なのに、酒寄さんの部屋で赤ん坊の面倒を見ているのかと言えば、それは抱っこした時と同様、赤ん坊を酒寄さんから一定距離以上にまで離そうとすると、赤ん坊が泣き始めてしまうからだ。
最初は酒寄さんは自身の部屋で勉強、俺たちは俺の部屋で遊んで彼女の勉強が終わる時間まで待つ、という方針で居たのだけれども。
言った通り、彼女一人を置いて部屋を出た時点で赤ん坊がそれはそれは大きな声で泣き始めてしまうモノだから、俺たちは大いに困った。
その後、いくつかの対策案が挙げられたが、最終的な結論としては、赤ん坊は酒寄さんのすぐ近くで俺が面倒を見て、酒寄さんは学習中の間、集中力を切らさないため、イヤホンのノイズキャンセリング機能を用いることとしている。
家主に肩身の狭い思いをさせるのは心苦しいが、これも赤ん坊のためだ。許して欲しい。
……と、思考が逸れていた。
そうだそうだ、赤ん坊の大きさの話をしているんだったか。
「酒寄さん的にも、大きくなったと思う?」
「多分……。明確にメジャーとかで測って無いから、断言はできないけど」
そう言いながら赤ん坊の頬をツンツン、と優しい手つきでつついたり、撫でたりする彼女。
長い時間の勉強で溜まった鬱憤やストレスを、この愛らしさの擬人化のような生命で癒そうとしているのだろう。
「このほっぺも、最初より肉付きいい気がするし」
「え、ほんと……?」
言われて気になった俺は、ジッと近くにいる赤ん坊の頬を眺める。
……ダメだ、わからない。全体的に大きくなった、って感覚はあるんだけれども、どこがどれくらい、と言われると点でダメだ。見当もつかない。
「なー、どこが大きくなってんだ~?」
しょうがないのでもう一度だけ、と、俺は赤ん坊に問いかける。
「あぅ……?」
だが二度目の挑戦も意味はなく、こてんと赤ん坊の首を横に倒させるだけの結末となった。
純粋な二つの星のように綺麗な瞳がこちらを射抜く。その仕草は気を抜いたらこちらの心が撃ち抜かれそうなくらいに、愛らしい。
赤ん坊を見ているだけでリラックス効果がある、という話をいつか聞いたことがあるが、これがそう言うことなのだろうか。
ちらりと横を覗き見れば、酒寄さんも若干だが口角が上がっている。赤ん坊の愛らしさ、恐るべしといった威力だ。
などと、そんなことを考えているから、その時は俺も酒寄さんも見逃してしまうこととなる。
――キィン、と。
そう僅かな音を立てながら、彼女の腕に付けられた銀色のブレスレットが、僅かに発光していた、という。
そんな、事実に。
後日更新予定