(次回から超かぐや姫!キャラもたくさん登場し始める……予定。なお月姫からも予想外の登場キャラが来る予定ですが、お楽しみに)
「……もう、朝か」
窓から遠慮なく差し込んでくる朝日によって叩き起こされる。昨夜は到着するや否や、すぐに眠りに入ってしまった。
俺はすぐさま頭の近くに置いておいた眼鏡を手繰り寄せ、慣れた仕草でそれをかける。
「カーテンくらい、つけててくれればいいのに」
強力な明かりで眠りを妨げられたことにイラつき、ボソリと愚痴を言う。こちとら、ただでさえ常時低血圧気味な人間だってのに。
というか、そんなことよりも身体中が痛い。やはりフローリングに直で寝転ぶのは良くなかったか。
「しっかし、本当になんもないな、この部屋」
朝日で照らされた室内をぐるりと流し見る。
カーテンなどの布を一切持たぬ、裸の窓。布団も無ければ机も、椅子も、何もかもがないまっさらなフローリング。入り口の横には流しもあるが、そこにも食器らしきものは一切見当たらない。
まぁ、例えるならば引っ越し初日の何もない部屋そのものだ。
「これでよく、部屋を用意したなんて書けたもんだよ。こんなの、ほぼ何も無いのと変わらないじゃないか」
はぁ、と朝から大きなため息を一つ。
これが善意からの施しだったならば俺だって文句は言わない。だが、無理矢理人を見知らぬ土地へと拉致しておいて与える住居がコレ、となれば話は別だ。断固、抗議してやる。あんのクソネコ、次会ったとき、覚悟しやがれ。
「……なんだ、アレ」
ふと、部屋を見渡していると、見覚えのないものが部屋の角に置かれていることに気が付く。
(昨晩、あんなものあったか?)
すぐに寝に入ってしまったから絶対、とは言い切れないが眠る前は無かった気がするのだが。
……まぁ、そこら辺はいいか。
俺はその場から立ち上がり、部屋の角へと向かいその見覚えのないものを拾い上げる。
「これ……。学校の制服、か?」
ぴらり、と拾い上げたそれは布が重力に従い形を崩す。どうやら、丁寧に折りたたまれたシャツと制服ズボンとが重ねられていたものであったらしい。
視線を下に向けると他に靴下やベルトなどの小物なども置かれている。
「……ん?」
その中に、ひと際目立つ虹色に彩色された紙を見付けた俺は「なんだ、このバカみたいな色」と内心でツッコミながら、手に取る。
確かめてみればそれは、どうやらまたあのネコからの手紙であることがわかる。
もう何度目かもわからぬ嫌な予感を感じ取りながらも、しゃーないとばかりに俺は中身に目を向けた。
『グッモーニン、少年。
清々しい朝日で目を覚ます気分はどう? 気持ちいい? それともサイコー?
まぁ普段、美少女メイドのモーニングコールで目を覚ます贅沢なお坊ちゃん的には気に食わないかもしれないが、それはそれ。
郷に入ってはなんとやら。失ったものを数えるな、得たものを見ろ! ということですね。知らんけども。
それはそうと、だ。
ネコは思うのですよ。やっぱ学生の本分て言ったら学業じゃね? と。
学生が学校に行く理由ってのは、ラブなコメディをやるためでもなけりゃ、同級生と喧嘩するためでもない。もちろん、吸血鬼退治の為でもない。
勉強。あくまでも勉強。何よりも勉強。ついでに勉強。もう勉強以外してねー、ってくらいには勉強。
それこそが学生と言うヤツだ。学校帰りに二人で放課後デート、なんてもってのほか!(別に羨ましいわけじゃないよ?)
つーわけで、だ。
いくら異世界に行ったからって、学生が学校から逃げられると思うなよってことで、お前さんにはその制服を着て今日から学校に行ってもらいます。
転入手続きとか、そういうのはもう全部終わってるから、メンド―なことは考えなくても良いぜ。
んじゃ、また。
ps.その部屋の家賃や光熱費、そもそもの生活費とか諸々は普通に必要だから頑張るように。まぁ、そこら辺は多分気にしなくてもどーにかなるけど』
「……はぁ」
その文章を見て口から出たのは文句ではなく、ため息が一つであったことに今の俺の内心の全てが現れていたのではないか、と思う。
はっきり言って、怒る気力も何も湧いてこなかった。あのナマモノに道徳や道理を説いても意味がないというか、まんま暖簾に腕押しって言うか……。
「金、かぁ」
まぁそりゃあ要るだろうけれども、まさか家賃や光熱費なども全部用意しろと言われるとは。無理矢理押し付けて支払いしろ、とか新手の詐欺かなんかじゃないのかコレ。
そんでもって金関連はどうにかなる、ってのも意味不明だ。まさかバイトで全額稼げ、ってわけじゃなかろうし。学校に行け、と言っておきながらバイトで生活費も、なんてそんな無茶な話があってたまるか。
「……てか今、何時だ!?」
ポケットに入れていた携帯を取り出し、時間を確認する。どうやらこちらの世界でも携帯電話は問題なく使えるらしい。
「やっば、もう八時前だ! 転校初日から遅刻とかシャレにならないぞ!」
とりあえず今は難しいことは後回しだ。帰ってきてから考えればいい。
俺はとりあえず今着ている服を脱ぎ、目の前の制服へと着替えた。
着替えてみて思い至ったが、今着ている下着の替えも必要だ。それに今脱いだ服の洗濯も。
自分では染まり切ってないつもりで居たが、どうやら俺は遠野の屋敷での暮らしにすっかり染まってしまっていたらしい。琥珀さんや翡翠の家事がないと、こうも考えることが一気に増えるのか。帰ったら彼女たちには感謝を伝えなければならないな。
「普段着ている制服と別の制服を着ると、途端にコスプレでもしている気分になるな」
なんて軽口をたたきながら、ポケットにハンカチなんかの小物を移す。
「コレは……、どうしようか」
そんな最中、こつりとひと際硬い手触りに指を止める。
取り出して確かめてみれば思った通り、それは収納式のナイフであった。柄の部分には『七ツ夜』と刻まれている。
「流石に吸血鬼とか関係ないであろう街中で常備してるのは不味いか……?」
総耶では吸血鬼退治の為に、と肌身離さず持ち歩いていたが、普通に考えて余裕で警察案件だ。主に銃刀法とか、治安維持法とか、そんな感じの理由で。
「……まぁ、今日だけは念のため持っていくか」
まだこの街のことを何にも知らないし、と、自分で自分に言い訳をしながらナイフをしまい込む。
お守り替わり、というにはやや物騒だが、やはり用心は必要だろう。絶対、なんてものはないってことを、俺は少し前の吸血鬼騒動でいやというほど痛感したのだ。
身支度を終えて部屋をぐるりと最後に見渡す。
忘れ物は、……よし、無いな。
「それじゃあ、行ってきます」
別に同居人がいるわけではないが、これから空になる自室に向けて俺は告げる。
出来ることなら、この癖が無くなるよりも前には元の世界に帰りたいのだが……。
それはなんだか難しそうだな、と。
半ば確信に近いようなそんな感想を抱き、自室を飛び出すのだった。
「あーあー、志貴さんってば! そんな床で寝ることになるなんて、可愛そうに!」
「そう? 志貴ってば、割といろんなとこで寝てるし案外なれたもんじゃない?」
「アルクェイド、それは寝てる、じゃなくて気絶しているってだけでしょう。全然、違いますよ。これだから吸血鬼は……」
「志貴様を起こすのは、私の仕事ですのに……」
「あぁ、落ち込まないで翡翠ちゃん!」
「てかさ、割と志貴ってば元気そうじゃない? こっち居た頃より顔色良いんだけど」
「恐らく、ロア……。というよりも、遠野四季と全く関係のない世界へと移動したことが影響しているのでしょう。まぁ、それだけでは無さそうですが……。そこら辺は、あまり重要ではなさそうですね」
「……もしやあの世界でなら志貴さんも私の作った朝食を食べてくれるのでは? だとすると、今すぐにでも私、あちら側に行きたいのですが! この水晶の中に入り込めたりしません!?」
「落ち着きなさい、琥珀」
「……シャツスタイルの遠野君も、良いですね」
「うっわ、ヤバい顔してるわよシエル? およそ人前に現れちゃダメな感じだけど」
「姉さん、……私、死んでもいい」
「翡翠ちゃん!? ダメですよ、いくら志貴さんが私たち姉妹への感謝と労いを言葉にしてくれたからって! ……翡翠ちゃん? 返事してください、翡翠ちゃん!?」
「そう言えばお金は気にしなくても良い、ってどういうことなのかな?」
「……あぁ、アルクェイドはそう言えば説明の場にいませんでしたもんね。アルクェイド」
「なーに、シエル?」
「投げ銭文化、ってご存じですか?」
「……はい???」