かぐや姫だって月の姫   作:すっごい性癖

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今夜の二話目です まだ前の回を見られていない方は、そちらからどうぞ

ヤチヨカップ開催までが遠い…… (ちなみにわかりにくいけどまほよネタです)


スニーキングと散財

 

「ねーねー、そういや彩葉の進路面談はどーだったのよ? やっぱ学年一の秀才ともなると、先生からの期待もすごい感じ?」

「んー、別に先生からは特にって感じかな」

「へぇ、そうなんだ。勝手な偏見だけど、進学校って実績つくりのために躍起になってるもんだと思ってた」

 

 他愛のない、ごく普通の女子高生らしい会話を繰り広げながら道を行く、三人娘の御一行。

 

 そんな彼女たちを追いかけ、付きまとう怪しい影が木陰に二つ。

 

「こちら、ラビットワン。対象に気づかれることなく接近中」

 

 影の一つがそうトーン無しの声で告げる。

 

 身を隠す木の裏側から、決して顔は出さないぞと。そんなスニーキングミッションの心得を携えて。

 

 だが、まだまだ修行中の身であるからか。

 

 まさに頭隠して尻隠さず。頭ばかりを隠そうとして、木の影から腰から下の部分がはみ出てしまっている。

 

 街ゆく人たちはそんな影の微笑ましい様子をクスクスと笑いながら、「隠れているつもりなのかな?」なんて指摘した。

 

 一方でもう一つの影はというと……、その隠形は完璧に近いモノであった。

 

 同じく街路樹の裏に隠れながら、そのシルエットは一切はみ出させず、声は当然、呼吸音も漏らさない。この世に居れば自ずと外に放つ存在感というモノの、その全てを可能な限りそぎ落とした在り方。

 

 だが一方で、そのような完璧な隠形を街中で披露していては周囲から怪しまれる。

 

 当たり前の話だが、木の裏に隠れるため、木の幹に張り付くような体勢をして、自分から「隠れていますよ!」なんて自白するような在り方をとるのは下も下の行いだ。

 

 そして、その点においても、もう一つの影は完璧であった。

 

「……」

 

 話は少しばかり変わるが、結界の良し悪しについてご存じだろうか。

 

 ここで言う結界とは、他者を寄せ付けない、踏み入らせない一つの仕切りのようなものを指す。

 

 仔細は省くが、その結界という概念における巧拙を決める重要な要素として、いかに他者に気取らせないか、と、その点が重要となってくるという。

 

 別に難しい話ではない。

 

 他者を拒むだけで良いのなら、大きなコンクリートの壁を建てればすむ話だろう。厚さを一メートルほど用意すれば、すくなくとも無手では誰も対応できまい。

 

 しかしそのコンクリート製の結界は、どんなに外敵からの接触を防ごうと、こと結界界の評価においては残念ながら低評価を免れることができない。

 

 それはなぜか。

 

 それは、そも、コンクリート製の壁なんて言うモノは他者から見て目立ってしょうがないからである。

 

 わざわざコンクリート製の壁で、何かを覆うようにしていれば、それだけで注目を浴びることは避けられない。

 

 だって、わざわざ硬いモノで守っているのだ。ならばその中には何か、特別な物が入っているのではないかと周囲は邪推する。

 

 その時点で、もはや結界としては落第点と言わざるを得ない。他者に知られる、というのは即ち、リスクに直結することだからだ。壁の向こうに金銀財宝があるのでは、と邪推したものがいたのなら、爆薬や道具やらを使って無理に壁を彫る……、なんてことも無いとは言い切れない。その可能性が生まれた時点でアウトなのだ。

 

 では、巧みな結界とは何か。

 

 先ほどまでの逆だ。

 

 それは周囲と調和し、周囲にその存在自体を気取らせない結界。それこそが結界の中でも上位とされる結界の中の結界となる。

 

 木を隠すのならば森の中。十分に結構だが、そのためだけに森を生やしたら意味もないだろう。

 

 話を戻そう。

 

 上手な結界とは、何か。それは気取られない結界であった。

 

 ならば、完璧な隠形とは何か。

 

 それは、他者に隠れているということ自体を気取られない隠形だ。

 

「……」

 

 重ねて言うが、もう一つの影の隠形は完璧であった。

 

 素人同然の影のようにそのシルエットを木陰から漏らすことも無ければ、その存在感を放つこともしない。

 

 そして、……隠れている仕草さえ気取らせない。

 

 影はなんてことない仕草で片手をポケットに突っ込み、もう片方の開いた手でスマートフォンを操作する。

 

 その間、まるで少しばかりの休憩を挟むかのように近くの街路樹に背中を預け、もたれかかり、違和感を持たれない程度に身体のきゅ、と丸め細めた。

 

 この、丸く細める、というのがポイントだろう。

 

 身体を細めることで、ちょうど木の後ろから眺めたら、その腕や腰の辺りなども影から漏れ出ることなく、その存在を丁度死角に隠しきっているのだ。

 

 結果、周囲から見ればただ木に寄りかかっているだけの、そして木の裏側からだけ見たらそこには誰も居ないように見える、まさに完璧な隠形が完成していた。

 

 誰も、違和感を持たない。

 

 対象は、気付けない。

 

 ……そんなまさに、技術の極地とも呼べる隠れ身を見た一つ目の影はボソリと。

 

 呆れたような表情を浮かべて、こう呟く。

 

「……え、何? 志貴ってば、実は忍者の末裔だったの?」

 

 ……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、とりあえず絶対にバレないように隠れてただけなんだが……?」

 

 もう一人の影……、もとい俺、遠野志貴は、一つ目の影こと宇宙人の少女にそう答える。

 

 忍者の家系。忍者、忍者か……。

 

 俺もこれでも年頃の男子高校生。その二文字に心が湧き踊らないとは言わないが、しかし遠野の血筋が忍者に連なっているとは到底思えない。

 

 いや、正確には俺の出自を辿るのなら、実は遠野の血筋など関係ないのだけれども。

 

 それは今はどうでもいいか。

 

「いやいやっ、だけってレベルじゃなかったんですけど!? 一瞬、一緒に隠れてる私まで「あれ……、もしかして隠れるの飽きて辞めちゃった?」って思っちゃったし!」

「そりゃよかった。何事も、敵を騙すならまず味方からって言うしね」

 

 割と真面目に、今こうして酒寄さんたちを後ろから追いかけていることがバレたらどんな目に遭うかわからないし。

 

 なんてったって、たった数十分前に直接、俺は「あの子の面倒は俺が見て置くから、気にしないで!」なんてことを酒寄さんに言ってしまっているんだから。

 

 それが蓋を開けたら二人して……、なんて展開、申し訳ないというレベルじゃさすがに済まない。

 

 どうしよう。やっぱりすごく怖くなってきたぞ。

 

「ねぇ、やっぱり帰らない……? 今なら美味しいお菓子も」

「あっ、彩葉たち中に入ってった! 急ぐよ、志貴!!」

「聞いてないし……。え、ってか中に入ってって……、もしや!?」

 

 店の中まで追いかけるつもりか。

 

 そう尋ねようとした頃には、もう彼女は木の裏には居なかった。

 

「ねーえー、しーきー! 私たちも行こー!!」

 

 こちらを向き、つい今ほど酒寄さんたちが入って言った施設の前で手をブンブンと振りながら、大きな声でそう叫ぶ彼女。

 

 にっこりと、太陽のような笑顔を浮かべて、彼女は俺を誘う。

 

「いやっ、流石に店の中にまで入ったらバレるって! バレないように、ってのが条件だっただろ!?」

「えー、ここまで来てコレでおしまいってつまんないよー! 志貴、昨日言ってたじゃん。最後まであきらめない、って! これもー、そう! 諦めんなよ!」

「俺はそう言うつもりで言ったんじゃ……、っておい、やめてくれ! そう、捨てられた小動物みたいな眼差しで俺を見ないでくれ!」

 

 それが俺には有効だと学んだのか、彼女は先ほどの校門でのやり取りのように、上目遣いでじぃ、とこちらを見上げておねだりをしてくる。

 

 キラキラ、とその瞳は星の瞬きのように輝き、もとからタレ目なそのアイラインは、今ではその中身を落っことしてしまいそうなほどに垂れ下がっている。

 

「ねぇ……。ダメ……?」

「ぐ、うぅ……」

 

 トドメとばかりに倒された斜めの角度の頭部。

 

 ――お願い、志貴。

 

 頭の向こうで聞こえてくる、あちらの世界のワガママプリンセスの声。

 

「……席さえ、離れているなら、まぁ」

「っしゃーーー!!」

 

 ……俺は、弱い。

 

 いや、彼女が強い。

 

 多分、下手な死徒や祖なんかよりもよっぽどだろう。

 

 俺はもう、どうにでもなれー、なんて、そんな投げやりの気分のまま、

 

「うっひょー、楽しみー!!」

 

 なんて一人盛り上がる彼女に引っ張られて、店の中へと入っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「うわー、全部うまそー!」

 

 カフェ店内へと入った俺たちは、店員さんに案内されるまま席へとついた。

 

「彩葉ノートのおかげで赤点回避記念!」

「好きなの選んでねぇ」

 

 先に店に入っていた酒寄さんたちとは、横に四つ、縦に一つほどの間隔で席は離れている。店内のサイズ感を鑑みれば、十分なくらいの距離感だ。

 

 この場所なら、酒寄さんが自分からその場から立ち上がり、周囲を見渡しでもしない限り、まずバレない。

 

「ねーねー、志貴? どれがいいと思う? 種類が多くて選べないよー!」

「いや、俺に聞かれても……」

 

 こういった店に自分からはあまり、というかまったく行かないから、聞かれても答えようがない。

 

 彼女がこちらに差し出すメニューの一覧には、商品名の横にわかりやすく、やや大きめのサイズ感の写真が載せられているのだけれども。

 

(全部、俺には甘すぎそうだ……)

 

 何枚かのやや厚めのパンケーキを重ね合わせ、その上にホイップクリームや生クリーム、チョコレートソースにフルーツなどと、それはそれは豪勢に盛り付けられた商品の数々の圧にオレは圧倒される。

 

 別に甘いものが特別嫌い、という訳じゃないのだが、さすがにこの量となると胸焼けしそうだ。

 

「この赤いのも美味しそうだし、でもでも黒いのも良い! あぁでも、緑のも捨てがたい……!」

 

 赤いのとはベリーを、黒いのはチョコレートで緑は抹茶。

 

 写真を指差しては瞳をキラキラと輝かせ、そして「いやでも……」と悩んでは指した指を引き戻し、別の写真へと向けていく。

 

「ってか、このうんまそーなのって何!? コレもオムライス!?」

「いや、これはパンケーキって言って。ホラ、この重なってる生地みたいのがあるだろ? これがパンケーキ本体で、周囲に乗ってるのがそれのデコレーションのためのヤツ」

「うぇっ、これがパンケーキ!? えー、彩葉のと全然違ーう!」

 

 何が面白いのか、一番シンプルな何も載っていないパンケーキを指さしながらケタケタと笑う少女。

 

 というか、そんなシンプルな商品があったのか。それなら俺でも食べれそうだし、それとコーヒーのセットを注文しようか。

 

 なんてことを続けて、なかなか注文できずに居ると……。

 

「あ、彩葉んとこにパンケーキ届いてる!」

「あぁ、ホントだ。ずっと悩んでたからなぁ、あっちではもうとっくに注文終えてたんだろうね」

「はー。赤いのも、黒いのも、お花でいっぱいなのもある! すっげー、美味しそー!」

 

 コトン、コトン、とリズミカルにパンケーキを乗せた皿が彼女たちの座る卓上へと置かれていくのを二人で眺める。

 

 店員さんは流石に慣れているのか、まあまあ大きいパンケーキを乗せた皿を、なんの危うげもなく三枚同時に運んでいた。

 

 別店舗ながらも、同じカフェのホール係として尊敬の念を抱かずにはいられない。

 

「こっちもそろそろ注文しないと、帰るの遅くなっちゃうから、早めに決めてね」

「はーい!」

 

 もう、酒寄さんよりも先にアパートに戻ることは諦めた。

 

 今目指すべきは、無理なゴールより無難なゴール。

 

 ちょっとくらいなら帰るのが遅くなっても、二人で近くを散歩していた、とでも言えば誤魔化せる範疇だろう。

 

 俺の監視のもと、アパートの周辺をぐるぐる回って来ただけ、なら流石に怒られないはずだ。

 

「んー、やっぱ難しくて決まらない……。あっ、そーだ!」

 

 そこで少女は、何やらを思い付いたらしく、ぴょこん! と自身のアホ毛を跳ねさせると、その場で身体も跳ね上げさせた。

 

 妙案を、この長きに続いたメニュー表とのにらめっこを終わらせる名手を。

 

 考え付いたぞ、と。そう言わんがばかりに彼女は胸を張り、そして立ち上がった。

 

「見るだけで決まらないんだったら、味見すればいーんだ! ってわけで、志貴! 私、ちょっと彩葉のとこ行ってくる!」

 

 

「……はい?」

 

 

 ――きっとこれが油断、慢心というものなのだろう。

 

 言い聞かせれば大丈夫。ダメだ、っていったらやらないはず。

 

 そんな事を考えたって、意味はない。

 

 なんてったって、相手はつい昨日まで現役の赤ん坊だったんだ。そんな娘に、常識的な判断だとか、約束は守らないといけないとか、そんな感じの道徳観念に基づく判断はまったくもっての不正解だったのだ。

 

 それを俺は、情緒を獲得したばかりの、人の世に馴染みのない吸血鬼の女との交流で嫌というほど知っていただろうに。

 

 その女とは離れ離れになり、また、つい最近は出会った当初よりもマシになっていたから、とその感覚をすっかり失ってしまっていた。

 

 だから……。

 

「いーろは♡ 来ちゃった!」

 

 そう言いながら、彼女たちの机の上に置かれたパンケーキへと伸ばす、フォークを握り締めた左腕は、今の俺では止められない。距離にして、十メートルはいまだに離れている。

 

 ぶすり、と金属製のフォークのとがった先端が、柔らかそうなパンケーキの肌を刺し貫く。

 

 そしてそれを少女は何の躊躇いもなく持ち上げ、眼前へと運び……。

 

「あーむ。……うっまぁ!」

 

 そのまま口の中へ放ると、その暴力的までの甘みという名の快楽に頬を蕩けさせ、声を震えさせる。

 

 対面の黒髪の少女……、酒寄さんは状況を誰よりも早く理解したのか、別の意味で身体を震えさせた。

 

 俺はそんな彼女たちの様子を見て……。

 

「あ、終わった……」

 

 と。

 

 情けないながらも、そう呟きながら、もうどうにでもなれ、とその席を立ち上がり、少女四人たちのもとへと寄っていくのだった。




「それにしても、よくよく考えてみるとあっちの世界ってば、かなりの厄ネタよねー。異なる世界に未来の地球、そんでもって月からやって来た宇宙人。並行世界なんてのは第二魔法の領分だし、時間旅行は青の専売特許でしょ?」
「宇宙人、という話も真実なのだとしたら、それはもはや人の手でどうにかできる問題を通り越しているのでは……?」
「普通だったら人理の守護者とかが即出てくる案件でしょうし。その様子がないあたり、あちらの世界の抑止力は弱いのかしら? それとも、あえて放置しているとか?」
「私たちの界隈で宇宙人、というと真っ先に連想するのは南米で眠る大蜘蛛ですが……。さすがにあの少女が、あのレベルの戦闘力を保有しているとは思えませんね」
「アレはまぁ別格って言うか、話がまた違ってくるしね。んー、見ているだけだから何とも言えないけど、抑止力自体が弱い可能性と、あえてあの子たちは見逃されている、っていう可能性とは半々かなー」
「どちらにせよ、油断は禁物ですね。……頑張ってください、遠野君」
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